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第160話 王都管理ダンジョン 11

 目の前にいる金縁の白く厳かな鎧を纏った巨人。

 実際には中身はないのでリビングアーマーなのだけど、一先ずの呼び名として白鎧王と呼ぶことにした。

 こちらの攻撃は防がれるか、受けて鎧が破損したとしても即座にこの層の壁として設置されている迷宮金から魔力の供給を受けて回復してしまう。

 どうしろっていうのよ。


「セシル!無事かぁ?!」

「大丈夫!かなり痛かったけどね!」


 ホントにね。「かなり痛かった」なんてオーガキングと戦った時以来だよ。

 あの時も頭を割られてかなり血を流した。今のはそこまでの傷ではなかったものの、体に痣くらいは残ってると思う。

 このくらいで済んだのはあの時と今とではレベルが明らかに高いせいだろう。

 それにしても本当にどうしたものか。

 迷宮金からの魔力供給がいつまで続くのかは全く不明。

 枯れるまで攻撃を加え続けるのは正直現実的ではない。

 というのも迷宮に入ってからクドーに聞いた話だと、レンガ程度の大きさの迷宮金に魔力を完全に満たすのに必要な魔力量は一般的な魔術師五十人分らしい。

 いくら私やアイカの魔力量が一般人から大きく外れたものだとしても、野球場ほどもあるこの部屋で、しかも壁の高さは百メテルくらいあるので使用されている迷宮金の量も莫大になる。

 つまり蓄えられている魔力量は一般的な魔術師の百五十万人分ということになる。

 冗談にもならない。


「なんかいい案ないんかっ?!」

「あるわけないでしょ!とにかくぶっ壊すくらいしかわかんないよ!」


 私が白鎧王の大剣で斬り飛ばされたせいでアイカとはかなり距離が離れてしまい、大声を出さないと会話もままならない。


「おーけーや。ならぶっ壊したろうやないか!」


 アイカが再び魔力の集中に入る。

 当然それを察知した白鎧王もアイカへと攻撃すべく動き始めた。


「させんっ!」


 しかしその場から数メテル動いたところでクドーが自分の身の丈の倍はあろうかという大剣でもって迎撃する。


ギャリィィィィィィン


 金属を引き裂く音が響き白鎧王の右足が切断された。

 斬られた右足は中が空洞となっていて、まるでドラム缶を転がすかのようにゴンゴゴンと大きな音を立てて地面に落下した。


「剣魔法 圧水晶円斬(アクアブレード)!」


 追い打ちをかけるように一気に魔力を右手に集中して特大の水の刃を作り出すとまだかろうじて立っている白鎧王の左足目掛けて投げつけた。

 場にそぐわない涼やかな音を立てて白鎧王へと到達するとその残された左足も切り裂いて二十メテルはあろうかという白鎧王の巨体が地面へと倒れこんだ。


「アイカ!」


 すかさずアイカへと振り向きこれが好機だと、その名前を呼んだ。


「よっしゃあっ!虹魔法『天光満つる処に…えぇっと…いっけえええぇぇぇっ』!」


ズガガガガガガアアアァァァァァァァァン


 アイカの魔法が放たれると白鎧王の上空に一瞬だけパチッと静電気のようなものが弾けたかと思うと凶悪なほどの雷の雨が降り注いだ。電気の流れがのた打ち回り、まるで電気で出来た蛇か龍のよう。地面を伝ってこちらにまで振動が伝わるが、感電することなく白鎧王だけを貫き続けていく。

 ……それにしても新奇魔法は私の理解が及ばない物ばかりだけど、今のも魔法の名前だったの?詠唱ではなく?

 これも前世のアニメかなにかなんだろうか?私の知る限りでは全く当てはまるものはないんだけど…。

 しかし威力は折り紙付きで私とクドーで地面に倒していた白鎧王の強固な鎧を打ち砕いてがらんどうになっている中身をむき出しにさせていた。

 そしてその中にはいかにも大事ですと、核ですと言わんばかりに赤く輝く宝玉が入っており外殻である鎧が無くなったことで強く激しい明滅をしていた。


「『貫』!」


 そこへすかさず大剣から弓に持ち替えたクドーの攻撃が届き、矢は宝玉を貫いた。

 壁の迷宮金からの魔力の供給も無くなり、白鎧王も回復する気配もない。

 あとはこのままこの部屋の奥にある扉をくぐればこのダンジョンを完全にクリアしたことになるのだろう。

 でも、何か…これで終わりじゃない気しかしない。

 理不尽の塊みたいなこの白鎧王がこれだけで終わるとはとても思えないのだ。


「なんとかなったなぁ」

「さすがにあの回復速度を見た時には肝を冷やしたがな」

「まぁ終わり良ければってやつやろ。んで、セシルはいつまでおっかない顔しとんのや?」


 すっかり残心を解いた二人が私の近くへと寄ってきた。

 だけど私は未だに短剣を持ったまま、探知も魔闘術もそのまま。

 これから起こるんじゃないかと思うことに対し警戒を解く気にはなれなかった。


「もう終わったんやし、一旦回復して採取しよやないか?」


 アイカの言葉にクドーですら隣で頷いている。


「アイカ、それもフラグっていうんじゃない?」


 警戒したままの私の言葉に二人ともすぐにまた警戒態勢に入った。

 厳しい表情をしていることで言葉により信憑性が増したのかもしれない。


「……な、何も起こらんやないか…」

「いや…。アイカ、よく考えたらおかしい。何故こいつは未だに体が消えないんだ?」

「…あ……嘘、やろ?」


 二人の言葉の直後だった。

 私が何度か聞いたあのアナウンスが流れてきたのは。


---egg所有者同士の戦闘を確認しました---

---能力解放、周辺部保護、所有権移譲戦闘へと移行します---


「ああぁぁぁぁぁぁぁっ?!」


 嘘でしょ?!

 よりによってここでeggなの?

 ダンジョンマスターっていうのは本当に何でもアリなの?

 大声を上げた私だったけど、それでも今までの経験上白鎧王が復活することは間違いないとわかっているだけマシだろう。

 アイカとクドーは目の前の白鎧王の残骸がうっすらと発光しているのを見て顔を青ざめさせている。


「アイカ! クドー! 早く離れて!」

「な、なんやねん? なんやのこれ? 何が起こっとんのや?!」


 私が呼び掛けたにも拘わらずアイカは錯乱したように叫び続けていた。

 状況は逼迫しており説得して下がらせている暇はない。

 滅多にしない私の舌打ちが聞こえたクドーが突き飛ばすようにアイカを抱えて白鎧王から距離を取ったところで、それは復活していた。

 逆再生のように徐々にではなく、まるでセーブ&ロードのような速度でだ。

 但し…。


「どうやら魔力の供給は止まったようだな」

「うん。でも…eggのせいで能力はバカみたいに上がってるはずだよ」

「…セシルのスキルにもあったアレか。一体どういう…」


 クドーと話していたところに白鎧王が起き上がって硬直した。


「話は後で!」


 迷宮金からの魔力供給は無くなったものの、感じられる魔力はさっきとは比較にならないくらい強大になっている。

 そして再び二本の大剣を手に取ったかと思うとその巨体からは信じられないほどの速度で斬り掛かってきた。


ガガァァァァァァン


 咄嗟に前に出てきたクドーが同じように二本の大剣で受け止めてくれた。


「がぁっ! …ぐっ……ぐぅっ…」


 最初の戦闘と同じような状況になったというのに支えきれず今度はクドーでも抑えきれず攻撃を受けた段階で地面に膝をついてしまっていた。

 このままでは秒単位でクドーの肩にあの巨大な大剣が食い込んでしまう。


「剣魔法 圧水晶円斬(アクアブレード)!」


 とにかく急いでクドーを救出するために魔力の集中もそこそこに一番慣れた魔法を放った。

 私の両手から飛び出した水の刃の数は二十くらい。

 白鎧王の腕の部分だけでも傷をつけられればクドーなら脱出出来るはずだった。


ギィン ギギギギイイィィィィン


「嘘っ?!」


 なのに強化された白鎧王の防御力は私の圧水晶円斬(アクアブレード)の攻撃を完全に弾いてしまった。

 あまりのことに続く攻撃を考えていなかった私は動きを止めてしまった。


キュイン


 白鎧王の兜の隙間、目に当たる部分が光ったかと思うと私に向かって光線が飛んできた。

 その速度は並みの攻撃魔法を遥かに凌駕しており、私は避ける間も無く直撃を受け十メテルほど吹き飛ばされてしまった。

 光線が当たった左胸の辺りの服が焼け焦げて地肌がヒリヒリと痛むが戦えないほどではない。


「セシル! こんの……イービルスフィア!」


 アイカが放った邪魔法。

 黒い塊が生み出されたかと思えば大した速度も無く白鎧王へと迫る。それを避ける素振りも見せずにそのままクドーへと圧力を掛け続けていた。

 私も直撃を受けた体を起こし魔力の集中に入る。

 こいつを倒すには生半可な攻撃じゃ駄目だ。


ボゴッ


 しかし魔力の集中に入ったところでアイカの放った邪魔法が白鎧王に当たると体を僅かに仰け反らせた。

 その瞬間にクドーも脱出してアイカの隣へと下がっていった。

 かなり体力を消耗したようで大きく肩で息をしている。


「クドー平気か?」

「あぁ…た、助かった…」


 ほんの少しだけの鍔迫り合いだったのにクドーは相手の強さを味わったのだろう。剣を握る力は衰えていないものの、顔色は明らかに悪くなっていた。

 しかしさっきのことでわかったこともある。


「アイカ、あいつ邪魔法に弱いみたいだね」

「せやな! そしたらとっておきの魔法食らわしたるわっ!」


 アイカのとっておきがどのくらい威力のあるものかはわからないけど、今までの感じからすれば相当非常識なものであることは間違いと思う。

 私も邪魔法は使えるし、新奇魔法を使えば強力な魔法を用意出来ると思うけど氷や炎と違って強力な攻撃のイメージが湧かない。

 ここはアイカに任せるのが良いかもしれない。

 それに、egg所有者同士の戦闘で他の人が倒したらどうなるのかちょっと興味もあるしね。


「クドー! 私達でアイカの魔法が完成するまであいつを引き受けるよ!」


 クドーに呼び掛けると彼も大きく頷いていつも持っている剣と同じくらいの長さの剣を構えた。

 違う点はその刀身が真っ黒なことくらいだろうか。

 そして左手にはカイトシールドを装備した。

 彼が盾を持ったのを見るのは初めてだけど、それだけ防御に専念しないといけないと悟ったのだろう。

 私も短剣を構えて魔闘術を使う。普段から無意識で使っている熱操作を解除して理力魔法をいつでも使える状態にしておく。


「さて、最後の戦いってやつかな?!」

今日もありがとうございました。

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