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第137話 どこかで見た商人

 小綺麗な格好をしているものの決して貴族ではない。

 貴族独特の偉そうな感じはない。

 大手の商会か?

 いや彼等は貴族というより場合によってそれ以上にプライドが高くこんなところへやってくるとは思えない。

 ヤイファがいい例というものだ。

 その綺麗な服を着た青年はタコヤキを受け取ると一つ口に運びその味を確かめている。

 そして目を見開いたかと思うと立て続けに二個三個と食べ進めて、残り三個になった時点で手を止めた。

 そして屋台から離れたところでブツブツと何かを呟きながらタコヤキとお店をじっと観察しだした。

 折角なので知覚限界を使ってその呟きを聞いてみることにしよう。


「この中の具は今まで食べたことのない味だ。私が手を出せない高級食材か?いや、それならこの金額で売りに出せるはずがない。わからない…まさか本当にクラーケンを使っているとでも言うのか。それにこの店もどうだ?新作料理と謳っているのに調理しているところを隠そうともしない。真似出来るものならしてみろということか?なるほど…たしかに中の具の正体がわからなければ真似のしようがない。しかし他の食材を使ってしまえばなんとでも…。それなら原価を十分に抑えた上で同じ銀貨一枚の販売でも十分利益は出るか…。いや待てよ?そもそもこの二種類のソースはどうやって作っているのだ?わからないことだらけだ…」


 あぁうん。ガチな人だった。

 というかどこかで見たことあるような人なんだけど気のせいかな?


「ねぇセシル。あの人なんか変じゃない?」

「そう?あれはあれで正しい商人の形だと思うよ。売れている理由を仮説と考察を繰り返しながら導き出そうとしてるんじゃないかな」

「え…でもなんか一人でブツブツ言ってるだけじゃない?」


 …そういえば知覚限界を使ってるんだった。

 うっかりスキルを使うのが当たり前の生活になってて村にいたときみたいに普通の人の振りをしていなかった。

 でも今更よね。


「そういうスタイルなんじゃないかな?あぁやって一人でブツブツ言いながら最も正解に近い仮説を出そうとしてる」

「最も正解に近い仮説?」

「だって本当の正解は私達に聞かないとわからないけど、彼は自分でもこの商売を成り立たせるにはどうしたらいいかを考えてるんだよ。つまり?」

「…そっか。これがチャンスってやつだね!」


 この仕事を受けた時にユーニャに話していたことがある。

 多分その日の売上だけでも今後の講義を進めるための予算は産み出せるだろう。

 でも商売に失敗は付き物。ならばその失敗した時にどうするか。

 普通の商人なら一からやり直しなんてことも考えるだろう。

 でもそれだと学校にいる間の講義としては不十分だと思う。

 それなら今回稼いだお金とは別の方法でお金を生み出し続けるシステムを作っておけばやり直しの時間は大幅に減らすことができる。

 元々ある程度の資産があれば別だけど彼等はそうじゃないしね。余剰金は商会の体力、事業継続のためのお金は常に余裕を持っておきたい。

 というかこういうのって学校で習うと思うんだけど?


「ユーニャは商人科の代表として彼に接触。より良い条件を引き出して継続的にお金を産み出す仕組みを手に入れるんだよ」

「うん…うぅん、はいっ!頑張ります!」


 おぉ、ユーニャがやる気だ。

 私は彼女の瞳に炎の揺らめきを見たよ。

 「頑張って」と声を掛けるとユーニャは例のブツブツ言い続けている青年に接触すべく近付いていった。


「あの…」

「うん、いける。だが問題は原材料の特定と輸送の問題か。海からここまで魚介類を腐らせずに運ぶ方法…」

「あのっ!」

「そんなものが…っと、あぁすまない。考え事をしていたよ。どうかしましたか?」


 声を掛けられたにも拘わらず 掛けられても青年は考え事に没頭していてなかなか反応してくれなかった。

 なんかあの態度、やっぱりどこかで?


「わ、私国民学校商人科二年次のユーニャと言います!少しお話よろしいでしょうか」

「これはご丁寧に…。私は王都とクアバーデス侯爵領で商売をしていますブリーチと言います」


 ブリーチ?しかもクアバーデス侯爵領って……あ!

 頭の中でもやもやしていた物が一気にクリアになっていく。


「ブリーチさん!」

「え?…あぁぁぁぁっ!セシルさん!」


 それは以前村からベオファウムに戻る時、ゴブリンの群れに襲われていたところを助けた行商人ブリーチ・モンドさん。モンド商会の跡取りだ。

 そしてユーニャの商談をぶち壊しにした瞬間でした。




「なるほど…相変わらずセシルさんは子どもとは思えないねぇ…」

「相変わらずって…いやまぁそうかもしれないけど」

「それに王都にいるんだったらモンド商会に顔を出してくれても良かったのに…」

「あははは…忘れてました」


 会うのは二回目だというのに以前一緒に移動したときにかなり話し込んだこともありすっかり話が弾んでしまっていた。

 私の横では勢いをつけて突撃したつもりがこんなことになってやり場のないやる気を持て余しているユーニャが膨れっ面で様子を窺っている。

 いい加減ユーニャに仕事をさせないと。


「それでブリーチさん、この子なんだけど」

「あぁ、さっき私に話し掛けてくれた子だね」

「ちょっと話を聞いてあげてほしいの。…ちゃんとした商売の話だからね?」

「ふむ…。他ならぬ命の恩人であるセシルさんの言うことだし、私としてもなんとかしてあげたいが…商売となれば話は別だよ?」

「勿論。ユーニャの勉強にもなるし、普段の商談と同じように話して構わないよ」


 私はそれだけ言うと隣にいたユーニャの腕を引っ張ってブリーチさんの前に立たせた。突然話が切り替わったせいもありユーニャはまだ心の準備が出来ていなさそう。

 でもお金になる話が突然降ってくることだってあるのだしこれも練習と思ってもらおう。


「では…ユーニャさん、でしたか。私とどのような商談なのでしょうか?」

「はい、今回のこの『タコヤキ』についてです。ブリーチさんも気にしてらしたので興味はおありですよね?」

「えぇ、こんな料理初めて食べましたよ」


 話し始めてしまえばちゃんと商人科の講義を受けているユーニャもしっかりポイントを抑えた説明をしつつ、商品がいかに魅力的なのかもぐいぐいと押していく。

 他では出回っていないレシピ、見たことも食べたこともない料理であることは希少価値という面でも十分。

 そこにきてソースとマヨネーズのレシピまでついてくる。

 この二つは他の料理に使っても十分に美味しいけどクアバーデス家のモースさんには作り方を教えているので誰も食べたことのないとは言えない。

 そのあたりは不利になったとしてもしっかりと説明していく。


「なるほど…しかもこの料理はどこでも食べられるからちゃんとした店を構えなくても良いという利点もあるわけですか」

「はい。ここで使っているのも普通の家庭用調理道具だけです。作るための鉄板は用意しましたが、それは見ていただいたとおり作るのは難しくないかと」


 いや…実はそれ私が魔人化を使って無理矢理鉄板を窪ませて作ったんだよ?

 あぁでもちゃんとした職人に頼めばもっと良いものが出来るかもね。今回は予算も限られていたから私の持ち出しがそこそこあるんだよ。


「確かに、これで君の言う通りの原価ならかなりの儲けを産むことが出来るだろうね」

「でしたら…」

「でも、二つ大事なことがあるよ。中に入っていたクラーケンは脅威度Aの魔物だろう?そんなものが頻繁に水揚げされるとは思えない。どうやったか知らないけど、それをここまで運ぶ方法もだよ。ミミット子爵領のマズから持ってきた?あそこから王都までは片道七日はかかる。魚介類はすぐに腐ってしまうだろ?」

「…っ…それは…」


 チラチラとユーニャが私に視線を送ってくる。

 確かに原材料は私の能力があればこそ調達出来たものだから普通の人はここに持ってくる前に腐らせてしまう。

 この発表会の日までにユーニャが気付いてくれたら説明するつもりだったけど、彼女は今日までそのことを私に尋ねたりしなかったから当然何も伝えてない。

 ユーニャではここまで、かな。

 でも私の話はここからだよ。


「ブリーチさん、話の途中からごめんなさい」

「セシルさん、良い話なのはわかったけどちょっと現実味の無い話だったね」

「ふふ、ブリーチさん?商会の跡取りなのに情報が足りてないんじゃない?」

「え?それはどういうことだい?」


 突然割って入ってきた私に二人とも驚いているけど、私は気にせず話を進めた。


「確かに今回使ったのはクラーケンだけど、マズでは『クラーケンの子ども』って言われてる生き物がいつも水揚げされているんだよ」

「…それは初耳だね…。どこでそんなことを?」

「この前まで私自身がマズに行ってたからだよ。短い休みの間にどうやって、とかは聞かないでね?」

「…今更セシルさんの規格外な能力については言及しないけど、なるほど…それなら納得出来る」

「つまりマズに行けばその食材はいつでも手に入るんだよ。しかも見た目が不気味だからって漁師さん達はみんな捨ててるし、タダ同然の価格でね」

「っ!それは本当かい?!」


 よし、食いついた。

 私は隣にいるユーニャに笑いかけた。彼女は自分の力だけで商談を成立させることが出来なかったからかはにかむように苦笑いを浮かべただけだったが。


「これで一つは解決したよね?」

「そう、だね。確かに仕入れ値がタダ同然ならいくらでも儲ける方法はあるからね。でももう一つ、輸送の方はそう簡単にはいかないんじゃないかい?」

「まぁ…普通そうだね。じゃあ私はどうやって持ってきたと思う?」

「……どんでもなく速い馬で昼夜問わず飛ばしてきた、というわけではないということかい?」

「でも…そんな方法なんて……あ…ひょっとして…?」


 隣にいたユーニャもいつの間にか考えていたようだ。そしてその答えにも気付いた。

 ユーニャは私が村でいろいろと実験していたのを知っているし、あれからもっとトンデモ能力になっていることもわかっている。


「ということで、はいこちら!」


 たっぷり興味を持たせたところで私は普通の袋から例の物を取り出した。

今日もありがとうございました。

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