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第146話 買い物と将来について

忘れないように予約しようと思っているのですが、仕事に忙殺されていると難しいですね。

 私がカンファと商談を始めてそこそこ時間が経過した。

 目の前には私が購入した宝石が積まれている。

 今回は良いオパールが入荷したそうでそれをいくつか。加えて上質のアメジストと魔石用のアメジストを大量に。ガーネットとアクアマリンも大きな原石があったのでクドーにカットを頼むために購入した。

 クドーにカットを頼めることが発覚したのでそれを想像して私の脳内はカットされた宝石で埋め尽くされている。

 その想像が顔に出ていたのか商談を進めるにつれて徐々にカンファの表情が苦いものになっていったけど気にしない。ベルーゼの顔は呆れを通り越して何かかわいそうな人を見るようなものになっていた気がする。

 ふふん、そんなこと思っていてもカットされた宝石を見たら絶対驚くんだからっ。


「はぁぅ……満足……」

「…アンタ…友だちいても変わらないのね…」

「はぇ?」


 ベルーゼに言われて私はふと隣を見た。

 今の私はソファーに倒れこんでいるので見上げる形になったけど、そこには真っ赤な顔をしたユーニャがいた。

 …なんで顔赤いの?


「ははは…まぁそれでこそセシルだよ。それじゃ今回の品物はこの箱にまとめておくよ」

「あーぃ、ありがとー。えっと代金いくらだったっけ?」

「そうだね…友だちの前だしたまには少しオマケしてあげるよ。全部でこれでどうだい?」


 カンファはソファーで寝ている私にも見えるように指を四本立てた。


「うん、それじゃこれで」


 私はテーブルの上に白金貨を取り出すと一つずつ積み上げていく。


「え…セシル?え?まだ?え?」


 積み上がった白金貨は四十枚。

 最近は王都ギルドマスターの仕事をあまりしてないけどそれでもそのくらいはいつでも自由に使えるお金は持っている。

 カンファは私が積み上げた白金貨を数えると一つ頷いてそれをベルーゼへと渡した。

 彼女はその白金貨を受け取ると一度部屋を出ていった。


「確かに。それじゃさっきの宝石はこの箱に入れておいたからね」

「うん、ありがとう」


 私はカンファから宝石の入った箱を受け取ると起き上がって腰ベルトに収納した。


「さて…それじゃ私達の商談はこんなものか…。それでユーニャさんの勉強にはなったかな?」


 カンファは私から視線をずらしてユーニャの方を見たので、私もそれに合わせてユーニャの方へ顔を向けた。


「えっと……セシルのお金の使い方がすごくてあんまり…」


 あれ?私そんな使ったかな?

 今回は白金貨四十枚くらいだからそこまでの支出じゃなかったはずなんだけど。


「ははっ、今回の商談セシルにしては控え目な方だったよ。と言ってもセシルは買う物が宝石だから一般的な金銭感覚ではついていけないのも仕方ないね。だけど…」


 カンファはそこで一度言葉を切ると紅茶を一口飲んで間を作った。


「ユーニャさんはセシルとお店をやりたいのではないのかい?」

「はい…って、なんで…?」


 ユーニャはカンファに自分のことを言い当てられたからか少し動揺している。

 カンファも同じことを考えているから何かしら感じられるものがあったのか、それとも本当にユーニャのことまで調べていたのかもしれない。


「私もセシルと商会を立ち上げたいと思っているからね」

「セッ、セシルは私と一緒にお店しようって約束を…っ!」

「あぁ、わかってる。セシルから聞いているよ。『友だちとお店をやる約束があるから私達とは出来ない』ってね」

「セシル…」


 カンファに以前誘われた際にそういえばそんなことを言った記憶がある。

 ユーニャとお店をやる約束を忘れたことはないし、私のやりたいことの一つに上げているのだからそれは絶対に譲れないと思ってるけどよく覚えてるね。

 ユーニャもカンファから間接的に聞いたからか顔を赤くして私の方へ顔を向けてきた。

 おかげで見つめ合う形になってしまい私まで顔が赤くなってきているのがわかる。

 そうして向かい合っている時にベルーゼがちょうど戻ってきた。


「…何赤い顔で見つめ合ってんのよ。ここは逢い引き茶屋じゃないんだけど?」

「おいベルーゼ。セシル達お子様にそんなこと教えるな」

「はいはい。それで?どうしたの?」


 ベルーゼが部屋を出る時に持っていた白金貨は既に手元には無く、代わりにお菓子をテーブルに置いた。

 そして自ら最初の一つを摘まむとぽいっと自分の口に放り込んだ。


「話はこれからさ。それでね…」


 カンファから言われたのは将来の話。

 私がユーニャとお店をやりたいというのは今も確認したのでわかっている。

 でもカンファも私と商会を立ち上げたいと思っている。

 なので平民向けの店をユーニャが、貴族や金持ち商人相手の商会をカンファが、それぞれやるというものだった。

 それなら客層が被らないし、商品自体も貴族向けに作るのであれば平民向けより高い金額設定が出来る分、かなり高い予算をつけられる。

 うん、これならいいかもしれない。

 しかも二人とも私と魔道具の店をしたいと言ってるので今後私がアイカやクドーともお店をやりたいと思ったとしても共存できるというわけだ。

 勿論アイカ達には何も話していないので一緒にやるかどうか以前に、そんなことをして嫌われたら元も子も無い。

 彼女達への相談は時期とタイミングを見てからになるかな。


「どうだい?悪くない話だと思うのだけど?」

「うん、私もそれならいいと思う…っていうか光栄だし有り得ないくらい具体的な話でびっくりしてます。セシルをカンファさん達に取られちゃったら嫌だけど…」

「恐らくは商品の発注が主な関係になると思われるよ。だからユーニャさんが気にすることはないよ。勿論宝石に関してはセシルから積極的に絡んでくるだろうけど」

「うん…それなら…」


 というか二人とも私を抜きに話を進めすぎでしょ。

 私がやらないと言い出したらどうするんだろ。

 やるけど。


「とりあえず私とユーニャが卒業するまでは動けないんだし、未来予想図としては良いんじゃない?それと万が一を考えて、ユーニャは卒業後はヴィンセント商会に入るってことにしておいた方がいいと思う」

「ちょっとアンタ!何をそんな勝手なことを!」

「ベルーゼ、いいから。わかった、ユーニャさんは国民学校卒業後はヴィンセント商会に入ってもらうことにしよう。そのくらいは私の裁量でなんとかなる。但し他の見習い同様四年次から光の日はここで見習いの修行があるからそのつもりで」

「え?ええ?ええぇぇぇぇぇっ?!」


 私とカンファの話がどんどん進んで行く中、ベルーゼは最早我関せず、ユーニャに至っては全くついてこれてない。


「私も貴族院卒業後しばらくは冒険者としてやることがあるから、その間にカンファは商会立ち上げの準備かな?」

「そうだね。商会登録の目処は既に立っているからセシルの魔道具を揃えることと商会の拠点を作ることだが…それはこれから数年の間に考えるつもりだ」


 さすがに独立しようとしているだけあって着々と進めていたようだ。

 ちなみに商会登録は王宮の法務局へ届け出ることで可能になるけど、資本金だけで聖金貨一枚以上と登録手数料として王国に聖金貨二枚を納める必要がある。

 白金貨換算で三百枚、日本円で約三億円。とんでもない金額が動くことになるので法務局の法務大臣、商業部門長、工業部門長はかなり厳格な人間でなければ就くことが出来ないと言われている。勿論長い年月の経ったシステムなんて腐敗の温床になりやすいのでここも例外ではないけど、そのあたりも含め「目処が立った」と言っているのだと思う。


「私は別に商売をして稼ぎたいと思ってるわけじゃないから、やり方はカンファ達に任せるけど。ユーニャのことを蔑ろにしたら本気で怒るからね?」

「ユーニャさんを大切にしている限りセシルが味方でいてくれる保証を貰えたことに感謝するよ。ユーニャさん、しっかり勉強して下さいね」

「はっはい!頑張ります!」


 まぁでも…なんだかんだ言ってもカンファは私を裏切ることは無いと思ってる。

 私も彼の用意してくれる宝石を楽しみにしているし、持ちつ持たれつ良い関係を続けたいね。

 その後ユーニャの修行の件は一年後に改めて話すことにして、私達はカンファの案内でヴィンセント商会のお店を見て回った。

 調度品や美術品、高級な日用品やら希少な本、装飾品やドレスなど扱う商品は多岐に渡っているため時間はかかったものの三棟の建物全てを見終わる頃には四の鐘が鳴ってしばらくしてからだった。




「思ったより時間が掛かっちゃったね」


 すっかりペコペコになったお腹を抱えながら北大通りを歩きながらユーニャに話し掛けた。

 ヴィンセント商会では私の買い物以外にユーニャに一つだけプレゼントを買ってあげた。

 とは言ってもそんな大したものではなく、それなりに良質な万年筆のようなペン。インクも込みで金貨三枚。

 前世で働いていた時に営業の課長がいつもスーツの胸ポケットに高級な万年筆を入れていたのを思い出したからだ。

 何故そんなものをいつも持ち歩いているか聞くと「良い道具はこちらの格を上げてくれるアイテムだから」と良く分からないことを言っていたっけ。

 でもあんなものでユーニャの商人としての格が上がるなら安いものだ。胸に高級なペンを差し、重要な契約の時にはそっとそのペンを差し出されたら悪い気はしないと思う。

 何にせよ気休めなんだけどさ。


「私、今日はセシルとそのあたりのお店を見て回ってどこかの喫茶店にでも行こうと思ってたのに…」

「あははは…。でもユーニャだって私がいつも行くお店って言ってたでしょ?」

「そうだけど……それにいつの間にか勝手に私の見習い先まで決めて!」

「えぇぇ…早くから決まった方が楽でいいでしょ?」


 前世で就職するまでに面接を三十社近く受けたのはいい思い出だ……思い出すだけで頬を冷たい雫が流れそう。


「私だって頑張ってるのに……もう、ホントにセシルは理不尽だよねっ」


 怒って頬を膨らませたユーニャはプリプリしながら私に先行して歩みを進める。

 そんな子どもっぽい様子も大人になりかけているユーニャにはまだまだ似合う。


「あ、ユーニャ。ここっ、ここ曲がるよ」

「ここ…モンド商会の巡る大空の宿?」

「うん、この裏にあるお店に行くよ」


 戻ってきたユーニャの手を取ると私達は路地に入り込み、その奥目指して小走りで駆け出した。

今日もありがとうございました。

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