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第121話 二年次実地演習 10

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 視界が揺れた。

 目の前が真っ暗になった。

 意識はある。

 でも何が起こったの?

 とりあえず周囲の状況を確認するために身体を起こそうと腕に力を入れてみる。


 ガクン


「…はれ?」


 力が入らないどころか視界はいまだにグラグラと揺れているし、何故か呂律も回っていない。

 そして顔に何かついてるような感触がして手を当ててみるとぬるっとして、その手を見てみれば真っ赤に染まっている。

 そこでようやく自分が怪我をして頭から血を流していることを理解した。

 でも、なんで?

 何があってこんなことになってるの?


 ガァァァァァン


「ぐぅあぁっ!」

「カイザック!…耐えろ!セシルが…もうすぐセシルがっ…」


 自分に起こったことを理解できないまま耳に入ってきたのはカイザックの悲鳴とリードの切迫した声。

 そして気付く、カイザックとリードの二人だけではないことに。


「ぬおぉぉぉぉぉっ!!」

岩弾砲(ロックバレット)!」


 ババンゴーア様とミルルも来ていた。

 どうやら目的地に着いた後でここまで駆けつけてくれたらしい。

 でも…こんな化け物相手に戦ったら駄目だよ。怪我じゃ済まないかもしれないのに…。

 なんとか、早くなんとかしなきゃと気持ちだけが焦っていく。

 冷静に考えようとする頭と焦る気持ちで無駄に時間だけが過ぎてしまう。


「セシル!」


 そんな時、リードからの声ではっと気持ちがすぅっと覚めてきた。

 よくよく考えて周囲を見ると、みんなが戦っているのは間違い無くオーガキングだ。

 でも確かに私はさっきこいつにトドメを刺した筈よね。

 なのに傷は多少残っているものの、私が精霊の舞踏会(エレメンタルダンス)で吹き飛ばした部位が修復している。

 回復魔法でも使った?

 それとも何かしら身体を再生するような……そういえばケツァルコアトルもバラバラにしたのに復活したっけ。

 あの時はどうやって倒した?

 うん、頭の中にアナウンスが流れるまで必死で魔法を連発したんだった。

 つまり、倒したと思ったけどアナウンスが流れるまでは安心しちゃ駄目だってこと。それを確認するより前に気を抜いた私のミスだっ!

 私が油断さえしなければみんながこんな化け物と戦う必要なんてなかったのに。

 全部、私の…せいかっ!


---能力解放します---

---周辺部保護、所有権移譲戦闘へは移行済みの為、現状を維持します---


 脳内でアナウンスが流れると同時に力が入らなかった身体が思う通りに動くようになった。

 それだけじゃない。今までよりも遥かに強い力を感じられる。

 今は魔人化を使っていないのにそれと同じくらいの強さを感じる。

 でもMPは回復していないみたいなのでもう一度精霊の舞踏会(エレメンタルダンス)を使うのは躊躇われる。

 使えないわけじゃないけど、もし使って倒しきれなかった場合は今度こそ打つ手無しになるし何より魔渇卒倒で確実に殺される。その場合、ここにいるみんなも巻き添えになってしまう。

 そんなの、許されるわけがない。

 回復した身体を立ち上がらせ、短剣を構える。

 魔人化は全開、魔闘術で短剣強化、探知を十メテル限定、熱操作、理力魔法はカット。

 さっきオーガキングが踏みつけてきたときに地面はあんまり凹んでいなかったから、それだけ周囲の環境も強化されているのだと思う。オーガキング以外の脅威は近くにないものとして考え、他にも魔法を使うと仮定すればこれがベストだろう。

 私の準備が出来るより少し前にカイザックがリードと共に弾き飛ばされて巨木に当たって崩れ落ちた。

 そしてババンゴーア様とミルルの方へその腕を叩きつけようとしたところだった。


「うああぁぁぁぁっ!」


ザシャッ


 すんでのところで飛び出した私はその勢いのままオーガキングの腕へと短剣を走らせた。

 強化された私の短剣がオーガキングの腕を切り裂き、血を撒き散らした。

 切り落とせたら良かったが流石に硬い皮膚と筋肉に阻まれて骨までも達することができない。

 ただ動きを止めることは出来た。


「セシル!良かった、無事だったのですね?!」

「ごめんねミルル。大丈夫だった?」

「はい、私は大丈夫です。ただ…」

「…セシル殿…なんとか、ミルリファーナ嬢は守ったぞ」

「ババンゴーア様…腕が…」

「う、む。公爵令嬢を守ったのだ、め、名誉の負傷だろう?」


 私が駆けつけた二人の様子を見るとミルルは多少の擦り傷があるものの大きな怪我はない。

 でもババンゴーア様は左腕がぐしゃぐしゃにひしゃげてしまっていた。しかも自慢の大剣もぐにゃりと曲がっており、オーガキングの攻撃を何度か受け止めていたのだろう。

 今も右腕一本で大剣を握りながら立っているのも精一杯のようだ。…よく見たら左足の足首も変な方向を向いている。どれだけ凄まじい攻撃に曝され、そして受け止めてきたのか…想像に絶する。


「ミルル、ババンゴーア様の回復をお願い。痛みを取ってあげるだけでもいいから」

「…はい。セシルは?」

「私はこいつをやっつけるよ」

「そんなっ…セシル無茶…」


 ミルルが何か言おうとしていたけど、それよりも早く私はその場を離れてオーガキングの頭目掛けて氷魔法を撃つ。

 こいつの攻撃対象が私になってくれればいいのでダメージ自体は期待してない。

 何発か打ち込んだところでミルル達から私へと攻撃対象が切り替わったようで私の方に向き直り不気味な笑みを浮かべている。

 さっき不意打ちで私に大怪我させたのを喜んでいるのか、それともeggの獲得に心踊らせているのかはわからないけど…。


「気持ち悪いよっ!もうっ……絶対に許さないんだからっ!」


 大きく振り下ろされた腕を避け、下がってきた顔目掛けて短剣を振るった。


「ぐるぅぅあぁぁぁぁっ?!」


 両手の短剣で数度斬りつけた際、ちょうど目も斬りつけることができたようで瞼から血を流して膝をつくオーガキング。

 私も余裕無いから一気に決めさせてもらうからっ!

 魔闘術で強化した短剣に光魔法の光線と同じ要領で纏わせると剣から光が溢れ出して金色に染め上がる。

 そのまま理力魔法を使いオーガキングの周りにいくつもの足場を作り出した。


「だあぁぁぁぁぁぁっ!」


 自身でどこからこんな声が出てるのかわからないほど大きな声を出して第一歩を踏み出すと真っ直ぐにオーガキングへと斬り掛かった。


「がぁっ?!」


 私に斬りつけられたオーガキングが滅茶苦茶に腕を振り回しているけどその場所に私はもういない。

 飛び上がって斬りつけた後、上に出していた足場で踏み込んで更に斬り下ろす。

 下に出した足場で踏み込んで斜めに斬りつけて、横の足場で踏み込んで横薙ぎに斬りつける。


「あぁっ!だっ!はぁっ!せっ!」


 踏み出し一回ごとに私の喉から声が漏れるが徐々にスピードが上がってきてその声も出なくなっていく。

 同時にオーガキングの悲鳴も聞こえなくなってきた。

 繰り返す。

 ただ繰り返す。

 こいつを倒すまで繰り返す。

 MPが切れるまで繰り返す。

 切れても繰り返す。

 ただひたすらに、足場で飛んで、斬りつける。

 理力魔法も最適化されてただの固く一度踏み込めば壊れるようなものではなくゴムのように踏み込めばその強さの応じて同じ強さで跳ね返す足場へと変わっていた。

 あまりの速度に周りの景色を認識できないが、足場を踏み込む一瞬だけオーガキングの姿を確認に斬り掛かる。

 その命を刈り取るまで。


---魔王種の撃滅に成功しました---

---所持していたeggの所有権が移ります---


「これでっ!最後ぉぉぉっ!」


 既に事切れているオーガキングへの最期の手向けとして、そしてこの死闘の幕引きのための一撃を。

 足元へと着地して、より一層の魔力を込めて。


「ぜえぇぇぇやあああぁぁぁっ!」


 飛び上がりながら真っ直ぐ上へと放った斬撃はオーガキングの身体の中心を駆け抜けて空へと昇っていった。


バキィィィィィン


 甲高い音がして私の持っていた短剣が根本から折れて地面へと落ちた。いつだったか薬師のお姉さんから貰った物で、切れ味も良くて頑丈ですごく使いやすい短剣だったのに…。

 そして数秒の後に、その肉体は左右に別れて大地へと落ちていった。


---egg所有者同士の戦闘終了を確認しました---

---能力解放、周辺部保護を終了します---


 続けて流れる脳内アナウンスに私は今度こそほっと胸を撫で下ろした。

 ついでに今もスキルのレベルアップについてアナウンスが流れているが、それは後でまとめて確認しよう。まずは…。


「ババンゴーア様」

「む…ぐ…。セ、セシル殿…終わった、のか…?」

「はい。すごく大変でしたけど、なんとかなりました」

「ふ、ふふ…流石セシル殿だな…」


 ババンゴーア様は身体を起こそうとしているが、ミルルの回復魔法では完全には回復しきれていないので首だけをこちらに向けるのが精一杯だ。


「ミルル、回復代わるよ」

「セシル…。でも貴女も今戦い終わったばかりで…」

「そのくらいの魔力は残してあるよ」


 嘘だけどね。魔力闊達に含まれるMPの自動回復のおかげでほぼ使い切ったMPも戦闘が終わると同時に爆発的な速度で回復していってる。

 恐らくミルルの使っていたのは「大治癒(エクスヒール)」と言われる普通の回復魔法では最高級のものだと思う。

 だからこそババンゴーア様の痛みはすっかり引いているみたいなんだけど…それだと骨折までは治らない。もっと高位の回復魔法は普通の魔法使いでは習得すら困難なので仕方ない。


「新奇魔法 聖光癒(リカバー)


 私だけが使える強力な回復魔法を使うとババンゴーア様のぐちゃぐちゃになっていた腕と足首が変な方向に向いていたものがゆっくりと治っていく。

 魔法はイメージと随分前に母親であるイルーナに聞いていたので、私は細胞が持つ元の形に戻ろうとする力を最大まで生かして再生させている。

 厄介なのはこれを筋肉痛に使うと筋トレしても全く意味が無くなってしまうこと。なのでババンゴーア様がこの演習で得た経験はさっぱりと無くなってしまうことになる。

 でも腕が動かなくなったり真っ直ぐ歩けなくなるよりはマシだと思ってもらいたいよね?

 すっかり回復したのを見届けると私は同じようにカイザックにも同じ魔法を使い、大きな怪我の無かったリードとミルルには「小治癒(ヒール)」だけに留めておいた。

 自分?

 魔人化の影響で小さい傷なんてとっくに治ってるよ。

 そこまでして、ようやくみんなの顔にも安堵の表情が浮かんだのだった。

今日もありがとうございました。

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