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第238話 殲滅戦6 殲滅完了、そしてegg

セシル視点に戻ります。

 リザードマンと向き合いながら二人の戦いを見て驚いていた。

 時折向けられる黒い靄で作られたロングソードで斬り掛かられているが、クドーから渡された新しい剣を慣れない順手に持って捌いていられるくらいは余裕を持って観戦していた。

 アイカの肉弾戦なんてほとんど見たことなんかなかったし、クドーがさっき戦ったキリングフェンリルみたいな姿になるとは思ってもみなかった。

 そうして少しの間観戦している内にアイカは二体の魔物を瀕死に、クドーはその鋭い爪で棘の魔物をバラバラにしてしまった。アイカは魔力の集中に入っているし、クドーはさっきの様子ならオーガの方も瞬殺してしまうと思う。

 なら私ものんびりしてると二人から怒られちゃうね。


「戦帝化!」


 スキル名を唱えると体から迸る力の奔流。

 早く早くと急かすように、漲る闘争心を抑えることもなく一歩踏み出した。


ドオォォンッ


 地面が足元で爆砕した音と敵の姿が目の前に迫っていたことにタイムラグはほとんど無かった。

 リザードマンが慌てて迎撃態勢に入ろうとしているけどもう遅い。

 私の攻撃は既に始まっている。

 短剣は順手に持ったまま戦帝化で溢れている魔力を使って魔闘術で強化すると一瞬で二本とも金色に輝く刃が伸びてバスタードソードほどの長さになる。


「閃亢剣!」


 目の前で交差するように金色の剣を振るうと真っ黒いリザードマンは受け止めようとロングソードを上げてきたものの受けるどころか抵抗することも出来ず簡単に上下に斬り裂かれた。

 私自身も突進したスピードを止めきれずリザードマンの立っていた場所から百メテル以上通り過ぎてからようやく止まることが出来て後ろを振り返ると、ちょうど二つになったリザードマンが地面に落ちるところだった。

 そして遠目に見えるアイカは頭上に大きな魔力の塊を生み出していた。

 それは目の前にいる真っ黒い魔物よりも深くて暗い闇を孕んでおり、見ているだけで胸が締め付けられるようだ。


「さぁ行くで! 虹魔法『塵も残さん』!」


 アイカの虹魔法にしてはやけに短い魔法名だね?

 込められていた魔力から察するにすごく長い魔法名を想像したんだけど、きっとまた私が知らないアニメのネタなんだと思う。

 躑躅色の瞳を嬉々と輝かせながらアイカはその手を振り下ろした。

 夜の闇を凝縮したような黒い塊はゆらゆらと漂うように武道家とローブの魔物へと迫る。アイカの邪魔法を含んだ新奇魔法は発動も発射速度もとても遅いけど、既にその二体は満身創痍で碌に動くことも出来ず黒い球体へと触れた。

 するとその黒い塊は獲物を得た獣のように突然素早く動いたかと思うと魔物を包み込んで黒い炎の柱を打ち立てた。


「闇の炎に抱かれて消えろ!」


 どこかで聞いたことのあるような、とある年齢で発症する病の方々が言いそうなセリフを吐き捨てるように唱えたアイカは振り返って炎の柱を背にすると指を鳴らした。

 パチンと軽い音が響き、黒い炎の柱が消えた後には灰すら残さず染みのような焦げ後を地面に残して魔物達を消し去ってしまった。

 相変わらずおかしな魔法の威力だよね。

 レベルもMPも私の方が上なのに、私があれだけの威力がある魔法を使おうと思ったらアイカの数倍は多く魔力を必要とする。

 そしてクドーの方も終わるところだった。


オオオオォォォォォォォォンッ


 一層大きく、長い雄叫びを上げたクドーの身体は遠くから見ていても非常に速かった。

 瞬きするだけで相手の眼前に迫っており、そのまますれ違いざまに両前足を交互に振るっただけで黒いオーガはバラバラにされていた。

 あの二人を見てると私が苦戦したのはなんだったんだろうって思っちゃうね。

 そして戦い終えたアイカと人の姿に戻ったクドーがそれぞれ私の前までやってきた。


「ほな、これでアホセシルの尻拭いは終わりやな」

「全く…よくも魔物の大群と真正面からやり合おうなどと思ったものだ」


 戻ってきて早々に酷い言われようだと思う。


「よく言うよ。二人だってこのくらいのことできるでしょ」

「アホ抜かせ。いくらなんでも体力がもつわけあらへんわ」

「せいぜい半分くらいだろうが…その後に今のような魔物と戦うことなど出来ない。こればかりはセシルほどの継戦能力の高さがないと無理だ」

「むぅ…なんだか謙虚だね」

「むぅ、やないわドアホ! ウチらが来んかったら今頃さっきの黒いのの腹ん中やったんやで?」


 …それについては感謝しかないけどさ。

 もうちょっとくらい労ってくれてもいいと思うのに。

 まぁでも。


「とにかくすごく助かったよ。ありがとねアイカ。ありがとうクドー」


 素直に頭を下げたからか二人とも盛大に溜め息をついて私の頭に手を乗せた。


「次からはちゃんとウチらに相談するんやで?」

「頼むからもう少しまともに準備くらいしろ。それでも何度でも助けてやる」

「アイカ、クドー…。うん、ありがとう!」 


 二人にお礼を言って抱きつこうとした、その時だった。



---egg所有者---egg所有者---egg所有者---egg所有者---egg所有者---egg所有者同士の戦闘を確認しました---

---能力解放、周辺部保護、所有権移譲戦闘へと移行します---



 いくつもダブっていつものegg持ち同士の戦闘開始アナウンスが響いた。

 今日はついさっきキリングフェンリルと戦って聞いたばかりだけど、その音声が知らせることは何よりも絶対的で絶望的なものだった。


「な、なんでこんな音声がダブっとるんや?」

「…今俺達が倒した魔物達全てがegg所有者だった、ということだろうな」

「ホンマかいな…ちゅうか、ウチらが倒したんはみんなドロドロになってもうたはずやろ? …ウチのは灰にしたんやけど、そんなんでどうやって戦うんやろ?」


 確かにアイカの言う通り。この黒い魔物達は倒すとドロドロに溶けて地面に消えていく。

 アイカみたいに灰にしたらわからないけど、それでも原形は留めていない。

 今までのegg持ちはみんな倒した後でもちゃんと身体が残っていたから復活してたけど、こいつらみたいにドロドロになったら戻れないんじゃないかな?


「いや…見ろ」


 クドーの指差す方向をアイカとともに見やるとそこには地面から黒いドロドロが湧き出ているところだった。


「まさかさっきの魔物達の?」

「恐らくな。だが…」


 黒いドロドロはいつまでも止まることなく湧き出してきていた。それはさっき倒した魔物達の体積を明らかに超えて巨大なドラゴンと同じくらいの量があるのだが、それが一カ所に集まって悍ましく蠢いている。


「なんやのアレ。メッチャ気持ち悪いわぁ…」


 アニメでも特撮でも相手の変身が終わるまで手を出さないという礼儀正しいお約束があるけども、今の私達も似たようなものかというとそうではない。

 ただ動けない。

 ここで強力な魔法でも一発打ち込んでやれば少しは状況が変わる気がしないでもないけど、金縛りにでもあったかのように動けないでいた。

 そして湧き出る黒いドロドロが収まった後、蠢いていたヘドロのような塊は歪な楕円形を模しながらもあちこちからいろんな魔物の特徴を表していた。

 ダークウルフの目と毛、ゴブリンキング、オークキングの目や口、耳。バイコーンの頭、いろんな昆虫型魔物の足や複眼などが滅茶苦茶に生えてしまっている。

 そして。


「うぇぇ…気持ち悪っ! アレさっき倒した魔物達やろ?! なんであないなとこから上半身だけ生やしとんの?!」

「理由などないだろう。eggを持っていたのは恐らく奴等だ。それが一度に集まってあそこまで歪な存在になったのだろうな」


GISHAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 いくつもの咆哮が重なり酷いノイズとなったそれはただの音ではなく、衝撃波となって周囲を打ち払った。

 それによって硬直が解けた私達はなんとかその場に踏みとどまったものの、相手の実力を肌で感じるには十分すぎた。


「くっ……。アカンアカン! こんなん勝てるわけないやろ!」

「…だ、だがどうする? とても逃がしてくれそうな雰囲気ではないぞ」


 勝てない?

 逃げる?

 …違う、そうじゃない。


「勝てないなんてことない。絶対逃げない。あいつら私の村を滅茶苦茶にした! 父さんも母さんも殺された! キャリーもハウルも、赤ちゃんまで殺された! 優しいお婆ちゃんも親切だったおばさんもみんなみんな殺された!」


 怖くないわけじゃないよ。

 今だって逃げたい気持ちの方が大きいよ。

 でも。それでも逃げたらもう仇を討つことも出来ない。私はここに戻ってこられない。

 大きく息を吸って、昂ぶった感情を抑えるようにゆっくり息を吐き出せば少しだけ冷静になって敵を見ることが出来た。


「あんなのただのでっかいボールでしょ。気持ち悪いだけのさ。だから絶対に負けない。絶対許さない。私が勝つんだ!」


 落ち着かせたはずの感情が再び滾ってくる。

 それに呼応するように魔闘術で魔力も吹き出し、魔人化も再起動した。


---条件を満たしました。タレント「蛮勇」が進化します---


---タレント「蛮勇」を糧に、新たなタレント「勇敢ナル者」が開花しました---


---条件を満たしました。タレント「勇敢ナル者」「立チ上ガル者」が統合、融合進化します---


---新たなタレント「英雄」が開花しました---


---レジェンドスキル「英雄」を獲得しました---



「…ちょうどいいタイミングで良いスキルも手に入るものだね…」

「セシルまたトンデモスキル覚えたんか…。まぁでもセシルがそう言うならウチらだけ逃げるわけにはいかへんな」

「あぁ。…だが、現実問題として奴の強さは俺やアイカとは比べ物にならん。セシルが万全の状態だったとしても奴の方が上だろうな」


 クドーの言うことは尤もだと思う。

 あの黒い魔物達は普通の魔物と違い、格闘や槍術などのスキルを使いこなしていたしただ力一辺倒で攻めてくるようなことは無かった。だからこそ苦戦したんだよね。

 さっきまでは別々だったからまだ良かったけど、それが全部集まって更にバワーアップしたあの黒い塊……便宜上「邪黒塊」とでも名付けよう…はあの六体の経験と知識も全部集まったものと考えられる。

 正直普通に考えれば手を出すのも憚られるような存在だと思う。


「ぶっちゃけ、野菜の星の金色の戦士みたいなんが無いと厳しいんちゃうの?」


 …こういうところでも平気で二次元ネタを突っ込んでくるのはアイカらしい。

 けどそんな急激なバワーアップなんて…。

 ちなみにさっきクドーが言った私よりも邪黒塊が強いというのは戦帝化を使った私を基準にしているので、あれはもう考慮に入れることが出来ない。

 そんな都合良く強くなれるようなことなんて……あ。


「…あった、かも?」

「あん? どないした?」

「セシル?」


 そういえばあるじゃん。

 バワーアップになるかどうかはわかんないけど、私にはずっと保留していたものが一つだけあることを思い出した。

 きっとそれがこの戦いを決着させる決め手となるだろうことをなんとなくだけど予感出来た。

今日もありがとうございました。

年末年始毎日投稿中です!

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― 新着の感想 ―
[一言] 新たな脅威が出てきたけどセシルが絶望に飲まれなくて、死ななくて良かったです。アイカならフィンガーフレアボムズとかやりそう(笑)
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