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第28話 セシル八歳

少しセシルが情緒不安定です。

8/1 題名追加

 なんとなくもやもやした日々を過ごしながらそれでも特に不満もない生活を送っていた。

 いや不満はある。家族からの扱いが段々顕著になってきた。虐待を受けてるわけじゃないけどディックとの差が明らかすぎる。この世界は男尊女卑の傾向が強いようだしある程度は仕方ないかとも思うけど、口では私のことを大切とか好きとか言ってても最近は本当に便利なお手伝いさん扱いだ。ディックも3歳になって落ち着いたんだしイルーナも家事をするべきなのに全然する気配もない。それともこれが普通の家族の本当の姿なんだろうか?

 前世では感じたこともない感覚でかなり戸惑っている。前世では「普通」になりたかった。あの親から生まれてしまって、施設送りになって後ろ盾のない立場。施設での生活が嫌だったわけじゃないし、選べない親について捻くれて道を外れるようなこともしなかったけど、必死に「普通」の人になろうと努力してた。

 結局はそれも道半ばで倒れちゃったわけだけどさ。

 普通の人たちはこういうことを考えていたのかな?不満はないけどもやもやして物足りない感じ?どうしていいかわかんなくて、もがこうにもどうもがいていいかもわからない。かと言ってこんな気持ちを今の両親に相談なんてできるはずもない。それでまたぐるぐるぐるぐると同じ思考の渦に嵌ってしまう。


「最近さー。セシルちゃん、難しい顔してることが増えてきたねー」

「え…?そ、そうかな?そんなことないよ?」

「セシルちゃん?これでも私は貴女の母親なんだよー?何を考えてるかはわかんないけど…困った時はちゃんと頼りにしてほしいなー」

「……うん。わかった。ありがとう母さん」

「それでもやっぱり言ってくれないんだねー」


 ボソっと言われた最後の言葉は聞き取れなかったが、私はイルーナの言葉をほぼ聞き流して頷いていた。相談できるくらいならとっくにしてるし、何を考えてるか自分でもよくわかってない。

 そんな思いに少しイライラしつつ家庭菜園の草取りに励んでいたが、危うく雑草と間違えてハーブを抜いてしまいそうになり、更にイライラが募ってくる。


「それにしてもディックちゃんを見てて思ったんだけどね」

「…え?」

「もう、セシルちゃん上の空すぎるよー?」

「あ、あはは。そうかな?そんなことないよ?」

「セシルちゃん、それさっきから言うの二回目だって気付いてないでしょ?」

「…むー」


 まさかイルーナに突っ込まれる日が来るとは思ってなかった。さすがにこれ以上考え込むのは今はやめよう。


「それでディックちゃんを見てて思ったんだけどね?この子って将来はランドくんみたいに格好良くなるのかなーって!」

「またそれー?親馬鹿も程々にしないと聞いてる他の人達は呆れちゃうよ?」

「えー…。だってランドくんあんなに格好良いんだよー?」


 前言撤回。親馬鹿の振りしてただの惚気だったらしい。

 それにしてもディックも生まれたというのに二人とも相変わらず新婚のようにラブラブだ。悪いことじゃないけど、あまり早く妹か弟が出来るのはどうかと思うので張り切るのは控えてほしい。

 何を?…察して…。




 イルーナと話し込んでいたのもあって丘へ行く時間から大分過ぎてしまっていた。もちろんユーニャとは毎日約束してるわけではないし、どちらかが行かない日というのもたまにある。

 ただ頃合いとしてそろそろリードがやってきそうな気がするんだよね。リードこそ約束しているわけではないので、別に会えなくても何ら問題はない。たまたま村に来たときに毎回私が丘にいると思われても、それはそれでちょっとイラっとする。

 かと言っていなかったら次に会ったときに面倒臭いこと言われそうな気もする。もしユーニャがいたら彼女一人にリードを任せることになるし、それはそれでなんかやだ。


「仕方ないなぁ」


 私は渋々丘へ向かう為に出掛ける支度を始めた。いつもの鞄と小さなポーチを三つ通した短剣を下げるためのベルトをつけて家を出ようとする。


「あら、セシルちゃん出掛けるの?」

「うん、いつもの丘に行ってくるよ。多分今日もユーニャがいると思うから」

「いつもより少し遅いけどいるかしら?」

「いなかったら一人で魔法の練習でもするよ」

「そっか。気をつけていってらっしゃい」


 私はイルーナに一言「いってきます」とだけ告げて家を出た。

 急ぐつもりは無かったのに段々と歩く速度が上がっていくのに気付いては速度を緩め、を何度繰り返しただろうか。我ながら呆れてしまい、口の端が少し上がる。

 なんだかんだ言ってユーニャとリードといることが楽しみになってることに改めて気付かされた。それはリードが知らない町から来ていることと、ユーニャが知らない町から引っ越してきたからなのかもしれない。

 今はどっちでもいい。ただこの楽しみが無くならないように大切にしていかなければならないと密かに誓ったところで丘への入り口に着いた。


「今日は二人とも来てないのかな?」


 独り言を言いながら丘を登って行くが二人の気配はない。それならそれでちょっとぼーっとしてから帰ればいいよね。

 そう思いながら丘を登りきっていつものテーブルを見る。木の周りにも何の気配も感じない。やっぱり今日は来てなかったみたいだね。

 木に寄りかかり腰を下ろすと丘の上の風が髪を撫でてくる。

 もう秋だ。

 森の中にはいろいろな実りがあって冬の蓄えをするにはとても助かる。ただ狩りをするとなると獲物も減ってきているのでこの時期は腕の良い狩人じゃないとそうそう成功しないらしい。

 もちろん、私やイルーナのように魔力感知で魔物をサーチできるならあまり関係なかったりするんだけどね。

 と、そこでふと気付いた。

 二人は来てないんじゃなくて来ていて「どこかへ行った」のかもしれない、と。

 よく考えたらすぐわかることだった。

 私がいれば二人はここで私から魔法の訓練を受けることができるけど、私がいないならどうする?

 村へ戻る?あのリードが?

 森へ入って魔物を狩ってみようとするんじゃないか?

 そう思った私は魔力感知と気配察知を同時に使って周囲を探ってみる。ユーニャの魔力なら普通の人よりかなり高い魔力反応があるはずだ。

 集中力を高めて辺りを探る。


---ユニークスキル「知覚限界」を獲得しました---


 何かスキルを手に入れたけどスルー。更に集中していく。


---ユニークスキル「知覚限界」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---


ユニークスキル「知覚限界」1→3


 …なんなのよもう!

 邪魔されたようでイライラしながら手に入れたスキルを鑑定するためにスキル鑑定の紫のボードを目の前に出した。


 知覚限界:極限まで集中した感覚を研ぎ澄ませることができる。通常より遥かに高い五感、予知、空間把握が可能になる。


 なんかよくわかんないけど、今はそれどころじゃないんだけど!

 苛立つ心を抑えながら、それでも今手に入れた知覚限界を使って更に集中して魔力感知、気配察知も使用する。スキルを同時に三つ使うことは稀に行うがMPの消費が通常の数倍になる。

 とりあえず気にせず使っていると知覚限界が更にレベルアップしていくつもの魔力を感知した。ここから離れたところにかなり大きな魔力反応があるが、これはイルーナだろう。この村で私に次いでMPが高いのですぐわかる。村の中にいくつか普段は感じない魔力の反応があることもすぐわかる。しかしこっちは気配察知でユーニャではないと判断できた。大人の男性のようで魔力だけじゃなく能力自体も非常に高そうだ。

 それはそれで気になるけど今はそれよりユーニャだ。

 と、森の中の魔物の反応と向かい合ってる魔力がある。この魔力は自衛団じゃない。そしてもう一つは魔力が少なく気配察知でもあまり強さを感じない反応。


「いた。多分これがユーニャとリード、それかハウルあたりかな」


 観察している間に二人は魔物を一体倒してもう一体に向かっているようだった。それですぐに戻ってくれればいいけど…戻らないだろうなぁ。

 私は更にその先も見てみることにした。危険がないようならゆっくり迎えに行けばいいだけだ。しかし。


「…?異様に魔力が集まってるところがある?」


 一つ一つは大したことはないが数が多いし、この反応から察するとゴブリンか。

 私ならゴブリンの群れを殲滅することは難しいことじゃないし、イルーナに付き添われて何度かはゴブリンの村を殲滅している。放置すると爆発的に繁殖して森から出てきて村を襲う可能性があるからと言っていた。

 ちょっと急いだ方がいい……って、なんかちょっと大きい反応が近付いてる!?これはホブゴブリンだ!

 いくらなんでもあの二人じゃホブゴブリンは無理だっ!




「ほら、僕の強さならこのくらいの魔物なんて問題にならないだろ」

「よく言うよ。私が魔法でサポートしてるからでしょ」


 二人は言い争うように森の奥へと進んでいた。

 ユーニャは丘の上に行ったもののセシルがいなかったため少しの間だけ待つつもりだったが、そこへリードがいつものように約一月ぶりにやってきたのだ。

 お互いが成長した、セシルのおかげだ、欠かさず訓練している、等と言ってるうちに魔物を倒して実力を見せ合おうという話になった。

 村の自衛団もあまり行かない森へ二人だけで出掛けてゴブリンやウルフなどを退治していたが、自分の強さに自信を持ってきた二人はそのまま森の奥へと向かっていった。

 何度かゴブリンを退治した後、少し拓けた場所に出た。周りを見渡すと作りの雑な小屋のような建物。強い風が吹いただけで倒れてんしまいそうな粗末なものがいくつも並んでいた。


「こんなところに村があったのか。父様からは何も聞いていなかったな」

「私も初めて知ったよ。村の人達も知らないかもしれない」


 二人は警戒することもなく村の中へ入ろうとしたが、そのとき村の奥からガヤガヤと声を上げながら子どものような集団が近付いてくるのがみえた。


「あれは…ゴブリン?…まさか、ここは…」

「ゴッ、ゴブリンの村…なの…?」


 気付いた時には既に後ろにも回り込まれており、二人はこの状況から逃げ出すことが出来なくなっていた。

 リードの剣ではゴブリンに対して無双などできるはずもなく。またユーニャの魔法にしてもそこまで威力の高いものは使うことができない。

 少し訓練していると言っても二人は普通の子どもだった。いつも普通じゃないセシルといるせいで、自分ももっとできると勘違いしてしまったただの子どもだった。

今日もありがとうございました。

明日明後日と出張ですが、いつもの時間に更新の予約だけしておきます。

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