第143話 クドー
体調崩して寝てました。
新型に罹ったわけじゃありませんので。
自らの名前をクドーと名乗った男性は私の入れたお茶…しかも熱操作でかなり冷ましたもの…を美味しそうに啜りながら一息ついている。
続きがあるかと思いきや、それ以降全く口を開かない。
しかし長身でイケメンなんだけどカップを両手で持って啜る姿がやたら幼く見えて可愛いな。
「…ねぇ、アイカ?」
「…クドーはこういうやっちゃ。それでもセシルはかなり気に入られてる方やで?」
「…これで?」
私の問い掛けに首肯するとアイカもカップに入ったお茶を一口飲んだ。
「とは言え…もうちょい話すことあるやろ?」
「…特にない。俺お茶飲んだら作業戻っていいか?」
「今度は何やっとん?」
「質の良い鉄鉱石選んでる。もっといい鉄見つけないといい武器作れない」
「はぁ…ようやるわ…」
クドーさんはどうやら武器職人…鍛冶屋のようだ。
うん?そう言えば。
「ねぇ、アイカ。前に短剣貰ったことあったけどあれってもしかして?」
「んー?あぁせやせや。それはこのクドーが作ったやつやで。失敗作とか言うとったんやけどね」
「十分使わせてもらったよ。この前ちょっと強い魔物と戦った時に折れちゃったけどね」
折れた、という言葉にクドーさんは反応して今まで目の前のカップしか見ていなかったのに跳ね上がるように顔を上げると私の方をじっと見てきた。
嫌な視線ではないけど値踏みされているような、全身をくまなく見られている気はする。
男の人にこういう目を向けられるのは前世振りだ。
当時は外見に自信もなかったし、結局死ぬまで彼氏が出来ることもなかったけど。
「…あの?」
「お前、俺の作った剣折ったのか?」
「えっと…はい。ごめんなさい。殺されるかもしれないと思って必死に戦ったから…」
「作ったものはいつか壊れる。それはいい。前にアイカが持っていったのが三年前だからそれだけ使っていたんだろ?」
「はい、ちゃんと教えて貰った手入れをしながら大事に使ってたんだけど…全力で戦ったら耐えきれなかったみたいで…」
「セシルもうちらと同じなんやし、特別な能力の一つや二つあるやろ。なんならクドーが新しく作ったればえぇやん」
さっきまで私と話していたようにケラケラと笑いながら椅子の背もたれに寄りかかりながらアイカは言う。
けどいくら本人が失敗作扱いしてたとは言え、自分の作ったものを壊す相手にそう簡単に新しく作ってくれるなんてことは…。
「いいぞ」
「え?いいの?」
「えぇやん。クドーがやる気になるなんて珍しいんやし、気が変わらんうちにやってもらえばえぇよ」
クドーさんはカップを置いたかと思うとすぐに立ち上がった。
まるで今にも仕事に取りかかりそうな勢いだ。
ってちょっと待って。
「えっと作るのは短剣でお願いします。前に貰ったこれと同じくらいのやつで」
私は腰ベルトから鞘に入れた折れた短剣を取り出してテーブルに置いた。
一応収まってはいるものの、鞘の中では半分くらいに折れた短剣だけが入っている。
折れてしまった先端部は回収出来ずに森の中に置いてきてしまった。
「あぁ…これか。アイカに貰った鉄で試作した剣だな」
「うちの錬金術で作ったやつやな。結局これ以来使うてないやん」
「あれも悪くはない。でもなんか違う」
「『何か』ってなんやねん?」
「わからん、何か、だ」
というか会話が噛み合ってる感じしないけど、よくこの二人一緒にいられるね。
お互いあまり気にしないタイプなのかもしれない。
クドーさんはちょっと独特で嫌な感じはしないのに、一緒にいると疲れそう。
多分言葉が足りない部分があるからだと思う。
かと言って説明を求めても感覚的なことしか言わないから尚更相手も困ってしまうわけか。
とりあえず私はタダで剣を作ってもらうのも悪いのでテーブルの上に腰ベルトからいくつかのインゴットを取り出した。
一つ一つが短剣一本分はあるのでそれなりの重量になってしまい、一本の足で支えているこの小さなテーブルでは強度的に不安になる。
「これ使ってみて下さい」
「これは…?」
「鉄とか銅とかいろんな金属をいくつか用意してみたからクドーさんの思うままに作ってみてください」
「……お前、面白い奴だな」
「…そうかな?」
「あぁ」
「せやな」
なんでそこでアイカまで同調するのよ。
「折角だ、少し時間をくれ。セシルに合う剣を作ってやる」
「はい、しばらくは大丈夫だと思うのでクドーさんにお任せします」
「クドーだ」
「はい?」
任せる、と言ったのにその返事が名前?
私言い間違えてないよね?
目線だけをアイカの方へ向けるも彼女は私が出したインゴットを手に何やらうんうん唸っている。
自分の錬金術で作ったものと比べてるのかもしれない。
彼女の錬金術スキルがどの程度なのかは知らないけど、私のような神の祝福と言う名のチート能力を何かしら持ってるだろうから普通では済まないようなものが出来上がるのかもしれない。
しかし彼女と意思疎通をしたかったのだが、目の前のインゴットを見て唸ってるだけでこっちをチラリとも見ようとしない。
「えっと?」
「俺のことはクドーと呼び捨ててくれていい。俺もセシルと呼ぶ」
「あぁ、そういうこと…」
やっぱり言葉が足りない人だ。
これまでもいろんな誤解を生みながら生きてきたのかもしれない。
本人はあんまり気にしてる様子が無さそうなのは幸いだけどね。
「けど、今すぐは無理だ。一週間もあればセシルが納得出来る物を作ってみせる」
「うん、私もそろそろ貴族院の主人のところに帰らないといけないからね。そのインゴットは預けておくから好きに使っちゃって」
「わかった」
「アイカも。また遊びに来るね」
「えぇよー。ここは二十四時間営業やさかい、セシルが来たい思った時に来たらえぇねん。勿論、うちらも出掛けておらんことだってあるけどな」
手にしていたインゴットを置いてヒラヒラを手を振るとそれが別れの挨拶のようだ。
私も手を上げると、そのまま入口のドアへと足を向ける。
時刻はもうすぐ二の鐘が鳴る。さすがにそろそろ戻っておかないと今日の講義に支障が出る。
「セシル」
「うん?何、アイカ」
「…なんでもあらへん。またなー」
「うん、またね。クドーもまたね」
「あぁ、楽しみにしていろ」
手に持ったインゴットを擦りながら、こちらには全く視線を寄越さない彼に嘆息と苦笑いをプレゼントして私はドアを開けた。
ここは裏通りみたいなものだから朝でもあまり日が差さない。
それでも来たときと違って周囲は薄暗くても見渡せるようになっていたので、本格的に時間がやばそうだ。
普通に走って帰っては間に合わない可能性もあるので、仕方なくベオファウムでたまにやっていた方法を使うことにする。
足に力を入れて飛び上がり、近くの建物の屋根へと降り立つ。そのまま足元に理力魔法で足場を作ると次々に屋根を渡っていく。
足場を作らないと簡単に屋根を踏み抜いてしまうので、手間でも理力魔法の足場は重要だ。
ベオファウムでは何度かうっかり屋根をぶち抜いてしまった家がある。やってしまった家にはぶち抜いた穴から金貨を落としておいたので修理費には足りてるだろう。
一時期「金貨が屋根を貫いて降ってくる現象」とか変な噂が立ったときには自重したけどさ。
そんなことを思い出してる内に貴族院の門の近くまでやってきたので、屋根から路地裏に降り門まで走っていくと出るときにもいた衛兵が私を見つけてくれた。
「お、夜遊び少女。おかえり。そろそろ戻らないと朝食を食いっぱぐれるぞ」
「よ、夜遊びじゃないよ。でも急いでるからそれじゃ!」
特に弁明などもすることは無く、私は衛兵の前を通り過ぎた。
実際本当に急いでいるので彼に構ってる暇なんてない。
なんとか二の鐘が鳴る前に部屋に辿り着いた私は呼吸を整えることもなくドアノブに手を掛けた。
中ではリードが既に起きてリビングで寛いでいるのがわかる。
ガチャ
「うん?…なんでセシルが外からやってくるんだ?」
「あー、ちょっとね。それより朝食の時間でしょう?食堂に行こう」
「そうだな。……とりあえず細かいことは後で聞かせてもらおう」
「…うぐ…」
リードの後ろを歩き出したところでそんなことを言われた。
後ろ向きのまま話すなんて前はそんなことしなかった癖に最近妙に主人らしいところが出てきたね。
惚れる要素ではないのが残念かもしれないけどね。
それに、どうせ詳しく話すことも出来ないんだし適当な理由を今のうちから考えておく必要がありそうだ。
しかし…今になって眠気が出てきた。
今日の講義は眠気との戦いになりそうだなぁとぼんやり窓の外を眺めるのだった。
それからの一週間はいつも通りに過ごしただけでこれといった出来事はなかった。
さすがに毎日一の鐘に出掛けてアイカの店に行く気にもなれないし、ユーニャも国民学校の宿舎に入ってる以上は会うこともない。
そんなわけで日常は全くのいつも通り、リードのお世話をしつつ講義や訓練をこなしつつ、研究会でミルルと勉強したりお茶したり。
時間が空いた時にミオラやカイザックと一緒に実践的な訓練をしていたくらいだろう。
そうそう、ミオラは小剣を教えて貰っているようで最近槍ではなくレイピアを使うことが増えてきた。
今後もっと訓練すれば良い使い手になるだろうね。カイザックも片手剣の扱いが様になってきたし、卒業するまでには騎士として格好がつくくらいにはなると思う。
さて、今日はようやく訪れた土の日。
約束通りアイカとユーニャに会いに行かなきゃね!
今日もありがとうございました。




