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第15話 イルーナの修行開始!

そういえば四歳の頃って何してたっけ?

何も考えずに田舎の山を駆け回っていた記憶だけが鮮明です。

7/28 題名追加

「さて、それじゃ今日から本格的にセシルちゃんに魔法を教えていくよー」


 イルーナの間延びした声が響く。

 ここは家から少し離れた森の少し手前にある平原。

 畑からも距離があり森に近いため村の人は滅多に近寄らない。

 稀にウルフ系の魔物がウロウロしていることもあるとランドールからも聞いているので普段は近寄ることはない。

 時刻はまだお昼前。朝洗濯をして、家庭菜園の手入れをした後二人でここまでやってきた。


「えーっと。母さん、それはいつもやってる訓練とどう違うの?」

「いい質問です!」


 イルーナはそれほど豊ではない胸を張って右手を拳にして突き上げた。

 そのポーズはなんなの。


「実は今までセシルちゃんに教えてきたのは魔法の基礎の基礎だけなの。属性をうまく扱えるようにならないと教えてもあんまり強くなれないから、本当ならもう少し大きくなったら教えるつもりだったのです」


 突き上げた右手はそのまま。

 なるほど、親心だね。優しさが痛み入るけど…今の私でもそれなりの強さの魔法は撃てるんだけど?


「でも、私の魔法って結構強くなったよ?」

「うん、強くなっててもらわないと今からやることが意味ないからねー。でも普通は成人するくらいの歳になってようやく使えるようになるくらいのことをこれからやるんだけどね」


 むー?どういうことだろう?

 聞けば聞くほどにわからなくなる。

 とりあえずイルーナに教えを受けて間違いはないと思うので、そのままの流れで教えを受けることにする。


「差し当たってセシルちゃんはきっとこう思ってると思うの。『今の私なら母さんの魔法とあまり変わらない強さの魔法が撃てる』ってね」


 当たってる…。確かにそう思ってる。


「てことで、早速やってもらおうかな」


 そう言うとイルーナは少し離れたところに魔法で土を盛り上げて的を作り出した。

 ニコリとほほ笑むとその的を指差して


「あれに今のセシルちゃんの火魔法でできる魔法を当ててみて」

「あれに?…うん、わかった」


 私はその位置から右手を突き出して魔力を集中していく。イメージを練り上げて火力も上げる。バスケットボール大の高火力の火炎弾。

 魔法が完成すると右手から的目掛けて打ち出した。


 じゅぁぁっと岩が高熱で溶かされ、時折ボコボコと音を立てながら冷え固まっていく。

 うん、疲れとかも特にないし調子は悪くないかな。

 私の心の声に反応するようにイルーナがパチパチと手を叩いて称賛してくれた。


「うんうん、この歳でここまでできる子は他にいないんじゃないかな?伝説の魔導士のヴォルガロンデ様が5歳のときに岩を溶かすほどの火魔法を使ってたっていう文献が残ってるけど、本当にそのレベルだねー」


 冷え固まった土の塊だったものはガラス化して黒光りする水晶のように的があった場所を光らせている。

 イルーナは再度魔法を使い、同じ場所に同じような的を作り出した。


「じゃあ私がやってみるよ?……『獄炎弾(ブレイズシュート)』」


 イルーナが魔法を唱えると私が打ち出したものと遜色ない火炎弾が発射されて同じように的を溶かした。

結果は変わらない…ように見える。ただそれはあくまで結果()()を見た場合だ。

魔力を込める速度。イメージするまでの時間。打ち出す速度。どれを取っても私のものとは段違いのものだった。

 つまり、私とイルーナでこの魔法を打ち合えば私の魔法が完成するよりも早くイルーナの魔法によって私は丸焦げ…どころか蒸発させられてしまうだろう。

 我が母親ながらとんでもない実力者だったのね…。


「うふふ。まだまだ鈍ってないみたい」


 嬉しそうに笑うイルーナがちょっと憎らしい…。

 でもなんでだろう?私とイルーナの魔法にどこにそんな違いがあるの?せいぜい魔法の名前を言ったくらいなのに…って、まさか?


「魔法の名前?」

「さすがセシルちゃん。正解だよー。魔法はその名前を唱えることで素早く正確に、使う魔力も軽減して打ち出すことができるのよ」

「そっか…。私は名前も何も無しで全部一から魔力とイメージだけで作ったから時間も掛かって魔力も多く使ったんだ。それと打ち出すことにそこまで頭が回ってなかったから打ち出した後のスピードも遅かったってことなんだね」

「あははは…。正直、そこまで考えちゃうセシルちゃんの方が私はちょっと怖いかなぁ」


 私の考察にイルーナは徐々に苦笑いになっていくが、ここまで見せられたらもう教わることに遠慮はいらないと思う。


「じゃあ私が母さんと同じ魔法の名前を使えば同じように魔法が使えるのかな?」

「今のセシルちゃんならそのくらいはできるはずだよー」


 相変わらず間延びした声で答えてくれるイルーナだが、先ほどの実力を目の当たりした今ではそれも気になるものでもない。

 その後イルーナから四属性魔法の魔法の名前を聞き、実際に見せてもらうことで私はその魔法を習得することができた。

 試してみた結果、イルーナがさっき見せてくれた獄炎弾(ブレイズシュート)は威力、速度ともほぼ同じだけのものになった。これが使えていれば先のゴブリン戦でも手傷を負うこともなかったかもしれない。

 しかしそうなると気になることがある。

 私のオリジナル魔法である水の刃を使った魔法。あれは水魔法と土魔法を組み合わせたものだし、何よりオリジナルであるがために魔法の名前がない。そうなると素早く発動させることができないのではないか、ということだ。

 そのことをイルーナに相談すると驚くべき回答が返ってきた。


「普通はそんなことできるのはもっともっとすごい魔導士とかになってからだと思うけど…。聞いた話だとそういう人は自分だけの魔法を作り出して魔法に名前を付けてるらしいよー」


 指を顎に当てて空を仰ぎ見るようにして唸るように教えてくれたわけだが。

 魔法を作る?確かに私も自分だけの魔法は既に作成済なわけだけど。


「つまり、自分だけの魔法を作って、名前も付けてるってこと?」

「うん、聞いた話だからどこまで本当なのかはわかんないけどね。セシルちゃんもできるなら私に見せてほしいなーなんて…さすがにそこまではまだ「うん、いいよ」…え?」


 イルーナの答えを待つより前に私は数歩下がって再び右手に魔力を集中した。

 2日前に使ったあと練習していなかったものの、一度使ってブーボウを倒していただけにそれなりに早く発動させることができた。

 突き出した右手の前に直径1メテルほどの薄い水の輪が浮かんでいる。もちろん高速で回転しているので、触ろうものなら簡単に切り刻まれてしまうだろう。


「うわぁぁぁぁぁ…。セシルちゃん、私の娘だからある程度は覚悟してたけど…ここまでかぁ」

「…うん?どういうこと?」

「あ、ううん。なんでもないよー。なんでもない。で、その魔法にセシルちゃんなりに名前を付けちゃえばいいんだよー」

「勝手につけていいものなの?」

「自分だけの魔法が作れる人は大体勝手に付けてるよー」

「そんな適当でいいの…?」

「いいのいいの。どこかで誰かが同じような魔法使ってたとしても気にしちゃダメだよー」


 そんなものなの?

 まぁそういうものならそういうものだと思うことにしよう。

 イルーナに促されるままに私は目の前にある魔法に名前を付けようとしている。

 でもさすがにこういうのはなかなか慣れない。というか、そもそも魔法に名前を付けるとかしたことないしっ。

 私が唸りながら目の前の水の刃を睨みつけているとイルーナはその様子をクスクスと楽しそうに見ている。


「もー、母さん笑わないでよー」

「えー。だって何でも卒なくやっちゃうセシルちゃんにも苦手なものがあるんだなーって嬉しくなってねー」

「私は全然嬉しくないよっ」


 頬を膨らませたままイルーナにジト目を送るとようやく助け船を出してくれる。


「うふふ。でも、セシルちゃんがその名前を言ったときに素直にすぐその魔法をイメージできるものがいいんだよ。例えちょっと変な名前でもねー」


 最後のは絶対余計な一言だと思うけど、当のイルーナはそれを全く気付いてなさそう。

 天然さんめ…。

 ただイルーナの言い分はもっともだ。私が想像できないような名前にしてしまっては全く意味がない。

 ならやっぱりここはシンプルに行くべきだろうね。


圧水晶円斬(アクアブレード)、かな」


 水の刃とか単純すぎるかなと思わなくもないけど、これはひとえに自分のため。

 あんまり難しい名前にすると私が想像できないし、何よりも魔法の名前を忘れてしまいそうだ。


---スキル「魔法創造」を獲得しました---


 あれ?またスキルが手に入った?

 スキルの確認のため、目の前に展開させていた水の刃を森に放り投げると入り口付近の木を数本薙ぎ倒して消えた。

 イルーナが若干顔を青くしていたようだが気にしないことにした。

 この世界、ある程度の適当さは必要みたいだしね。


 さて、スキル鑑定してみようかな。


魔法創造:自身の特異魔法を創造することができる。名付けを行うことで急速展開、超速発射等が行える。登録魔法数はスキルレベルに依存する。登録の抹消は可能。変更は不可。

現登録魔法:圧水晶円斬(アクアブレード)


 なるほど。これはかなり便利なスキルっぽい。さっきイルーナから聞いた方法で間違いはないのだろうけど、スキルがあるのとないのとでは大違いだろう。

 とりあえず今のスキルレベルでどれほど登録できるかはわからないし、差し当たって登録したい魔法は今のところはそんなにないので今のうちに登録しても良いかもしれない。スキルの説明文を読む限りだと登録の変更をする場合は一度消してから再度登録し直しみたいなので、あまり変なのを登録しない方が良さそうだ。

 そんなわけでイルーナを横目に一昨日自分で作り出した魔法のうち、実践に使えそうなものをいくつか展開して登録していくことにした。

 その様子を青い顔をして見ていたイルーナがふと


「そういえば私もしてないから気にしてなかったけど、セシルちゃんも詠唱しないねー」

「え…?詠唱って何?」

「…ごめんね、そういえば教えてないんだから知らなくて当たり前だよねー」


 魔法登録する手を一旦止めてイルーナに向き直ると首を傾げて見上げた。

 詠唱ということは、恐らく本来魔法は何やら呪文のようなものを唱えて発動させるものなのだろうか?そんなことしなくてもイメージだけで何とでもなってる以上は無駄に思えて仕方ないんだけどなぁ。


「普通の人は魔法を使うために『詠唱』って言って、その魔法を使うための言葉を紡いでいく必要があるんだよー。例えばファイアショットだったら『我に宿りし魔力を食らえ火の精霊たちよ。その力を以て…』なんだったっけ?」

「いやいやいや…私に聞かれても…」

「えーっと、とにかくなんか長いのが必要なのよ!」


 忘れたことを無理矢理誤魔化したようだ。


「そ、そんなわけで普通に詠唱無しで魔法を使うのってすごいことなんだよって言いたかっただけだよ」

「うーん?よくわかんないけどあんまり人前でやっちゃダメってこと?」

「……そうだね。もし誰かと一緒に冒険したりするときはなるべく詠唱…はわかんないから、イメージして時間が掛かってるように見せるのも必要かもしれないね」


 ふと見せたイルーナの寂し気な表情が気になったけど、私は珍しくイルーナからされた注意事項を胸に留めておこうと思うだけにした。

 変に詮索することも、気を使うことも今現在ただの4歳の娘がするにはあまりにもやりすぎだと思うしね。既にいろいろやらかしてる気がするけど、それは考えないことにしよっと。

 再び特異魔法の登録に入った私は様々な魔法を使っては放つを繰り返して周囲の地形を少しずつ変えていくのだった。

今日もありがとうございました。

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