第27話 次は魔法の鞄を作ろう!
アイテムボックス代わりのものがようやく。
8/1 題名追加。一部テキスト変更。
「おい、また来てやったぞ」
「こんにちはリード」
「ご無沙汰だったね。で?今回も偉そうな態度ってことはまた私にやられたいってことよね?」
「うううるさい!今度こそ勝たせてもらうさっ」
ユーニャに魔石をプレゼントしてから二十日くらいした頃、再びリードがやってきた。前回同様、最初だけはとても偉そうだったけど、またまた返り討ちにしてあげたら大人しくなった。最初からそういう態度だったら可愛いのにユーニャと一緒でとても残念な子だと思う。
頑張ってはいるみたいだけどまだ魔法は使えるようになってないようだった。付きっきりで指導してるユーニャと違ってリードは月1でしかないし、無理もないか。
私に返り討ちにされてボロボロのままでは可哀相なので傷を癒やしてあげて丘の上の私達のテーブルへ招待した。
「で、紅茶持ってきてくれたの?」
「あ、あぁ。約束だからな」
そう言うとリードは魔法の鞄から小さな瓶を取り出して私にくれた。最初に言わなかったのは偉そうなときのリードだと投げて渡してきそうだったからだ。こっちまで飛んでくれば受け取れる自信はあるけど、明後日の方向に飛んでいかれたら私でも受け取れないかもしれない。
瓶の蓋を開けると紅茶の良い香りが鼻腔をくすぐる。数年振りの紅茶の香りに思わず背中がゾクっとする。
紅茶ってこんな良い香りがしたっけ?
恐らくはリードの家で使っている茶葉が高級なため前世で私が使っていたものよりも香りが良いのかもしれない。
早速カップを三つ出して三人分の紅茶を入れることにする。
ここにはポットがないので茶葉を蒸らしたりできないしカップも陶器ではなく木をくり抜いたものだからどこまで美味しく入れることができるか不安だね。というかそもそも来るなら連絡の一つも入れてほしいんだけどね!
魔法で空中に冷たいままの水を出して周囲から炎で温める。熱操作で温度を操作してもいいけど折角なので普通に入れるのと同じ方法を取ってみた。しばらくしてお湯が沸騰してきたところでそのお湯の中に茶葉を三人分入れる。沸騰しているためボコボコとお湯が煮立っていて茶葉がそれに合わせてジャンピングする。この時点でお湯を温めるのを止めて茶葉が落ち着くのを待つ。五分くらいして茶葉が動かなくなったところで三人のカップに注いでいく。とても澄んだ濃い紅色に近いお茶だ。漂ってくる香りも爽やかでスーパーで売ってるティーパックの紅茶とは一線を画するのがよくわかる。
最後に力操作で茶葉だけを空中に留めたまま一滴も残さずにカップへ注ぎ込むと、二人へ「どうぞ」と差し出した。
「うーん!美味しいね!リードっていつもこんなにいい紅茶飲んでるの?」
「ふむ。変わった入れ方だったがこれなら僕が普段飲んでる紅茶と比べても全然違わないな」
「えへへ、ありがと。お茶は大好きだからね、ハーブティーだけじゃなくてちゃんと紅茶の入れ方も勉強したんだよ」
私も紅茶の香りを楽しみながら一口啜る。
うーん。本当に美味しい。ポットが無くてどうなることかと思ったけど案外この方法も悪くないね。
「…どこで勉強したのだろうか…」
「ダメよリード。セシルに関しては驚いたり疑問に思う方が疲れるんだから」
「ふむ…そういうものか?」
「そういうものよ」
なんか私が何も言わないのをいいことに勝手に二人で話が進んで納得されてるんだけど。解せぬ。
「それはそうとリード。ちょっとまた魔法の鞄見せてほしいんだけど」
「うん?あぁいいぞ。ホラ」
リードは腰ベルトから鞄を外すと私に手渡してくれた。
受け取ってすぐに鞄全体に道具鑑定をかけると黄色いボードが出てきて鑑定結果が書き込まれていく。
書かれているのは「魔法の鞄。空間魔法が付与された大容量の道具を収納できる鞄」とだけ出ている。間違いなく空間魔法が付与されているはずなのにどのくらいのスキルレベルなのか全く記載がない。
そこで私は以前ユーニャと話したように鞄の留め金にも道具鑑定をしてみるが結果はさっきの魔法の鞄全体を鑑定したものと全く一緒だった。
「うーん。ユーニャ、どこに付与されてるかわかんないや」
「えぇぇ。セシルにもわからないんだったら私にはもっとわかんないよ」
「二人とも何の話をしてるんだ?」
私とユーニャは二人で一緒に頭を悩ませているがリードは全く気にした様子もなく紅茶を飲んでいる。地面に座って飲んでるのに姿勢だけは優雅なところがあり、なかなかどうして様になっている。
しかし実物を見れば何かしらヒントがあるかなと思ったけどそうはいかなかった。前進すると思っていたのに突然暗礁に乗り上げてしまった。
さて、どうしたものかねぇ。
私はユーニャにも鞄を渡して観察してもらうことにする。一人より二人で見た方がいい方法が思いつくかもしれないからね。
「あれ?この鞄って外から触ると底がわかるね?」
「え?…あ、本当だ。中から触ろうとすると別空間になっちゃってわからないのにね」
「これ、底に魔石があるんじゃないかな?」
「…あ、なるほど。確かに底になんか固いのがある!」
つまり、魔法の鞄は鞄の底に魔石を置いて「鞄の中限定で別空間を展開するように」予め設定した付与をさせれば完成するのでは?という仮説に行き着く。
でもおかげでどのくらいのスキルレベルの空間魔法が付与されてるかは鞄を解体しないとわからないことになった。まぁこれは仕方ない。
ここまでくれば後は試行錯誤の繰り返しかな。魔石から展開する空間魔法に指向性を持たせることと常に展開しておくことだね。あとは…あ。
「そういえば前に付与魔法使ったときに『内包魔力』って出てたけど、あれってなんなの?」
私はリードに鞄を返しながらユーニャに訊ねてみた。わからないことは知ってそうな人に聞くのが一番だ。
「内包魔力っていうのはその魔石に込められてる魔力だよ」
あ、うん。それは読んで字の如くだよね?
「内包魔力が多いと受けられる恩恵は3つあるよ。
①そのスキルを忠実に再現できる。
②複数付与できることがある。でも魔石の種類によっても出来なかったりするみたい。
③魔石の耐久度が高い。
だね」
「それなら僕も知ってるぞ。魔石の耐久度が高いと攻撃用のスキルや魔法が付与されてる場合に何度も使えるとかな。アミュレットのようなお守りだと効果が無くなるまでの年数だったりするわけだな」
「へぇ。リードよく知ってるね」
「このくらい常識だぞ。何故セシルは変なことばっかり知っていてこういうことは知らないんだ?」
それは我が家の教育方針でしょうか…。一人でいろいろできるようにはしてもらってるのは嬉しいんだけどね。そういえば両親も魔石を持ってるような素振りは一度も見せたことがない。
あと変なことってのは失礼だけど知識は前世からのものが大半だからこの世界じゃ一般的じゃなくても仕方ないね。
「知らないことは今から勉強すればいいだけのことよ。それにしても、じゃあ魔石の内包魔力が無くなったらその魔石は壊れちゃったりするのかな?」
「ただの宝石になったりするみたいだよ。だから内包魔力の高い魔石は長く使えるけどすごく高価でなかなか普通の人には手が出ないの」
「ふえぇ。そうなんだ」
と、そこまで聞いて先日ユーニャに渡した水晶を思い出す。あれは内包魔力八千だったわけだけどユーニャはすごく多いって言ってたっけ。
一般的な冒険者数か月分くらいの収入だとか?その一般的な冒険者っていうのがどのくらいの収入なのかわからないけど…仮に普通のサラリーマンだと仮定しよう。月収二十五万円程度(前世の私の給料より五万円高い)として、四か月分くらい?……百万円…。それは確かに高価だね…よくわかったよ。実験で「でっきるっかなー」くらいの気持ちで作ったものが百万円。製作時間十秒くらい。原価は落ちてた石英だけだからほぼゼロ。これは…ユーニャじゃなくても金の生る木だと思っても仕方ないかも…。
とは言え、魔石を手に入れることをまずは優先しないとだね。
「そうなると魔石って基本的に普通の宝石と同じ種類があるの?」
「そうだな。僕の家にある魔石だとサファイアやガーネット、水晶あたりだな」
「宝石は宝石で価値のあるものよね?」
「当然だよ。女の人なら平民も貴族も王族も大好きだしね」
おぉ、それはそれは…。なんかやる気出てきたよ?
私も宝石は大好きだからね!この世界の宝石についてもっといろいろ知りたくなってきた。コールの店では宝石類はほぼ扱っていないからやっぱり大きな町に行かないとダメなんだろうけど。
そんな心躍る話を聞いた後はいつも通り二人の訓練に付き合って別れた。
よくわからないままこの世界に来て、優しい両親の元で穏やかに過ごすことができるのはとても嬉しい。イルーナとランドールのことは控え目に言っても大好きだし、ディックのことも気になる。でも折角もう一度人生を送れる機会を得られたのだし、好きなように生きてみたいという思いがないわけじゃない。
「転生ポイントを貯めなければならない」
そして私が穏やかに過ごしたいと思った時に心に語りかけてくるこの声の正体も知りたい。転生ポイントを貯めると何が起こるのかわからないけど、私にとってとても大事なことなのは間違いない。生まれたときから脅迫観念にも似たこの声が聞こえるせいで心の奥底にべったりと貼り付くような不安感が拭えない。
今セシルとして生き始めて六年。今後どうなるかはともかくとしても、前世の記憶を持って生まれたからにはそろそろ将来どうしたいのかを考えてもいいのかもしれない。
帰り道、夕食後、そして寝る前にそんなことを考えていた。
この時はもうすぐ訪れる転機に気付くことはなかった。
そして図らずも自分の望んだ未来への近道になっていたことも、その時にはわかる由もなかった。
今日もありがとうございました。




