第19話 家族が増えたよ
ちょっとだけ大きくなったセシルです。
ちょっとだけね。
7/29 題名追加
あれから2年以上の時間が経った。
ちゃんと護れるだけの力をと誓ったあの夜から。
今も変わらず幸せな家族…いや、変化はあった。
「ディックー。ほらほらこっちだよー」
弟が生まれました。
今1歳になったところで最近はイルーナも掛かりきりから少し解放されつつある。でも歩き始めたものだから目を離すとどこかに行って倒れて泣いてるなんてことはザラにある。
施設にいた頃の弟たちを思い出して、懐かしい気持ちと勝手にいなくなって申し訳ない気持ちとが綯交ぜになる。元気でいてくれるといいな。
だがとりあえず、私の愚痴を少し聞いてほしい。
あの決意の夜からしばらくの間は私もイルーナと訓練をして、戦ってる間の魔法の使い方や自分だけの特異魔法の開発だってやってきた。
ランドールから狩りのことをもっと聞いたりもした。獲物の解体方法ももっと詳しくなったし、野草について教えてもらい、いろいろな種類の薬草、毒草を学んだ。更にイルーナからは薬草から作れるポーションも教わって、簡単なものなら自力で作れるようにもなった。
しばらくは3人で川の字になって寝ていたけど、そろそろ大丈夫だろうと私だけ別室で寝るようになってから隣の部屋でおせっせしてる声を聞かなかったことにしたり。翌朝ツヤツヤな顔の二人を生暖かい目で見るものの決して口には出さなかった。
料理も教わって妊娠中のイルーナに代わって家事をすることもあった。もちろん私の知ってる料理を極稀に入れて好評価を得ることも忘れない。
弟のディックが生まれてからも、育児に忙しいイルーナに代わって家事をするのは当たり前。夜泣きで眠れず、イルーナが昼寝してる間は私がディックのおむつの世話をしたし、お腹空いていそうなら横になっているイルーナの胸を出させて咥えさせた。おんぶして散歩だっていく。
施設にいた時もよくやっていたからこの程度は気にしない。うん、キニシナイ。
ディックが生まれてからは家族がディック中心になってしまっている。
なるほど、これが弟や妹が生まれたときの兄や姉の心境なんだなとよーーーくわかった。
嫉妬や寂しさなんだろうね。もちろんいい大人(精神年齢は最早26歳)の私はそんなことを表には出しませんよ?たまに言われる「セシルちゃんがいてくれてよかったよー」「セシルは本当にいいお姉さんだな」という言葉で少しは報われるというもの。
ただ、やっぱりちょっと寂しい。
ディックがもう少し育ったら、私は…。
そう考えていたところで頭の中に声が響いてくる。以前は脅迫観念のようなものでしかなかったものが今では声となって私を急かしてくる。魔物を倒したりちょっと善いことをすると貯まっていく転生ポイントを稼ぐこと。これは村にいたままだとあまり大きく変わらないと思う。転生ポイントが貯まらないと頭に響く声の頻度も大きさも変わってくるかもしれないと思うと少し焦る。今はまだ囁く程度でも今後日常生活に支障が出るレベルにならないという保証もない。現に前は声として聞こえてなかったものが今は聞こえるのだから。
「母さん出掛けてくるねー」
「ごめんねセシルちゃん、夕飯なんだけど…」
「夕飯の支度する時間には帰ってくるよ。だからディックを見ていてあげて」
「うん、ありがとー。いってらっしゃーい」
目を離すとすぐに暴走するディックを抱きながらイルーナが手を振って見送ってくれる。
最近は外出禁止も解かれていつもの丘に一人で訓練しに行ったり狩りもしている。無論、以前約束した通り無理や無茶はしないし、危ないと感じたらちゃんと引くようにしている。今のところ危ないと感じるようなことは一度も起きていないけどね。
とりあえず、今日は丘の上に行くことにする。4歳の頃はよく身体強化を使って走っていったものだけど、今日は気分転換が目的なのでゆっくりと歩いていく。
途中畑のおじさん達が声を掛けてきたり、見回り中の自衛団に挨拶したりしてのんびりと向かって行った。
折角なので現在の私のステータスも改めて確認することにして、それを見ながらではあるけども。
あれから2年以上。正直他人にはあまり見せられないような内容になっている。
セシル
年齢:6歳
種族:人間/女(管理者の資格)
LV:86
HP:6,283
MP:2,702k
転生ポイント:429
スキル
言語理解 6
気配察知 MAX
魔力感知 MAX
補助魔法 8
付与魔法 6
投擲 MAX
弓 MAX
片手剣 MAX
二剣術 8
短剣 MAX
小剣 6
格闘 MAX
魔闘術 MAX
人物鑑定 6
道具鑑定 6
スキル鑑定 MAX
野草知識 9
鉱物知識 4
道具知識 7
料理 6
調合 7
ユニークスキル
炎魔法 5
氷魔法 6
天魔法 7
地魔法 6
上級光魔法 3
上級闇魔法 3
魔法同時操作 4
魔力運用 7 (魔力循環+魔力操作統合)
魔力圧縮 MAX
詠唱破棄 8
精神再生 2 (魔力自動回復+瞑想統合)
魔人化 5 (身体強化から進化)
隠蔽 8
四則魔法(下級) 9
レジェンドスキル
新奇魔法作成 2
神の祝福
経験値1000倍
タレント
転移者
転生者
格闘マスタリー
魔導師(魔法使いから進化)
狙撃手
突撃者
MPのところにkって…。これは多分私が見やすいようになってるだけなんだろうけどさ?つまり270万ものMPがあり、端数は非表示になったってこと。
確かに頑張って訓練も魔物退治もしたからなぁ。
イルーナから聞いた話だとAランクの冒険者でだいたいレベル40くらいらしい。そう考えると私のレベルがいかに異常かよくわかる。
ちなみに人物鑑定自体は結構なレアスキルのようで、本来その人のレベルを見るのは教会やギルド、国が管理している鑑定水晶を用いるのだそうだ。いつでも見れる私からすれば難儀なことこの上ない。
この2年の間にスキルを鍛えることに注力したので他にもトンデモスキルがあるが…私にとってそれはどうでもいい。あ、いや。どうでもよくはないんだけど、もっと大きな問題がある。
「料理 6って…」
私が料理を作る頻度は最近かなり高い。朝ご飯に始まり、お昼は用意だけしておいたり家で作ったり。
夜はイルーナが作ることも結構あるけど、ランドールの表情を見ると私が作るときとの差を感じるようだ。
話が逸れた。
つまりよ?それだけ料理してるのにスキルレベルが全然上がらない。ちなみにスキルレベルが上がったのはウルフ系の魔物の毛皮を剥がした時や獣系の魔物の肉を解体してとった時だ。
料理していてスキルレベルが上がったことは一度もない!
最近思うんだけど、このセシルの体は戦うことに特化しすぎている気がする。
戦闘系のスキルの取得率やレベルが上がるのはあっという間なのに他の生活系のスキルは全くと言っていいほど覚えない。
もちろん、スキルが無ければ何もできないわけじゃないけどさ。
掃除も洗濯もできますよ?算術だってコールのお父さんより計算は早いくらいだしさ。
というか!料理に関しては前世じゃ結構得意だったよ?園でもよく料理の手伝いしてたし、一人暮らし始めてからは節約のために自炊は必須だったからね!
なのに今はこれって…神様ちょっとひどくありませんか?
どうにもならないんだろうなぁと思いながらも深いため息をついているといつの間にか丘の上に着いていた。ここも私の訓練の痕があちこちに出来…すぎました。何度か自分で整地したり植物の成長を促したりもしたっけ。
地魔法で作った的も十か所以上作ってあるので、精密な魔法発射の訓練を行うときは必ずここでやる。今日は気分転換なので魔法の訓練にそこまで腰を入れるつもりもないけどね。
家から持ってきた柄のシンプルなレイピアを背中から抜き放つと目の前で真っ直ぐ正面に向かって構えた。このレイピアは自分で作ったものなので強度が全く足りない。地魔法と鉱物操作でこのくらいのものなら作れるようになったはいいものの、コールのお父さん曰く職人の作ったものに比べると武器としては三流以下だそうだ。
この際だから出来はどうでもいい。とりあえず自分の訓練に使える程度であればと思い、本物をじっくり見て覚えてから作成した。それでも一度作ったことがあるものは次回以降も割とスムーズに作れるようになるのは結構嬉しい。
とりあえず小剣は剣術スキルの中でも最近始めたばかりでなかなか馴染まないのでちゃんと訓練しないとね。
私はゆっくりとした動作で何パターンかの突きを繰り返し打っていく。ブレないように丁寧に。
フェンシングで太極拳をやっているような感じだろうか。決まった型を体に覚えさせるのがいいかと思い、武器の訓練はずっとこんな感じでやっている。
不思議なもので、セシルの体はこの型を繰り返しやっていると本当に魔物と戦う時でも同じ攻撃を繰り出すことができる。やっぱり戦闘特化だよね、私ってさ。
しばらく無心で突きの練習をしていると近くに誰かの気配を感じた。この丘にやってくるのは最近自衛団に入ったハウルかキャリー、もしくはユーニャくらいだ。それでも今の時間を考えるとハウルとキャリーは考えにくいので恐らくユーニャかな?
ユーニャはたまにやってきては私とここでお喋りしたり私から魔法の訓練を受けたりしているが、訓練中だと一段落するまで声は掛けたりしてこない。気遣いができて将来はいいお嫁さんになるんだろうねぇ。私は…期待できない。誰が好き好んで戦闘特化の人外女を嫁に貰うっていうのさ。
近くで見られている気配を感じたまま私は気にせず突きの練習を繰り返す。上段、中段、下段。しゃがんで、左右に動きながら等。あくまで実戦を考慮した動きをする。一つの突きをだいたい百回程度。ゆっくりと動くために相当な時間がかかる。
この訓練をしてもスキルレベルが上がることはもうない。型を体に覚えさせて実戦で使うことでスキルレベルを上げていくことになる。
ディックがもう少し落ち着いてきたらまた森に入って魔物狩りを自由にできるようになると思うので、それまではこうして地道な訓練に明け暮れようと思っている。
一頻り突きの練習をし終わると少し離れていたところにいた気配の犯人がこちらに向かってくる音が聞こえた。
今日はユーニャと何をしようかと期待して音の方を振り返ると、そこにいたのはユーニャではなく見たことのない男の子だった。
誰?
今日もありがとうございました。
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