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第123話 休息日の依頼

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 演習から戻ってきてから二日が経過した。

 今日も休息日に当てられている。

 演習終了後五日間は休みになるなんてすごいものだね。確かにかなりハードな演習だったし、基本的に体力不足な貴族の子女達だからそのくらい休ませないと講義中にみんな寝てしまうかもしれないね。

 リードも例外ではなく戻ってからの二日間は私からも言い聞かせて訓練は休ませている。

 でも自室で座学の自習はさせてるけど。

 ちなみに私はゾブヌアス先生に「この五日間は外泊可能か」を確認しておいた。

 結論からすると、冒険者としての活動は認めるが帰郷は許可しないとのこと。

 勿論里帰りするつもりはないので問題ない。久々にディックに会いたい気持ちはあるけど、ちゃんと自制できるからっ。

 そんなわけでギルドからの依頼を進めるために多少の遠出が必要になる場所へと来ていた。


「うーん…とりあえずお約束は果たすべきよね。うーーーみだーーーーーっ!!」


 私は上空千メテルくらいの高さで一人叫んでみた。

 目の前にはずっと広がる青い海。

 この世界で初めて海を見たけど、前世での海と同じく青い!

 しかもとても澄んでいて、水深の浅いところなんて水の中の様子がこんな上空からでもわかるほど。

 これなら少しくらい寄り道したっていいよね?

 ここはミミット子爵領。

 王都から東へ飛び続けて、バッガン男爵領の長閑な農業地帯を超えた先。

 領内は縦に長く伸びていて、港町が三つ、漁村は五つかそれ以上あるそうだ。

 元日本人としては美味しい魚介類を楽しむ絶好の機会だよ!

 でもちゃんと仕事はする。

 私はミミット子爵領の領都であるマズの近くへ降り立つとそのまま走って町へと向かった。




「ということなんだが…レイアーノの奴…正気か?こんな子どもを…」

「子どもなのは認めますけど、ちゃんと王都のギルドマスターからの依頼を受けて来ているんですけど」

「あぁ…わかっちゃいる。わかっちゃいるんだ。あいつの見る目は確かだからな。それでも今回の討伐対象は本当にとんでもないやつなんだぞ?」

「ギルドマスターからの依頼で普通の討伐なんてほとんどなかったですよ。それじゃあ私は町で宿を取りましたので明朝までは好きにさせてもらいますね」


 私は会話を打ち切り、マズのギルドマスターの執務室から退室した。

 一応王都のギルドマスターからはここのギルドへ顔出しをするように指示があったので来てみたけど、やっぱりこの外見じゃ舐められてしまうのかな。

 ギルドに入ってすぐ冒険者達から一斉に視線を貰ったし、その後のテンプレ展開もあった。

 やれやれと思いながらも受付の女性に話をしてギルドマスターに取り次いでもらったけど、ここ来る意味あったのかな?

 討伐後の報告だけでよかったと思うんだけど。

 まぁ考えても仕方ないし、とりあえず町をブラブラしてみよう。

 ギルドを出てすぐ私は港近くの露店が並ぶ通りへと足を運ぶことにした。

 ここは他国との貿易もしている港があるので国内ではあまり見かけない宝石もあるかもしれないしね。

 というか…なんだろ?

 なんて言うんだろうか…町全体があまり雰囲気が良くない。

 お店自体は活気があるのに、妙にギスギスしてるというか。

 無理にでも高く売ってやろう、という魂胆が透けて見える。

 港町だし珍しい物が高いのは気にしないからいいけど、普通の食料品までもが王都に比べて物価が高い。なんでだろう?

 多少気になりつつも他のお店は全て無視して装飾品を取り扱う一画に来ると一つ一つのお店をじっくりと眺め始めた。

 四つほど店を見た後、とりあえず一つの結論は出た。

 他国から入ってきている装飾品や宝石は確かにある。

 でもやっぱりカット技術は前世のものに遥かに及ばない。

 前世では確かカット技術が確立されてきたのが十五世紀くらいのヨーロッパだったはず。

 当時インドからダイヤモンドが輸入されるようになったため、宝石をより美しく見えるようにするために発展した技術だったはずだ。特にダイヤモンドの輝きを最大に生かすには光の入射角などを考えなきゃいけないしね。

 ちなみにダイヤモンドが一番美しく見えるというブリリアントカットは二十世紀に入ってから確立されたものだよ。

 …うん?というか、今までちゃんとしたお店とかでもダイヤモンドって見たことあったかな?

 まさか…そのせいか?

 いやいや、それ以外の宝石だってカット次第でいくらでも輝きが違ってくるのに?

 あ、でも私の持ってるダイヤモンドってケツァルコアトルがいた閉鎖された鉱山のかなり地下深くにあったっけ。

 うーん…これは調査してみないとなんとも言えないか。

 気を取り直して次の店に顔を出してみると、


「あれ?!おじさん?」

「お?セシルちゃんじゃねぇかっ?!」


 そこにいたのはいつもクズ石を買わせてもらっていたヴィンセント商会の行商人カボスさんだった。

 どうやら私はとことんこのおじさんと縁があるらしい。




「じゃあおじさんもマズに着いたのは最近なんだね」

「最近というか昨日のことさ。まだ本業の方も片付いてないんだが、約束が今日の夕方からだからそれまでの小銭稼ぎだな」

「ふぅん…」

「それよりセシルちゃん。うちの店でいつもかなり買ってるらしいじゃねぇか?カンファから聞いてるぜぇ?」


 おじさんはニヤニヤと商人らしいお金に目が眩んだいやらしい笑みを浮かべている。

 性的にいやらしいのは勘弁してもらいたいけど、こういうお金絡みの下心満載の笑みはそこまで嫌いじゃない。寧ろ分かり易すぎて好感が持てるほどに。


「カンファさんがいつも私のためにたくさん用意してくれるものだからついね」

「ははは、カンファも容赦ねぇからな!あいつは売れると思ったら相手の財布を空にして借金させてでも買わせようとするからな!」


 なんか今さらっと恐ろしいこと言ったね?

 …カンファさんには今後注意しよう。

 と言っても私の財布を空にするのはなかなか難しいと思うけどさ。

 私はいつも通りおじさんの隣に椅子を出してもらって座っている。潮風が駆け抜けてきて懐かしい感じがする。

 前世で育ったのは海無し県だったけど。


「でも、カンファから聞いた話じゃ既に聖金貨五枚分くらい買ってるらしいじゃねぇか?」

「聖金貨?」

「なんだ?知らなかったのか?商人同士や貴族との商談で使われる特殊な金貨さ。一枚で白金貨百枚と同じ価値があるんだ」

「へぇ…初めて聞いたよ」

「セシルちゃんならそのうち見かけることくらいあるだろうがな。それで?今日もなんか買ってくのか?」


 聖金貨の話に感心したと思ったらおじさんはいきなり商売を始めた。

 もう少し話の区切りをちゃんとつけてから話そうよ。

 多分相手が私だからっていうのもあるんだろうけど。

 そして私もさっきから気になってチラチラと横目で見ていた宝石類をじっくりと眺め始める。

 昨日着いたばかりということでお店には普段ではないようなたくさんの種類が並んでいる。

 でも一度はどれも買ったことがあるものばかりでこれと言ったものは見当たらない。

 結局母岩付きの原石を二十個ばかり購入していつも通り端数切り上げの金貨をおじさんへと支払った。


「済まねえな。あ、でも明日なら今日の商談次第でまた変わった宝石を仕入れられるかもしれねぇぜ?」

「そうなの?」

「あぁ。前にセシルちゃんが気にしてたセイシャライトも手に入るだろうし、明日もう一回来てみてくれよ」


 ほう…。セイシャライトか。

 あのタンザナイトそっくりな紫色に近い青紫の宝石。あれは綺麗で良かった…。

 今私が持っているのは以前おじさんから購入したもの一つだけなのでこれは是非とも手に入れておきたい。


「じゃあ明日は朝用事があるから、それが終わったら王都に戻る前に一度立ち寄るね!」

「おうよ!待ってるぜ!」


 立ち上がった私におじさんは拳を握って私に突き出してきたので私もそれにトンっと拳を突き合わせてあげた。

 商人同士の挨拶でもなんでもない。

 ただのおじさんの気紛れだろうけど、たまにはこういうのも親密さが伝わって良いものだね!

 …あ、おじさんにこの町の雰囲気について聞けばよかった。今更戻って聞くのも変だし止めておこう。

 おじさんの露店を離れた私は他の宝石を扱う露店にも顔を出して大体金貨一枚程度の買い物をしてそれを路地に入っては腰ベルトへと納めることを繰り返した。

 気付けば白金貨一枚分は買った気がするけど全然気にならない。

 他にあんまり使い道のないお金が宝石になってくれるならこれ以上嬉しいことはないから。

 今夜は宿でいろいろと内職が捗りそうだよ、うふ、うふふふふふ。

 ホクホク顔で通りを歩いていた私だけど今夜のことを思っていたら自然と顔がにやけていたようで、すれ違う人がびっくりして避けて通ってくれた。歩きやすいのは良いことだけど…女の子に失礼だよ!

 ついでにさっき気になってた町の雰囲気が良くない件は後ろから私の様子を見ている人達に聞けば何かわかるかもしれないね。

 私は宿へ続く道を途中で曲がって路地に入った。

 スラムまではないだろうけど、路地に入るとアンダーグラウンドなお仕事をしている人達がちらほら見受けられる。

 その中には娼婦もいたり、ホームレスのように道にうずくまっているだけの人もいる。

 この町の闇の部分を見ているようであまり気持ちのいいものじゃないね。

 路地に入った後、更に何度か道をぐねぐねと曲がって大通りから遠ざかっていくと前に二人の男がいて私の行く先を塞いでいた。

 後ろからも相変わらず尾行されているしこいつらグルかな?

 これまたテンプレな展開に呆れながらも、今までにないパターンなので少しだけ楽しみに思う私。

 こんなのリードに知られたらすごく怒られるんだろうけど…言わなきゃわかんないよね!


「お嬢ちゃん、こっから先は行けねぇぜ」

「行けないって…どういうことですか?」


 「通行料」じゃないことにちょっとだけイラっとしつつも年齢相当の仕草をして惚けることにした。

 さて、どうなるかな!

今日もありがとうございました。

明日も投稿します。

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