第241話 殲滅完了!
これでようやく決着です。
邪黒塊が失った身体の一部を黒いドロドロで満たしてその損失部を修復していく。
でもわかる。
さっきまでは相手の力が強大だったせいでわからなかったのかもしれないけど、あれも無尽蔵で出来ることではないみたい。
感じ取れるアレの強さはeggで復活した時から比べると少しだけ弱くなっている。勿論さっきの私の攻撃がかなり効いたのはあるだろうけど、アイカとクドーがほんの少しの時間でかなり強力な攻撃をしてくれたんだと思う。
そのせいか二人とも体力魔力ともに残り少ない。
今は邪黒塊が身体を修復する隙をついてポーションを飲んでいるのでしばらくしたら回復するはず。
「アイカ、クドー。あとは私に任せてもらっていい?」
後ろにいる二人を振り返ることなくそう告げると答えを聞く前に前のめりになって構える。
「そないにやる気になっとんのに口も手ぇも出せるはずあらへんやろ」
「折角作った新しい武器だ。限界まで性能を引き出してやってくれ」
二人の承認も得られたことだし、遠慮なくやれるね!
にやけそうになる顔を必死に抑えてもう一度武闘技を使う。
足元から溢れ迸る力が髪を揺らし、両手に構えた剣にも集中していけば金色の刃となって光り輝く。
これを倒せば、村のみんなの仇を討てる。
だから。
「もう、終わりにする!」
ぱぁんっ
音速を超えた証に甲高い破裂音が響く。
力強く踏み込むとまたも音を置き去りにして加速して邪黒塊に迫る。
GRRRRRRUUUUuuuAAAAAAAAaaaa%&@%%=#&~:%@#
しかし私の接近に反応した邪黒塊は全ての口から怨みを含んだような雄叫びを上げるとその声が衝撃波となって襲ってきた。
こっちも音速に達し、相手も音の攻撃。
真っ正面からぶつかってしまった私は凄まじいまでの衝撃を全身で受けて失速してしまった。
ズガガガガガガガガッ
そこへ追い討ちのように身体から生えた全ての魔物達が一斉に攻撃を放ってきた。
斬撃、衝撃波、魔法、ブレス。
そのどれもが並みの相手なら即死、私達でも戦闘不能に陥るくらいの威力がある。
それもさっきまでの私だったら、だけど。
バキンッ
咄嗟に張った時空理術による障壁がその攻撃を全て受け止めてかき消した。
あの障壁を砕くのは生半可な攻撃じゃ無理みたいだ。
その代わり障壁を展開してから消えるまでは五秒くらいしかもたないようだけど。
でもそれだけあれば十分!
私はさっき出した障壁と同じものを邪黒塊を覆うように展開した。
これで五秒は動きを止められる。
「戦帝化!」
スキル名を唱えるとレベルを犠牲に爆発的に力が漲ってくる。
武闘技と合わせることで圧倒的なまでに膨れ上がる攻撃力。
時間経過毎に弱くなっていくけれど、必ずそれまでに終わらせてみせる!
「ぶちかましたれっ!」
後ろからアイカの応援が聞こえたので視線を向けると拳を握って意気込んでいる姿が目に入った。
アイカ達が来てくれなかったら私も死んでたかもしれない。
本当にありがとう。とっても頼りになる仲間だよ。
彼女達の加勢を無駄にしないためにも、早く安心させるためにもこれで最後だ!
「金閃迅!」
邪黒塊の周りにいつもの反発する障壁が現れた。
その数は百枚。
やや前傾姿勢を取るとそのまま邪黒塊へと突っ込んでいく。
その瞬間、景色はほとんど残像だけが目に入り音が消えていく。
金色の閃光が邪黒塊を取り囲み、切り刻んでいくほどにその身体を徐々に削り取っていった。
そして最後の障壁を踏み砕き右の剣を振り抜いたところでもう一枚障壁を出して足を着いた。
OOHHHhhhh
不気味なうなり声を上げた邪悪の塊は最後の力で修復していくけれど、もう元の大きさには程遠いほど小さくなって真っ黒い人型を取った。
「これで…トドメだよ!」
両腕を交差したまま最大限にまで魔力も闘気も込めていくと剣から金色の刃がどんどん伸びていく。
このまま剣を交差させれば、それこそハサミのように絶ち斬ることが出来る。
それならひとまずこんな名前をつける。
「金光剪!」
両手の剣をそれぞれ一振り。
溢れ出す金色の粒が刃から彗星のように流れ邪黒塊でちょうどぶつかり合う。
ほんの僅かな抵抗があった気がして、剣は振り抜かれた。
U……GYAAAAAAAAAaaaaaaaa!!
恨めしい、憎たらしいと言わんばかりに盛大な悲鳴を上げ、邪黒塊と名付けた黒い塊は金色の光に包まれて、やがて消えていった。
あの魔物もただ本能のままに従っただけなのかもしれないんだよね…。
でも、だからって私の両親を、親友を、村の人達を殺していい理由にはならない。
夏の暑い風が吹いたと思えば、もう日も随分傾いていた。
「父さん、母さん、キャリー、ハウル、おばさんもおばあちゃんも村のみんなも…。この金色の光がせめて、みんなの供養になるといいな…」
私が一人呟いた言葉は夕暮れ近い戦場で、誰に拾われることなく、邪黒塊と一緒に溶けて消えていった。
---魔王---魔王---魔王---魔王---魔王---魔王種の撃滅に成功しました---
---所持していたeggの所有権が移ります---
---egg所有者同士の戦闘終了を確認しました---
---能力解放、周辺部保護を終了します---
egg持ちの魔物討伐でいつものアナウンスが流れたことで、はっとして戦帝化と武闘技を解除した。
感傷に浸って思ったよりも長く戦帝化を使ったままにしてしまったけど…今はいいや。
そんな面倒くさいこと考えたくない。
戦闘が終わってからいつまでも俯いたままその場を動かなかった私にアイカとクドーは何も言わずに付き合ってくれた。
やがて夜になって、ようやく顔を上げた。
「…ディック、迎えに行かなきゃ」
「セシルの弟やったっけ?」
「うん。きっと一人で不安になってると思うから」
「ふむ、それなら急いで行ってやれ」
村の方へ向かって歩こうとしたけど、思ったよりも時間がかかることを思い出した。
あぁ、そういえば普通に歩いて行ったら七日くらいかかるんだっけ。
後ろを振り向くと二人は呆れた顔をしていた。
「歩いていく、なんて言わへんよな?」
「さっさと迎えに行ってこい。俺達はここでお前が戻ってくるのを待っている」
こくりと小さく頷くと、飛行魔法を使いすぐに村へと向かった。
すっかり夜になってしまったので空から見下ろしても完全に真っ暗だ。けれど村の場所はわかるし、ディックに渡した魔石に魔力を補充しておいたから目を閉じていても辿り着ける。
自重せず飛行したことで村には一時間もしないうちに到着してディックが隠れているコールの家の残骸まで向かう。
崩れかけの建物の影になっているものの、コールを包む薄い魔力の膜は効果を失うことなく張られ続けていてそれを見た私はほっと一安心した。
ディックはその中で車座になって一人俯いていた。
「ただいま、ディック」
私が声をかけるとディックは勢いよく顔を上げた。
「ね、ねえね? …僕夢を見てるの?」
「夢じゃないよ。本物のお姉ちゃん」
戦闘が始まる前に会った時に比べ私の服はかなりボロボロでところどころ肌が露出してしまっているけど、それが却って良かったのかもしれない。
何故なら。
「ねえねっ! ねえねねえねねえねねえねぇ……うっ、うわああぁぁぁぁぁぁん…」
こうして泣きついてきた弟に私の温かさを伝えることが出来るから。
しばらくして泣き止んだディックと一緒に自分自身にも洗浄を使って自分や魔物の血、泥を洗い流すとともにずっとお風呂に入っていなかったから二人ともかなり臭っていた身体を綺麗にした。
この場に魔法を使って即席の露天風呂でも作ろうかと本気で考えたけど、さすがに今はそんなことしていられない。
「さて、身体も綺麗になったことだし行こっか」
「行くって…どこに?」
「お姉ちゃん、友達待たせてるの。友達と合流したらとりあえず領主様のいるベオファウムに向かうんだよ」
「…僕領主様に会ったことないけど…大丈夫かなぁ…」
「大丈夫。領主様は父さん母さんの仲間だった人だから。それに何があってもお姉ちゃんも一緒だよ」
ディックの目線の高さに合わせてしゃがみこんで話しているうちにようやく安心したのか私にしがみついてきた。
このまましがみついててくれれば飛行魔法で早く合流出来そうだね。
私はディックに説明しつつ、空間魔法を使って私とディックの身体を固定、念の為植物操作で二人の身体を蔦で巻いて離れないようにすると来る時よりかなり速度を落として飛び始めた。
スピードは出ないものの、徒歩や馬車での移動よりもかなり速いのは間違いなく、数時間も飛んでいると魔物との戦場跡に戻ってくることができた。
私が地魔法で作り出した巨大な壁はアイカが片付けてくれたみたいで、今は元の平らな大地に戻っていた。
加えて大量にあった魔物の死体も一カ所に集められていた。
「ただいま」
「ん、お疲れー」
私がディックを抱えて空から下りてくるとアイカは軽く手を上げて迎えてくれた。
「その子がセシルの弟かいな? はじめまして、ウチはアイカっちゅうんや。よろしゅうな!」
「…ディック。よろしく…」
ディックはなんとかそれだけを口にすると私の後ろに隠れてしまった。
なんだこの可愛い生き物は。
「ほぉん…セシルより随分可愛らしい子やなぁ」
「ディックが可愛いのは認めるけど、どういう意味よ」
「べっつにぃ…なぁんもあらへんよぉ」
アイカにこんな態度取られるのは久々だけど、こういう時ってだいたい失礼なこと考えてる時だよね?!
どうせ問い詰めても何も答えないだろうから、私はそのまま魔物の死体と格闘しているクドーの下へと向かう。
「クドー、後片付けありがとう」
「あぁ…気にするな。ダンジョンでは手に入らない魔物の素材が手に入るいい機会だ」
「ディック、この人もお姉ちゃんの友達のクドーだよ」
ディックを前に押し出すようにするとクドーも作業する手を止めてこちらに向き直った。
「クドーだ」
「…ディック」
しかし二人とも名前を言うだけでそれ以上何も話そうとしない。
っていうか自己紹介これだけ?!
クドーは私の時もそうだったし、ディックもさっきアイカと話した時とほとんど同じだったけどさっ!
ま、まぁ男同士なんてこんなもん…なのかな?
その後クドーの手伝いをしていくつかの魔物素材を回収する頃には東の空がうっすら明るくなり始めていた。
戦いも終わって片付けまでした私達はすっかりクタクタになってしまった。出来ればそろそろ柔らかいベッドでゆっくり休みたい。
「帰ろっか」
「あぁ、そうだな」
「せやな。…あぁぁぁぁ……久々にメッチャ戦ったわ…。しばらくこんなん遠慮したいもんやな」
アイカの大きな伸びに微苦笑を向けると、あくびをかみ殺しながら四人でベオファウムへと歩き出した。
今日もありがとうございました。
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