第234話 殲滅戦2 egg持ちの魔獣
egg持ちはいたるところにいます。
---egg所有者同士の戦闘を確認しました---
---能力解放、周辺部保護、所有権移譲戦闘へと移行します---
「嘘、でしょ…。なんでこんなところに…」
一体どの魔物が?
しかも今このタイミングってことは多分元は脅威度Sの魔物。
オーガキングのようにAでもない。白鎧王のようにパーティメンバーがいるわけでもない。
満身創痍とは言わないけど、それなりに消耗しているこの状態で戦えっての?!
しかし私の動揺を余所に、先程倒したキリングフェンリルが無傷で起き上がった。
電撃魔法を受けて全身から黒い煙を上げ、焦げて死んだはずだったのに完全回復している。
しかもeggの効果で能力が跳ね上がっているだろうからさっきよりも相当に強くなったと見ていいと思う。真っ白だった体毛が白銀に輝いていて、純度の高いミスリルを思わせるほど見事な毛並みだ。
ワオオォォォォォォォォォン
キリングフェンリルは大きな遠吠えを上げるとその大きな身体から魔力を迸らせ、強い殺意の籠もった眼を向けてきた。
どうせ逃げることも出来ないんだ。
だったらやってやる!
負けじとこちらも殺意スキルを使ってキリングフェンリルに放ってみるけどやはり効果はない。
まぁお互い様だよね。
身体と注意だけはキリングフェンリルに向けたままチラリと周囲に視線を巡らせた。
まだまだ脅威度Sの魔物は残っている。
キリングフェンリルだけにいつまでも構ってられないし、体力や魔力も消耗しきってしまうわけにはいかない。
「早めにケリを付けさせてもらうよ! 金閃迅!」
私とキリングフェンリルの周りに百枚近い理力魔法の壁が現れ、同時に強く踏み込んで斬り掛かった。
私の動きを見ていたキリングフェンリルも私が飛び出すのと同時に地面を蹴って肉迫してきたのですれ違い様に短剣を走らせれば、あちらの爪と交差して火花が散る。
「このっ!」
ギギギギギギギギッ
超高速で飛び回る私とキリングフェンリルの攻撃は互いの武器を交差させつつも僅かに傷を負わせていく。
巨大な壁で囲まれた戦場だけど文字通り縦横無尽に駆け回る私とキリングフェンリルの攻防であちこちから牙と短剣がぶつかり合う音が響く。
そしてそれに巻き込まれる他の魔物達。
理力魔法の壁も私だけでなく、キリングフェンリルにも利用されその数はみるみる減っていった。
ザシュッ
「…ちぃ…っ!」
最後の交差でお互いに傷を負い、地面を滑って体勢を維持させた。
ちなみに今の僅か十秒くらいの攻防の間に巻き込まれた魔物がかなりいる。おかけで数は減ったものの、厄介な魔物だけが残されたと言っても過言ではない。
それにひょっとしたら残りの魔物の中にもegg持ちがいるかもしれないので、こいつさえ倒せばと楽観は出来ない。
しばらく睨みあっているとふいにキリングフェンリルが前足を振るった。その仕草は犬がお手をしているようにしか見えなかったのだけど…。
ゴゥッ
「なっ?!」
突然巻き上がった竜巻に驚いたせいで完全に風の渦に巻き込まれてしまった。
さっきまでこんな攻撃してこなかったのに!
しかも新しい攻撃が出来るとわかったからか調子に乗って風の魔力を込めた球を多く飛ばしてきた。
それを避けたところ、後ろにいた魔物に当たって遥か彼方まで吹き飛ばされていた。
しかも風圧の刃で全身を切り刻むオマケ付きだ。
「あぁもうっ! 鬱陶しいなぁっ! 新奇魔法 精霊の舞踏会!」
今日二回目の精霊の舞踏会を使うとさっきよりも多少浮かぶ魔力球の数が減っている。
それでも威力までが落ちたわけじゃない。
「いっ、けぇぇぇぇっ!」
キリングフェンリルが放ってくる風の塊を魔力球で次々に相殺していくと、敵わないと思ったのかそれを止めて私に向かって一直線に走ってきた。
しかも凄いスピードであるにも拘わらず魔力球の直撃を受けず、その全てを避けて私に迫ってくる。
ある程度私の意志とは無関係に敵へと襲い掛かる精霊の舞踏会の魔力球だけど、ちゃんと操作は出来る。
あのスピードは確かに脅威だけど、こうして真っ直ぐ私に向かってきてる。
わかりやすい誘導に引っ掛かってくれて助かるよ!
地面を踏み砕くつもり足に力を入れると、私も魔力球が飛び交う弾幕の中へと身を踊らせた。
あんまり長時間こんな犬に構っているわけにはいかない。
「決めさせてもらうよ! 戦帝化!」
走りながらレジェンドスキル戦帝化を使うと魔人化でただでさえ上がっている私の走る速度がいきなり後ろから押されたように加速した。
瞬間的にキリングフェンリルの鼻面の真下へと辿り着けば脅威度Sの魔物でも流石にかなり驚くらしい。
私の姿を認識した時には間の抜けた顔で動きが固まってしまっていた。
ドボッ
短剣を握ったままの拳を振り上げてキリングフェンリルのお腹へと身体全部を叩き込むつもりでジャンプするとそれだけで高さ五十メテルは飛び上がった。
「閃亢剣!」
握った短剣に魔力を込めてお腹へと捻り込んだまま振り抜くと、金色の斬撃が空へと放たれて遥か上空で光の粒となって消えた。
そのまま自分の上に理力魔法の壁を作って逆さに足をつくとその反動で地上へと戻ることにした。
ダンッ
かなり勢いがついていたので着地した時にはさすがにふらりとしたが、何とか倒れることなく体勢を戻すことが出来た。
そしてそれに遅れるように空から真っ二つになったキリングフェンリルが落ちてきて、またも大きな音を立てた。
---魔王種の撃滅に成功しました---
---所持していたeggの所有権が移ります---
---egg所有者同士の戦闘終了を確認しました---
---能力解放、周辺部保護を終了します---
頭に響くアナウンスがキリングフェンリルの死亡を告げてくれ、それと同時に私も戦帝化を解除した。
僅か一分くらいだったのでレベルはほとんど下がっていないはずだ。
それに、どうせ今からまたもっとレベルが上がっていくだろうしね。
改めて見回すと脅威度Sの魔物は残り六体。
デーモン三体、ヒュドラ、エルダートレントにアースドラゴン。
他にもまだ近くをうろついている脅威度の低い魔物も数千くらいはいるだろう。
一度大きく息を吐くと短剣を握り直し、それらに向かって駆けていった。
ゴアアァアァァァァァッ
特大の咆哮を上げてアースドラゴンが地に伏せた。
脅威度Sの魔物達を相手取りながら他の魔物も殺し続け、いつしか時間の感覚も無くなってきたところへ朝日が遠くの山から顔を出してきた。
明るくなってきたことで嫌でも目に付く大量の死体。
流れ出た血は固まって真っ黒に。
当然だけど臭いも凄いことになっているはず。
私はもう麻痺してしまって何も感じないけど。
残る魔物は遠くからやってくる一握りの集団だけで、私の後ろには一匹足りとも通してないのでベオファウムは無事朝を迎えられたはず。
さぁ最後の集団だ。
とっとと倒してリードに謝らなきゃ。
はぁっ、と大きく強く息を吐くとこちらへやってくる最後の魔物の集団へ向けて走り出す。
殆どが脅威度CからB程度の魔物なのでそれこそ数分もすれば終わる。
徐々に近付いていくとゴブリンキングやオークキングなど弱い魔物の上位種ばかりであることがわかる。
この戦闘で培われたほぼ無意識での魔力操作によって自分の周りに火の魔力球を浮かべるとその集団に向かって放った。
ドドォォォォン
着弾すると土煙が上がって集団の姿を見失ってしまったが、これだけでもほとんどの魔物を始末出来たはず。
しばらくすると土煙が晴れて倒れた魔物達の姿が……現れなかった。
そこには魔法を放つ前と変わらない無傷の魔物達がいるだけだった。
「嘘…。無意識に魔力を抑えちゃったかな? じゃあ今度は本気で! 新奇魔法 並び立つ尖塔!」
ドドドドドドドドドドッ
大地から突き出す巨大な岩の槍。
一つ一つが魔物の身体の大きさを上回るうえにさっきの魔力球を違い本気で魔力を込めた。これで貫けない魔物なんてそれこそ脅威度Sの魔物くらいだ。
「……嘘でしょ…。なんで無事なのよ…」
確かにさっきの魔力球と違って傷は負っているようだし、直撃した魔物くらいは倒せているけど数匹程度だ。
「くっ!」
短剣を構え魔人化も魔闘術も使い集団の先頭にいるオークキングへと迫った。
遠目だったし、夜明けだったこともありよくわからなかったけど今までの魔物達と違い真っ黒い表皮をしており感じられる魔力も本来のものから大きく上回っていた。
それでも怯むことなくオークキングの左腕を斬りつけると、なんとか腕を一本斬り落とすことが出来た。
普通ならこれだけで体どころか、後ろにいるはずの魔物達すら真っ二つに出来るのに腕一本斬り落とすのが精いっぱいだった。
グォォォォォッ
大声で痛みを訴えているオークキングに注意を払いつつ切り落とした腕を見ているとビチビチと跳ねた後、徐々に黒くドロドロしたコールタールのようなものになって地面に消えていった。
「何、これ…?」
そして悲鳴を上げなくなったオークキングを見ると黒い靄のようなものが腕に纏わりついて斬り落とされる前の腕に再生していた。
いや、あれは腕じゃなくて…槍? 再生された腕は元の長さの数倍まで伸びており切っ先鋭い槍へと変わっていた。
「…何回斬っても再生するの? …上等だよ、完全にぶっ殺してやるからっ!」
魔力を滾らせて再び魔物の集団へと突っ込む。
魔人化自体の消費MPは無くなったものの、その状態で全開にした魔闘術を使うと魔力闊達を持っている私でも魔力の回復はギリギリになる。
それでも、絶対に負けられない。
「たああぁぁっ!」
魔闘術のおかげでリーチを伸ばした左右の短剣を使い、真っ黒い魔物達の身体へと刃を走らせていく。
振り降ろされたゴブリンキングの大剣を弾き飛ばして、左薙ぎに払えばその体は二つにズレて地面へと落ち真っ黒いドロドロになって地面へと消えていった。
元の色はわからないけどブラックウルフは私の逆袈裟に切り上げた短剣をその口で咥え込んで防いだがそのまま無理矢理押し込んで口から尻尾までを切り裂いて倒した。
どの攻撃一つ取っても全てが全力の一撃であるため、みるみる私の魔力が減っていく上に体力もどんどん奪われて次第に私の息が切れてきて心臓がドクドクと耳の奥でやかましい音を立てている。
黒い魔物はまだ二十も倒せていない。
今日もありがとうございました。




