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第22話 リード再び

まだ書きためはあるのでもう少しだけ毎日更新続けていきます。


7/30 題名追加

「やっぱりセシルのご飯は美味いなぁ」

「もー、ランドくん私のご飯じゃ不満なの?!」

「そんなことはない。イルーナのご飯も十分美味しいさ。ただ可愛い娘が作ってくれたことを思うと格別だからな」


 そこ、褒めてるようでこっそり惚気ないで。

 私の料理が美味しいと思って貰えるのは嬉しいことだけど、イルーナに教えれば簡単に同じものを作ってくれるはず。なにせこの世界の料理を見て驚いたのが、野菜を煮込んだスープを一度捨てて、新しく沸かしたお湯に入れていたことだ。

 そんなことしたら野菜のおいしいところが全部捨てられちゃうでしょ?!

 私が作るようになってからは野菜を煮込んだスープはそのまま、今回は薫製肉もハーブも入れてあるので香りも味もバッチリ!のはず。

 ディックも好き嫌いせず食べてくれているし、お姉ちゃん満足ですよ。

 夕食の後片付けを済ませたらいつものティータイム。

 そろそろイルーナの授乳期間も終わるだろうけどタンポポのハーブティー。ちゃんと妊娠中に飲んではいけないハーブはそれとなくイルーナに飲まないようにさせていた。カビが生えていたとかなんとか言って捨てさせたドライハーブもあったし、育てているものの中でも飲まないように注意していた。例えば代表的なもので言えばラベンダーとかね。

 それにしても一応毎回違うハーブを使っているものの、久々に普通の紅茶やコーヒーが恋しくなろうというもの。茶葉は高級品なのでそうそう手に入らないんだけどさ。

 コールの店でも置いてあることを見掛けたことはほとんどない。尤も、育てているハーブでほぼ事足りているし贅沢は敵ですよ。うんうん。


「そういえば今日久し振りに領主様がいらしていたんだ」

「そうなの?領主様はここ数年来てなかったのに珍しいねー」

「なんでも息子に領内を案内しているんだそうだ。確かセシルと同い年だったから今年で6歳だな」

「セシルちゃんと同い年かぁ。ひょっとしたら見初められて将来は領主夫人とか!?」

「セ、セシルは嫁にやらんぞ!?」

「…ランドくん、まだ先の話でしょ」


 どこにでもありそうな家族の会話。私はよくわからない風を装って聞き流していた。

 これが前世の私だったら


「セシルは(オレのストレス解消サンドバッグだから)嫁にやらんぞ」


 とか思っていたんだろうね。あの両親はそれが普通だった。でも、本当はこれは普通なんだよね。今世の私はとても幸福だ。ちびりちびりとお茶を啜りながら知らんぷりをしながら両親のやり取りを眺めていた。




 そんなことがあって更に1ヶ月が経った。

 私はリードに会ったことも忘れていつも通り丘で過ごしていた。今日はユーニャが来ているので昼前からずっとお喋りしていて、お昼ご飯は森で採った果実と撃ち落とした鳥を焼いて食べていた。

 「セシルのご飯って美味しいよね。将来私のお嫁さんに来てほしいくらいだよ」と、いつも通りのセリフを言われることもいつも通りだ。

 4歳のときの出来事からユーニャはことあるごとにこんなことを言ってくるようになったが、最近では私も慣れてきて普通にスルーするようになってきていた。「冷めないうちに食べよう」と促すとユーニャもまた食事を再開するのだが、今日は二人きりというわけにはいかないようだった。

 丘に上がってくる足音が聞こえてそちらを振り返るといつか見た顔が近寄ってきていた。気配察知で誰かが近付いてきているのはわかっていたものの誰かまではわからないのがこのスキルの困ったところ。


「おいセシル!また来てやったぞ」

「…えっとリード、だっけ?久し振りだね」


 見たことある顔はリードだった。1ヶ月前私に圧倒的な実力差を見せつけられた彼のことを思い出すとニコリと微笑んだ。

 一回しか会っていなかったのに覚えていられたのは彼の濃いキャラクターのお陰だろうね。


「久しぶりだね。今日はどうしたの?」

「決まっている!お前に再戦を申し込みに来た」

「えぇ…またやるの?」

「あ、当たり前だ!男が負けたまま引き下がれるか!」


 びしっとリードは私に向けて指を突き出した。

 むー。私こうやって指差されるの嫌いなんだけどなぁ。


「わかったから、私を指差すのやめてくれないかな?それ嫌いなのよ」

「ふん。それなら今日の勝負にセシルが勝ったらそうしてやる」


 また前と同じ上から目線だ。これも嫌だけど前回話した感じだとかなりいいところのお坊ちゃんみたいだしすぐに止めさせるのは無理だろうね。

 というかそもそも勝負を受けてあげる必要も筋合いも無い気がする。どうしたものかと考えていると隣にいたユーニャが私とリードの間に立ちふさがった。


「さっきから聞いてれば貴方!セシルに失礼よ!だいたい私達はまだお昼食べてるんだから邪魔しないでよ」

「なっ。お前、僕がわざわざここまで来ているのに食事の方が大事だと言うのか」

「当たり前でしょ?私のセシルが作ったご飯はとっても美味しいんだから何よりも大事に決まってるわ」


 えっと?どこから突っ込んだらいいの?

 私のご飯を気に入ってくれるのは嬉しいけど、そこまで言うほど美味しいかな?今はまだユーニャより料理のスキルレベルは上だけど、タレント持ちのユーニャなら数年で私を追い抜いていくと思うよ。

 ついでにさりげなく「私のセシル」って言ったよね?いつ私はユーニャのものになったのよ。いやまぁ別にユーニャのことは嫌いじゃないけども。


「ほう?セシルの料理?…まさかその鳥の丸焼きのことを言ってるのか?ふっ、はっははははは。そんなもののどこが料理だと言うのだ」

「なっ!ば、バカにしたら許さないんだから!」

「面白い。どう許さないのか教えてほしいものだな?」


 ユーニャの売り言葉にリードは鞄から前回と同じ剣を取り出して彼女に真っ直ぐ突きつけた。

 あー、もう。


「はいはい、そこまで。じゃあ相手してあげるから、とりあえずその剣下して。あとユーニャも煽るようなこと言わないの。貴女も商人になるんだったらこんなことでいちいち怒っちゃダメだよ」

「…うん、ごめんなさい。でもあの子セシルに」

「いいから。ダメなものはダメ。私は何を言われても気にしないんだから、それが原因でユーニャが怪我しちゃう方が私は嫌だよ」

「うー…わかったぁ。気を付ける」


 さて、ユーニャの方は丸く収まったところで


「それで勝負の方法は前と同じでいいの?」

「あぁ、前回は不覚を取ったが僕だってあれからたくさん練習したんだ。今度こそ勝たせてもらうからな」


 あれだけ実力の差を見せてあげたのに1か月の練習で追いつけると思われたのかな?それとも時間が経ったことで忘れたとか?

 どっちにしろもう一度力の差を解らせてあげないといけないらしい。

 とは言え、今日は武器を特に持ってきていない。解体用のナイフなら持っているもののこれは刃が鋭すぎる。万が一にもリードに当たってしまったら大怪我をさせてしまう恐れがある。

 私はリードからは影になっている木の裏から木剣を取り出した、ように見せた。実際には植物操作で木から木材を拝借、少し形を整えて剣()()()した程度のものに過ぎないがリードの相手ならこれでも十分と判断した。


「そんなもので僕と戦うと言うのか?」

「前回私に手も足も出なかった『君』がそれを言うの?もう一度解らせてあげるからかかってきなさい」

「ぼっ僕を『君』とか呼ぶなっ」

「ふふ。『私に勝てたらそうしてあげる』よ」

「なっ!ばっ馬鹿にするなあぁぁっ」


 私の煽りにリードは怒りに任せて剣を振るってきた。

 そんな大振りじゃ絶対に当たらないってことを前回で学んでくれたと思ったんだけどな。

 上段から振り下ろされる剣をこのまま受け止めたらさすがにただの木の剣では受け止めることもできずに叩き折られてしまうので今回は避けることにする。

 前回のことを忘れたのはきっとあまり痛い思いをしなかったからだと思う。今日はちょっと厳しくいくよっ。

 リードに向かって斜め前に踏み出すとすれ違い様に軽くお腹に打撃を入れた。本当に当てただけの攻撃だったが、防具を付けていないリードは「ぐっ」と声を出してお腹を押さえた。


「終わりにする?」

「ま、まだだ!勝負はこれからだ」

「じゃあ次はもう少し強くするよ。その次はもう少し強く。『君』が降参するまでね?」


 前回のようにリードの攻撃を待ってあげることもしない。次は胸、その次は肩、左上腕、右腿。当てていく場所に狙いを定めてから私はリードに向かっていく。

 私の接近に合わせてリードも剣を出してくるものの速度もないし、フェイントもない。これでは避けてくださいと言われているようなものだった。

 剣を掻い潜り、胸に軽く木剣を当てる。さっきよりは強く。少し息が詰まったようでリードがまた苦しそうな声を上げる。それでもなんとか次の攻撃を出そうと私に剣を向けてくるが、それに合わせて肩に当てる。このくらいの強さになってくると痣くらいはできるかもしれない。

 その後もリードは何とか攻撃しようと剣を構えたがそのタイミングで私は左上腕を叩く。リードが膝をついたところで右腿に打撃を入れる。さすがにこの強さで叩けば後で腫れてくるだろう。

 その証拠に彼は剣を手放して叩かれた右腿を手で押さえており、かなり痛そうだ。


「ぐっ、あぐ…」

「今日も私に当てられなかったね」

「くっ、そ。こ、降参だ」


 リードが負けを宣言したことで私も木剣を手放して彼に近寄る。自分でやっておいてなんだけど、相当痛そうだ。さすがにユーニャもリードがこの状態になっているせいか青い顔でオロオロしている。


「全くもう…。小治癒(ヒール)


 リードに右手を当てて回復魔法を使うと痛みに歪んでいたリードの顔が次第に落ち着いたものになっていく。

 ちなみに回復魔法もイルーナに教えてもらったもので、これは光魔法になる。毒の浄化や眠気覚まし、催眠や魅了状態の回復なんかは水魔法になるようで、それらもまとめて教えてもらっている。

 それらを使えるようになった上で特異魔法として更に上位の回復魔法も登録してあるけど、実際はどの程度回復するのか試したことはない。試す機会も欲しくないけれど。

 怪我が治るとリードは立ち上がって打たれたところを撫でたり押さえたりして感触を確かめている。問題はないはずだけど。

 ユーニャの方をチラリと見て頷くと彼女も安心したようで表情が緩んでいく。いらない心配をさせたことを後悔しつつ、私は今だに体を確かめているリードに視線を戻すのだった。

今日もありがとうございました。

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