第145話 ユーニャとデート
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テーブルを飛び越えてクドーの肩を掴む私。
カップを持ったまま固まっているアイカ。
私に肩を掴まれたまま苦笑い以上に口角を震わせているクドー。
なんでこんなことになっているか。
それはクドーが宝石のカットが出来そうだったから!
そんな貴重な人材を逃すわけがない。
「お願い!宝石のカットしてほしいの!ね!いいでしょ?!」
「…宝石のカット…とは加工のことだろう?この世界でもそれをやってる人はいくらでもいるだろう?」
「この世界のカットじゃダメなの!クドーだってこの世界で武器作ってる人はいっぱいいるのにやってるじゃんか!」
「…武器造りは俺の全てだからな」
「私だって宝石が全てだよ!お願い!何でもするから!」
とそこで固まっていたアイカがようやく動き出した。
手にカップを持ったままなのは少し格好悪いけど。
「ま、まぁえぇやん。クドーもやってやればえぇやん」
「…あぁ…まぁ別に駄目とは言わないが…勿論条件は付けさせてもらうが」
「飲んだ!」
「早いわっ!」
鋭くアイカのツッコミが入るけど、それを無視してクドーから続けられる言葉を待っている。
何だろう?金?名誉?それとも私自身?!
「…頼むから俺をそんな猛獣みたいな目で見ないでくれ…」
「セシル、なんや結婚相手のおらん四十路の独身OLが若い新入社員見てるような目になってんで?」
「私前世でもそこまで生きてないからっ?!」
さすがに無視出来ないような話に私はついクドーから手を放してしまった。
その隙にクドーは私から逃れカウンターの奥へと引っ込んでしまった。
「いいか?俺は金とか名誉とか女とか言うつもりはないからな?」
「え…クドーってそっちの人?」
「そっちってなんだ…。俺が望むのは武器の材料となる素材の調達だ」
「…そんなことでいいの?」
クドーを放してしまった手をワキワキと動かしながらカウンターの奥に隠れるようにしているクドーを見つめた。
彼は動かしている私の手を見て何やらビクビクしてるけど、何なんだろう?
「武器を作る目的はさっき話した通りだが…」
「え。いやさっき話してもらったのは武器を作るのは自分の全てだってことくらいで…」
「それがクドーにとっては説明の全部なんやで」
えぇ…。相変わらず説明の足りない人だね。
きっといつかは話してくれるんだろうけど…ひょっとしたらアイカは知ってるのかもしれない。
会ってそんなに時間の経ってない私にはそこまで詳しく話す必要はないと思ってるのかもしれないし、私も聞き出そうとは思ってない。
それに今はそんなことはどうでもいい。
「セシルの持ってきたインゴットはどれも見事だった。オリハルコンやアダマンタイトは加工出来ずに残念だったが、それでもいつかは挑戦したい」
「…わかったよ。あちこち行ったときにはまた集めてくるよ。それ以外にももっとすごい加工が出来る工房も用意できればいいんだけど…」
「あぁ…それについては当てがあるからいい。その注文もこちらから指定させてもらう」
「飲んだ!」
「だから早いわっ!」
再びアイカからツッコミが入るけど、私はそれどころじゃない。
ようやく私の目的が叶う一歩手前まで来ているのだから。
その後私はクドーとお互いの要求の打ち合わせをして、ユーニャと約束の時間までお茶を楽しんだのだった。
ユーニャとの約束の時間の少し前、私は待ち合わせ場所に着いた。
王都中央にある石碑の前で三の鐘の前。
友だちとの待ち合わせというのも久しぶり。
先日までかかりきりだったユーニャのタコヤキを作る依頼はお仕事だったから置いておくとして。
ここは東西南北全ての大通りの中心になっているため人通りが非常に多い。王都の人口は約二十万人だけど、ここを通る人は全てが王都民というわけではなく外から入ってきた行商人もいるのでより一層賑やかになっている。
普通ならかなり時間に幅を持たせた待ち合わせをするべきなんだけど、私は探知を使いさえすればユーニャが今どのあたりにいるかわかるので実は結構余裕があったりする。
ちょうど今北大通りを南下しており後十分もすれば合流できるはずだ。
なるべく目につきやすい場所に移動しつつ、北大通りへと目を向けると遠くの方にユーニャの着ている紺色の制服がチラチラと見え始めた。
デザインは私のような貴族院従者クラスと同じ。生地はこちらの方が少しばかり上等だけどぱっと見た感じではどちらの学校に所属してあるかはわからない。
そしてユーニャも私に気付いたようで走ってこちらへと向かってきた。
「おまたせセシル!」
「おはようユーニャ。私もさっき来たとこだよ」
実際寮を出たのは結構前なんだけどここに来たのはさっきだから嘘は言ってないよね。
私達はどちらからということもなく歩き始めた。
行き先は特に決めてあるわけじゃないけど今日やることは決まってる。
「ユーニャはどこか行ってみたいお店とかあるの?」
「うーん…。特にないけど、普段一人じゃ入れないようなお店に行ってみたいかな?」
ユーニャは人差し指を顎に当てて考える仕草をすると苦笑いと共にそんなことを言う。
そんな困った顔を浮かべてしまうようなお店なのかな?
「一人じゃ入れないお店?」
「うん、ほら大店とか貴族様御用達とかだと私達平民には敷居が高いじゃない?」
「あぁ…」
一応モンド商会もクアバーデス家御用達なんだけどね?
かと言ってここ王都には宿はあるけどモンド商会の店はない。
となると私が連れていけるところは一つしかない。
「じゃあ私がよく行くお店に行ってみよっか」
「うん。どこかは知らないけどセシルがよく行くなら私も安心かな」
ユーニャは私の右手を取ると歩幅を合わせて歩き出した。
うん、ユーニャの方が背が高いから歩幅は私より大きいんだよ。普通に歩く分だと私より彼女の方が速い。
とは言え、案内してるのは私なのでユーニャと話しながら北大通りをゆっくりと進んで行く。
目指すヴィンセント商会まではここから十五分くらいだ。
「ここだよ、私がよく行くお店」
「…ここって…?」
隣で戦慄きながら目の前の大きな建物を見つめるユーニャ。
ヴィンセント商会は表からだと大きな建物が三つ見えるのだけど、どれも一つ一つが並みの大店一つくらいはある。
奥に居住用兼貴族などの大きな取引をするための建物もある。私が行ってるのもその奥の建物だ。
手前にある建物の前には貴族の屋敷さながらの庭園もあり、普通の客はここに来るだけでも大きなステータスになることは間違いない。
戸惑っているユーニャの手を引いてヴィンセント商会の真ん中の建物に入るといつも通り受付が私に声を掛けてきた。
「セシル様、いらっしゃいませ」
「こんにちは。カンファさんいますか?」
「はい、確認して参りますのでどうぞこちらへ」
「うん、お願いします」
私達は受付に案内されていつもの商談部屋へと通された。
毎回宝石の買い付けをする時はこの部屋に通されるので今では勝手知ったるなんとやら。
「どうぞ」と扉を開けて中に通されると私はいつも通りソファーに座って寛ぐことにした。
「ね、ねぇセシル…。そんなところに座ったらまずいんじゃないの?」
「いつものことだから大丈夫だよ。それよりユーニャこそ座ったら?」
「いっ!いいっ!私は立って待ってるからっ!」
少しばかり顔色を悪くしたユーニャは私が座っているソファーの横に立ったまま落ち着きなく身体をモジモジしながらカンファが来るのを待っている。
この部屋の中にはいくつもの調度品があるので下手に動いて壊したりしないようにしているのだろうけど、実際手に取って見てみたいのだろうか。あちこちに視線を向けては「ふわぁ」と感嘆の声を漏らしている。
そんなに気になるなら触ってみればいいのに。
ここにあるのはせいぜい白金貨一枚程度のものだし、一番高いランプでも確か十枚くらいと聞いた気がする。
とは言え、ユーニャを脅かしてもかわいそうなので黙って見守ることにした。
しばらく挙動不審なユーニャを眺めていたところへようやく待ち人はやってきた。
ガチャ
「やぁ、待たせたねセシル。…って今日は一人じゃないのか?」
「珍しいわね。…っていうか座ったら?」
カンファとベルーゼが一緒にやってきてソファーに座ったところでユーニャへと視線を走らせた。
いっつも私しか来ないし、そりゃそういう反応するよね。
「彼女はユーニャ。私の子どもの頃からの親友なの」
二人に紹介すると同時にユーニャは慌てて頭を下げて挨拶した。
「…アンタ今も子どもでしょ…」
「へぇ…セシルの親友か」
「ユーニャをおかしな目で見ないでくれる?」
なんか私に関わってる人はみんなおかしいような言い方しないでほしいんだけど。
というかここに人を連れてきたのは初めてなんだし何を言ってるんだろ?
でもカンファのことだから私のことはとっくに調べているだろうけどね。なので本当はユーニャのことも知ってはいるんじゃないかな?
「ははっ、それは失礼した。はじめましてユーニャさん。私はヴィンセント商会のカンファと言う。よろしくね」
「アタシはカンファの姉でベルーゼよ。それにしてもセシルがここに友だち連れてくるなんてどういう風の吹き回し?ウチは子どもの遊び場じゃないのよ?」
ベルーゼが呆れたような顔で溜め息と共に苦言を吐き出してくる。
もちろん私も遊びに来ているわけじゃない。
「ユーニャは商人志望なのよ。だから大店を見せてあげたかったの。ついでに私の買い物もしようかなってね」
「セシル…か、買い物って…。ヴィンセント商会ってすごい高級品を扱うお店だって…」
買い物という言葉に反応したユーニャは未だに青い顔で震えながら私を止めようとしてくる。
でもよく来る店って言ってたのになぁ。
「大丈夫だよ。ねぇカンファ、誰かに店の中の案内ってお願いできないかな?」
「案内程度なら構わないけど…」
「うっ、ううん!私ここでセシルの買い物見たい!」
え…。
私の心情が思いっきり顔に出ていたのかユーニャが不安そうな目で見返してくる。
駄目とは言わないけど…見ていて楽しいものじゃないと思うけどなぁ?
「ユーニャさん、セシルの買い物を見たら価値観やセシルを見る目が変わってしまうかもしれないからあまりお勧めしないよ?」
「いいの!セシルは商人志望の私よりいろんなこと知ってるし、これも勉強になるからっ」
ユーニャにそう言われたら反対なんてできるはずもないのでやれやれと思いながらも私はユーニャを今度こそ隣に座らせた。
今日もありがとうございました!




