第124話 世紀末の雑魚達と本命
年末年始連日投稿キャンペーンでした!
明日から仕事なのでまたいつもの投稿ペースとなります。
前の二人と話している間に後ろから追ってきていた三人組も曲がり角のところで立ち止まってこちらの様子を窺っている。
女の子一人相手に随分慎重というか用意周到というか…。
「そもそもこの先にゃ俺たちの住処があるだけで何もねぇ。引き返しな」
「そうなんですか。すみません、道に迷ってしまったようで。ご親切にありがとうございました」
「いいってことよ。この町の道は複雑だからな。なんなら俺達が道案内してやるぜ?」
お?なんだかちょっといい人なのかな?
どんな展開になるか気になった私はその提案に乗ってみることにする。
「いいんですか?助かります。大通りまで戻れればきっとわかると思います」
「大通りだな。いいぜ、ついてきな」
そういうと二人の男は私の隣をすれ違い、そのまま何もせずに歩き出した。
本当にただの親切な人なの?
見た目は世紀末にいそうなヒャッハーな感じの人だし、言葉使いも良くないけど、これは見た目で判断するなという見本なのかもしれない。
でも私をつけていた三人は少し距離を取ったものの相変わらず私達の動向を窺っているようですぐ近くにいる。
いい人なのかも?と思った時が私にもありました。
前言撤回。普通に怪しげな建物へと案内されました。
黒です。完全に真っ黒。
「へへ。本当に信じてこんなとこまでついてきやがった」
「世間知らずのお嬢ちゃんなんだろうさ」
「よく見りゃ着てるのもかなり良さそうな服だし、こりゃ高く売れそうだ」
「残念なのは俺達で楽しめるような体じゃねぇってことくらいか?」
「そうか?俺は全然いけるぜ?」
「ぎゃはははははっ!出たよお前の子ども好きにゃ参るね!だがやりすぎて壊しちまったら元も子も無ぇんだぜ?」
はぁ…。
下品。
しかも違法に人を攫って人身売買までしてるような口振り。
アルマリノ王国では人身売買を禁止している。
無論法の目が届かないような場所で行われているだろうことくらい想像に難くないけど、原則として禁止だ。
奴隷制度自体はあるものの、そういうのは犯罪者に対するものであって罪もない人が奴隷になることなど有り得ない。
「まぁこのガキはなかなか美人になりそうだし、これなら貴族相手にだって売れるだろ」
そこへ世紀末雑魚達のリーダーみたいな人がそんなことを私もいるこの場で口にした。
貴族が…人身売買?
「貴族相手となりゃいい値がつく。場合によっちゃ待遇もいいらしいが…後はせいぜいお嬢ちゃん自身がいいところに行けるように願ってな」
…うん。折角だし、もうちょっと情報引き出した方がいいのかな?
「…困ります。私お屋敷に帰らないと…知らない貴族様のところになんて…」
いい歳して子どもの演技をするのはなかなか精神的にくるものがあるけどここは我慢。
この世界に来てからの年齢なら年相応だけどっ。
「ははははっ。ここまで来てそりゃ無理ってもんだ」
「そんな…私が帰らないと男爵様が…」
男爵、と口にしたのは貴族の階級の底辺だから。
この世紀末雑魚達は頭悪そうだしこれで引っ掛かってくれたら儲けもの、くらいな気持ちで言ってみたのだけど…思った以上の効果があった。
「男爵って…バッガン男爵か?それなら大丈夫さ、俺達の客はあのオナイギュラ伯爵様なんだからな」
「おい、余計なことまで言うんじゃねぇ」
「関係ねぇさ。どうせこいつはもうすぐ売られちまうんだからよ」
ふむふむ。オナイギュラ伯爵っていうとクアバーデス侯爵領から南の森を挟んだ先にある領地の伯爵だね。
とりあえずいいことを聞いた。
ついでに言うとここでバッガン男爵の名前が出るってことは、その男爵はこういう人買いのような悪事は許さないタイプなのかもしれない。
さて問題はこの世紀末雑魚の始末をどうするかだけど…。
適当にやっつけて衛兵に突き出せばいいか。
「それじゃあよ、とりあえず身包み剥いで閉じ込めとくか」
「ひひっ、伯爵に売るんじゃ手は出せねぇけど服脱がすくらいは楽しませてもらうぜ」
「ぎひひひっ、まだ言ってんのかよ。好きにしろや」
明らかに幼女趣味の危なそうな男が私へと近付いてきた。
今の私は腰ベルトはつけているものの短剣は折れてしまったため装備していない。
そういう武器になるようなものを持ってないと見て、完全に舐めた態度を取ってるのだろう。
まぁいちいち全員を殴り倒すのも面倒だしさっさと片付けるとしよう。
「睡眠闇」
状態異常を引き起こすのが得意な邪魔法のうちどれを使うか悩んだけど下手に麻痺させて私が何をしたか見えてしまうよりも安全に眠らせることに。
とりあえずその隙に衛兵を呼びに行くことにした。
もちろん「襲われた」とか「怪しい人がー」とか言うことはない。ただ「人が倒れてる」だけで十分だしね。
念のためさっきの通路の奥に行ってみた結果、確かに彼らの住処だったのだと思われるけど捕まってる人はいなかった。
それでも怪しげな首輪や手枷などがあったため、それらは倒れてる男達の近くに落としておいた。
結局衛兵に知らせに行った後はこっそりその場から抜け出して宿へと戻った私は夕飯と食べ、体を清めた後にしっかりと宝石を堪能しました。
うん、よかった。
どれもこれも見たことあるものばかりではあるけど、宝石は一つ一つ違う顔をしている。
人間だってみんな顔が違うように宝石だって全部違うんだよ。宿のテーブルに並べて鑑賞してるうちにいろんなものが昂ぶってしまい、抑えるのが大変だったのは言うまでもない。
おかげでちょっとだけ寝不足気味だ。
今私は港まで来ている。
朝のひんやりとした潮風が寝不足の目にしみる。
昨日ギルドで話したのだけど、早朝の時間が討伐対象の魔物が出る可能性が一番高いらしい。
だから漁に出る漁師達は困っていたみたい。
その割にはお店には普通に魚売ってたけどね。
妙に高かったけど。
そうして海を眺めていると一人の強面の男性が近付いてきた。今日乗せてくれる船の乗組員さんだと思われる。
「お嬢ちゃん、そろそろ出発するが準備はいいか?」
「はい、いつでも大丈夫ですよ」
「そうかい。…しかしわからんもんだな…」
「何がですか?」
「俺の娘よりちっちゃい女の子が高ランク冒険者だってことがよ」
「あはは…よく言われます。でもちゃんと実力でここまで上がってきましたから」
「俺たちゃギルドに任せてるからな…。万が一にも負けそうになったらすぐ戻らせてもらうがいいのか?」
「構いません。自分の身は何とでもなりますけど、おじさん達まで守れるかわからないですから」
そう言うと乗組員のおじさんは申し訳ないような呆れたような顔をして私を船へと案内するのだった。
船が出港してからしばらく。
既に陸地は見えなくなっており、このあたりがいつも漁師達が活動する海域なのだそうだ。
ちなみに案内された船は私が前世でテレビ等で見ていた漁船のようなものではなく、大きな赤いマストが張られた帆船だった。
どこかの港町に展示されていた綺麗な白い帆が張られた巨大帆船ではなく。
有名な海賊漫画に出てきたような船でもない。
一つの帆しかない小型の帆船で、多くの乗組員がいなくとも操船出来るようなタイプだ。
船のことは詳しく知らないけど大航海時代には大型の帆船があったことを考えれば、この船はそれより前の時代にあったようなものかもしれない。
まぁ船自体は何でもいいよ。私は依頼を達成出来れば良いのでそこまでの案内だけしてくれればね。
勿論、可能な限り乗組員さん達を守ろうとは思うけどね。
「朝日が登ってしばらくすると奴が動き出すんだ。近くを通ってる船はみんな襲われちまって…俺の弟も仲間もみんなあの化け物にやられちまった…」
「…それは……。町がギスギスした雰囲気だったのもそのせいなんですか?」
「あぁ。みんな家族や知り合いの誰かをあの化け物にやられちまってな…。俺達だって海の男だ。海の魔物とだっていつも戦ってる。けど、あの化け物は俺達がどうこう出来るようなモンじゃねぇ」
甲板で水平線を眺めていた私に、案内してくれた乗組員さんがそう話してくれた。
そうだよね。
自分達の仕事場を荒らされたら堪らないよ。
しかも家族や仲間を何人も殺されて……。出来ることなら自分達で何とかしたいのに、どうにもならないからこうやって私みたいな冒険者に頼らなきゃいけない事態になっちゃってるんだ。
この人達のためにも絶対その化け物っていうのをやっつけなきゃね!
そして私は探知と知覚限界を使って周囲を探り始めた。
陸上と違って下、海の中も探らないといけないので普段と少し勝手が違うけど宝石探す時にもやる方法だし、しばらくやっていれば慣れてきて今は水中を泳ぐ魚の一匹までちゃんと確認出来る。
そして、その水中に一際大きな反応を示す魔物を探知することが出来た。
「…いた」
「なにっ?!どこだ?!」
「目に見えるとこにはいないよ。今はまだ海の底にいる。ここから右の方へあと三千メテルくらい行ったとこに」
「……なんでそんなことわかるんだ…」
「魔物だけじゃなくて、海の中の魚まで全部わかるよ。左へ五千メテル行ったとこの深さ四百メテルくらいのとこに大きな魚の群がいるね」
「…お嬢ちゃん、漁師の嫁にどうだ?」
「あはは…。私は冒険者だから…それより魔物の方へ行きましょう」
乗組員さんからの結婚斡旋はスルーして、私はその魔物がいる方向を指差した。
乗組員さんも大きく頷くと他の人達へと知らせるために甲板をドタドタと走って行き、しばらくした後に面舵を切って真っ直ぐその反応の方へと進路を変えてくれた。
このまま真っ直ぐ行けばその魔物の反応の真上に行ける。
後は海上近くまで浮上ってきてもらえれば何とかなる、と思う。
乗組員さん達も銛やら魔道具を用意しているけど彼等に戦わせるつもりはないし、何なら魔物が出た時点で引き返してくれてもいいくらいだ。
このくらいの距離なら多分飛んで帰れるはずだしね。
「そろそろお嬢ちゃんの言ってた海域だぜ?」
「うん。…ちょうどここの真下にいるよ。今からちょっと脅かしてみるから船はこのまま真っ直ぐ進んでくれる?」
「わかった。気ぃ付けてなっ」
伝言に来てくれた乗組員さんに作戦を告げると私も戦闘の準備に入る。
威嚇用に作ったこの魔法だけど水中で使ったことはないので、どれほどの効果を及ぼすか見当もつかない。
さて、それじゃやろうなっ。
「爆発魔法 閃音炸裂!」
今日もありがとうございました。
9日間でしたが毎日更新を守れてよかった(*´▽`*)
今後もよろしくお願いします。




