第282話 リゼメジャー・ゾノサヴァイル
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三人分の紅茶を淹れたところで私も椅子に腰を下ろした。
落ち着いて部屋の中を見回してみると、あちらこちらに散らばる書類や魔道具作りに必要な素材で溢れている。
そして何よりもこの人だ。
よく磨かれた銅のような赤褐色の髪はセミロング程度の長さだけど、全く手入れをせずに伸ばしっぱなし。刻み込まれたかのように濃い隈が浮き出た瞼の奥にギラギラと光るブラウンの瞳。
ダボっとした作業着のせいでよくわからなくなってるけど、かなり均整のとれたスタイルで服を押し上げている胸の大きさはとてもじゃないけど隠せていない。
もっとちゃんとお風呂に入って、化粧も服も整えたらもの凄い美人になることは想像に難くない。そうなれば世の男性達も放ってはおかないと思う。
そしてそれを裏付けるのがこのステータス。
リゼメジャー・ゾノサヴァイル
年齢:207歳
種族:夜人族/女
LV:173
HP:12,551
MP:73,415
スキル
言語理解 9
魔力感知 7
光魔法 6
身体操作 7
威圧 1
格闘 3
爪術 4
魔闘術 2
道具鑑定 MAX
野草知識 MAX
鉱物知識 5
道具知識 8
礼儀作法 2
ユニークスキル
吸血 4
魔力強奪 MAX
精力吸収 MAX
炎魔法 2
氷魔法 1
天魔法 6
地魔法 2
魔法同時操作 2
魔力運用 3
魔力圧縮 6
詠唱破棄 1
精神再生 6
隠蔽 3
四則魔法(下級) 2
錬金 4
彫金 5
細工 3
魔道具作成 8
レジェンドスキル
邪魔法 1
タレント
魔法使い
錬金術師
細工師
デザイナー
魔工技師
七転び八起き
残虐
怨嗟
色魔
どこから突っ込んだらいいの?
私が自分の眉間を指で押さえた時、隣に座ったアイカがケラケラと笑い出した。
「リーゼのステータス見たんやろ? あひゃひゃひゃっ、すごいやろ?」
「すごいって言うか…聞きたいことが多すぎて何から訊ねたらいいのかわからないくらいだよ」
「ははははっ! 時間はたっぷりあるんだから何でも聞いてくれよ? 隠すようなことは半分くらいしかない」
半分もあるんかいっ!
なんかノリがアイカにそっくりな人でちょっと疲れる。悪い人じゃないのは長いことアイカに付き合ってるおかげかわかるけれど、飄々として捉えどころがないタイプだ。
「はぁ。とりあえずいろいろ聞きたいこともあるけど、先にそちらの要件を聞きます。シャルラーン様からは私に用事があるとだけ聞いてますので」
「あぁ、セシルは貴族院時代にいくつもの魔道具を開発しているし、提出された論文も読ませてもらっていてね。一度どんな人なのか話してみたいと思っていたんだ。だが、魔道具作りをする奴らなんてのは変人ばかりだろう? だからシャルラーンにそれとなく聞いてみたんだよ」
変人って。
自分も含めていることをこの人は理解、している、んだろうね。
「シャルラーンは『良い子よ』としか言わないしさー。それで協力してやってもいいけど、一度セシルと話をさせてくれって頼んだってわけさ」
「私がリゼメジャー様の…」
「リーゼでいい」
「…リーゼさんのお眼鏡に適うような人物かもわからないのにですか?」
「そこはそれさ。とにかく、いろいろ話をさせてくれたらいい」
うん。アイカやクドーと同類だ。自分の興味のあること以外は本気でどうでもいいと思ってる。
かく言う私もそういう傾向があるので人のことをとやかく言うつもりはないけどさ。
「わかりました。満足するまでお話に付き合いますよ」
「そうこなくっちゃっ! おいアイカ、お前も付き合えよ?」
「…はぁ。セシルにここに連れてこられた時点で諦めとるわ」
それから私達は鐘二つ分もの間、魔道具のことについて話し合うことになった。
内容は主に最近の動向や、お互いの開発状況、そして最近発表された論文について等。
最近発表された論文はだいたいが今ある技術の最適化や省エネ化がメインなのであまり興味深いことはなかった。
動向については最近突然現れたカーバンクルやヴィーヴル商会の取り扱ってる魔道具が恐ろしく高性能であることと、それらが私が貴族院時代に提出した論文に基づく技術が使われていることを発見したリーゼさんに問い詰められる一幕があったけど、別に隠すつもりはないのでそのどちらも私の息がかかった店であると公言した。
「へぇぇぇぇ…やっぱりすごいなセシルは」
「あはは…自分であったら便利だなって道具を作ってるだけだから」
「ウチらほど魔法が使えたらそれで片付くことをちゃんと魔道具にして誰でも使えるようにしよ思うことがすごい言うてんねんで、リーゼは」
アイカが五回おかわりした紅茶を飲み干した。
そこへ私も追加の紅茶を注ぎ、真ん中に置かれた皿に追加のお菓子も出しておいた。
「それじゃどっちの店でも取り扱ってる魔法の鞄を作ってるのもセシルかい?」
「はい。絶対儲かるってわかってるものを取り扱うのは当たり前ですから」
「よくそれだけの魔石を確保出来るもんだ。あたしだっていろいろ研究で使いたいけどそれなりの魔石ってのは数も少ないし、かなり高いからな。相当やり手みたいじゃないか、その商会長ってのは」
リーゼさんが絶妙に勘違いしてカンファさんのことを褒めている。
そういえば普通の宝石を魔石に出来る人ってほぼいないんだったっけ。世界を見ればいるのかもしれないけど付与魔法を高いレベルに育てるような人はだいたいが高ランクの冒険者だったり社会的に地位のある魔法使いだったりするものね。
「リーゼ、それはちゃうで。セシルは魔石を確保しとるんやない。作れるんや」
「はぁっ?!」
「ちょ、ちょっとアイカ?」
「えぇから。リーゼなら大丈夫やって。言っても信じられんやろうし、いっぺん見せたってや」
むぅ…。
アイカに言われ、仕方なく魔法の鞄から親指の先ほどの水晶を取り出して付与魔法を使う。
手の平に集まった魔力がどんどん水晶に吸い込まれていき、内包魔力一万の魔石に変化するのに十秒と掛からなかった。
「リーゼさんにプレゼントします」
「あ、あぁ……。って、なんだこりゃっ?! 内包魔力一万っ?!」
「そんなもん、セシルからしたらそこらへんの小石と同じようなもんやで」
リーゼさんは手元の魔石と私とを交互に見ては時折アイカの方へも首を振る。
そんなに激しく動かしてたらムチ打ちになっちゃうと思うけど。
そして震える手で恐る恐る魔石を作業台の小さな布の上に置くとこちらへ向き直り、大きく息を吐いた。
「こ、こんなことが、ゆ、ゆゆ許され、るのか…?」
「それがアンタの目の前にいるセシルっちゅう女や。ウチが何も言わんと一緒にいるわけあらへんやろ」
「そ、そう言えば…アイカはあのクドーとかいう偏屈鍛冶職人とこのあたりに引き籠ってたんじゃないのか?」
「半年くらい前のことや。今はセシルの屋敷で世話になってんで」
「それも、これが理由か?」
「ちゃうわドアホ。セシルはウチらがずっと探してた仲間の一人なんや。メッチャえぇ奴やし、おもろいから一緒におる。それだけや」
アイカの嘘つきめ。
いっつも私のこと心配して怒ってくれる癖によく言うよ。
ニヤニヤとアイカを見ていると彼女も私の視線に気付いたのかちょっと照れたように顔を背けた。
かわいいとこあるよね、アイカって。
「何よりこんな非常識で理不尽極まりないモンを野放しにしておけるかいな」
「…あぁ、確かに。魔石を自前で作れるなど非常識な上に理不尽だな」
「ちょっとっ?!」
なんか久々に言われたよ理不尽って!
(ねぇメル! そんなことない、よね? え? またなんかやらかしてる?)
(やっても良いと言ったのはアイカなのだ。セシルはいつも通りなのだ)
(だよね。良かっ…)
(セシルが理不尽なのはいつも通りなのだ。だから気にするだけ無駄なのだ)
こいつ…。次に顕現させたらまた絶対蹴ってやる!
イラつく気分を入れ替えて前を向くとリーゼさんとアイカはまだ何やら話し合っている。
既に話題は私のことではなくなっている模様。
「しかし、魔石の問題さえクリア出来れば私の研究も一段と捗るんだけどな…」
「それはセシル次第やろ。それに、今日やって来たんは王妃様のことがあったからだけや無さそうやで?」
「うむ? そうなのか?」
二人が揃ってこちらを振り向いた。
「えぇまぁ。それが私の方の用事ですね」
「何だい? これだけの魔石を貰ったんだ。私に出来ることなら協力させてもらう!」
はい、言質いただきました。
これでシャルラーン様との約束も果たせたことになるだろうし、私の方の用事も遠慮無く話せそうだね。
「私にリーゼさんの支援をさせて欲しいの」
「支援?」
「さっき話に出たお店でちょっとお金が貯まっちゃって、使い道に困ってるの。そこで優秀だけど他から支援をあまり受けられていない技術者とかに金銭面での支援をしたいと思ってるんだよ」
「随分景気のいい話だねぇ。けどあたしにとっちゃうまい話でしかないけど、それでセシルにどんなメリットがあるんだい?」
「勿論お金を出す以上は優先的にランディルナ家に技術を提供してもらうよ。それこそ実家のゾノサヴァイル家よりも」
流石にちょっと欲張りすぎかもしれないけど、これを守って貰えないなら支援する意味がない。
しかし彼女の話では実家は全く支援してくれない上に今開発しようとしている魔道具にはまるで興味が無いそうだ。これは良い案件だよね?
「あたしの魔道具には興味無いくせに何かあるとあたしを頼ってくるからね。いい加減フォントザットの坊やにも困ったもんさ。だからまぁ…技術ならいくらでも提供出来る」
「それは助かるよ。新しい魔道具は絶対世界を豊かにするから」
「ランディルナ家は魔道具だらけの家やからな。けど…リーゼの魔道具じゃ豊かにならんと思うけどな」
「アイカは黙ってろ! 今あたしの魔道具作りが進むかどうかの瀬戸際なんだ!」
リーゼさんに一喝されて「へいへい」と不貞腐れたアイカはそっぽを向いてしまった。
アイカの言うことも一理あるけど、何がそんなに文句を付けたがるのかわからない。例えあまり活用出来る用途の少ない技術でもそれが躍進的な何かに繋がることはゼロじゃないし、ディックにいろいろ教えてもらえるかもしれないってだけでもやる価値はあるはず。
なので直球で聞いてみることにした。
「それでリーゼさんはどんな魔道具を開発しようとしてるの?」
「あたしが作ろうとしてるのは世の中にごまんといる寂しい夜を持て余している大人達を楽園に導くための物さ!」
「……えっと? よくわかんないけど、娯楽みたいなもの?」
「ある意味娯楽さ! いや、究極の快楽だろう!」
なんか雲行きが怪しくなってきた気がする。
「セシル。だからウチが言うとったやろ? リーゼが作ってるんはおもちゃや。それも『大人の』な」
大人の、おもちゃ……。
「って、ええぇぇぇぇえぇぇっっ!?!!?」
今日も読んでくださってありがとうございました。
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