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第127話 マズの依頼完了

「はぁぁぁぁ…幸せぇ…」


 エビの甘く蕩ける味。

 イカの歯応えと透き通るような甘み。

 そして食べ応えのあるカニの身と濃厚すぎるカニミソ。

 そして味わいはタコでしかないクラーケン。一噛みするごとに懐かしい記憶が蘇っていくような、そんな錯覚すら覚えるお刺身だった。


「…俺達も漁師としていろんな魚は食ってきたけど、セシルちゃんみたいにゲテモノに手を出そうなんて思ったことはねぇなぁ」

「あぁ。しかしほんと美味そうに食うな。ひょっとしたら本当にうまいんじゃないか?」

「あれを食うのか?お、俺はごめんだぜ?」


 人が美味しく食べてる横で漁師さん達がとても失礼な話をしている。

 そんなことを言ってたら前世の日本人なんてみんながみんなゲテモノ食いってことになるじゃないの。


「いらないなら今回の獲物を貰っていきたいんだけどいいかな?」

「そりゃ構わねえけどどうやって…ってあぁ、セシルちゃんなら大丈夫か」


 …なんだろう?このすごく疎外感のある視線は。

 理不尽でもなんでも折角の美味しい魚介類なんだから是非とも持って帰りたい。

 私は了承を得られたとしてクラーケンとエビやカニ、イカをごっそりと持って帰ることにした。


「それはそうとクラーケンの後に襲ってきた大型の魔物はどうなったの?」

「あぁ、シーサーペントか。アレは高級食材として人気があるからいくらセシルちゃんでも全部はあげられねぇな」

「ふぅん…美味しいの?」

「勿論さっ。セシルちゃんはシーサーペントを倒した立役者だからな、でけぇ切り身にしてやんよ」


漁師のおじさんがシーサーペントの近くまで行き、そこで作業していた人と何か話し込み始めた。

 私はそれを視界の端に入れながら自分で作ったお刺身を平らげるべく、再び皿へと向かうのだった。




 たっぷりと海の幸を分けてもらい、しっかり冷凍した上で魔法の鞄へと収納した。

 最近は空間魔法のレベルも上がってきたので、異空間の広さもかなり広がっているし、経過する時間も遅い。凡そ鞄の中の時間は通常空間の千分の一くらいなので一日が凡そ一分半くらいしか経過していないことになる。

 なのでこうして冷凍した上で魔法の鞄に入れておけばかなり長期間の保管が可能になるわけだ。

 王都に戻ったらリードにもお刺身をご馳走してあげなきゃね!

 そのためにも市場で魚醤を手に入れておこう。

 でもマズには依頼で来ているし、昨日も話をしている都合上どうしてももう一回は冒険者ギルドへと顔を出さないといけない。

 これは王都のギルドマスターからの依頼だからどうでもいい気がしなくもないけど、これも依頼の内なのでそうも言っていられない。

 仕方なく私はギルドの前に立ち溜め息を一つ吐くと建物の中へと入っていった。

 カラランと小気味よいドアベルの音がして中に入ると昼間からギルドにたむろして仕事もしない大人達が一斉にこちらに視線を投げかけてくる。

 ところが入ってきたのが私だと確認するとこれまた一斉に視線を下に落とした。

 昨日絡んできたDランク冒険者を返り討ちにして半泣きにさせたのが効いてるようだ。

 私は受付のお兄さんにギルドマスターの所在を確認してから執務室へと足を運ぶことにした。

 その間他の冒険者達は私と目を合わせないように誰も顔を上げようとはしなかった。

 そこまでしなくても無駄に絡んでこないなら私だって何もしないのに。基本的にとてもフレンドリーで優しいセシルさんですよ?

 執務室の前に来ると躊躇いもなくドアを三回ノックして返事を待たずにドアを開けた。


「…普通返事を待ってからドアを開けるものではないか?」

「来客中でないことは確認してましたので。用件はわかってますよね?」

「あぁ…そこへかけたまえ」


 あえて無礼な振る舞いをして中に入り、勧められるがままにソファーへと腰掛けた。

 この部屋には他に誰もいないのでお茶は出てこないらしい。

 別にいいけど。

 しばらくするとギルドマスターが一枚の紙を持って私の前へとやってきた。


「これが依頼達成の証明書だ。しかしレイアーノが寄越したから間違いないとは思っていても、まさか本当にこんな子どもがな…」

「それ昨日も言いましたけど…子どもなのは関係ないと思います」

「…そうだな。それだけの実力があるのだし、端から見たら儂が難癖つけているだけにしか見えんだろう。改めてマズの冒険者ギルドのギルドマスターとして礼を言う。よくクラーケンを倒してくれた、ありがとう」


 マズのギルドマスターはその薄くなった頭をこちらへと向けて…ではなく、座ったままではあるけどしっかりと頭を下げてお礼を述べた。

 私も子ども扱いされたことをいつまでも引っ張るつもりはないので「これが冒険者の仕事ですから」と微笑んでみせた。




 ギルドでの用事を済ませると私は一目散に昨日も行った露店通りへと向かった。

 カボスおじさんが今日も露店を出してるはずだし、昨日の商談の結果がとても気になるからだ。

 露店通りに入り多少他のお店を冷やかしながら進むと今日も昨日と同じ場所で店を構えるおじさんを発見した。


「おーじさん」

「おぅ、セシルちゃん。いらっしゃい」

「今日も来たよっ」

「ははは、昨日の結果が気になるんだろう?そんなとこいないでこっちに来るといい」


 おじさんに促されてテントの中に入り、いつものようにおじさんの隣に椅子を出して腰掛けた。

 お店に並んでる品々は昨日と変わりないように見受けられるけど、さてさて?


「それで昨日の結果は?」

「セシルちゃんはせっかちだなぁ。昨日の商談は…まぁまぁうまく行ったな。おかげでそこそこの数を仕入れることが出来た」

「良かったね!それで?私にも見せて…もとい、買わせてくれるんだよね?」

「んむ…まぁ本店でもいつも買ってるセシルちゃんになら問題ないだろう。でも今は持ってないんだ」

「あれ?そうなの?」


 てっきり露店を出してる間は盗難の心配をして全部持ってきてるかと思ったけどそうではないらしい。

 聞くと高価な宝石類だけはその町の預かり所に預けておいて、町から出るときに引き取っていくとのこと。

 そんなサービスがあったことを初めて知った。

 私には全く必要としないサービスだけど。


「これが結構な金でな。重いしそれなりの量があるから預かり所で一日小金三枚も取られちまう」

「えぇ…そんなに払ってたらこの露店の利益くらいじゃ元が取れないねぇ」

「セシルちゃん…そんなはっきり言うなよ…」

「あ、ごめんなさい」


 露店の利益は本当に雀の涙程度。

 私が買い付けると金貨一枚くらい払っていくけど、何日も滞在するとなれば話は変わってくる。四日も預ければ金貨一枚以上が飛んでいってしまうからね。

 けど、護衛を雇って荷物番をさせてしまうと「そこに高価な品がある」と丸わかりになってしまい、却って危険度が増すらしい。


「セシルちゃんはいつ王都に戻るんだい?」

「私は今日もう一日だけ買い物とかして明日の朝には王都に戻るよ」

「そうかい。じゃあ今夜六の鐘の後に『白波の宿』に来てくれ。そこで商談をしようじゃないか」

「六の鐘に白波の宿だね?了解だよっ」


 それだけ聞くと私はぴょんと椅子から飛び降りた。


「じゃあ今夜楽しみにしてるからねっ」

「ははっ、セシルちゃん商談なら手加減しないからね」

「私もだよ。それじゃ買い物に行ってくるねー」

「あぁ、気をつけ…っていうのも変か。いってらっしゃい」


 そしておじさんに見送られて私は露店通りの人混みへと入って行った。




 おじさんと別れた後露店通りのあちこちでいろんな物を買い集め、更には市場にも顔を出して魚介類や魚醤、乾物も一通り買った。

 総額で言うと金貨二枚程度でしかないけど、普通に持ち歩いたらかなりの量になっただろう。

 魔法の鞄がある私には無縁の話だけど、食料を入れている鞄は現在かなり量が入っているので今回はこれ以上の買い物は控えるつもりだ。

 尤も、これから一番大切な買い物をする予定だけど。

 約束の六の鐘が鳴った後、おじさんに指定された白波の宿へとやってきた私は入り口のにいたおばさんに声を掛けた。


「すみません、カボスさんと約束してたセシルと言います。カボスさんいらっしゃいますか?」

「おや可愛いお客さんだねぇ。カボスさんならそこでご飯食べてるよ」

「ありがとうございます」


 おばさんにお礼を言うと私はおじさんが夕飯を食べているテーブルへと足を運び、目の前の席へと腰掛けた。


「お、時間ちょうどだね。先に腹拵えしておこうと思って食べさせてもらってるよ」

「うん大丈夫だよ。私も何か食べようかな」


 自分の泊まってる宿の夕飯を食べずにやってきたため実はお腹が空いてる。

 おじさんもご飯食べてるなら私も食べてくればよかったかな。

 仕方なく、私は受付のおばさんへと声を掛けて定食を注文した。

 しらばくして運ばれてきたのはぶつ切りにされた魚のあら汁と魚のステーキ、それにサラダとパンがついた定食だった。

 飲み物はお酒が飲めないので果物のジュースを頼んでおいた。


「昨日までは漁に出られなくてこんなに魚が食べられなかったんだけど、なんか今日から漁に出られるようになったらしくてね。ツイてたなぁ」

「へぇ、そうなんだ。じゃあこのお魚も新鮮なんだろうね」


 その漁に出られなかった問題を解決した本人ではあるけど、そんなこと言いふらすようなことでもないので軽く流した上で私も出された定食に手を出した。

 あら汁はハーブで臭み取りをした上でしっかりと煮込んであるため小骨くらいなら普通に食べることができるほど柔らかくなっている。

 味付けは魚醤だけど、魚の骨から出ている出汁が効いていてとても美味しい。

 それとカツオのような赤身の魚のステーキは、中までしっかりと火を通さずにあえて半生になっていた。タタキに近いのかもしれないけど、あれは表面だけを炙っているがこれはそれよりももっと火を通してある。

 余所から来た人にも食べやすい配慮なのかもしれないけど、ちょっと勿体ないね。

 もちろんそれでも十分美味しいけど。

 しばらく何気ない会話をしつつ食事を楽しみ、私がジュースを飲み終わると同時におじさんに促されて部屋へと向かった。

今日もありがとうございました。

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