第281話 お金は使ってこそ意味がある
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モルモからもっとお金を使うように言われた日から数日経った。
結局いろいろ考えたけれど、どれも今一つ良い案が生まれなかったので降参することにした。
それからすぐに屋敷からロジンを走らせてカンファさんに夜来るようにしてもらった。
そしてカンファさんとユーニャ、モルモを交えて話し合うことにしたのだ。一応私の後ろにはセドリックも控えている。
「つまりセシーリア様はどうお金を使ったらいいかわからないと?」
「いや使えるんだけど、私が思いつくのなんてたかが知れてるんだよ。だから本物の商人であるみんなに意見を聞きたいの」
「ふむ、なるほどね。確かに今の資産じゃどんなに宝石を買ったところで使い切れるものじゃないからね」
「ちなみに今セシルから言われてた『庭師の雇用』『メイドの補充』『料理人の雇用』はどれも進めてるよ。面接は全部セドリックさんがやってくれることになってるから安心してね」
みんなが優秀で泣けてくる。
やっぱりさ。庶民でしかない私にそんな大きなお金の使い方なんてわかるわけないって。単純に欲しい物を買うだけじゃ使い切れなくて貯まっていく一方なんて想像したことすらないのだから。
「それからヴィーヴル商会が貴族からかなりお金を巻き上げてるって社交界じゃ有名になってるみたいだ。私としてはそんなつもりはないんだけどね」
「…今まで散々貯め込んでたくせに欲しいものを買う時になったら巻き上げるなんてひどい言い草だね」
「仕方ないさ。彼等だって新商品を手に入れ損なったら社交界での話題に乗り遅れてしまうから何としてでも手に入れたい。けれどそれが高額であれば面白くないと思ってしまうのは当たり前の感情だろう」
今度夜会に出るようなことがあれば以前は頭頂部の砂漠化が深刻だった人が揃ってふさふさになってたりするかもね。それはそれで面白いけど。
「特に避妊薬の売り上げが凄まじいね。それと精力剤かな」
それも予想通りだ。
こんな娯楽のない世界じゃやることなんて一つでしょう?
前世だって田舎ほどそういうことをする若い人が多かったんだしさ。私は最後まで結局縁がなかったけど。
「それとあまりに大きな金額が動くことになったものだから、王国独自の新しい硬貨の発行が検討されているようだ。黒聖貨っていう、アダマンタイトを使った貨幣で聖金貨百枚と等価にするらしい」
「黒聖貨ですか? それだと帝国の星金貨と同額ということになりますか?」
「そうなるね。帝国との取引も視野に入れた取り組みなんだと思うよ」
経済に明るいカンファさんとユーニャの間でだけ話が進んでいくけど、私は全然ついていけない。
そもそも帝国のことなんて貴族院の講義で聞いた話くらいしか知らない。
「そんなわけでもし大口の取引があれば私もそのうちお目にかかる機会はあるかもしれないね。もちろんセシルも」
「あ、あは、はは…ソウデスネ。ええぇっとぉ…それで話を元に戻したいんだけど」
このままではいつまでも経済談義を続けてしまいそうだし、早めに話題を戻しておきたかった。
モルモはそこまで詳しくないようだけど、二人の話を興味深そうに聞いているからやっぱり商人なんだなと改めて思い知らされた。
「結局何にお金を使うかって話だよね。一番良いのは投資かな? それなら後でお金が戻ってくる可能性もあるし」
「そうだね。それか新しい技術を研究している人のパトロンになるという手もある。開発したその新技術をこちらに優先的に回してくれるようにすれば更に儲けられる」
「いっそ個人で船を持って貿易をするのも良いかと思います」
「セシーリア様、最近はあまり行われなくなりましたが貴族たる者、下々の者達への施しをするのも良いかと存じます。孤児院などで炊き出しを行うのはいかがでしょうか」
四者四様の意見を言ってくれた。
なるほど。
投資はわかりやすい。やったことはないけど。
けどパトロンと貿易は私じゃわからない。
「私じゃどうしたらいいかわかんないから三人で決めてくれていいよ」
「セシル。それじゃ駄目だってば。このお金は貴女の物なんだよ?」
「それなら私のところにはカーバンクルから月に白金貨三十枚、ヴィーヴル商会からは月に聖金貨七枚を入れてもらって、それ以外はユーニャとカンファさんに任せるから商人らしい嗅覚でよりお金を稼げることをしてもらえる? 人件費に回してもいいし、設備投資に回してもいい。それが将来的な利益に繋がるお金の使い方をすることを条件にして」
「我々はそれでもいいが…本当に良いのかい? 勿論それは宝石の仕入れは別に考えるようにするが」
こんな風にお金を託してくれるような人っていないのかな?
前世なら証券会社が資産運用でお金預けてくださいって言ってくるのにね。
「問題ないよ。モルモ、それで新しく魔法契約書作ってくれる?」
「セシーリア様、私はどう致しましょう?」
「モルモには申し訳ないんだけど、月に聖金貨三枚の範囲で好きに使ってみて。それとセドリックとインギスと協力して孤児院と教会にも寄付を。必要なら私が慰問してもいい」
「承知致しました。セドリックさん、今度お願いします」
「それと、セドリック。クアバーデス侯爵領はまだ連鎖襲撃の復興が追い付いてないよね? クアバーデス侯に恩を売るいい機会だから聖金貨十枚を復興支援として援助しておいて」
「畏まりました」
うんうん、いろいろ話してる間にそれなりにいい案が出てきたんじゃない?
何よりもクアバーデス侯への援助とか一番良い方法だと思うよ。
とりあえず方針が決まり、モルモに頼んで魔法契約書での署名も済ませた私はステラを呼んでお茶を淹れてもらった。
やっぱりステラの入れる紅茶は香りが良くて美味しいね。
そうして紅茶を味わっているとステラが私の耳元に顔を近づけてきた。
「セシーリア様。以前お越しになられました王妃殿下が魔道具開発の第一人者である方が開発資金が足りずに困っていると仰っておりませんでしたか?」
ステラはこの部屋にはいなかったけど、会話の内容はどこかで聞いていたらしい。
お金の使い道でこれほど有効な相手を今の今まで失念していたことに頭を抱えそうになる。
「ありがとうステラ。それ、喫緊で対応しよう」
「何か良い話かい?」
私とステラが内緒話をする様子を目聡く見ていたカンファさんが少し悪い顔をしていた。
美味しい話なら一枚噛ませろと言いたいのだろうけど、そっちにはもうかなりのお金を渡すことになるんだから別のところで儲けてください。
「ちょっと前にシャルラーン様がいらした時に聞いた話だからね。いくらカンファさんでも話せないかな」
「あぁ…それは下手に首を突っ込まない方が良さそうだ。さて、それじゃ話もまとまったところでそろそろお暇させてもらうよ」
「うん。それじゃ今後もよろしくね」
ソファーから立ち上がるカンファさんをユーニャがステラと一緒に見送りに行く。
玄関にはベルーゼさんが待っているし、誰か護衛をつけてあげる必要はないだろう。あの人もこの五年の間にかなり頑張ったみたいで、今やAランク冒険者に近いくらいの実力を身に着けている。最近は彼女以外にも手練れを雇ったみたいだしね。
翌日。
三の鐘が鳴った頃、私は元秘密基地があった地区の近くを訪れていた。
今日は珍しく護衛無しである。というのも。
「なんでウチが一緒に行かなアカンねん」
「だって魔道具作りの第一人者って聞いたから、アイカがいた方がもっと話が盛り上がるかなと思って」
「リーゼのことやろ? あの色欲変人に会いに行くとか、セシルも物好きやなぁ」
「知ってるの?」
ちょっと意外だった。
アイカとクドーはあまり深く人と関わろうとしないし、そもそもアイカは魔道具も作れるけど専門は錬金術だ。
同じ王都北西部に居を構えていたのだから聞いたことがあることくらいかとも思えたけど、それにしては愛称呼びしていたのでそれなりに知ってる仲なのかもしれない。
「ま、あの界隈じゃそれなりに有名人やからな。ウチも何度か話したことあるし、依頼受けたこともあるで。筋金入りやから覚悟しとくんやな」
「ええぇぇぇぇ…何それ」
「楽しみにしとき」
こういう時の「楽しみに」はだいたい良くないことなんだけどな。
けどシャルラーン様からも頼まれているし、パトロンになるには都合が良い人なのも事実だ。
少しばかり不安になる気持ちを抑えると私はアイカと共に彼女が住んでるという研究所のドアをノックした。
ゴンゴンゴン
木で出来た質素なドアはとても貴族の淑女が住んでるような家には見えない。
ドアだけでなく建物自体もかなり年期が入っており、私が使っていた秘密基地と良い勝負だ。
本来ならばお金に困った平民が住んでるような、そんな小さな家でしかなかった。
「はいよー。鍵は掛けてないから入ってきなー」
ノックしてからしばらくすると中から入ってくるようにと大きな声がした。
声だけならそんなに年齢を感じさせないような声だ。
それにしても、不思議なのは中から感じられる魔力。これは普通の『人間』のものではない。
どちらかというとアイカに近い感じがするのだけど…ひょっとして?
私がドアを開けようか迷っているとアイカは気にすることなく取っ手を回してしまった。
「邪魔するでー」
そして如何にも勝手知ったる他人の家と言わんばかりに堂々と中に入ってしまった。
嘆息を吐きながらも私は彼女の後を追って中に入った。少しくらい遠慮したらいいのに。
「なんだ、誰かと思ったらアイカじゃないか。今はお前に依頼なんか出してねーぞ」
「ウチかて用事なんかあらへんわ。用があるんはこっち」
アイカは私の背中をトンと叩くと前に出るように促してきたので、そのまま少しだけ前に出て挨拶した。
「はじめまして。セシーリア・ランディルナと言います」
「…おぉっ! アンタがあの『セシル』かい?!」
「えっと…どの『セシル』かはわかりませんけど、シャルラーン様に言われてこちらに伺わせてもらいました」
「ははっ、シャルラーンもちゃんと約束を守ってくれたってわけか! 立ち話もなんだ。アイカ、お茶入れてくれ」
「あぁ、お茶なら私が入れますよ」
私は腰ベルトからいつも入れているティーセットを取り出すと魔法を使って紅茶の用意を始めた。
そういえばこんなことするのはステラと初めて会った時を除けばリードにずっとしてた以来だっけ。
ちょっとだけ懐かしい気持ちになりながら、テーブルの上に広げられていたたくさんの書類や作りかけの魔道具を下にドサドサと落としながらカップを置くスペースを確保する彼女に苦笑いを向けた。
この人がリゼメジャー・ゾノサヴァイルだ。
今日も読んでくださってありがとうございました。
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