第236話 殲滅戦4 合流
なんなのこいつら。
こんな強い魔物がいるなんて聞いてない。
というか、貴族院でも脅威度Sまでの魔物しか教えてもらってない。こんなのがいることなんて知らない。
しかもそれが六体とか。
というか、なんか変だ。
普通の魔物ならこうして私が横になっていたら絶対追撃してくるはずなのに、何もしてこない。
さっきの攻撃を受けた痛みで魔人化も魔闘術も切れてしまったから、こうしているだけでもMPはどんどん回復していく。
MPの回復と共に聖光癒でHPも回復して武器を無くした以外はかなり良い状態になったことを確認して立ち上がった。
すると後ろに控えていた別の魔物が前に出てきた。
真っ黒なのはさっきの魔物と同じだけど、ところどころのパーツが違っていて甲羅を両肩、胸、背中に着けていて足は猫科の獣のような作りに。そうかと思えば頭は完全に鳥だ。
キマイラのようにいくつもの魔物が合成されたようなその姿は異様以外の何物でもない。
そして少し腰を落とした。
タンッ
とても軽い音がしてその魔物が私の目の前に現れた。
「えっ?」
ドォォォン
的確に私の右目を狙って左手を突き出してきていたけど、首を傾げるだけで避けられたが、空振りした相手の突きは衝撃波を伴って後ろに突き抜けていった。
今の攻撃を受けていたらひょっとして首が取れていたかもしれない。なにせ魔人化も魔闘術も使ってなかったのだから。
なのに避けられたのは相手が脚力だけは魔獣系の魔物のものだったけど上半身はそこまで素早くなかったからだろう。
それでも顔の近くを通ったその衝撃だけで皮膚が裂けて血が垂れてきた。
瞬間的に脅威を感じた私は魔人化と魔闘術を使って距離を開けようとしたけど相手の脚力の前では大きく引き離すことが出来ずに動きながら攻防を続けることになった。
どうやら格闘術はそこまで得意ではないようで私の攻撃も何度か当たっていくけどあの甲羅に阻まれて全然ダメージを与えていふ感じがしない。
「ったく…しつこいっ!」
そこへ少し大振りな攻撃を入れようと強めに踏み込んだ。
次の瞬間頭が横から揺さぶられて私の身体は地面を削りながら投げ出された。
「…いっ、つつつつぅっ。な、なに?」
さっきからずっと一対一で戦っていたのにいきなり一体の魔物が私の真横から攻撃してきたらしい。
目の前の魔物に集中しすぎて探知すら使っていなかったせいで反応出来なかった。
ちなみにMP節約のために今は熱操作すら使っていない。
頭を大きく揺さぶられたけど、ダメージはそこまでじゃない。なんとか立ち上がろうと手をついたところで、また別の魔物が近寄ってきた。
「あぐっ…!かっ……は…」
その魔物は地面についた私の手に黒い槍のようなものを突き刺して縫い止めていた。
手を貫かれた激痛に顔を歪ませながら見上げると、槍ではなく片手が槍のように鋭い棘に変わっていた。そしてもう片手も同じように棘に変えると私目掛けて突き出してきた。
「く…爆発魔法 衝爆砲!」
ドォォォン
自分の目の前で激しい爆発が起こり、私と棘の魔物は大きく引き離されて再び地面を転がった。
威力を弱めることもせず咄嗟に使ったため私も一緒にダメージを受けたけどすぐに魔法で癒やせば手を突き刺された痛みが引くと共に爆発で受けた怪我も治っていく。
こんなに理不尽なほどの攻撃を受けたのなんて前世以来じゃないかな。圧倒的にこっちが受け続けるだけなんて。こっちに悪いことなんて無いのに。
「でも…それでもっ、絶対負けてなんかやらない…。私はっ、理不尽になんか負けない…」
そうして立ち上がる。
もう何回地面を転がったかわからない。
普段リードやババンゴーア様を訓練所で転がしてたけど、こういう気分だったんだね。
なんだかすっごく悔しいっ!
---条件を満たしました。タレント「七転び八起き」が進化します---
---タレント「七転び八起き」を糧に、新たなタレント「立チ上ガル者」が開花しました---
また何かのタレント手に入った。
というかよくわかんないのばっかりさっきから増えてるけど、この状況をもっと好転させてくれるようなスキルでも取れたらいいのに。
距離は開いたけど相変わらず六体の魔物は健在だ。
さっき爆発魔法を食らわせた棘の魔物も身体から白煙を上げてるだけでダメージが通った様子はない。
当然甲羅の魔物も、格闘家な魔物も健在。
あとはリザードマンかドラゴニュートのような頭をした奴、さっき私の剣を折ってくれたオーガのように盛り上がった筋肉で覆われた奴、そしてリッチみたいに少し浮いてる奴の三体。こいつらは後ろに下がったまま手を出してこない。
正直に言う。
六体同時に攻撃されたら凌げない。
時折攻撃受けて距離を開けてMPを回復させて回復魔法を使っていれば時間くらいは稼げるけど…。
これだけレベルも上げていろんな魔法やスキルが使えるようになったのにこんなに強い魔物がいるなんて思わなかった。
「でも、諦めない。諦めたくない」
まだまだ力の入る拳を握るともう一度魔物達に向き直った。
そして突進しようと足に力を入れようとした。
パンッ
まるで紙鉄砲でも撃ったかのような軽い破裂音がして、六体の魔物全ての胴体に槍が突き刺さっていた。
「な、何…?」
槍が飛んできたと思われる方向を振り向くと、そこにいたのは…。
ドシュシュシュシュ
頭上から降り注ぐ数百本もの光の針が六体の魔物達に突き刺さり針鼠にしていく。
ユアちゃんのダンジョンで見た、どこかで怒られそうな名前の魔法を使う人は一人しかいない。
そしてあんな距離から槍を投げて届かせるような人も一人しか知らない。
「アイカ! クドー!」
地魔法で作った壁の入り口に立っていたのは私のよく知る仲間達だった。
彼等は千メテルくらい離れている場所から攻撃した後、私の元へと走ってきてくれた。
「ん」
アイカは私に一本の試験管を突き出すと飲むように促してきた。
前も見たことがあるアイカの魔力回復薬。
ただMPが回復するだけでなくしばらく消費MP減少とMP回復量増加の効果もあるアイカ特製チート回復薬その二である。
「ありがとう」と言って受け取ると私はすぐに中身を飲み干して試験管を腰ベルトへ収納した。
そして助かったと言わんばかりに笑顔を向けようとしたところへ。
ゴチン
「いたっ?!」
アイカにかなり強くゲンコツを落とされた。
なんで? と思ってクドーを見る。
ガンッ
「いだっ?! ちょ、クドーまで何すんのよ!」
てっきりアイカを諫めてくれると思ったのにクドーにも全く同じことをされてしまった。
というかクドーの方がものすごく痛かった。
「くぉんのぉ…ドアホッ! アホアホアホ! ボケナスのマヌケでドアホで宝石バカのアホセシル!」
「て…アホ言いすぎよ! なんでそんなに言われなきゃいけないのよ!」
「アホじゃなきゃ馬鹿タレだセシル」
「ちょっとクドーまで?!」
なんでよもう…人が必死に魔物と戦ってたっていうのに。
そりゃまぁ…復讐に目が眩んで周りが見えなくなってた感は否めないけどさ。
「ウチらは仲間やなかったんか? 困ってんのやったら言うてこなアカンのとちゃうんか?!」
「セシルが強いことは知ってるがいくらなんでも無謀で馬鹿で命知らずの間抜けにも程がある。ちゃんと頼れ」
あ、ヤバい。
二人ともかなりマジで怒ってる。心配掛けすぎちゃったみたい。私が一方的に悪いんだけどさ。
不謹慎なのはわかってるけど、こんな風に怒ってくれる仲間がいるってなんか嬉しいな。
「何笑っとん? ウチらホンマに怒ってんで?!」
「うん。だから、ありがとう。アイカ、クドーも本当にありがとう」
二人に対してなんら言い訳することなく、ただ嬉しかった気持ちだけ伝えるとアイカもクドーも苦虫を噛み潰したような顔をして頭に手を当てた。
「はぁ…この馬鹿面見てたらもう怒る気力も無くしたぞ」
「ウチもや。まぁえぇわ。あとでキッチリガッツリ説教したるさかい覚悟しときや!」
「えぇ…お説教は嫌だなぁ」
「許さんわドアホッ」
アイカは先に一人歩き出して魔物達と対峙する。
「セシル、これを使え」
クドーは私に二振りの剣を渡してきた。
それはいつも使ってる短剣よりも少し長い剣。
鞘から抜いてみると刀身は広くて厚めの両刃になっているけど、先端にいくにつれて細くなっている。かなり長い二等辺三角形にしか見えない。そして刀身には複雑な紋様が刻まれており、よく見れば魔道具の回路とそっくりだった。
「今は詳しく説明している暇はないが、それだけでも十分なはずだ」
「うん、ありがとう。さっき短剣折れちゃって大変だったんだ」
「…俺の剣を折った、だと? 面白い、それはどこのどいつだ?」
「えっと……あ、あのオーガみたいに筋肉モリモリの奴だね」
私の言葉の聞いたクドーはすぐにアイカの隣に並び立ち、オーガみたいな魔物を指差した。
「アイカ、あのデカいのは俺のだ」
「好きにせぇや。ほなウチはあのローブ着てるのにしよか。ついでに武道家っぽいのも貰おか」
「なら、ついでにあの両手に槍を持った奴も俺の獲物だ。セシルは残りを任せるぞ」
「え? あ、ちょっと?」
私が何も言わない内にどんどん話が進んでいってしまっている。
何この状況?
でもそうなると私の相手は甲羅の奴とリザードマンぽいのだけだ。
甲羅の方は剣が戻ってきたから何とかなりそうだけど、リザードマンの方はまだどんな攻撃をしてくるかわからない。
でもまぁ…アイカとクドーがいれば多少本気を出しても構わないよね?
「オッケーだよ。じゃあ二人とも頼むね!」
二人に声を掛けると同時に甲羅の魔物に向かって突進していく。前に出ていた二人を追い抜く時に「任しとき」「油断するなよ」と言われたことがすごく嬉しくて、頼もしかった。
「戦帝化!」
魔闘術を使いながら、甲羅の魔物に接近しつつ戦帝化を使うとグンッと視界の端の景色が霞むほど加速する。
クドーから受け取った剣をいつものように逆手に持ち魔力を流せば普段よりも多くの魔力を吸い取られていく感触。
というより、どれだけ吸い取るのかわからないほどどんどん魔力が流れていきその分攻撃の威力が高まるだろうことがわかる。
「閃亢剣!」
ズガァァァァァッ
甲羅の魔物に肉迫して右の剣を斬り上げると金色の斬撃が思った以上の威力で迸った。
その威力はさっきegg持ちのキリングフェンリルを真っ二つにした一撃よりも強力で、遥か後方まで飛んで行って山にぶつかったところでようやく消えた。
その山に大きな亀裂を残して。
そしてその一撃をモロに受けた甲羅の魔物は完全に真っ二つになってそのまま黒いドロドロになって地面へと溶けた。
あまりに威力にあっけに取られてしまったけど、まだもう一体いることを思い出し戦帝化から魔人化へと切り替えた。
---スキル「戦帝化」の経験値が規定値を超えました。レベルが上がりました---
スキル「戦帝化」4→5
ようやく戦帝化のスキルレベルが上がってくれた。
使用頻度を高く出来ないので他のレジェンドスキルよりもレベルが上げにくかったけどこれでまた少し使いやすくなる。
さて、私のノルマはあと一体!
今日もありがとうございました。
年内に貴族院編を終わらせる予定でしたが、思ったよりもこの話が長くなりそうなので多分無理です…。
その代わりと言ってはなんですが、年末年始のお休みの間毎日投稿しようと思います。
それに合わせて投稿時間を22時から0時に変更するつもりです。
なので次回の投稿は12月29日0時といつもより2時間遅れますのでご承知置きくださいませ。




