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第170話 王族とか近寄りたくないんですが

完全に更新日を勘違いしてました…。

 アドロノトス先生に言われたことが気になったのもあって、私はこうして図書館通いを続けている。

 それで調べている内にあれこれと気になったことが増えて魔法のことや王国の歴史、法律と調べていた。

 そしてヴォルガロンデ。

 この名前自体どこかで聞いたことがある気がしたけど、よくよく思い出してみるとイルーナが以前話していたことがわかった。

 確か伝説の魔導士という二つ名だったはず。

 普通に魔法を使う人なら魔法使いという二つ名だろうけど、魔導士という二つ名が気になったので追加で調べていた。

 けど歴史にもたまに登場する程度だし、個人の伝記があるわけでもない。

 変わり者の研究者が調べたことを本にまとめたものを読んだものの、大した情報があるわけでもない。

 はっきり言って調べ物は難航しているので、いろいろと脇道に逸れながら少しずつ進んでいるわけだ。


「やっぱり…一筋縄にはいかないかぁ…」


 図書館には誰もいないと思い、独り言を呟く。

 誰に聞かれるとも思わずつい口から漏れたものだったけど、熱中するあまり図書館へ入ってきた人がいたことに気付いていなかった。


「何を調べているんだ?」


 まさか独り言に反応されると思っていなかった私は声のした方を振り返った。

 そこには長身の上級生が立っていた。

 伸ばした綺麗なブロンドの髪を後ろでまとめ、この世界では珍しい眼鏡をかけている。視力を矯正する魔道具でこれもヴォルガロンデが開発したものだ。今となっては作れる者もいない超高級魔道具なのにどうして学生がつけているかと言えば、それはこの人そのものが理由だろう。

 何しろ今となってはこの貴族院で一番有名な人だしね。

 けど、リードもいない平民の私ではこの方に話し掛けることすら不敬になる。

 素早く椅子から下りて膝をつくと頭を垂れた。


「ここはただの学舎だ。そんなことする必要もないし、普通に話してくれていい」

「はっ…ですが…」

「はぁ…。いいから、これは私からの命令だ」

「…わかりました。殿下がそう仰るのであれば」


 私は立ち上がり、目の前の上級生であるレンブラント・ガザド・アルマリノ様へと視線を向けた。


「そう、それでいい。セシル、そなたのことは私も知っている。現在この貴族院で最強と言われていることもな」

「殿下に私如きの名を覚えていただいているなど…。後世までの誉れと致します」

「…そなた、先程の命令を忘れたか?普通に話せ」

「…殿下、お戯れを…。他の方に聞かれてしまいましては私の首など簡単に飛んでしまいます」


 それこそ物理的に。

 この方はアルマリノ王国国王の第四王子。

 規律や法に厳しい第一王子や戦闘能力に秀でた第二王子と違い、周囲との調和を大事にする王子だと聞いている。

 ちなみに第三王子は女好きの駄目王子…もとい、女子にだけ優しい…いや…ある意味でとても王族らしい王子とのこと。

 上がそんな感じなので男女ともに分け隔て無く接してくる第四王子はこの貴族院ではかなりの人気者だ。

 ちなみに第五王女も上級生にいるが、私達と同じ学年には王族はいない。二つ下に第六、第七の双子の王女がいるけどね。


「そんなことは私がさせんから安心しろ。それにそなたを取り押さえられる者などこの国に何人もおらん」


 …かなり詳しく私のこと知ってる、のかな?

 貴族院ではそこまで私の実力を発揮していないはずなんだけど。


「…いい加減何か話したらどうだ?」

「失礼致しました。殿下は私のことをよくご存知のようで驚いておりました」

「有名なのはお互い様だろう? それで何を調べていたのだ?」


 そう言えばレンブラント王子に話し掛けられたのはヴォルガロンデのことを調べててなかなか進まないことにぼやきを漏らしたからだった。


「殿下はヴォルガロンデのことをご存知でしょうか?」

「ヴォルガロンデ? 稀代の魔法使い、天才魔工技師、狂気の錬金術師と言われた伝説の人物だな。私の眼鏡もヴォルガロンデ作の魔道具だったはずだ」

「えぇ。そのヴォルガロンデについて調べているのですが残っている文献があまりに少なく…」


 私が使っていた机の上に積まれた本は十冊程度。この図書館中からそれらしい物を何とか集めたのに、これだけしか見つからない。

 レンブラント王子は鼻を鳴らしつつ図書館を見渡すとこめかみに人差し指を当てている。そして何か思いついたようで指を離して立てると口を開いた。


「貴族院ではなくアカデミーの図書館ならもう少し蔵書も揃っているかもしれない」

「アカデミー、ですか?」

「あちらはここには無い専門書もあると聞いているしな」


 アカデミーは貴族院の隣に併設されている王国内の最高学府だ。より高度で専門的な学問を修めたり研究したりする機関なので確かにそこならより詳しい本があるかもしれない。

 しかし、だ。


「アカデミーは成人してからでないと入れないのではなかったでしょうか?」

「そうだ。試験もあるがそなたなら落ちることもなかろうが、このまま貴族院を優秀なまま卒業すれば試験は免除される」

「…検討、させていただきます」


 これ以上学校というものに束縛されたくない私としてはアカデミーに入るのは嫌だ。魔道具の研究自体は嫌いではないのでそのまま続けることも吝かではないけど個人でも出来る範囲だ。整った設備などいらないし、使えるお金は私の個人資産で事足りる。


「それか貴族になれば立ち入りは可能だ」


 その条件もあまり飲みたくない。

 貴族になるということ自体はリードと結婚するのが最短ルートだし、ババンゴーア様からも声を掛けてもらっているので不可能ではないと思っている。

 けど彼等では私の出した条件をクリアするのは難しいし、何より貴族になることで発生する柵やら制約やらで調べるだけで終わってしまいそうだ。

 ついでに言うと英人種に進化した場合、彼等との間に世継ぎを産むことも出来ない私は結婚相手としては無価値に成り下がるだろう。


「そなたほどの器量であれば既に声も掛かっているだろうが、確か…そなたに一撃入れなければ結婚相手として認めないのだったか?」

「…殿下までそのことをご存知なんですか」

「ふふ、以前陛下とクアバーデス侯がそんな話をしていたのを耳に挟んでな」


 陛下って…どんだけ畏れ多いのよ。

 というか、私の結婚条件を満たす相手が本気で王国内にいなくなっちゃう。

 これでも普通に結婚したい願望くらいあるんだけどなぁ。


「あとは…そうだな…」

「恐れながら殿下は何故私にそこまでして下さるのですか?」

「うん? 王国の民であり、貴族院の後輩が困っているなら手を貸してやるのも王族としての勤めだ…と言いたいところだが、一度そなたと話してみたくて声を掛けた」

「…私のような平民如きに殿下のように高貴なお方が気に掛けてくださるようなことは何もないかと存じますが…」

「良く言う…」


 レンブラント王子はボソッと呟いたが、私の耳はしっかりその声を拾っている。

 今はさっきと違って探知を広範囲に広げているしね。


「まぁ良いではないか。さて…今は他に良い案が浮かばぬな」

「はっ。過分な対応いただき感謝致します」


 話が終わりそうだったので私は再び膝をついて頭を下げ、王族への礼の形を取った。


「だからそういう話し方をやめよ」

「…ですが、そろそろ廊下にいらっしゃる殿下の従者様と護衛の方が限界のようですので」

「…なんだ、バレていたのか」

「お近くにいらっしゃる三名はさすがにうまく気配を消しておられますが二つ隣の部屋に待機しておられる二名はこちらを気にしすぎるあまり気配の消し方が雑になっておいでです。加えて、従者の方から時折発せられます殺気が強すぎかと」


 そこまで伝えたところでレンブラント王子は「やれやれ」と眉間を指で挟むと「入れ」と声を上げた。


「…申し訳ありません、殿下」

「構わぬ。この者が私達より遥かに秀でているということだろう」


 現れたのはリードと変わらない背丈で暗い赤色の髪をした男性だった。

 貴族院の制服を着ていないところからすると従者クラスには入っていないようだけど外見は私達と変わらないくらいだろう。

 また王族の護衛という立場のせいかこの場にも武器を携帯しており、腰帯に一本の剣を佩いている。

 やたらと目つきが鋭く、私に向けてくる視線はそれだけで一般人を震え上がらせるほどの威圧が込められている。


「私の従者をしているオッズニスだ」

「…オッズニスだ」


 自己紹介短っ?!

 クドーといい勝負だよ。

 もう少しくらい何かあるでしょ、と思っていたら威圧を強めた上で話を続けた。


「おいお前、殿下の周りをチョロチョロしたらただじゃおかないからな」


 私は黙ってレンブラント王子を見上げた。

 レンブラント王子も眉間を摘まんでいた指をグニグニと動かしているところを見るとこの対応にはいつも困らされている節がある。

 まぁここは平民である私が大きく出るわけにもいかないし、遜っておくべきだ。


「とんでも御座いません。殿下より特別なご配慮いただきましたことは心得ております。今日のことは末代までの栄誉と語り継がせていただく所存です」


 うん、だからもう話し掛けてこなくていいからね。

 王族と関わり合いになったらもっといろんな面倒事が起きそうな気がするからね。


「オッズニスが何を言おうと気にするな。では私はもう行く」


 レンブラント王子は最後にサラッと場を乱すと自分は早々に図書館から出るべく出口へと向かった。

 オッズニスもそれについていくが、途中で私に振り返るとまた威圧を込めた視線を刺してくる。


「おい、殿下はあぁ仰ったがわかってるな?」

「勿論で御座います」

「…ふん」


 そして強く鼻を鳴らすと殿下の後を追って出て行った。

 殿下の気配が離れていけば近くにいた他の護衛も私から離れて行く。危険人物認定されてはいないようで監視要員も残っていない。

 全く…貴族だけでも面倒なのに王族とか本気で勘弁してもらいたい。

 すっかりやる気を無くした私は持ち出していた本を元の書庫へ戻すと図書館から出てリードの昼食の時間まで中庭で時間を潰すことにしたのだった。

今日もありがとうございました。

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