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第184話 布石

 今私の目の前にはいくつもの宝石が並んでいる。

 時間は八の鐘がなりそうなほどの深夜。

 遮音結界(エリアミュート)は既に使ってあるのでこの部屋で何を口にしても大丈夫にしたのは、こうして宝石を並べているだけでいろいろ高ぶってきそうだったから。

 油断すると本能のままに愛でてしまいそうなほど、どれもこれも美しくて私の視線を独り占めしようと自己主張を繰り返してくる。こんなことしてくるなんて今夜は私を眠らせない気なんだろうか?

 しかし、何とか気をしっかり持って強い精神力でもって宝石からの魅惑的な誘いを断ると改めて机の上に並べられたものを見る。


 ダイヤモンド。

 ルビー。

 サファイア。

 エメラルド。

 アクアマリン。

 ガーネット。

 トパーズ。

 オパール。

 ゲイザライト。

 グリッドナイト。

 ドラゴンハート。

 レオンハート。


 これら十二個の宝石と魔石。

 私のコレクションの中でも最高と言えるものを取り出した。

 ドラゴンハートとレオンハートは何も手を加えてない魔石そのままの姿。

 ダイヤモンド以外は全てユアちゃんのダンジョンで手に入れた一級品を超えた超逸品。

 それらを私の鉱物操作で更にクラック、不純物の除去を施した上でクドーに研磨してもらいドラゴンハートと同じくらいの大きさになるよう水晶でコーティングして水晶玉に浮かんだよう細工する。

 ダイヤモンドのように光の入ってくる角度まで計算されたカットが為された宝石では逆に見た目の美しさは今ひとつになってしまうけど、コーティングしたことには意味がある。

 普通の宝石を水晶で覆うと普通よりも多く魔力を込めることが出来るようになる。これは私が魔道具研究室で試していたときに偶然発見したことでもある。

 それともう一つ。付与魔法を使って魔石を作る場合、過剰に魔力を流し続けることによって内包魔力の限界値を少しずつ上げることが出来る。

 普通はそんな過剰に魔力を流し続けることなんて出来ないので誰もやらないけど、私なら日常生活の中で抑えている魔力分を魔石へと流し続けるだけなので大して問題にならない。

 あとはこれをどうやって身につけておくか、だけど…。




 顔の前で両手を合わせて拝むような姿勢。

 所謂「お願い」のポーズである。

 当然アクセサリー製作のお願いをするなら頼む相手は一人しかいない。


「まぁ…別に作るのは問題ないがな」

「ホントにっ!? ありがとうクドー!」


 呆れた顔をしたクドーは肩をすくめつつも微笑んでいる。

 物作りをすること自体が好きな彼らしい。

 休みの日は何かしら用事が入ることの多い私はいつものように深夜にアイカの店にやってきてクドーにお願いをしている。

 今日は珍しくアイカが不在のため、クドーが店番をしているのだけどこの店に来る人自体ほぼいないので店番するより閉めてしまった方が良い気がする。

 そうなると私が入れないんだけどさ。


「それで、どんな物を作る?」

「えっとね、この宝石を全部使ったブレスレットがいいかなって思ってるんだけど」

「…これを、全部か?」


 ここでまたクドーの呆れ顔である。

 私はテーブルの上に綺麗に箱入れした宝石を全て見せた。決して大きなものではないけど、それぞれが大きさも整っていて一度に見るととても興奮する。やばいよね、すごく綺麗だよね。

 しかし普通に考えたら十二個もの宝石を使うアクセサリーなんて品がないだけなので有り得ない。けどこれは魔道具の一種なので単純なアクセサリーとは違うのだ。

 そのことをクドーに説明すると彼も顎に指を当てて考えている。魔道具ならば、邪魔にならない、セシルが満足、などと呟いているが本人は口に出している実感はないのだろう。ところどころ宝石馬鹿とかなんとか言われていることに気付いているけど、聞かなかったことにしている。


「ふむ…バングル、はどうだ?」

「バングル?」

「あぁ。セシルは戦闘中にかなり動くからな。手首でチャラチャラしては気になるだろう。もっと腕にしっかり嵌まるようなものの方が良いと思う」


 なるほど、確かにクドーの言う通りだね。

 ピッタリ嵌まっていれば激しい動きをしても問題無さそう。

 私はクドーにそれで作ってほしい旨を伝えると次は材質の話になる。


「先日新しい鍛冶炉も完成したし、以前受け取っていたオリハルコンを使ってみようと思う」

「私はいいけど、大丈夫?」

「問題無い。オリハルコンは魔力の通りがミスリルよりかなり良いし、流した魔力もすぐに散っていかずに留まる性質がある。今回のセシルの用途には合うだろう」

「…さすがクドー。よく考えてるね」

「あと装飾や整形はこちらに任せて貰っていいな?」

「うん、それは問題ないよ」


 クドーは「よし」と言って立ち上がると宝石を入れた箱を閉じて手に持つとそのまま店の奥へと入っていってしまった。

 勝手に入るのはマズいと思い、そのままテーブルで手持ち無沙汰にしていると奥からクドーが戻ってきた。


「俺はこのまま作業に入る。出来上がりは十日ほど見ておいてくれ」

「あ、うん。…というか、店番は?」

「どうせ客など来ない」


 それだけ言うとクドーは再び店の奥へと引っ込んでしまった。

 後に残された私が、どうすることも出来ずに明け方過ぎにアイカが戻ってくるまで誰も来ない店の店番をすることになったのは言うまでもない。




 クドーにバングルを依頼してから数日。

 今日は光の日なので貴族院は休み。

 例によってリードに連れ出された私は王都の西にある平原へとやってきていた。

 ここに出てくるグランドバイソンはCランクパーティーなら安全に狩りが出来る魔物だけど、あくまで魔物が一体の場合。

 ほとんどが数体から数十体もの群を形成しているためかなりタフな戦闘になる。それをリード一人にやらせようとしている私も結構なスパルタだろうけどね。


「当然だけど危なくなったら問答無用で助けに入るからね」

「心配ない。このくらい僕一人でやってみせる」


 目の前には八体のグランドバイソン。敵が近付くと興奮して猛突進してくる魔物で、その速度はリードと同じくらい。あの突進を受け止めるのはババンゴーア様でも一、二回が限度だと思う。


「じゃあ頑張ってね」


 私は隠蔽を使って自分の気配を遮断して少し距離を開けた。

 あとはリードが魔法でも何でも使ってあの中の一体に攻撃すればたちまち襲いかかられるだろう。


「始める!」


 自分に言い聞かせるようにリードが叫ぶと同時にかなりスムーズになってきた火魔法を放つ。

 詠唱破棄することはまだ出来ていないものの、かなり早口に唱えて発動を早くしている。

 そもそも詠唱破棄を当たり前にしてる私やアイカが異常なのはわかってるけど、もう気にしない。

 そしてリードの火魔法がグランドバイソンに触れると、その牛の魔物はすぐさまリードを敵認定して突進してきた。


「ふっ!」


 その突進してきた巨体を身軽な体を活かして避けるとすれ違いざまに斬りつける。

 ところが今度はその身軽な体が凶と出て深い傷を負わせることが出来ない。そのためグランドバイソンは傷つけられたことで怒り出し、さっきよりも勢いよくリードへと突進していく。

 リードがその突進を避けて再び斬りつけるが、その時ちょうど二頭目のグランドバイソンがリード目掛けて走り出していた。

 ちょうど一頭目の突進を避けたところだったのであまり体勢が良くないものの、鍛えたその体はある程度無理を彼の思うままに聞いてくれる。

 二頭目の突進も避けてカウンターで斬りつけるが、今度は三頭目、四頭目も突進の準備に入っている。

 私は隠蔽を解くこともなくその様子を少し離れたところからずっと眺めていた。

 動きは大分よくなった。

 特に最近のリードは強くなることに以前よりも貪欲になっているので、これなら四年次の貴族クラスでは最強と呼ぶに相応しいだろう。

 上級生にはあのレンブラント王子がいるのでかなり厳しいけど。あの王子様は五年次では敵無しらしい。

 次男であるディルグレイル王子よりは劣るという話で、そのディルグレイル王子よりもオッズニス殿の方が実力は上らしい。そうなるとエイガン殿の強さの基準も何となくわかってくる。

 出来ればあと少し何事もなく過ぎて卒業するまでスルー出来るのが一番なんだけど、嫌な予感しかしない。

 そんな風に考え事をしているとリードの戦闘ももう少しで終わりだ。

 途中何度か突進が掠めていたので彼も無傷とはいかない。

 それでも脅威度Cの魔物の群れを単独で撃破出来る実力は十分称賛に価する。

 なんとかボロボロになりながらも最後の一体を炎を纏わせた剣で斬り伏せると同時にリードも両膝をつき肩を大きく息をしている。

 私は隠蔽のスキルを解除して、拍手をしながらリードに近づいていく。


「おめでとう。グランドバイソンは脅威度Cの魔物だから、それを単独で倒せるリードは冒険者としてはBランク相当、私と同じくらいの実力があると見なされるはずよ」


 笑顔でそれを成し遂げたリードを褒めてみるも、彼の表情は芳しくない。


「どうかした?」

「…この程度の魔物でここまで傷を負うようでは、まだまだだ…」

「そう? 十分でしょう?」


 首を傾げつつ、リードの独り言のような呟きに答えると彼は鋭い視線を私へと向けてきた。


「なら…セシルはこのグランドバイソン八頭を倒すのに傷を負うのか? どれだけの時間で倒せる?」


 あぁ…。褒めたつもりだったけど、どうやらまた彼の誇りに傷をつけてしまっていたようだ。

 でも私は正直にそのまま答えることにする。


「私なら魔法で一度に全部の首を落として終わりだね。時間どころか姿を見かけた時点で終わらせてる。近寄ってからだとしても一歩につき一体と思っていいよ」


 こうして私とリードの戦闘能力の差を直接教えることで、彼の中の甘い期待を粉々にしていきたいのだ。

 もう私の中での結論はほぼ出ているのだから。

 そして今日も彼は傷だらけになりながらも訓練を続けていく。

 私に少しでも近づこうとして。それによって彼がより私との実力差を知ることになるのだとしても。

今日もありがとうございました。

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