第185話 四年次はもうすぐ終わる
最近遅れがちですみません…。
仕事でかなり追い込まれておりましてペンも進みません…どうにもならなくなったらちゃんと報告して少しお休みします(_ _)
きっと9月には楽に……あぁ今度は試験勉強我がががが(T-T)
ある夏の日。
貴族院はそろそろ学年末試験が控えており、生徒達は皆今のクラスを維持、もしくは一つでも上のクラスに上がろうと必死になっている頃である。
従者クラスは二つしかないし、よほどのことがない限り下に落ちることは有り得ないのだけど一部では必死に勉強したり訓練に励む者達もいる。
そんな中、私はカイザックと並んで校内を進んでいると前から魔道具研究室の後輩であるダグノ君が走ってきた。
「こんにちはダグノ君。でも廊下は走ったら駄目だよ?」
「あは、すみません。先輩を見掛けたので嬉しくなってつい」
相変わらず可愛いことを言う子だね。そんなに私と話したいものなんだろうか?
研究室にいる時は何かにつけて話し掛けてくるし、そうなんだろうけど。
「セシル、この子は?」
「カイザックは初めてだっけ? この子はダグノ君。私のいる魔道具研究室に今年入ってきた子だよ」
「はじめまして!」
元気よく挨拶したダグノ君はそのまま自己紹介をし、カイザックもそれに倣った。
「お嬢様が仰っていた後輩とは君のことか。とても勉強熱心だと感心しておいでだった」
「ミルリファーナ様が褒めてくださっているのですか?! 嬉しいです!」
「あぁ。そのまま勉学に励むといい」
元気の良い子は好きなのかカイザックがまともな先輩らしい発言をしていた。
まぁ相手が女性で無いことと、本人に悪気がないことを加味すれば極々普通の見た目も中身も最高ランクのイケメンであることは間違いない。
実際ダグノ君も同じ男の子でありながら顔を赤らめているのが良い証拠だ。
私の前世の友だちが見たら涎を垂らして喜びそうな光景だけど、私にそっちの趣味はないのでただただドン引きするだけだ。
「そういえばもうすぐ実地演習があるんです」
「あぁ、もうそんな季節か。あの時は…酷い目に遭ったな…」
ダグノ君の言う実地演習は二年次にある森で行う校外活動のこと。私達も自分の主人と共に参加しているのでよく覚えている。
特に私達はまさか最後の最後でオーガキングというegg持ちの魔王種が現れたことによって大騒ぎになったからね。
もし私が倒せなかったら貴族院始まって以来の大惨事になったことは間違いない。
幸いにも死者はいなかったし、関係者は私のことについてあること無いこと言い回ったりしなかったので気付いたら騒ぎも鎮静化していた。
「噂ではセシル先輩大活躍だったって聞いてます」
前言撤回。
噂というのはどこからか漏れてしまうらしい。
人の口に戸は立てられないとはよく言ったものだ。
「あー…まぁそんなこともあったような…。でもあくまで噂でしょ」
「いえ。すっごく強い魔物が現れてAクラス上位の人でも歯が立たない中、一人で倒してしまったって」
思った以上に正確に広まっているらしい。
私が冷や汗を流しながら引きつった笑いをしている隣でバカイザックはくつくつと必死に笑いをこらえている。
そんな馬鹿の足を踏みつけてやると声にならない悲鳴を上げた。自業自得だ。
「それが本当でも嘘でも私達従者は主人を守るために全力で戦うものだからね。ダグノ君も自分の主人が危ないと思ったらちゃんと守らないとね?」
「はいっ! 頑張ります!」
元気良く返事をしたダグノ君はこのすぐ後訓練があるというので再び走って去っていった。
時間がないなら無理に話していくことないのに…そして廊下は走ったら駄目だよ。
「元気の良い、気持ちの良い少年だったな」
「うん。あんまり戦闘は得意じゃないって言ってたから何事も無く演習が終わるといいんだけどね」
「そうそう私達の時のようなことが起きることもあるまい」
「それはそうだけど…」
一応私達の時も冒険者ギルドに言われてあの森周辺の魔物をかなり間引いたのだけど、結局どこからか流れてきたと思われるオーガキングが率いる群が現れて大惨事になったんだよね。
それで更に翌年も私に依頼が来て、その前の年よりもかなり念入りに魔物を狩りつくしておいた。そのせいもあってか今年は私への依頼が来ていない。
どうやら昨年は私が狩りすぎてしまったらしく、全く魔物がおらず演習としてはとても中途半端なものになってしまったのだそうだ。
ということで今年は他の冒険者パーティーに魔物の間引き依頼が出てるはず。
「それよりそろそろ急ごう。Aクラスの講義が終わる頃だ」
「うん。今日はいつもの場所でお茶会も兼ねてるんだしね」
いつもの場所のお茶会、それはリードとミルル、ババンゴーア様の三人で話し合う場を設けていろいろな方針を決めていく会議のようなものだ。
勿論ちゃんと普通のお茶会もするんだけど、主な用事は三人の内の誰かが持ち込んだ議題を話し合うことにある。
貴族院入学以来ずっと行われてきた六人だけの秘密の会議と言える。
各々が準備をしていつものガゼボにリードと共にやってくるとミルル達は既に到着しており、私達が最後だ。
「すまん、遅くなった」
「何、俺もさっき来たところだ」
リードが席に着くと貴族の三人は一つ頷いた。
これから始める、という合図なのだけど場所が場所だけに何か宣言をするわけにもいかないからこうして頷きあうだけになっている。
それを見ると私とカイザック、サイード殿はそれぞれの主人の前に昼食を用意する。
リードに用意したのは今朝私が作ったサンドイッチだ。
ちょうど先日アイカから天然酵母を使った柔らかいパンを譲ってもらったので、オークジェネラルのトンカツ、キングレイクロブスターのエビカツを使用した成長期真っ盛りのリードでも大満足のカツサンドを用意した。
その隣にいくつかのフルーツとヨーグルトで作ったデザートを置き、紅茶を入れれば完了だ。
その様子をカイザックとサイード殿が唖然とした表情で凝視している。
彼等は食堂で買ってきた昼食をまだ並べている最中だが、あれでは食べながらいろいろ話し合ったりするのには向かない。貴族である彼等の時間はとても貴重であり、今のうちからしっかりスケジュール管理する癖をつけておかないと大人になってから碌なことにならない。
「…相変わらずセシル殿は優秀でらっしゃいますわね」
「全くだ。リードルディ卿が羨ましい限りだ」
「ふふ…まぁ、それに見合った苦労はあるのだがな」
私、別にリードに苦労なんかかけてないよね?
何となく腑に落ちないけど、ここは貴族の話し合いの場であるため従者である私達に発言の許可は与えられていない。
この三人なら気にしないかもしれないけど、ここはまだ公の目がある場所だし不用意なことをして目を付けられるわけにもいかない。特に今はまだ遮音結界も張っていないので慎重になって然るべきだ。
リードに目配せをして彼が頷いたのを確認すると私はすぐに遮音結界を使い、周囲との音を隔絶させた。
「ありがとうセシル。さて、それでは今日の議題なんだが」
「学年末試験の件と来年以降の動き方、だったな」
「入学した頃とは違いますもの。ババンゴーア卿の座学の成績も問題ないのではなくて?」
「うむ、少なくともAクラスから落ちることはあるまい」
サイード殿からも最近のババンゴーア様の勤勉さは聞いているので間違いないだろう。だからと言って領内の執務を賄えるほどの能力があるわけではないのでサイード殿は今後もババンゴーア様の右腕として働くことが既に決まっているらしい。
サイード殿自身は戦闘能力がせいぜい並み程度でしかないけど、座学の成績だけでいえばかなり上位の実力があるし、何よりやる気もすごい。
私みたいに単位が足りてるから必修以外受けないということもなく可能な限りの講義を取っている。
カイザックはまた逆で、いろんな訓練を取っていて今年はかなり魔法関係の訓練にも参加していたはずだ。
元々才能もあるからか、既に水魔法と風魔法を取得したとミルルから聞いている。今度大真面目に模擬戦をしたら……いや変わらないか。当時よりも実力を上げたのはカイザックだけではないのだし。
「あぁ、試験の方はそれでいいだろう。それで来年以降の動きだ。ようやく五年次になるのでかなり好きなように勧誘や情報操作を行えるようになるだろう。僕等と同じ年に王族はいないしな」
「リードルディ卿、あまり迂闊な発言は控えよ」
「ふふ、大丈夫ですわババンゴーア卿。セシル殿のおかげで私達の声も周囲の音も聞こえないのですから」
「それとだ。ゼッケルン公爵家次男のついているエイガン殿の件だ」
「あぁ…」
「ゼッケルン公爵家次男、ですか…」
エイガン殿の話になったところでババンゴーア様とミルルにも表情に影が差した。
「父上に話を聞いたのだが、あのエイガン殿は模擬戦とは言え現騎士団長と互角に戦うそうだ」
「私は先日お父様に聞かされたのですが、ゼッケルン公爵家次男キラビーノム様から私へ婚約の申し込みが届いたそうですわ」
「…全くエイガン殿の件だけでも頭が痛いのに、そこの次男もか。ゼッケルン公爵は一体何を考えているんだ…」
ミルルが婚約?
そんな話は私も初めて聞いた。
私の動揺が顔に出ていたせいかミルルがそれにすぐ気付いてにっこりと微笑んだ。
「セシル殿、ご安心下さい。私は話を聞いただけですわ。今のところはお父様がこの話を断っていらっしゃいますの」
「しかし、正式な申し込みなのだとすればいつまでも断り続けることも出来まい」
「ふふ、そこはあのお父様ですもの。何とでもしてくださるはずですわ」
ミルルのファザコンも大概だけど、ベルギリウス公爵の娘への溺愛具合も相当重症だからね。
それにゼッケルン公爵家次男と言えばいつだったか訓練場でエイガン殿に連れられてやってきていたのを見かけたことがある。確か丸々と太った子豚のような子どもだったはず。
今まで碌に訓練もせずにいたせいだろうけど本人の能力は決して高いものではない。リードの調査資料にも載っていたのはCクラスということ。落ちこぼれではないけど貴族院卒業後の評価は期待出来ないレベルだろうね。
それにしてもあの子豚がミルルを?
本人が本当にミルルを好きなのだとすればそれは頑張ってほしいけど、リード達の話から察するにそういうわけでもなさそうだ。
今日もありがとうございました。
前書きで書いた通り、しばらくバタバタするかもしれません。
ストレス解消がてら閑話を書き続けるのもありかななんて思ってます。




