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第152話 王都管理ダンジョン 3

 昆虫達を殲滅しながら進み続けてしばらく。

 さすがに八十層にもなるとかなりの広さがある。

 ダンジョンは階層が深くなるほど広くなるらしく、既に八十層の迷宮に入ってから鐘一つくらいの時間が経過している。

 アイカはこれまで通り迷うことなく進み続けているけど、本当に最短距離を歩いているのか疑わしくなるくらいにはこの迷宮は長い。

 ここに来るまでもかなり魔物に襲われ、その回数は二十から先は数えてない。

 ゴキブリの群もあの後四回くらい遭遇した…何度戦っても気持ち悪い。落とす宝石は毎回違ってて最後に戦った時はトパーズを落としていったっけ。

 他にも蜂の群、巨大なカマキリ、全長五メテルはあるような百足、人と同じ大きさの蝿なんかもいた。

 七十層では毎回宝石を落としたりしなかったけど、ここ八十層ではほとんどどの魔物も魔石か宝石を落としてくれる。

 おかげで私の腰ベルトにかなりの数の宝石を納めることが出来て大満足。

 ヴィンセント商会で購入するのもいいけど、こうしてダンジョンに入れば私のコレクションもどんどん増えていくのはたまらないね。勿論産地を聞いて購入するのはそれで楽しいものがあるし、いつか自分で行ってみたいと思うから決して悪いものじゃないんだよ?

 ただ現実問題として、今回ダンジョンに入っただけで私の宝石は数だけで言えば倍、それぞれの質も決して悪いものじゃない。

 さっきのゴキブリのグリッドナイトだって非常に良質な宝石なのは間違いない。出した魔物が嫌なだけで。

 今なら四畳半くらいの部屋に宝石を敷き詰めて寝転がることだって出来るよ!

 傷付いちゃうのが嫌だからやらないだけで。

 とてもやりたいけどさ。

 何かいい方法ないかな?


「セシルは何気持ち悪い顔しとんねん?」

「え?」


 どうやら欲望が顔に出ていたらしい。

 アイカに指摘されて顔を上げると二人とも怪訝な表情で私を見ていた。


「どうせ宝石が仰山手に入ったからっておかしなことでも考えてたんやろ」

「セシルは基本的に人格者だが嗜好は理解し難い」


 なんか酷いこと言われてる。

 でも正にその通りだったから反論のしようがない。


「別にいいじゃんか。好きなものは好きなんだから」

「えぇで?ウチとしてはそんくらいのほうが取っ付きやすくて好きやで」

「まぁ…理解は出来んが善人過ぎてもつまらんしな」

「そうそう。水清ければ魚棲まずって言うでしょ?」


 ちょうどよく二人が私を擁護してくれるような発言をしたところへ言葉を合わせていく。


「そうやけど…自分で言うもんやあらへんやろ」

「それも含めてセシルだろう」

「せやな。それはそうとそろそろボス部屋やから気ぃ引き締めて行こか」


 このダンジョンに入ってから初めてアイカから「引き締めて」と言われた。

 今まではどんな魔物でもほぼ一撃で葬ってきただけに、それだけここのボスは手強いということだろうか。

 でも私の探知スキルにはボスらしい反応は特に無いままだ。

 今までの階層だとボス部屋からは相応に強い反応がしたものだけど、ここではそれもない。探知スキルをかいくぐれるような魔物なのだろうか。

 ゴクリと喉を鳴らすと私も二人について歩き出した。


「アレやな」


 しばらく魔物とも遭遇しないまま進むと通路の先に大きな扉が見えた。

 今までの迷宮層と同じデザインの扉なのでボス部屋だとすぐにわかる。

 なのに。

 もう目の前まで来ているのにボスの強さを感じ取れない。


「前に来た時もここのボスには苦労させられたんや」

「でも中からそんなに強い魔物の気配はしないよ?」


 アイカの独り言のような忠告にクドーも頷いている。

 私は一人首を傾げながら扉へと近付いていく。


「セシル、一つ言っておく。ここのボスは厄介だ。だから油断はするな」

「うん?」

「まぁセシルなら万に一つもやられることはないやろうから、このまま入ってびっくりしてもらおか」


 困ったような、それでいて楽しんでいるような笑顔を浮かべるとアイカは私の横をすり抜けてボス部屋の扉へと手をかけた。


ギギギギギギギギッ


 大きな扉が開くと錆びている様子もないのに耳障りな軋む音が響く。

 ボス部屋は中に入ると灯りがついて見通せる用になるが、外からでは中の様子を窺い知ることが出来ない。

 そして三人でボス部屋に踏み込むと天井付近に魔法の灯りがついた。

 内部は今までのボス部屋よりも少し広い程度だが、そこにあるのはただの土の山だけだった。

 高さは私の腰くらいだろうか。でもその数は部屋の至る所にあり、軽く数十はあると思う。


「…これは?」

「しっ!……すぐに出てくる」


 鞘から剣を抜いたクドーが構えを取って次の瞬間に備えている。

 その瞬間は思ったよりも早く訪れた。


ぼこっ


「は?」


ぼここここっぼこっ


 目の前の土の山が盛り上がってきたかと思ったら、中から一匹の蟻が出てきた。

 なるほど、この数十の山全てからあの蟻が出てくるのか。

 蟻は体長が私の腕の長さくらい。

 黒光りした外見でこの層で戦った昆虫達同様、かなり硬い体表をしているに違いない。


「とりあえずここはお約束やんな。『ありだーーーーっ』!」


 アイカが何かよくわからないけど当たり前のことを叫んだ。蟻なのは見たらわかると思うんだけど。

 しかし硬そうな身体だね。私の魔法なら攻撃を通すことは出来るだろうし、数十くらいならそこまで問題にならないはずだ。

 ただ…。


ぼこぼこぼこぼこぼこ


「…いやいや。元の土の山の体積からしておかしいでしょ」

「ここは異世界やで?うちらの常識が通用すると思ったらアカン」


 蟻の群は土の山から次々と這い出てきてあっという間に部屋を埋め尽くさんばかりの数で溢れかえってしまった。

 数百はいると思う。

 そしてウゾウゾと蠢く姿が何よりも気持ち悪い。


「うひっ?!」

「…これだからここのボスは嫌いやねん…。えぇか、こいつらには生半可な魔法は通じんで。クドーみたく剣で関節を攻撃するか、強い魔法で吹っ飛ばすかやけど…うちのファイアーボールも全然効果無かったわ」

「わかったけど…気持ち悪い…」

「食われたくなかったら必死になりや!」


 私への最後のアドバイスをした後にアイカは光魔法のレーザーで蟻を攻撃した。

 当たってすぐは耐えられていたものの、すぐに体表を突き破って内部まで焼いていく。

 それを五月雨のように撃ちながら蟻の攻撃を避けている。なかなか器用なことをするね。

 対してクドーは剣で蟻を一匹ずつ斬り捨てており、こちらも確実性は高いものの殲滅力に欠ける。


「ひとまず、剣魔法 光剣繊(レーザーブレード)!」


 私の放った紫色の光の帯が蟻の体を捉えるとアイカのレーザーと違ってそのままクドーの剣のように切り裂いた。

 両手の指からそれぞれ発射することの出来るこの魔法なら殲滅力は無くとも十分に効果はあるようだ。


炎焦獄(ヘルブレイズ)!」


 両手に集中していた魔力を炎魔法に転換してさっきゴキブリを殲滅した燃え広がる魔法を放つ。


ギチギチギチギチギチギチ

がさがさがさがさがさ


 しかし炎魔法の効果はまるでなく、蟻達は何事もなかったように襲いかかってくる。


「うそ?!全然効かないの?!」

「さっきそう言ったやろ!」

「これなら効くかと思ったんだよ!」

「どアホ!そんな都合良くいくわけあるかい!」


 アイカと口論をしながらも襲いかかってくる蟻を避け、また次の魔法の準備をしつつ左手は短剣を抜いた。

 魔闘術を使い短剣を魔力を流していくと金色の光に包まれて輝き出す。

 そのまま短剣で切り裂きながらも右手には魔力を多めに集中させていき、少しだけ間を取れたところでその力を解放した。


「剣魔法 圧水晶円斬(アクアブレード)!」


 右手から放った水の刃は小さく分かれ、二十ほどの数で放射状に飛んでいく。

 その攻撃力は容易に蟻の体を切り裂いていくつもの破片を床にぶちまける。


「おおっ?!なんか八つ切り光輪みたいやな!」


 などとアイカが妙に喜んでいたけど私は無視して右手の魔力を再び集中させていく。

 私の剣魔法で少しは数が減ったものの、クドーは動く蟻達を剣で攻撃しているのでそれを少し手助けすればもう少し早く片付くかもしれない。


「剣魔法 光縛剣(ジャッジメント)!」


 魔法を放つと私の手から部屋の上へと魔力が飛び上がって弾け、それがいくつもの光の剣になって降り注いだ。

 その一つ一つにはそれほどの攻撃力はないものの蟻の体を貫通する事は出来るし、そのまま床に縫い付けることも可能だ。

 私の魔法を意図を察してくれたクドーは武器を槍に持ち替えたかと思うとグルグルと振り回して縫い付けられた蟻を切り裂いていった。

 あれは槍というより薙刀に近いかもしれない。


「えぇなその魔法!ウチも使いたいわ!」

「地魔法と光魔法の混合だからアイカでも使えるでしょ!そんな難しくないんだから新奇魔法ですぐ登録しなよ!」


 近付く蟻達を光剣繊(レーザーブレード)で薙払いながらアイカに光縛剣(ジャッジメント)のコツを話す。

 最低でもユニークスキル魔法創造がないとこんな話は出来ないが、アイカなら私と同じくレジェンドスキルの新奇魔法作成を使えるので何も隠すことなくそれを伝えた。

 これがこの先アイカの偏ったオリジナル魔法の原因になるとは思いもしなかったけど。


「よっしゃ行くでぇっ!」


 アイカは魔力を集中させると蟻から遠目に距離を取った。

 そこまで距離を取る必要はないはずだけど、念の為に私もアイカに蟻が近付かないよう自分の前の蟻は左手の短剣で捌き、右手の魔法で牽制する。

 そしてアイカは両足を肩幅くらいに開いたかと思うと徐にローブの内側に着ていたシャツの右袖を前に見せ付けるように引っ張った。


「虹魔法 『ジャッジメントですの!』」

「…え?ですの?」


 アイカの不思議な魔法名に戸惑ってしまい一瞬そちらを向いてしまった。

 その隙に一匹の蟻が私に襲い掛かってくる。

 気付いた時からでも十分迎撃は可能なのだが、アイカの新奇魔法によって作られた光の剣……いや、針?が蟻達を串刺しにしていく。

 その数は私が作った光の剣よりもかなり多く、蟻達の大半が床に縫い付けられる結果となった。


「今やっ!」

「……光剣繊(レーザーブレード)


 右手にだけ集中していた魔力だけでは足らず両手から魔力を放出して得意の光剣繊(レーザーブレード)を蟻達に向けて撃ち出した。

 いくつもの光線が光の針によって縫い付けられた蟻達を切り裂いていき、更に土の山までもボロボロに崩していった。

今日もありがとうございました。

アイカがついに本性出し始めました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 急にレールガンネタ出てきて笑いましたw
[一言] 誰かジャッジメントを読んでくれーー!(聞きかじり) 蟻酸を吐いてくるなら「さ、サンダーー!」と叫びたくなるお年頃。 そして、蟻塚(蟻の巣)へは水でも流し込んで溺死でもさせるのが一番。…
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