第273話 いろいろ判明した
ユアちゃんが顔を上げた時に言われた。
「『オリジンスキルは神に近い力を持つ能力を得る。神の祝福とは違い、自身の力で制御する非常に高位のスキル。その中には世界の理に逆らうもの、無視するもの、根底を覆すものが存在する。』…だって」
「神に近い? …これが?」
私はメルを掴んで指を食い込ませるとユアちゃんの前に突き出した。
「痛いのだ! バカセシル、離すのだ!」
その様子にさすがのユアちゃんも苦笑いを浮かべている。
いつもは何をしても喜んでくれるのに、オリジンスキルに対する私の行動がそうさせてしまっているのだろう。省みるつもりはないけれど。
「そ、その『メルクリウス』とは、どどどこかの世界のか、神の名みたいで…旅人の行く道を照らすもの、だって」
「…つまり看板みたいなもの?」
「セシル、どんどんわっちに対する扱いがひどくなっていくのだ。待遇の改善を求めるのだ!」
「却下します」
「早いのだ?!」
メルの黄色い身体に青い縦線が何本か入って驚いているけど、そんなことはどうでもいい。
「けどさ、本当にメルが私の今後の指針を示してくれるならちゃんと考えるよ」
「セシルの今後の指針なのだ?」
「うん。折角だからとりあえずの目標を書き出してみるね」
お茶を入れたカップをテーブルの端に寄せて紙を広げるとそこにこれからやりたいことを書き込んでいく。ひとまず思いついたものを書いているので優先順位はとりあえず無視。
①ヴォルガロンデを見つけ出す。
②管理者になる方法を探す。
③eggをもっと手に入れてオリジンスキルを身に着ける。今のスキルの確認もする。
④王都での活動をひとまず終わらせる。使用人達に全て任せられるようにする。
⑤それに伴ってステラ用のケータイを用意する。
⑥全てにおいて最優先で綺麗で最高の宝石を手に入れる。
⑦気晴らしに王国内の鉱山へ行く。
「ざっとこんなところかな?」
私が書き出したものをメルとユアちゃんがそれぞれ覗き込んで確認している。
あと二人とも思ったことが口に出てるから。「多い」とか言わないの。あくまで方針だからね?
…というかさ。ユアちゃんが小さな身体で時折頷きながら読んでる姿は可愛いのに、黄色いボールが見ている姿はとてもドリブルしたくなるのは何故だろう。
「セシル、管理者になる方法ならわっちが知ってるのだ」
「そういうことはもっと早く言おうね?」
「痛い痛い痛いいただだだだだだっ?! 聞かれなかったのだ! だったらセシルから聞いてくればいいのだ!」
メルの身体に指を食い込ませて握りつぶしてやろうかというほど力を込めたけど、どうやらこの黄色いボールはかなりの強度を持っているらしく全然潰せる気配がしなかった。ち。
「それで、管理者になるにはどうしたらいいの?」
「ぐぬぬぬ…。身体に指の痕が残っているのだ…。痛いのだ…」
「メル?」
なかなか話さないメルにもう一度同じことをしようかと手を伸ばしたところ、横からユアちゃんが私の腕を掴んで遮ってきた。
首をぷるぷると横に振りながら必死に何かを訴えてきているので仕方なく私も腕を下ろしてソファーの背もたれに身体を預けた。
「メ、メル? かか管理者は、資格だけ、じゃだ、駄目なの?」
「そうなのだ。管理者になるにはまず『管理者の資格』を得て、管理者選定試験を受ければ良いのだ」
「管理者選定試験? それってどこで受けるの?」
「もちろん◆$#▼◎&>様へ申告するのだ」
「へ?」
メルの話した言葉の中に突然聞き取れない言葉が混ざってきた。
知らない言葉とかそういうのではなく、認識出来ないと言った表現の方が正しい。
「ぬ? あぁ…本来なら転生した本人はこのことを覚えていられないのだ。今回はイレギュラーでわっちがセシルから分離したことで伝えられているが、それでもこれ以上のことは話そうとしても伝えられないようなのだ…」
どうやらメル自身も言おうと思った言葉が出てこなかったらしい。
「となれば、『管理者代理』か『管理者代理代行』にその資格を譲ってもらうか、転生ポイントをもっともっと貯めるくらいしか方法はないのだ」
「あ…それって…」
「か、管理者代理はい、今この世界にはいない…」
「けど代理代行はいる、だったよね?」
私とユアちゃんはお互いに頷き合いメルに話を促す。
「ならまずは管理者代理代行を探すことなのだ。それと並行して転生ポイントを貯めておくのが良いのだ」
「今のところ候補としてはヴォルガロンデだね。彼を見つけるのと同時に転生ポイントを貯めていけば自ずと管理者へ近付いていくことになる…かな」
「そ、それでま、間違いない、よ。きっと」
二人とボールでそれぞれ頷き合う。
行動指針はこれで決まりだ。
「じゃあ転生ポイントを貯めるためにも魔物をたくさん狩って、出来ればeggも集めていければいいんだよね?」
「そうなのだ。魔王種の撃滅で二十万、オリジンスキルの獲得で百万なのだ。この世界には魔王種がかなりいるみたいだから相当稼ぎ易いのだ」
「他にも獲得ポイント多いやつあったよね?」
「うむ。竜王種撃滅でも二十万。タレント魔王や勇者に至る物を持った者を討伐すると十万。タレント魔王討伐で一億。タレント勇者討伐でも一億。軍団規模に到達していれば規模に応じてとなっているはずなのだ」
…あれ?
以前聞いたものよりも増えてる気がする。魔王とか勇者討伐については聞いてたけど軍団規模ってなんだろう?
「メル、軍団って?」
「タレント魔王を持ってる者が国を興したり、勇者を持つものが軍隊を持つと適用されるのだ。この世界にはいくつかその気配があるから狙っていくのが一番なのだ」
いや。いやいやいやいやいや! 勇者討伐とかまずいでしょ?! そんなことしたら私が魔王認定されちゃうよ?!
「とりあえずはそれを目安にするのだ。この世界に管理者はいないから継承することが出来ない以上はそのヴォルガロンデという者を探して手掛かりを掴むのだ!」
「そうだね。…まぁ勇者とか魔王を積極的に狩ったりはしないけどね。…そういえば私のもう一つのオリジンスキルってどんな効果だったっけ?」
ふと思い出したことがあり視線をユアちゃんとメルへと走らせる。
ユアちゃんはアイカと同じように神の眼に似た鑑定眼を持っているので私の持っているスキルなどが全て見えているはずだし、さっきもメルのことを言い当てていた上、その内容も話してくれたからだ。
「セシルのもう一つのオリジンスキルは『ガイア』なのだ。わっちもあまり詳しいことは知らぬが…ユアゾキネヌは知ってるのだ?」
「え、えぇとぉ……。あ、あった。オリジンスキル『ガイア』は大地の力を顕現せし者? 作物を豊かにしたり、鉱石を自在に出来る、って」
「作物を豊かにして鉱石を自在って…それじゃ植物操作とか鉱物操作と一緒じゃないの?」
ただの上位互換くらいじゃあんまり有用じゃないかもしれないね。
それなのに私の欲望を顕したスキルっていうのもおかしな話だなぁ。
「……多分、その植物操作とかをもっと精密に出来るようになるのは間違いないみたい。けど種を植えてから翌日には収穫出来たり…自分より格下の敵を鉱石に変えることが出来る『ゲンマ』っていう力が使えるって」
「ゲンマ? …どこかで聞いたことがあるような…なんだったかな? って、待って待って! 敵を鉱石に変える?!」
珍しくユアちゃんが饒舌に語ってくれた内容は驚くべき内容だった。
自分より弱い敵、魔物を鉱石に変えることが出来るのであれば…それこそ私が一番望んだスキルなんじゃない?! これはすぐにでも試してみないと…。
ダンジョンマスターの部屋をすぐにでも飛び出していきそうな勢いで立ち上がった私だったが、すぐ目の前に黄色いボールが飛んできて私の顔面に思いっきりぶち当たった。
「…メル? なに? 私の邪魔をするの?」
「セシル、本気で殺気を出すのは止めるのだ。ユアゾキネヌが失神するのだ。それと、これからの指針を話すと言ったのはセシルなのだ」
「む、ぅぅぅぅ…。悔しいけど、すごく行きたいけど…メルの言う通り…」
ド正論で諭された私は大人しくソファーに腰を下ろした。
自分で言い出したことを途中で放り出すのはさすがに拙い。
でもメルに正論を言われるとなんだかすごく腹が立つ。くそぅ。
「残るはセシルが旅立てるようにすることくらいなのだ」
「あ…えっと…」
「ユアちゃん? 何かいい方法あるの?」
言い淀んだ彼女へと視線を向けるとユアちゃんは自分の目の前に出してあると思われるタブレットのような端末を操作していた。
またダンジョン産のアイテムでいい物があるのかな?
「あっ! あ…でも…」
「ぬ? なんなのだ? ユアゾキネヌ、ちゃんと話すのだ」
「え、ええっと…その…」
「大丈夫だよ、ユアちゃん。何かいい方法があるなら教えてくれないかな?」
それでも言い出せないでいる彼女に微笑むと意を決したかのように口を開いてくれた。
「そ、その、ね? ダンジョンの景品に…『時空理術の魔導書』って…」
「そんなものがあるのだ?」
「ちなみにそれってどんな魔法があるのかはわかる?」
「う、うん…。えっと、セシルに必要そうな、魔法だと…『転移』『通信』『転送』あたり、かな? 他にも結界魔法とか、断絶魔法とか…」
ユアちゃんの口から出てきたものはどれも今の私が欲してやまないものばかりだった。結界魔法は今でも使ってる遮音結界とかを一纏めにしたものだろうけど、断絶魔法に関してはよくわからない。
けど、確かにそれがあれば私やアイカで魔道具として製作すれば一気にできることの幅が広がるのは間違いない。
「ユアちゃん、そのアイテム貰うことは出来るかな?」
「…ご、ごご…ご…」
しかし問いかけた彼女は口の形を固めたまま何も言い出せずにいた。しかも徐々に目が潤んできて今にも泣きだしそうなほどだった。
「あ、いやごめん! 無理にとは言わないよ! 出来たらいいなって思っただけで…」
「…ご、ごめんね。わ、我のダンジョンポイントだとこ、このアイテム取ったらほとんどポイントがな、なな無くなっちゃう…」
「あぁ…それは…確かに、まずいね…」
ユアちゃんのダンジョンポイントが無くなるとダンジョンの維持がうまくいかなくなる可能性がある。
そうなると彼女は消滅してしまうかもしれないし、そんなことを無理矢理させたくはない。
「ダンジョンポイントなど、なんとでもなるのだ。早く出すのだ」
しかし空気を読まないメルは突然そんなことを言い出した。
あまりにカチンと来たので無言でメルを殴り飛ばしたことに気付いたのは、目を回して私の足元に転がってきてからだった。とりあえずもう一度蹴っておく。
「…なんでぶっ飛ばされたかわからないのだ…」
「アンタがあまりにも馬鹿なこと言うからでしょ」
真っ青な顔でフラフラと私の横に浮き上がってきたメルに対して殺意を込めた眼で睨んでるとさすがに空気がビシビシと嫌な音を立て始めたので少しだけ自重した。
「セシルが少し頑張ればいいだけなのだ。ダンジョンコアに繋がる端末をセシルに当てて転生ポイントかMPを譲渡すれば良いのだ。転生ポイントならレートは百倍。MPだとレートは〇・〇一倍のはずなのだ」
「そ、そそそそんなき、きっ機能わ、我、我も知らないっ?!」
「当然なのだ。これは管理者の資格を持つ者が最初の講習会で渡されるテキストにしか載ってないのだ。管理者よりも数段下位のダンジョンマスターに知られてはまずいのだ」
でも今メルはバラしてるよね?
すごく役立つ情報だからそんなこと口が裂けても言えないけど。
「セシルは考えてることが顔に出すぎなのだ」
「…よく言われるよ…」
「今のわっちは管理者の資格どころか、ただの『スキル』なのだ。何を言ったところで剥奪されるような資格すら無いのだ」
「…ごめん…」
「良いのだ。わっちはセシルが管理者になれば管理者のスキルとして存在出来るのだ」
「メル…」
なんだか今までメルを邪険にしか扱ってこなかったけど、こんなに自分のこと犠牲にしてちゃんと私のこと考えてくれるならもっと大切に扱わないといけないよね…。
「それに、管理者としての仕事は全部セシルに任せておけるのだ! わっちは何もしなくても管理者と同じ立場でいられるのだ! わーっちゃっちゃっちゃっちゃちゃちゃちゃっ!」
…前言撤回。やっぱりこれからもムカついたら蹴ろう。
変な笑い声を上げるメルを無言で蹴り飛ばしたのは言わずもがなである。
今日もありがとうございました。
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