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第122話 二年次実地演習 11

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 すっかり回復して、みんなも自分の持ち物、武器を確認し終わってやれやれと息をついている。

 今倒したオーガ達の身体をまるごと持っていくことはできないので仕方なく角や一部の骨などを素材として回収している。

 もちろんオーガキングの魔石はしっかりと確保したよ。


「しかし…本当にセシルには驚かされてばかりだな。まさか脅威度Aの魔物を一人で倒してしまうとは」

「いやいや違うでしょ。私が気絶してる間にみんなが頑張ってくれてたからの結果なんだし、これは全員で勝ち取ったものだよ」


 リードから賞賛と同時に呆れが多分に含まれた言葉を聞けば元日本人としてはこのように返すのが礼儀よね。


「セシル、その言い方はあまりに謙遜が過ぎますわ」

「えぇ…ミルルまで…。だって本当のことだし…」

「お嬢様の言う通りだぞセシル。私も含めて誰一人、最後の魔物には全く歯が立たなかったのだ」

「うむ。俺もセシル殿から鍛え直されて少しは自信もついたつもりだったが…あれに勝てるとは微塵も思えなかったな」


 ミルル、カイザック、ババンゴーア様までもが私を褒めてくる。

 むぅ…あまり大袈裟に褒められることに慣れてないせいか顔が赤くなって熱を持ってきていることが触らなくてもわかってしまう。


「セシルはあまり褒められ慣れてないかしら?恥ずかしがり屋なのね」

「むー。ミルル、もういいじゃんか。とりあえずみんな無事!あとは目的地へ向かうだけだよ!」

「ふはははは。セシル殿にも苦手なものがあるのだな!」


 ミルルにもババンゴーア様にもからかわれて私の顔はなかなか赤みが引かないのだった。




「それにしても、最後の技は凄まじいものがあったな」

「あぁ。正直僕は目で追うのがやっとだった」

「見えていればいいだろう。俺は閃光が走ったようにしか見えなかった」

「私はキラキラしてるのが見えただけで気付いた時にはセシルが足元で最後の攻撃をしていましたわ」

「あぁ、あの最後の一撃もすごい威力だった。あの技はどこで習ったものだ?」


 みんなにからかわれ続けた私は木の影に隠れながらみんなの話が一段落するまでこっそり見守っていた。

 なのにそんなのお構いなしにこちらへと話を振ってくるのはどうなの?


「どこでも何もさっき作った技だよ。ねぇもうそろそろ行こうよ?」


 質問に答えていい加減進もうと提案してみるが、みんなはその場から全く動く気配がない。


「今雇われた冒険者が森の外へ救援要請に行ったところだから、俺達もしばらくここから動くことはできんぞ?」

「多分どんなに急いでも往復で二日はかかるでしょうし、それまでに目的地へ行けばいいのよ?」


 …なんてこったい。

 仕方なく私は地面に大きな穴を開けてオーガ、オーガロードをその中へと放り込んでいく。

 炎魔法で火を付けた後は私もみんなの喧騒に混じることとなった。


「それにしてもやはり『金閃姫』の名に相応しい技だったな」


 ぶふぅぉぉぉぉっ?!!


 気を抜いていたところに突然呼ばれた自身の二つ名に息が止まる思いだった。


「な、なな、なんで…」

「なんでと言われても…王都じゃこの話題はあちこちで盛り上がる鉄板ネタだしな」

「…私はセシルが『金閃姫』だということを今知りましたけど…あの姿を見たら納得ですわ…」


 ぐぬぬ…。SNSやらメール、ネットのないこの世界なら噂が広まることもなく終焉することだってあるだろうとタカを括っていたけど、それは大きな間違いだったようだ。

 そういうものも無ければ娯楽もないこの世界では噂話など格好のネタになるというわけか。

 折角以前ミルルに聞かれたときに誤魔化しておいたのにバレちゃったし…。時間の問題だっただろうけど。


「よし、さっき思いついた技ということであればまだ名も無き技ということだな?どうだろう、皆でセシル殿の技名を考えるというのは?」


 やめて下さいババンゴーア様…なんでそんな公開処刑されなきゃいけないんですか?

 私が何も言えずに俯いているのをいいことにみんなはそれぞれあーでもないこーでもないと言い合っている。

 恥ずかしい…穴掘って入りたい…。

 私がそっと地魔法を使おうとしたところでババンゴーア様が大声で叫んだ。


「では『金閃殺』でどうだ?!」

「とても良いと思います。セシルの金色の髪もさっきの技も二つ名も全て満たしていますね!」


 そこへミルルが更に同調して収拾がつかなくなってきている。


「いや、だが『殺』はどうなのだ?それならまだ『金閃迅』というのはどうだ?」

「あら…それも素敵ですわ」


 リードまでノリノリでその輪に加わっている。

 もう私を解放してよ…。




 結局「金閃迅」で確定し、最後の最後に放った天に昇るほどの斬撃は「亢閃剣」という名前になりました。

 全てが終わった後、私はあまりの恥ずかしさでピクピクと震えておりました…。なんで自分で作った技を他の人があんな必死に名付けをしてるのか全く理解できない。

 ちなみに普通に漢字を使ってるけど、この世界の言葉だとまた違った言葉になってるはず。私が理解しやすいようにしているのもあるんだけどね。

 だから新奇魔法は名前だけじゃなくて漢字も組み込んでいるわけだし。そうじゃなかったらカイザックみたいに分かりやすくしてるもん。

 そして話も一段落したところでようやく私達は目的地へと足を運び、ゴール地点にいた冒険者に会うことが出来た。

 目的地は森の中でも少しだけ開けた場所になっており尚且つ高台になっているため見通しはよくなっていた。

 とは言え、私達が戦っていたところまでは見通せないのでさっきのオーガキングとの死闘を見られたということはないと思う。

 そして私達に気付いた冒険者の男が駆け寄ってきた。


「おい!お前ら、さっき言ってたオーガの群れはどうしたっ?!」


 そして開口一番言われたのがこれだ。

 せめて貴族の子女が無事だったんだから、まずはそれを喜ぼうよ…。


「先程報告したオーガの群れは殲滅しましたわ。怪我も回復魔法で治癒しましたし、何も問題ありません」

「援軍を呼びに行ってもらって申し訳ないが、不要になったためその旨も伝えることはできるだろうか?」


 ミルルとババンゴーア様の二人で冒険者へと説明してくれている横でリードも貴族の子息として私とカイザックの前に立っている。

 こういうのって普通従者がするものだと思うんだけど。

 三人がそれぞれ説明していると丘の上から一人の男性が駆け下りてきた。


「ババンゴーア様ご無事でしたかっ?!」

「サイード、俺はこの通りだ。剣は少々無理をさせたので壊れてしまったがな」


 どうやらババンゴーア様の従者の人みたいだ。

 彼は従者クラスで見たことがないので貴族院には入らず、純粋にババンゴーア様の従者としてついてきたのだろう。

 どちらかというと肉体派ではなく、頭脳派な感じがするので脳筋気味…いやマジ脳筋のババンゴーア様の従者としては正解な気がする。

 ひょっとしたらそういう人はゴルドオード侯爵領では貴重な人材なのかもしれない。

 そうこうしてる内に冒険者への説明も終わり、私達も一度丘の上へと足を運ぶこととなる。

 まだ演習終了の時間にはなっていない。

 でも探知スキルで周辺を探って確認してあるから私にはわかるけど、時間内にここまで辿り着けそうな人はもういないんだよ。

 暇を持て余し気味になっているリード、ミルル、ババンゴーア様の三人とサイードと呼ばれたババンゴーア様の従者は置いといて、私とカイザックは昼食の支度をするために食材探しに行く。

 今朝はかなり残念なご飯を食べさせてしまったので、できればリードにまともな食事を摂らせたい。


「セシル、そちらはどうだ?」


 私が確保した食材を理力魔法で浮かせながら運んでいるとカイザックが横手から現れた。

 手にはいくつかの木の実とミントのようなハーブ、それと…今朝私が見なかったことにした芋虫が乗っている。

 …え、食べるの?

 というか、この演習中の食事もカイザックが用意していたのだとしたらミルルも…?


「…相変わらず、セシルは規格外というか理不尽というか…」

「え?」

「『え?』じゃないだろう…なんだその浮かせてるものは」


 私が理力魔法で浮かせていたのはブランチボアという魔物だ。

 牙が三つ叉に枝分かれしており、それぞれが鋭く尖っていて危険なだけでなく猪特有の突進力でそれを突き刺しにくる厄介なやつ。

 脅威度で言えばDくらいだったと思うけど、地魔法で作った岩の壁に激突して失神させた後首を落として血抜きをしようと今も逆さまに浮かせているわけだ。


「だって自分達だけじゃなくて皆のご飯も作らないといけないからね。それはそうと…カイザックはその芋虫食べるの…?止めないけど、私はいらないよ?」

「……そんな大物があるならこれは不要だな」


 浮かべているブランチボアと自分の手の平に乗った芋虫を見比べた後、カイザックは茂みの奥へと芋虫を投げ捨てた。


「あれ……まさかミルルもこの演習中に食べてたの?」

「馬鹿を言え。お嬢様にそのような物をお出し出来るか」


 だよね。

 何となくほっとして私達は並んでみんなのいる丘の上へと戻った。

 結局時間内に辿り着けた生徒は現れず、しばらく経ってから現れた三組のペアを迎えたところで夜になる。

 私達は昼間も食べたブランチボアの鍋を囲んで帰りの行程について冒険者から説明を受けた。どうやら普通に歩いて戻るしかないみたいだけど、食料だけは冒険者の持つ魔法の鞄に入れてあるようでその心配だけはしなくて良さそうだ。

 そもそも今食べているブランチボアの猪鍋も本来なら不要だったらしい。

 これも偏に私とカイザックが自分達の主人に少しでもまともな物を食べてもらいたいという過保護な思いからだしね。

 丘の上で一夜を明かした後二日かけてもう一度森を抜けるために行軍していくこととなるのだが、こっそり植物操作や理力魔法を使って歩きやすくしておいたのは言うまでもないよね!

今日もありがとうございました。

連休は5日までなのであと2日頑張ります!

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