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第163話 王都管理ダンジョンマスター

GW連続投稿中です!

 白鎧王と戦い、アイカとクドーが迷宮金を採取し、私が数百のリビングアーマーを殲滅させた広間には二つの扉がある。

 一つは私達がやってきた方向。

 もう一つは更に奥へと繋がる扉だ。

 私達はそのもう一つの扉の前にやってくると特に戸惑うこともなく扉を開けた。

 その奥は迷宮金ではなく普通の石で出来た通路になっていて、今まで見たこともなかった松明が左右の壁に据え付けられている。

 なんでここだけ明るくしなかったんだろ?

 探知を使い、奥へと進んでいくと下に下りる階段があり、警戒することなくそのまま下りていった。

 下った段数から察するに五階分くらいだろうか、それだけ下りていったところでようやく階段も終わり、私達の目の前には再び大きな扉が現れた。

 その時点で私達の足が止まる。

 扉の奥から感じられる圧力とかそんなものは一切無い。

 ダンジョンマスターは戦闘力ほぼ皆無という話だし、折角だから会ってみようかなってくらいのものだった。

 でも、ねぇ…。


「アイカ…」

「…何も言わんでえぇ。わかっとる。ウチもおんなじこと言いたいねん」


 扉の上には手書き風のアルマリノ王国の文字で「だんますのお部屋」と書いてあった。

 しかも少し朽ちかけた木の看板に炭で書いたような適当さだ。

 ここのダンジョンマスターはちょっとアレな人なのかもしれない。

 いっそここで引き返してもいいんじゃないかと思うほど。


「二人とも何をぼさっとしている。早くダンジョンから出るためにも行くぞ」


 そう言ってクドーは何の迷いもなく扉を開けると一人で中に入っていってしまった。

 私とアイカも顔を見合わせるとそれに続いて部屋の中へと足を進めた。

 中に入ると灯りは無く、少し広めに部屋にローテーブルとソファーが置いてあり、一番奥のお誕生日席に誰かが座っているのが見えた。


「ふっふっふっ。よくぞここまで来たな、冒険者達よ」


 座っていた者が声を発したが私達は誰も武器を構えたり魔力を集中させることもなく次の言葉を待った。

 その高い声からすると女性のような気がするけど、声変わり前の少年という可能性もあるような感じだ。

 そしてパチンと指を鳴らすとパパッと灯りが点いて座っていた者の姿が明らかになった。


「我がこのダンジョンのダンジョンマスターだ!」


 ダンジョンマスターを名乗った者は私と同じくらいの背丈の女の子だった。

 但し、皮膚は青く濃い緑色の髪の間からは羊のような角が生えている。

 明らかに人間じゃなさそうだけどなんとなく親近感を覚える。

 決して私の視線がその露出部分の多い服の胸に集中しているからではない。違うから。


「あぁお疲れさん。そんじゃウチらを外に送ってやー」


 尊大な感じを出したかったダンジョンマスターの意向など完全に無視してアイカがこちらの要望だけをストレートに伝えた。

 確かに疲れたし、ゆっくりベッドで休みたいしね。

 そんな私達の様子にダンジョンマスターの方が慌て始めてしまった。


「え、えぇっ?! も、もうちょっとゆっくりしていこうよ? ね? ほ、ほらお茶も用意するし、なんならご飯も食べていけばいいじゃない?」


 なんだろ?帰ってほしくないのかな?


「いやウチらの用事はもう済んだし、ゆっくりするなら家帰ってからの方がえぇしなぁ」

「そそ、そんなこと言わずに、ねっ?! とにかくお茶だけでも…」


 やたら食い下がるダンジョンマスターを少し哀れに思った私は彼女に一番近いところへと腰を下ろすとテーブルの上に置かれたティーセットを使ってお茶を入れてあげた。


「二人も座りなよ。少しくらい話聞いてあげよ?」

「…俺のお茶は熱すぎないようにしてくれ」

「まぁえぇか。何の用か知らんけど手短にな」


 私以外の二人もソファーに座ったのを見てほっとしたダンジョンマスターの前に紅茶を入れたカップを置いた。

 彼女は私の入れた紅茶を手にして「ありがとう」と言うと一口飲んでカップを置いた。


「ふふん。よくぞ我のダンジョンを突破したな。褒めてやるぞ冒険者達よ」

「…なんか偉そうにしてると腹立つなぁ…。いっぺんど突いてえぇやろか?」


 アイカが右手をグーにしてダンジョンマスターを一睨みすると慌ててソファーの後ろへと隠れてしまった。


「ひぃぃぃぃっ! い、痛いことしないで! ごっごめんなさい調子に乗りました!」

「アイカ、話が進まないからちょっと我慢して」


 私がアイカを窘めるとダンジョンマスターはソファーの位置を少し私寄りにずらして座り直した。

 私なら危害を加えないとか思ったんだろうか?


「ところで、『ダンジョンマスター』って何か名前とかないの?呼びにくいんだけど」

「それなら『だんますちゃん』でいいよ!」

「…アイカ、殴っていいよ」

「じょじょ冗談です! ごめんなさいぃぃぃぃっ! ほ、ほんとはユアゾキネヌって言いますぅぅぅっ!」


 名前ながっ?!

 しかも思ったより呼びにくい名前だった。

 とは言え名前聞いた上にそんなこと言うのもかわいそうだし、何より捨てられた子犬のような目で私を見てくるので呼んであげないという選択肢は無いようだ。


「えぇっと…じゃあユアちゃんでいいかな?」

「ゆ、ユアちゃん…?…我はこれでもダンジョンマスターで……」

「可愛くていいかなと思って。駄目かな?」

「だっ駄目じゃない! いい! ユアちゃん可愛い!」

「そっかよろしくね。私はセシル。そっちにいる女の人がアイカで、男の人はクドーだよ」

「セシルにアイカにクドー…。うん、覚えた!」


 ユアちゃんは私達一人一人の顔をじっくり見ると指を折ながら名前を記憶に刻み込むかのように唱えていく。

 そしてすっかり上機嫌になった彼女にようやく本題を突きつけることが出来そうだった。


「それで私達を引き止めた理由は何なの?」

「えっと……。もうずっとこのダンジョンをクリアする人がいなくて、久し振りに誰かと話すことが出来ると思ったら何とかしようと思って…」


 ってただの寂しがり屋か!

 その答えにアイカは呆れた表情を浮かべた後天井を仰ぎ見、クドーに至ってはお茶を啜りながら採取した材料の使い道でも考えているのかこちらへ意識を向ける様子がない。

 つまりこの場の話は全て私に丸投げされたということだ。

 やれやれ…。


「人と話したいならダンジョンをもっと簡単にすればいいんじゃない?」

「それは…規則で出来ないの」

「規則?」

「うーんと…ダンジョンマスターになった時に出されたものなんだけどね」


 彼女から聞いた条件とは。

 一つ、入り口から扉や階段、転移装置以外で隔てられた空間に閉じこもってはいけない。

 二つ、得られたダンジョンポイントに応じて与えられたランクに見合った規模のダンジョンを作らないといけない。

 三つ、ランクに応じたダンジョンポイントを一定期間中に使わなければならない。

 四つ、ダンジョン踏破者に嘘をついてはいけない。

 五つ、自殺してはいけない。

 六つ、ダンジョンから出てはいけない。

 七つ、以上の規則を破った際には永劫の苦しみを甘んじて受けなければならない。


「…随分非道い条件だけど…誰に出されたの?」

「それはもちろん神様からだよ」


 うん?また神様?

 確かアイカ達が転生した時にも会ったって言ってたけど…同じ神様なのかな?

 私が考え込むとユアちゃんは不安そうに私の腕にしがみついてきた。


「う、嘘じゃないよ! 我は嘘つけないんだからっ!」

「あぁ…うん、そうだよね。考えてたのはそういうことじゃないんだよ。そっちの二人も神様に会ったことがあるって言ってたから」


 視線だけでアイカとクドーを示すとユアちゃんはじっと二人を見つめた。

 見ている時に瞳の色が変わって銀色になったのを隣にいた私ははっきりと確認した。あれはアイカが神の眼を使った時と同じ現象だったので尚更印象的だったのもある。


「本当だ…。二人とも転移者で転生者なんだ。じゃまさかセシルも……って……え?」


 ユアちゃんがその銀色の瞳を私に向けた途端彼女の動きが止まった。

 瞳の色はまだ戻ってないから彼女は多分まだ私のステータスを見ているのだと思う。

 あまりのチート具合に驚いているのかな?


「管理者の資格?」


 その単語を呟いた彼女の肩を瞬間的に掴んでいた。


「ユアちゃん知ってるの?」

「セ、セシルい、痛い。怖い…」


 怯えるユアちゃんに対していきなり肩を掴んだことを謝罪して手を離したが、顔を近くに寄せて尚も問い掛けた。

 折角ヒントを持ってる人がいるのだからこれを逃がす手はない。


「か、管理者っていうのはその名の通り世界を管理する人のことだよ。何度も転生して『管理者の資格』を手に入れた生き物の中から管理者選定試験を突破した者や特異的に認定された者が管理者になれるって聞いてるよ」


 管理者選定試験?

 なんだろう?すごく聞き覚えのある単語だけど…前世でもそんな試験を受けた覚えはない。

 まさか…私はその試験を受けてる最中?なの?


「その管理者選定試験ってどんなものか知ってる?」

「うーん…我が知ってるのはある星の危機を救うとか、神様に気に入られるとか、くじ引きとか…」


 …勇者とか英雄、加えてお気に入り人事にまさかの運?

 その選定方法には問題がありすぎる気がする。


「他にもあるみたいだけどダンジョンマスターでわかる範囲はこのくらい」

「…そっか。あと、転生ポイントって知らない?」


 アイカ達にも話していなかった転生ポイントの件を尋ねてみることにした。そして高いランクのダンジョンマスターは質問に対する知識を持ってるようだ。


「ダンジョンマスターのダンジョンポイントと同じようなものだよ。行動によって溜まっていく。でも我はダンジョンの施設を充実させるのに使えるけど、セシルはそんなに貯めて何に使うの?」

「使い道は…わからないの。でも生まれた時からずっと『転生ポイントを貯めないといけない』って声が頭の中に響いてて…」

「なんやそれ?そんなん初耳やで?」


 ユアちゃんと話している間にアイカから声を掛けられた。

 今までアイカやクドーは勿論、ほとんど話したことはないからだ。ちなみに転生ポイントに関してはアイカ達にも話せることはわかっていた。ずっと前にユーニャには話したことがあるからね。

 クドーもさっきまで目を閉じていたのに今は私とユアちゃんの間をじっと見ている。


「言えなかったのはごめん。管理者の資格についてもアイカ達は聞こえた?」

「あぁ…。以前ステータスを確認したときにセシルが聞いてきたことがあったが、そのことだろう?」

「うん。私の種族の隣には『管理者の資格』って書いてあるの。ずっとこの意味がわからなくて」

「管理者?それが今ユアっちが言ってたやつなんか?」


 この二人には本格的に隠し事を出来なくなりそうだ。

 冷めてしまった紅茶を入れ直して、私達は話の続きをするのだった。

今日もありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 忘れてた~。 GW中の連日投稿有難うございます! うひゃー、ありがてぇありがてぇ(南無南無) [一言] 返事の返事失礼します あ、いやいや。 言葉が足りなかったですね。 本人は忘れさせ…
[一言] ………………。 プロローグ2話を読んで、まだ覚えてる奴からすれば。 なにこの茶番……と半笑い不可避。 それより転生ポイントにくっついてた、英人種への進化の方がワクワクと言う、ね?
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