第26話 魔石作ってみた
ちょっと百合百合します。
でもセシルはノーマルです。
8/1 題名追加
「それでさっきは何をしてたの?」
「え?だから付与魔法を使ったんだよ」
「うん、あのねセシル?私さっき『付与魔法は魔石にしか使えない』って言ったよね?」
「うん、言ってたね」
「今セシルが持ってるのは水晶よね?」
「うん、前に私が…拾ったものだよ」
ユーニャの前に翳して見せてあげる。実際にはこれは私が石英の粒を集めてくっつけたものだから天然物とは言えない。だからこそ不自然なほどにインクルージョンが入ってるのにクラックなどは全くない。
私はユーニャに水晶を渡してあげると彼女はそれを太陽に透かしてみたり、近くでじっくり見たりしている。もちろんそんなことで私が四則魔法鉱物操作で作った水晶だとはわからない。顕微鏡とかで見たら不自然なインクルージョンの切れ目等が見つかるだろうからバレるけどね。
というか、そもそも四則魔法を習得できる人ってどのくらいいるのだろうか?仮に習得できたとしてもスキル鑑定がないと詳しくはわからないし、鉱物操作でこんなことを試そうとする人もいないんじゃないかな?だとしたらこの技術は他に知ってる人がいない限り私が秘匿しておくことにしよう。
「ふぇぇ…綺麗な水晶だよ。これだけでも相当な金額で売れると思うんだけどなぁ」
商人の娘の太鼓判も貰ったことだし今後も宝石集めは続けて結合させていこう。いつか大きな町でも行ってこの世界の宝石を見る機会があれば、どういう加工をしているのか確認して職人さんに依頼しなきゃね。その職人さんを見つけるのが大変だろうけど…。
「それで、セシルこの水晶に何をしたの?」
「え?だから付与魔法を…」
「『付与魔法は魔石にしか使えない』って言ったよね!?」
あ。
しまった。
「え、えーっと…。あはは、じ、実は魔石だったとか…」
「セシル…私には言えないことなの?」
ユーニャは私の目を覗き込んで問い詰めてくるが、私は必死に目をそらす。
がしっと肩を掴まれて更に逃げ道を無くしてくるユーニャに観念するとため息を一つ吐いて話すことにした。
「言えないってわけじゃないよ。ただ世界のどこかにはこれと同じことをやってる人がもういるかもしれないってだけだから」
「え?どういうこと?」
「これは水晶に魔力を流し込んで魔石にしたものなんだよ」
「え?…えぇ?え?」
「魔石は『魔力を多量に含む鉱石』なんでしょ?だから水晶に魔力を流し込めば魔石になると思ったのよ」
そもそも水晶は前世でも不思議な石の代表格だったしね。魔力とは馴染みやすかったのかもしれない。
私が説明したものの、ユーニャはその時点で完全に固まってしまっていた。
そこまでとんでもないことをしたとは思ってないんだけどなぁ。でもこの技術もひょっとしたら一般的なものではないかもしれないし、やっぱり秘匿対象かな?
「私、セシルをただのお嫁さんにするの止める!」
フリーズから再起動したユーニャは突然改まったように私の手を掴んだ。
しかしいきなり何を言い出すんだろうかこの子は。
「…いや、ただのも何もお嫁さんにはなれないってば」
「私大きくなったらセシルと一緒にお店やりたい!」
「…へ?お店?」
「うん、それでこの国一番のお店にして国で一番の商人になるの!」
「へ、へぇ…。お、お父さんと一緒にじゃないの?」
「ダメよ。私のパートナーはセシル以外に考えられないわ」
これ明らかにさっきの魔石を見たから言ってるよね?
ユーニャの目が金貨に変わってるように見えるくらい明らかに。
でも私はこういう打算的な考えは正直嫌いじゃない。自分の心に正直なだけなんだしね。ただお金というのはありすぎても無さ過ぎても心が捻じれて歪んでいってしまう。そうして歪みまくったのが私の前世の両親だったわけだ。ユーニャがあんな風になってしまうなんて考えたくない。
「セシルは…嫌、かな?」
「や、えと。嫌ってわけじゃなくてまだそういうこと考えられないっていうか」
「今すぐじゃないの!大きくなるまで、この国ではお店を持てるのは成人してからって決まってるからあと9年先!」
ユーニャは必死に食い下がってきた。多分ユーニャにとって私は人生で初めての金づるだろうから手放したくないのは事実だろう。いつもの「お嫁さんにするー」と言ってるときよりも遥かに真剣だ。こういうのは良いと思う。スカウトするのに必死になるのは当然だからね。
「でも一番の商人になってどうするの?」
「だってこの国一番だよ!すごいんだよ!お金もいっぱいあるから欲しいもの何でも買えちゃうんだよ!」
興奮しながら話すユーニャに対して私は少し視線をズラした。ここまで真っ直ぐに追い求められるものがある人は眩しい。私にとっての宝石みたいにユーニャにとっては大事なものなのだろう。でも、前世の両親みたいになってほしくはない。
「…私は……私の欲しいものは生まれてすぐ持ってた。優しい両親と平和で穏やかに過ごすことができればそれでいいの。私の欲しいものはお金じゃ買えないものなのよ。お金は人を駄目にしちゃうことがあるしね」
「でもっ。セシル…」
「でも、それがユーニャの夢なら応援するよ。いつもずっと一緒ってわけにはいかないだろうけど、ちゃんと手伝うのは約束する」
「……セシル!」
ユーニャにとってお金は大事なものなんだよね。普段からは想像つかないけど、いつも彼女は将来のためになることに関しては非常に勤勉だ。私の魔法の訓練だって6歳の子どもがやるには結構厳しいもののはずだしね。
それでも私にとっても大事なユーニャには守ってほしいことがある。
「ただ、これだけは約束してほしい。絶対にお金に溺れるような人にならないで。そして自分の幸せのためだけじゃなくて他の人も幸せになれるようなお金の使い方をしてほしいの」
「…?セシルはお金に興味ないようなこと言うのに変なこと約束させるのね?」
「あはは…お願い。私は将来ユーニャを嫌いになりたくないの」
「うん、わかった!約束する!私だってセシルに嫌われたくないからね」
「うん、ありがとユーニャ」
「それでもし、セシルにも将来やりたいことが見つかったら私も応援する!でもお店は手伝ってね」
「…ぷっ……なにそれ、もう…」
私はユーニャからずっと握られていた手を握り返して引き寄せるとユーニャの体を抱き締めた。
たまにはこんなことしてもいいよね。今の両親以外に自分から抱き着いたのって初めてかもしれない。
私に抱き締められたユーニャは驚いていたけど彼女も背中に手を回して抱き締め返してくれた。これは約束。お互いが裏切らないための約束。ユーニャにとって私は金づるかもしれないけど、その分彼女は私を手放したくない、私のことを知られたくないはず。だから私のことをあまり他人に話したりはしないだろう。そうすることで私も気軽に相談できる相手が手に入る。宝石についてもユーニャがいろいろ調べてくれるようになればお互いにWIN-WINの関係だね。それまでは私が宝石好きなことは伏せておこう。
ちなみに彼女が完全に打算だけで動いてないのは私の胸に伝わる彼女の鼓動からわかる。どうやら彼女はガチの百合百合さんのようだ…。こういうことは今後あまりやらないでおこう。
「ところで、水晶を魔石に変えたんだったら何を付与したの?」
「MP自動回復だよ」
「…セシルってそんな便利なスキル持ってたのね…」
あれ?そんな言うほどのことかな?ある程度魔法使う人なら誰でも持ってそうなものなのに。
「MP自動回復ならレベル1でも付与してあれば並みの冒険者数ヶ月分の収入くらいの価値があると思うよ」
「え…そんなにするのっ!?」
「セシルは自分のやってることの価値をそろそろ具体的なお金に換算して考えた方がいいかもしれないよ」
ユーニャの呆れたような視線に見つめられて少し自重しようと考え…てやめた。多分「できるかな?やってみよう!」でまたついやっちゃうと思うから。
「でも付与魔法だとどのくらいのスキルレベルで付与したかわからないんじゃない?」
「え?レベル1じゃないの?」
「あー……うん。違うよ」
「…うん、セシルに驚くのはやめることにするよ」
あれ?私ってそこまで普通の人扱いされないの?ひどくない?
私の不満は顔に出ていたみたいでユーニャは更に呆れていた。
「とりあえず私の道具鑑定使ってみるけど、あんまり高いレベルだと見れないかもしれないよ」
そういうとユーニャは道具鑑定を使って魔石を見始めた。
ユーニャの目の前に黄色いボードが現れて、文字がどんどん書き込まれていく。が、すぐに止まってしまった。
「あー、やっぱり私じゃ名前と付与されてる効果しかわからなかったよ」
多分だけど6歳でそこまでできるのも十分すごいと思うんだけどね。ユーニャはとても残念そうにしているけど、あまり気にしちゃダメよ?
「じゃあ私がやってみるよ。道具鑑定」
「…驚かない。驚かないからね…」
ユーニャの独り言はとりあえず無視しておいて、私は黄色いボードに書き込まれていく文字を目で追う。
「エンチャント水晶?付与スキルMP自動回復レベル9。内包魔力8000。って書いてある。私の道具鑑定でもここまでみたいだね」
「スキルレベル9?!内包魔力8000ってとんでもない高級品だよ!」
え。驚かないんじゃなかったの?
しかも何も考えないでやってスキルレベル9かぁ。ちゃんと意図してやればMAXで付与もできるんじゃないかな。
とは言え、スキルレベル9のMP自動回復なんて今の私には全く必要ない。ユニークスキルの精神再生になったおかげで回復量はMP自動回復の数十倍になっている。これなら特異魔法や大威力魔法の連発、魔人化の長時間使用をしない限りはそうそう枯渇することもない。
「欲しいならあげるよ?」
「…ねぇセシル、お願いだから少しはお金に執着持とう?私の心が保たないよ」
「最近ユーニャも魔法の訓練でおかげでMPが上がってきてるからさ。それがあればもっと楽になるかなーって思ったんだけど…」
売ることを前提に考えてたね?売ってもいいけどね。そのくらいのものならいつでも作れるし。
「わかった。じゃあこれは私が貰って大切にするね」
「うん。将来お店に出す分はその時にまた作ってあげるから。それは私とユーニャの友情の証ってことで」
私がそう言うとユーニャはとてもわかりやすく動揺するのだった。
やっぱり売ることを前提に考えてたらしい。ユーニャらしいけど、私のことを大切に思っているのも本当のようだ。今の真っ赤な顔を見るだけであげて良かったと思えるからね。
今日もありがとうございました。
ちなみにエアコンは買い換えることにしました。




