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第140話 発表会終了

 あの後、かなりの忙しさだった。

 まず行列が伸びないように対処したのは良かったけど、今も並んでいる人に対して一緒に注文するように依頼する人が出てきてしまったのは予想外だった。

 途中でやたらに注文数が多い人が続くなと思っていたら行列を見ていた商人科の生徒からの報告で発覚。

 人員整理班にそれも注意して対処するようユーニャが指示したら今度は転売する人まで現れた。

 近いうちに王都内でタコヤキを売る店が出てくる予定だと宣伝することで転売屋についても対処出来た。

 ここは商人科の学生が学校で勉強するために必要な予算を稼ぐ場でしかないので、実際に店を開くのはモンド商会になるだろうけど…それはその時になってみないとわからないので触れていない。

 あとはただひたすらにタコヤキを作り続けるマシーンと化していた。

 ちなみにババンゴーア様とは再会を済ませて寮に戻ってもらうよう伝えておいた。




カーン カーン カーン カーン カーン


 乾いた、しかし大きな鐘の音が五つ鳴り響いた。

 この鐘の音は町で鳴っている鐘と同じ時間に鳴るのでこれが五の鐘であることは間違いない。

 タコヤキの屋台は三十分ほど前から既に稼働を終えていて、今は完全に体力を使い果たした焼き役の生徒達と案内や人員整理等を担当していた生徒達が地面に座り込んでいる。


「「「終わったーーーーっ!」」」


 鐘の音が鳴り終わると同時に生徒達は皆手を突き上げて今日の発表会を乗り切ったことを喜んでいた。

 私も体力はまだ平気だったけど、彼等の頑張りをすぐ側で見ていた身として賞賛の拍手を送る。

 パチパチと私が拍手し始めると、周りもそれに合わせて全員で全員を讃えるように拍手が巻き起こる。

 本当に皆よく頑張ったと思う。

 そしてお金の集計が終わったユーニャが戻ってくると商人科二年次の生徒達はさっきまで騒いでいたのにピタリと声や拍手を止めて歩いてやってきた彼女へと視線を集めた。


「みんなお疲れ様でした!売上の集計が出たので報告します!今日の発表会、商人科二年次タコヤキ屋の売上は…」


 みんなのゴクリという唾を飲む音が聞こえそうなほどに緊張感が周囲を支配している。


「銀貨三百飛んで八枚でした!」

「おおぉぉぉぉっ!」

「やったーーーー!目標達成だぁっ!」


 まるで甲子園で優勝した球児達のように集まって皆が皆を讃え合う。

 素晴らしい光景だと思う。

 そしてその中心にいるユーニャ。

 彼女は私を誇りに思うと言ってくれたけど、私こそ貴女のことを誇りに思うよ。頑張ったね、ユーニャ。

 その後発表会の終了式があるということで私も一度国民学校から出てモンド商会の経営する宿「巡る大空の宿」へと一足先に行くことに。

 入学試験の際には私も泊まったけど、高級志向でかなり稼いでいる冒険者や実入りの良い商人向け、もしくは貴族相手の宿だからユーニャが気後れしないようにと同行することにしていた。

 あの子なら大丈夫だとは思うけど最初くらいはいろいろついて行ってあげたい。

 今後は一人で、または学校の仲間とやることになるだろうけどね。

 私が巡る大空の宿に着くとブリーチさんは宿の前で待っていてくれた。


「やぁセシルさん。先程はありがとうございました」

「ブリーチさん。こちらこそありがとうございました。こんな小娘のお出迎えですか?」

「小娘とは…。セシルさん相手にそんなこと言えるはずないでしょ。それこそリードルディ様経由でクアバーデス侯の耳にでも入ったら大変だ」


 うん?ということは私がクアバーデス侯爵に仕えているから今回の話は成り立ったということなのかな?

 そう思っていることが顔に出ていたのか、ブリーチさんは慌てた様子で両手を振った。


「今回の件はクアバーデス侯は関係ないよ。そんな訝しげな顔をしなくてもちゃんとお互いに益のある話として受けさせてもらったからね」

「…それなら良かった。身贔屓に聞こえるかもしれないけど、ユーニャはきっと良い商人になると思うの。だからいろいろ教えてあげてくれると嬉しい」

「そうだね。彼女は良い商人になると思うよ。女性であることが悔やまれるくらいにね」


 この世界は男尊女卑の傾向が強くあり女性の進出を快く思わない人が大勢いることは知ってる。

 私だって冒険者として身を立てているけど「女のくせに」とか「小便臭いガキ」とかたまに言われているのもわかってる。

 いちいちそういうことを言う連中の相手をしているのも面倒なので自分の功績で口を塞がせることにしている。

 勿論直接言ってきてくれる親切な大人には相応の対応をしているけども。


「彼女がセシルさんの友だちであることが知られると貴女に対する人質になることも考えられるから、今後は注意してあげた方がいいね。良からぬことを考える輩なんていくらでもいるんだから」

「…ふふ、もしユーニャに何かしたらその人達には生まれてきたことを後悔させてあげなきゃいけないね」


 ブリーチさんの一言にいきなりトップギアで切れそうになってしまった。

 かなり強い威圧を周囲に撒き散らしてしまい、北通りで歩いている人は少ないとは言え何人かはその場で硬直してしまっている。


「真っ当な商談や取引でユーニャが損をすることくらいはあるだろうけど、暴力でなんとかしようとする相手には私が本気で潰すつもりだよ」

「わ、わかってる。ちゅ、忠告のつもりで…」


 当然のことながらブリーチさんでは私の威圧に耐えられるわけもなく、震える膝もそのままに青い顔で両手の平をこちらに向けて自分には敵意がないことを示してくれた。

 それを見て私も威圧を解除すると彼に対してニッコリと微笑んだ。


「…やっぱりセシルさんには敵わないなぁ…」

「別にブリーチさんを脅してるわけじゃないよ?」

「わかってるよ。こんなに可愛い女の子なのにお金も力も通用しない。あと可能性があるとしたら権力くらいかな?」

「ふふ、どうでしょう?私だっていつも正面から勝負するとは限らないんだからね」

「…理不尽な…」

「何か?」

「いーや、何も。おや?あれユーニャさんじゃない?」


 ブリーチさんの言ったことは気になるけど、指差す方向を見るとユーニャが真っ直ぐこちらに駆けてくるのが見えた。

 とりあえず雑談はここまででとっとと契約を済ませてしまった方が良さそうだ。


 その後ユーニャも交えてブリーチさんと先程の内容で魔法契約書を用いた契約を行った。

 契約を行った部屋は私とリードが泊まったような部屋ではなく、もう少し一般人向けに調度品のグレードも下がったものだった。さすがに貴族と取引するわけではないのだし妥当と言えばそれまでだけどちょっと残念かな?

 でも、これからユーニャも私ももっと稼いでもっと良い部屋で契約出来るような人にならなきゃね!

 ちなみにいざ契約という段になって何かしら言ってくるかなとも思っていたけどそれは杞憂に終わり、変更も質問も無いまま滞りなく契約は終了した。

 ブリーチさんには私から魔法の鞄と氷魔法を付与した魔石、それとマズの港湾組合への紹介状を書いてあげた。

 私からの紹介で更に捨てるはずのタコが売れるとなれば彼等も無碍にしたりしないと思う。

 あとはブリーチさんの手腕次第だ。

 契約書には事業がうまくいかなかったとしてもリース料は払う旨を記載したのでどちらに転んでもユーニャのところには毎月そこそこのお金が入ってくることになるので安心出来る。

 ちなみにリース品の買取は契約に盛り込まなかったので期間終了時に買い取りたいと言われた場合のみ相談に応じるつもりだ。

 巡る大空の宿の入り口までブリーチさんは見送ってくれ、私達は建物を後にした。


「うまくいってよかったね」

「うんっ!全部セシルのおかげだよ。本当にありがとう」

「私は依頼通りの物を用意しただけだよ。クラスの皆をまとめたのも、ブリーチさんとの契約もユーニャがしたことじゃない?」

「それでも、お礼を言いたいから。何度でも」


 街灯に揺れるユーニャの横顔はすっきりした笑顔が浮かんでいて、それだけでも依頼の報酬になりそうだった。

 とはいえ。


「じゃあしっかりお礼はもらうからね?」

「お礼って…報酬のこと?確か『一緒に食事。代金セシル持ち』だったっけ?」

「そうそう。来週の土の日は開けておいてね?絶対に付き合ってもらうから」

「ふふ、そんなこと言わなくてもセシルからのお誘いだったら断らないのに」


 二人して笑いながら帰路についていると国民学校との別れ道に着いた。

 北通り途中で私は東側の貴族院の寮へ。ユーニャは国民学校の宿舎へ。

 街灯は点いているものの、今はまだ夏前。六の鐘の前ならまだ薄暗い程度でしかないので私はユーニャに向かって右手を上げた。


「じゃあねユーニャ」

「うん、また来週。おやすみ、セシル」


 そのまま私達は別れてお互いの目的地へと足を進めた。

 その途中で私は足を止めて振り返るとユーニャはそんな私に気付くわけもなく歩き続けていた。

 念のためユーニャが国民学校宿舎へ入るまで探知スキルで見ていると、彼女が他の反応が多くある建物に入ったことを確認出来た。

 それに安心した私は貴族院の門へと駆け出した。

 部屋に着いた時には既に六の鐘直前で急いで部屋着に着替えると自室からリードも出てきていた。


「戻ったか。うまくいったのか?」

「うん、お陰様でね」

「僕達は結局あまり役には立たなかったがな」


 自嘲気味な苦笑いを浮かべるリード。

 でもその原因となったのは言うまでもなくあの三人だ。


「あー…。というかそもそも領主様が来るとは思わなかったよ。リードも知らなかったんだよね?」

「無論だ。知っていたらちゃんとセシルに伝えている」

「そうだよねぇ…。わざわざタコヤキを食べに王都に来た、と思う?」


 私が訪ねるとリードは少し考える素振りを見せた後に目を閉じて首を振る。


「その可能性もある。次期ベルギリウス公爵は王都にいるからそちらも可能性はある。だがゴルドオード侯爵は明らかにおかしいだろうな。かの領地はローヤヨック伯爵領の更に北にある。ここまで並みの馬なら十日はかかる」

「そう、だね。それだけのために来るなんてよほどの食道楽と思いたいけど、そういう人じゃないもんね」


 あの人は食事よりも戦闘を楽しむ生粋の戦闘好きだ。バトルマニアとも言う。


「だとすれば先だってセシルへの礼だと集まった時の続きだろう。何を企んでいるかはわからんが、今は動きようがない。セシルも警戒だけはしておいてくれ」

「うん、わかった」


 でも私についてのことを話していると思うから、よほどのことがなければ私にとっては悪いことにはならないと思うんだよね。

 とは言え、相手は貴族だし本気になったらどんなことをしてくるかわからない。

 リードに言われた通り、警戒だけはしておくことにしよう。

今日もありがとうございました。

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