第189話 臨時パーティ
交易都市ワンバに着いて門番にリッチ討伐に向かう冒険者達が臨時でパーティを募集していると聞き、入るかどうかはともかく情報を仕入れようと思った私は彼らに接触した。
するとそこにいたのはかつてベオファウムで知り合い、何度か一緒に依頼をしたこともあるカイトだった。
「うわぁ…すごい久しぶりだね。それにすっごく背も伸びて!」
カイトの背は今やリードと同じか少し高いくらいだろう。
私の背だと少し見上げるような恰好になってしまい、逆にカイトは私を見下ろしてきている。
「セシルは…あんまり変わらないな」
「む。私だってちょっとは伸びてます!カイトが大きくなりすぎなのよ」
「はは、悪い悪い。けど元気そうでなによりだ。王都でクアバーデス侯爵の息子の従者をしてるって聞いてたんだけど」
「うん、そうだよ。今は長期休暇中だからちょっとだけ冒険者の活動しておこうと思ってね。…そういえばリリアは?」
いつもカイトと一緒にいた魔術師の女の子の姿が見えない。彼女には一時期魔法の手ほどきをした覚えがある。
それといつだったか、パーティを組んだ時にいた斥候役の二人も今はいないようだ。
「あぁ、俺達パーティを解散したんだ。で、リリアはベオファウムの家で留守番」
「解散…そっか。まぁそういうこともあるよね」
同じメンバーでずっと冒険者をしていられるのは幸せなことだろうけど、大体がこうしてある日解散して別々の道を進み始める。
父さんと母さん、それにクアバーデス侯爵と侯爵夫人もかつてはパーティを組んでいたけど解散してそれぞれが結婚することになったと聞いている。
そういえば、父さん達のパーティが解散した理由って聞いたことないや。そのうち機会があったら聞いてみよう。
「それでリリアは留守番って何かあったの?」
「あー…いや。俺達成人した時に、結婚してな。今あいつの腹ん中に赤ん坊がいるんだ」
「えええぇぇぇぇぇっ! そうなの?! おめでとう!」
辺りは暗くなってきているとは言え、また日が落ちて間もないことと門の近くで賑やかだったため私の出した大声はすぐにかき消されてしまったけど、びっくりした。
なんかただのやんちゃ小僧だったカイトと引っ込み思案なリリアがねぇ。
リリアにもカイト同様ずっと会っていないので、次にリードを迎えに行った時にでもリコリスさんに住所を聞いて会いに行ってみようかな。何かしらお祝いでも持ってさ。
「はは、なんか父親になるってのは実感湧かないけどさ。リリアと子どものためにも必死に稼ごうと思って」
「…いいんだよ、実感なんて。生まれてきた時に『初めましてパパだよ』って言ったその瞬間に芽生えるんだと思うよ」
「…俺より子どものセシルに諭されるとは思わなかったな」
「むー。さっきからカイトって微妙にひどいね」
楽しそうに笑うカイトの前で父親について思う。
ランドールは過保護が服を着て歩いてるような父親だ。愛されてる実感はあるし厳しい一面もあるけど私は大好きだ。
もはや顔も名前も思い出せない前世の父親に関して言えば碌な記憶がないので、あれは本当に駄目な父親だったと思う。私が園に入ることになったのもそもそもネグレクトだった母親から離婚した父親へ親権を移そうとしたもののそれを拒否したことが原因だ。
あまりに両極端な二人の父親だけど、少なくともランドールのような父親になってくれたらいいなと思う。
前世で言えば彼らはまだ高校生程度の年齢でしかないのだし、いろんなことを失敗しながら学んでいくのだろうけど、どんなに最低でも幸せであってほしい。
「ところでセシルはワンバへはどんな依頼で来たんだ?」
「そうだった。そのことでカイトに聞きたいことがあるんだけど」
私はギルドマスターから直々に依頼されていることを伏せた上でカイトにリッチのことについて尋ねることにした。
カイトもワンバの冒険者ギルドで聞いてきた内容ではあったけど、結構前から出されていた依頼なのになかなか片付かないため報酬が上がってきたから申し込みをしたらしい。
そして私が貰った依頼書には書いてないことも追加情報として教えてもらった。
どうやらリッチは国境付近に出現すると言ってもほぼアルマリノ王国側にしか出現しないらしい。それとリッチは一体だけではないこと。確認されただけでも十体以上はいるらしい。
リッチはアンデッドの中でも高位の存在なので脅威度としてはAに当たる。討伐するのが面倒な上に複数いるとなると正直カイトには厳しいと思う。
「よくこの依頼受ける気になったね?」
「生まれてくる赤ん坊のためにも金がいるんだよ」
そんなこと言っても死んだら元も子もないのに…こういうところは相変わらず無茶というか、馬鹿というか。
「それで臨時パーティのメンバーは?」
「あぁ、後一人を来るのを待ってるところだ」
カイトの後ろを見ると五人の男女がそれぞれ荷物を持って待機していた。
醸し出す雰囲気からしてベテランの域に達しているようだけど神官はいないし、魔術師も一人しかいない。
ざっと鑑定していくと、だいたい平均してレベル三十代後半くらいだろうか。最も高い人で四十六で、魔術師は光魔法は使えるしレベル6とまぁまぁそれなりだけど、本人自体のレベルはこの中で一番低く三十三だ。
まぁ頑張れば一体くらいは倒せるだろうけど十体ものリッチを倒せるかと言われると、無理だと断言出来る。
「おいカイト。そろそろ時間だろう? 約束通りに来れない奴なんか放っておいて出発しようぜ」
「人数が増えればその分分け前も減るしな、俺もその案に賛成だ」
五人のうち大剣使いの男と片手剣を持った身軽そうな男がカイトに苦言を呈してきた。
リッチ相手に大剣ってどうなんだろ?
「いや、約束の時間にはまだ少しある。キッチリ時間まで待ってから出発しよう」
「ちっ…。それで、そこのお嬢さんも参加するのかよ?」
「私? 私は…」
突然私に質問が流れてきたので何と答えようか迷う。
ついて行ってもいいけど、そうすると好きなようにスキルや魔法を使えなくなってしまう。まだBランク冒険者だし、悪目立ちするのは控えたい。
「セシルも来てくれないか? お前がいればリッチとだって十分戦えるだろ?」
「えぇ? うぅん…」
「セシルだってリッチ討伐に来たんだろ? いくらお前だって一人でリッチを相手にするのは無謀だ」
全然余裕で倒せるけど。
ユアちゃんのダンジョン五十階層はアンデッドだらけの墓場エリアで、最終的にはリッチも群れで現れてきたものだ。
中にはより強力なエルダーリッチなんかもいたけど、アイカとクドーも一緒にいたので普通に蹴散らして進んだだけだった。
さすがにあの二人はリッチとの相性があまりよくなかったけど、倒せないほどの相手じゃないしね。
「俺は反対だ。これ以上分け前が減るのはごめんだしな」
「あたしもよ。だいたいそんな小娘に何が出来るってのよ?」
小娘って。
強い化粧で年齢を誤魔化してるおばさんには言われたくない。
見た目は若そうに見えてるけど鑑定してみたら四十歳を超えていた。しかも娼婦のお姉さん達くらいにしか見たことのないちょっとアレなタレントまで持っているし、逆にこのパーティの男性が危ういと思うけどね。
かと言って舐められたらまずいので多少はこちらの力を示しておく必要もある。
「出来ることって言うなら、こういうこと出来るよ」
私は右手の掌を上に向けて魔力を集中させるとそこに青白い光を放つ光球を作り出した。
聖魔法の浄化。対アンデッドに対して強い特効性を持つ魔法で、ゾンビやスケルトンなんかはこの光を弾けさせるだけで消滅する。
リッチくらいになるとダメージはあっても倒すことは出来ないけど、それなら私は聖浄化が使える。私の新奇魔法ですっごく綺麗に掃除が出来る魔法という意味合いで使うことが多いけど、これならリッチでも消滅させられる。
出来たらこれであっという間に片付けたいところなんだけどね。
「すごいです…。僕こんなすごい光魔法見たことありません」
そこへ魔術師の青年が口を出してきた。
光魔法を使えるのでこの魔法がどれだけ高位のものかは理解出来るのだと思う。
「別に私は一緒に行動しなきゃいけないってことはないし、そっちの報酬もいらないから別行動にしようか」
「ちょ、ちょっと待てよセシル! なぁこれだけの魔法を使える奴が一緒なら心強いだろ? 金も大事だけど無事に帰ってこそだろ?」
立ち去ろうとする私のジャケットの裾をカイトが掴んで引き止めた。
何やら必死に他のメンバーを説得しているけど、私としても嫌な気分のまま依頼に取り組みたくはない。
そこへ更に魔術師の青年も説得に加わってきた。
「僕も賛成です。これだけの魔法が使えるなら依頼が成功する確率はグンと上がりますよ」
「ほら、な? こいつもこう言ってるんだし」
なんか間に挟まれてるカイトが不憫に思えてきたよ。
「…まぁ、報酬がいらないって言うならついてきてもいいけどよ…」
「そっちの坊やがついてきた方がいいって言うならそうなんでしょ」
そうこうしてるうちに反対していたおじさんとおばさんが折れてしまい、結局私もパーティに参加することになってしまった。
仕方ないね。
そして結局待っていたもう一人は現れず、私達は六人パーティとなってリッチ討伐に向かうこととなった。
出発前に自己紹介をしていたけど、この依頼が終わったら会うこともなくなりそうなので名前を覚えることもなくスルーした。
覚えているのはカイトと魔術師がCランクで、大剣、片手剣、おばさんの三人はBランクだったということ。
なるほどこれなら平均でBランク扱いになるからAランクの依頼であるこのリッチ討伐も受けることが出来たというわけか。
リッチが現れるという国境付近までは歩いて鐘一つ分くらいというので私達はお互いのことを話ながら少しずつ進んでいくのだった。
今日もありがとうございました。




