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第157話 王都管理ダンジョン 8

30万PV達成しました!

いつもありがとうございます!

 しっかり眠ってばっちり休憩出来た。眠り始めてだいたい六時間くらいの睡眠の後目が覚めた。

 それほど活動していないのでそこまで疲れは溜まっていないが一緒にいる二人はそうもいかない。

 特にアイカは普通の魔法使いに比べたらMPはかなり多いものの八十階層の魔物はかなりの耐久力があったため強力な魔法を連発しており、残りMPは実に一割を切っていた。

 私みたいに魔法を使ってもあっと言う間に回復していくわけではないのでこうして休憩が必要になるわけだ。

 そんなわけで今朝は消化が良く栄養価の高い朝食にするべきだろうと思い、まだ自分の寝床で休んでいる二人を起こさないように静かに準備に入った。

 クドーなら狸寝入りをしているだけかもしれないけど、お互いに気付かない振りをしておく。




「よっしゃ!ほな行こか!」


 今の今までアイカの支度が整うのを待ってたんだけどね?

 そんな私の白い目をなんとも思わないように流してアイカは扉へと向かっていく。

 この図太さだけは本当に見習いたいと思うけど、私はすぐイライラしちゃうから無理だろう。


ギッ ゴゴゴゴゴゴゴッ


 お腹に響く重低音を立てて背丈よりも大きな扉が開いていく。

 開ききった扉の向こうは闇に包まれていてこちらからでは見ることは出来ないが、最後の九十階層だ。今までよりも厳しい状況になるだろうことは予想に難くない。

 扉をくぐる。

 既に何度も味わったものだけど、全身が分厚くて粘度の高い膜を通るような感覚。なんとも言えない気持ち悪さがあって慣れる気はしなかった。


「あっつっ!」


 通り抜けた先は岩山だった。

 もとい、溶岩が所々に噴き出ていおり活火山の火口付近にいるかのような高熱に覆われている。

 私達が現れたのは岩山の上、ちょうど高台になっている場所だったのでこの九十一層がよく見渡せるのだが…。


「なぁ…あのあたり飛んでるのって…」

「…あれはワイバーンだな」

「じゃ、じゃああそこで群れて走ってるのって…」

「あれは地竜でしょ。モグラじゃないよ」

「は、はは…。冗談抜きで竜の巣やないか…。父さん、ラピ〇タはあったよ…」


 現実逃避をしているアイカは放っておいて、私はクドーの隣に並んで状況の確認をすることにした。


「さすがに最後だけあって大盤振る舞いだね」

「…そんなことを言えるのはセシルだけだろう。常人にこの階層を突破するのは無理だ」

「じゃあ百層に行くまでは私の好きにしていいってこと?」

「どうしてそうなる…。そもそも百層まで行かなくともここでも十分な『迷宮金』の採取は可能なんだぞ?」

「いや、どうせなら一番下まで行った方が良い『迷宮金』を手に入れられるんじゃないかなと思って」


 決して自分の都合だけで言ってるわけじゃない。階層も進むほどに強い魔物が現れて質の良いドロップアイテムが手に入るからとかそんなことはちょっとしか思ってませんとも。


「どうせ下に行くほど良い魔石が手に入るからだろう。俺としては助かるが、その割を食うのは他ならぬセシル自身なんだぞ?」

「まぁそうなんだけどね。でもここまで来たらやっぱり一番高品質なものを手に入れてほしいしさ」

「この通りどこまで行ったら壁があるかもわらかないような場所でやるよりもよほど現実的か」

「うん?」

「…百層なら迷宮の壁も破壊しやすいだろう、ということだ」


 そう言うとクドーは何故か諦めにも似たため息をついて鞘から剣を抜いた。

 今までは一本しか持っていなかったけど、初めて見る彼の二刀流だ。

 準備は整った、と思ったところでアイカがしんどそうな声で話しかけてきた。


「な、なぁ…それよりこの暑さはなんとかならへんか…?」

「アイカなら四則魔法の熱操作でどうとでもなるでしょ?」

「アカンて。ウチじゃ四則魔法使うてたら他の魔法が使えへん」

「魔法同時操作も使えるでしょ」

「せぇしぃるぅぅぅぅ…」


 やばい、かなり鬱陶しい。

 かと言って見放すという選択肢はない。

 しかしよく見ればクドーもさっきからほとんど動いてないのに大量の汗をかいている。レベルの高い二人だけどこの高熱ではどんどん体力を奪われてしまう。

 いざというときに動けなかったり、本来のパフォーマンスを発揮出来ないのでは困る。

 大半の魔物は私が引き受けるつもりでいるけど、二人にも動いてもらわないと。


「仕方ないね。じゃあ私の熱操作の範囲を広げるよ。でも私から離れすぎたら一気に熱くなるから注意して」

「おおきにぃ」

「すまんな」

「しょうがないよ。適材適所ってことで」


 私は普段自分から手のひら一つ分くらいまでしか展開していない熱操作の範囲を広げていく。

 あまり試したことはないけど、それでも半径三十メテルまでは広がることは確認している。勿論離れるほどに効力は低くなるけども。


「ふはぁ。すぅずしいぃぃぃぃぃっ!」

「これは…一気に快適になったな」

「ほら、二人とも念のため水分補給しておいて。言っておくけど、私も普段より広範囲にするのは不慣れだし消耗激しいんだからね」


 二人の前に氷魔法で水球を浮かべてやる。あまりに冷たい水を一気に飲むのはよくないので常温程度だ。

 同時に食料関係を入れている腰ベルトから岩塩を取り出して二人に渡す。

 こうしておけば二人とも自分で水分と塩分の補給はしてくれるはずだ。


「了解やっ!ほな行こか!」


 一人颯爽と歩きだすアイカ。

 暑さが無くなった途端にこれだ。本当に現金なものだよ。

 と思ったら勢いよく戻ってきた。


「あっつ!セシルの熱操作範囲から出てもうた!」


 …もはや突っ込む気にすらならなかったのは言うまでもない。




「剣魔法 圧水晶円斬(アクアブレード)

「電撃魔法 雷槌貫(ライトニング)

「爆発魔法 衝爆砲(イクスプロージョン)


 新奇魔法を連発しながら襲い掛かってくる魔物…ほぼドラゴンのみ…を片っ端から屠っていく。

 しかも魔石か宝石は必ず落としてくれる。

 私はドラゴンの襲撃に毎回顔を青くしている二人とは裏腹に敢えて探知スキルを使って周囲の魔物の気配を探っては殲滅に向かう。

 この階層は二人も来たことがないんだから少しくらい寄り道してたって二人にバレることはないしね。


「なぁセシル?」


 おや?この先から少し強めの反応がある?そこらの雑魚よりも強いドラゴンがいるのかも?


「セシル!」

「うん?アイカ?呼んだ?」


 いけないいけない。探知スキルで広範囲を探っていると周辺にばっかり気が向いてしまってすぐ近くで呼ばれたことに気付けないことはたまにあるから気を付けなきゃって思ってたんだった。


「あんな?気のせいかもしれんし、ウチもクドーもなぁんも言わへんかったんやけど…」

「セシル、お前わざとドラゴンがいる方向へ向かっていってないか?」


 前言撤回。

 完全にバレてた。

 私が視線を少し泳がせた途端、アイカの両手が私の頬に当てられた。いや、顔を押し潰すような力でギリギリで締め付けてくる。

 アイカも十分すぎるほどに高レベルの能力を有しているのでそんな力で絞められたらさすがにかなり痛い。


「い、いひゃい。いひゃいっひぇ、はひは…」

「今目ぇ泳がせたやろ?!わかっとってやっとったなぁっ?!」


 挟んだ手で更に頬を摘ままれて引っ張られる。

 本気で痛いからっ!

 最後に引っ張ったまま手を放された私は両頬をさすりながら涙目でアイカを見つめた。


「だ、だって…」

「なんや?」

「ドラゴンくらいならすぐ倒せるし、宝石いっぱいだし…」


 正直に答えたところ、アイカだけでなくクドーも呆れたようなため息をつかれてしまった。


「セシル、宝石を集めるなと言わんがせめてもう少し状況を理解してくれ…。お前に何かあったら俺達はここから出られないかもしれないんだぞ」

「むぅ…。ごめんなさい」

「ま、わかればえぇんや。そしたらこっから先は…」

「これからは進路上にいるのだけにしておくよ」


 うん、あっちにいるちょっと強そうなドラゴンのところまでは行っても大丈夫だろう。

 しかしそんな考えもアイカには完全にバレてしまっていた。


「あっちにいるドラゴンの方には階段ないで。ようやくマッピング出来たし階段まで一直線やからな」

「えぇぇぇっ!ひどいよ!」

「なにがやねん!酷いのはどっちや?ドラゴンとの戦闘に巻き込まれるウチらの気持ちになって考えてもみぃ?」

「……レベルが上がる?」


 ゴインッ


「いたっ?!」


 いきなり頭上から岩の塊が降ってきた。

 避けようと思えば避けれたのだろうけど、アイカの気配がそれを許してくれそうにない。


「セシルぅぅぅぅっ?!」

「うぅ…。わかったよもう…。じゃあ大人しくアイカの示した方向にいるドラゴンだけにしておくってば…」


 私が諦め、うなだれながら宣言したことでようやく二人は苦笑いを浮かべてくれた。

 あぁ…勿体ないなぁ…。

 その後アイカが示した方向へと歩みを進めていくと鐘一つ分くらいで階段を見つけることが出来た。

 アイカの神の眼は何も鑑定だけに特化された能力ではなく、千里眼も兼ね備えていてダンジョンのマッピングまでしてくれる。

 彼女曰く、王国内ならどういう地形になっているかほぼ隅々までわかるとのこと。

 それに比べればこの九十一層は狭いのでしばらく滞在しているだけで完全に把握出来るのだとか。とは言え、当然ここに至るまでに何度かドラゴンと戦闘にはなった。隅々まで把握したところでドラゴンとの戦闘は避けようが無かったということだ。

 尤も、ワイバーンと地竜ばかりでお世辞にもドラゴンとは言えないものばかり。そうなれば魔石や宝石も質が落ちるわけで…。無論普通に考えれば高品質の魔石や宝石であることには間違いないのだけど、私が満たされるかと言うと……満たされる。

 どんなものでも綺麗な宝石に罪なんてない。

 それを大量に手に入れることが出来なかった私に罪があるんだ。


「あぁ…ごめんね。私の宝石たち…貴女達を迎えることが出来ない私は本当に業が深い…」


 階段を下りる手前で周辺を見回していると先に下りていたアイカが上がってきた。


「はよ来んかい!セシルがおらんと暑うてかなわんわ!」

「…だから自分で使えばいいのに…」

「適材適所ってさっき自分で言うとったやないか。ウチは階段見つける役、セシルは涼しくして魔物倒す役!えぇか?!」


 なんだか妙に怒りっぽくなっているアイカに渋々了承の返事をすると私は九十一層の階段を下りていった。

今日もありがとうございました。

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