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第151話 王都管理ダンジョン 2

 あの後寝ぼけたままのアイカに朝御飯を詰め込んで、出発する準備をしていたら三の鐘が鳴るくらいの時間になっていた。

 いつも店に行ってる時はクドーと話してる間に普通に話すようになってたから気付かなかったけど、ここまで寝起きが悪いとは思わなかった。

 そんなことが起きたけれど出発後は順調だった。

 五十一層からはやけに暗い湿地帯。

 出てくるモンスターはアンデッドがほとんどで出来ればあまり近寄りたくなかった私もアイカもより遠慮を無くして走り続けた。

 私は理力魔法を、アイカとクドーは氷魔法を使い足場を安定させて走る。

 走る。

 だって臭いもん!

 グチャグチャしてて気持ち悪いもん!

 ここアンデッドだらけで脱臭(デオドラント)の魔法も全然効果ないし!


「あひゃひゃひゃっ!流石のセシルでもアンデッドはダメやったか!」

「好きな人なんていないでしょ!」

「あれ倒したら魔石とか宝石出るかもしれんのやで?」

「ぐっ…………こっ、ここで無理して集めなくても下の階層でも取れるんでしょ?!」

「セシルの言う通りだ。アイカ、俺もここは鼻が駄目になりそうだから早めに通り抜けよう」


 クドーも私に同意してくれると速度を落とさないままアンデッドを振り切って五十一層を駆け抜けていった。




 走り続けてどんどん先に進み、ついに広大な海の層である七十九層を抜けた。

 これ私達以外に攻略出来る人なんているのかな?

 なんせ一つの階層に島が一つしかない。

 それも上の階に戻るための階段があるだけで他には何も無い。三十段くらいの階段だけが見えていて、それより上に行けばまた海の底へと辿り着く。

 つまり先に進むためには海の中に入って階段を探さないといけない。

 私達はアイカがいるお陰で迷うこともなく目当ての階段まで辿り着くし、私の天魔法と力操作を駆使して高速で海の中でも移動するため他の階層よりも攻略は早かったほどだ。

 そして今八十層に着いた。


「そろそろウチの魔法やクドーの攻撃じゃ一発で倒せん魔物が出てくるやろな」

「別に一発じゃなくていいでしょ」

「そうなんやけど…時間かかるやん」


 この世界で九十年以上生きてて尚且つまだまだ老いることもないのによく言うよ。

 私はアイカと並んで迷宮を歩いて進んでいる。

 クドーが後列で後ろから来る魔物に対処する。

 この迷宮を進み始めてから探知をずっと使ってるので不意打ちされることはないけど、背中を任せられる人がいるのは良いよね。

 っと思ってる傍から魔物が来る。


「アイカ、正面から来るよ」

「おっけーや。おりゃっ!」


 アイカが掛け声と同時に炎の球を放った。

 魔法発動の言葉も無しに私の獄炎弾(ブレイズシュート)と同じくらいの大きさで発射される速度も速い。

 途中で聞いた話だと夜人族は元々魔法の扱いに長けているため、人間のように発動の言葉を必要としないんだって。

 それでもアイカは気分なのだろう、時折「ファイヤーボール!」と大声で叫んでいた。

 私も何もしていないわけではなく剣魔法の光剣繊(レーザーブレイド)で正面から迫る昆虫型の魔物をバラバラにしていく。

 アイカの炎魔法では一発で焼き尽くせないようで何度か撃ち込んでようやく一体倒しているが、私の剣魔法なら十本の紫色の光線があっと言う間に切り裂いていく。

 特に虫は生命力が高いからただ真っ二つにするだけでは済ますことのないよう念入りにバラバラにする。

 …足だけでも動いたり、首だけになっても口をガチガチ鳴らしているのはちょっと怖い。

 たまにバラバラにした頭の複眼がこっちに向いていて、また動き出しそうなので残心は怠らないようにしている。

 戦闘が始まって数分もすれば襲ってきた七匹くらいの昆虫の群を殲滅する事が出来た。


「しっかし…うちも魔法に自信あったけどセシルのはそれより遥かにすごいなぁ」


 後ろでアイカが関西弁の発音で呆れ半分賞賛半分といった感想を言っている。


「今も魔法だけで倒していたし、俺の剣を使うこともなかったな」

「…セシル、クドーの作った武器使こてるとこ見せてやらんと拗ねるで?」

「…俺は子どもじゃない」


 アイカとクドーのやり取りは聞こえている。

 聞こえているけどそちらを向く余裕がない。

 今の私はそれどころじゃない。


「あと、流石にそろそろ進むで。立ち止まってて後ろから魔物来るかもしれんやん」

「…来たらまたセシルが嬉々として殲滅するだろうな」

「…せやな。しゃーない、ウチが抱えて持ってくわ」


 地面に座り込んでいた私をアイカが担ぎ上げると私を後ろ向きにしたまま迷宮を進み始めた。

 と思う。

 今私の視線は目の前のものに集中しているせいだ。


「おっきい…」

「それ、男の前で言うなや?」

「アイカ、セシルはまだ子どもだぞ?」

「中身は三十路のおばちゃんやん」


 アイカが何かを言ってる気がしたけど聞こえない。

 私は手の中にある大きなトルマリンに夢中になっている。

 あんな気持ち悪い虫からこんなに大きくて不純物も少ないトルマリンが出るなんて思いも寄らなかった。

 寧ろもっと出てきて私にトルマリンをちょうだいよ!

 虫だけに…。


「あ、ちなみにここ昆虫が出てくるからアレも出てくるんやで?」

「…あぁ、アレか。アイカは苦手だったな」

「あんなん得意な女の子をウチは知らんよ」

「大丈夫だよ」


 担ぎ上げられていたアイカの肩から飛び降りると私は握りしめていたトルマリンを腰ベルトに入れた。


「どんな魔物が出ても絶対倒して宝石手に入れるからっ!」

「…その言葉、忘れんで…?」


 何か含みのあるアイカの言葉を軽く流して足取り軽く歩き出した。

 次の魔物が早く来ないかと周囲を探っていると、正にこちらに向かってくる一団を捉えた。

 数は……二十くらい?

 さっきと比べると随分多いような…?


「アイカ、クドー。この先のT字路の右側から魔物が来る。なんかやたら数が多いけど…」

「あちゃぁ…いきなりかぁ……。まぁええわ。ここはセシルセンセに頑張ってもらおやないか」


 先頭が私だけになるようアイカは一歩下がるとそれに代わってクドーが歩み出た。

 けどさっきくらいの魔物なら余裕で対処出来るのでクドーに出てもらう必要はないと思う。


「必要ないかもしれないが念の為。なるべく手を出さない」

「うん?わかったけど……どういうこと?」

「それは……セシル、来るぞ」


 クドーは腰に下げた剣の柄に手をかけると前方の通路に意識を集中し始めた。

 私もいつでも魔法を放てるよう両手に魔力を集中させていく。

 そして通路の向こうから何かが擦れるような音が聞こえてくる。


カサカサカサカサカサカサカサカサ…


 昆虫特有の音なのかな?

 固い脚がダンジョンの石畳に擦れて鳴っている?

 そしてその一団がダンジョンの通路から曲がってきて姿を現した。


ガサガサガサガサカサガサカサカサガサカサカサカサ…


 前世でまだ母親と住んでいた時に家でよく見かけた全身がねっとりとした脂に覆われた黒光りするヤツ。

 唯一違う点はそのサイズ。私の持ってる知識の中であの生き物はせいぜいがよくある消しゴムくらいのサイズだったはずなのに、今私の目の前に迫ってきてるこいつらは私よりも大きく全長二メテルはある。

 それがすごい勢いでこちらに近寄ってくる。


「ひっ?!!?!」

「セシル!何してる!」

「ゴッ!ゴキッ?!」

「セシル!」


 隣でクドーが剣を抜き放ちながら私に怒鳴っている。

 しかし生理的嫌悪感からか、私の体は思った以上に硬直してしまっており思うように動いてくれない。

 なのに目の前の全長二メテルもある巨大なゴキブリは当然待ってくれない。


「ちぃっ!やはり俺が…」

「へっ…へへへへ…」

「…セシル?」


 決しておかしくなったわけじゃない。

 うまく口が回らないだけで。

 一刻も早くこの状況を打破しないといけない。


炎焦獄(ヘルブレイズ)!」


 手加減も何も考えず、集中していた魔力をそのまま炎魔法にして開放した。

 ずっと前にゴブリンの集落を殲滅した時にも使った「燃える物がある限り炎が広がっていく」魔法だ。


ギギギッギッギギギギッギギギギギッ


 ゴキブリは私の炎魔法に巻かれて動きが止まったが、何匹かはその炎を纏ったままこちらへと突っ込んできた。

 しかしそれは剣を抜いて構えていたクドーによって真っ二つに斬られ、そのまま床で蠢きながら燃え続けている。

 正直それすら見ていたくないほどだけど。

 この炎もかなりの勢いで水をかければ消えるけど完全に動きが止まるまでそんなことはしたくない。

 そう思って慎重に状況を窺っていたけど、突然フッと全てのゴキブリ達が消えてしまった。


「…どうやら全部死んだみたいやな」


 …あ、そうか。ダンジョンだから魔物は死んだらすぐに消えちゃうんだった。

 燃える物が無くなったせいで炎も消えてしまい、ダンジョンの床に炎によって焦げた跡と真っ黒い石だけが残されていた。


「セシル、宝石と魔石が落ちてんでー」

「…あのゴキブリから出たやつだよね…?」

「せやな。でも宝石は宝石やろ?」

「そう、だけど…」


 うん、宝石に罪はない。

 どんなものであれ綺麗だし、一つ一つを大切にしないといけない。

 そしてゴキブリの落とした宝石を確認すると私がたまにヴィンセント商会で購入している宝石と同じものだった。


「グリッドナイトだ」

「グリッドナイト?なんやそれ?」

「この世界特有の宝石みたいだよ。…でもまさかゴキブリから出てくるものだったなんて…。あっ!」

「な、なんや?なんかあったか?」

「うっ、ううん!なんでもないよ!」


 突然大声を上げた私に驚いたアイカが顔を覗き込んできたけど、咄嗟に反対を向いて表情を見られないようにした。

 多分今の私の顔は相当に赤くなってるはずだから。

 たまに、そうたまに、極稀に宝石の美しさと愛おしさにそれらを「使って」お楽しみしてるなんて誰にも言えない趣味…いや嗜好だもん。

 これは絶対に墓の下まで持ってくつもりだよっ。

 ただ、このグリッドナイトが唯一ゴキブリからだけ採集できる類の宝石だったらと考えれば赤くなるのと同時に段々青褪めてくる。

 間接的にゴキブリを「使って」いたのではないか、と…。


「なんかよう知らんけど、ダンジョンで出る宝石は普通に世界中にある宝石だけのはずやで。純度やら大きさなんかは比べ物にならんのがよく拾われてるみたいやけど、ゴキブリや言うて毎回その宝石出すわけやあらへんからな」

「ほっほんとに?!」

「あ、あぁ…そう聞いてるで。さっき拾った宝石も『トルマリン』やったし、あれならどっかの国の土産物屋で見たことあるしな」


 それが本当ならヴィンセント商会で買ったものもダンジョン産とは限らないわけで。


「それにダンジョンやとどの魔物がどの宝石落とすかはランダムのはずや。ずっと前にウチらがこのゴキブリ倒したときはガーネットが出たしな」


 ふむふむ。

 それなら猶更安心かな?

 というか気にしても仕方ないし、私は拾い集めた宝石と魔石に聖浄化(ホーリークリーン)を使って綺麗にすると他の宝石と混ざらないよう布袋に入れてから腰ベルトに収納した。

今日もありがとうございました。

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