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第118話 二年次実地演習 7

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 さて、とは言えオーガロード。

 防御力自体は脅威度Aの魔物と同等以上を誇る魔物である。

 私の新奇魔法を使えば簡単に倒せるとは言え、普通の脅威度Bの魔物とは一線を画するのでカイザックでは簡単には倒せないと思う。

 そうなると私が瞬殺するか?と言うとそういうわけにもいかない。リードの成長ももちろんのこと、カイザックにとっても騎士の誇りを尊重したいという思いだってある。

 一番は私の人外振りを見せつけて彼等の今後の成長の妨げになるのではないかという危機感、いや私を人として見てもらえなくなるのではないかという危機感、かな。

 さて、そうなるとどうしようか。

 迫っている脅威度Aの魔物がいるのは事実なのだし、このまま対峙しているだけに留めているわけにはいかない。


「セシル、魔石を持ってるか?」


 私が思案しているとカイザックから声を掛けられた。

 リードは今もオーガロードと向かい合って剣を構え警戒しているのに対し、私はどう対処するか思案しているのを思えば彼の方がまだ危機感を持っていると言えるかもしれない。

 そんな中掛けられた声に私はカイザックの方へと向いてしまったのは仕方ないことかもしれないが、失敗と言う他ない。

 その隙をついてオーガロード達が持っている棍棒を振りかざしてきたのだから。


「危ない!」


ゴオオオォォォォン


 咄嗟に私とオーガロードの間に入ったカイザックはその盾でオーガロードの棍棒による一撃を受け止めた。さすがに強力な攻撃だったのか痛みで表情が歪んでいる。

 防御力には自信のあるカイザックとは言え、やはりオーガロードの攻撃を何度も受けるのは無理がある。


「このっ!」


 カイザックに棍棒を叩きつけてきたオーガロードに天魔法で強風を吹き付けて何とか少しだけ距離を取らせることが出来たので、その隙に彼の側に駆け寄り回復魔法を使うことにした。


「だ、大丈夫か…」

「う、うん。私は平気。もう…無理しなくていいのに」

「君が倒れたらこの絶望的な状況を好転させられなくなるだろう。それで、魔石は持ってるのか?」


 回復魔法では怪我は治るが体力までは戻らない。

 今使っているのは初歩的な小治癒(ヒール)なので直接触れながらでないと効果はない。もっと上位の回復魔法も使えるけど、普通の魔法使いの範囲を大きく超えることになると以前アドロノトス先生に聞いていたためなるべく使わないようにしている。

 それを使えば周りで倒れ現在もミルルが治療している人達もすぐに助けられるけど、ミルルに任せられるのであれば私もこっちのオーガロード達に集中したい。

 カイザックの回復が一通り終わったところで私は魔法の鞄に改造していない制服のポケットから一つの水晶を取り出した。


「はい、これでいい?」

「あぁ……ってこの魔石は…っ?!」

「余計な詮索は無し。どうするつもりかわからないけど、それでいい?」

「…あぁ、十分だっ」


 カイザックに渡した魔石。

 それはここに来るまでに何度か行った夜営の際、交代で起きている間の暇潰しで作ったものだ。

 森では地面が腐葉土でフカフカしているのであまり大きく出来なかったものの、いつもの地魔法と鉱物操作で石英を集めて作り付与魔法でひとまず魔力だけ込めた。

 まだ何も付与していないがそれでも内包魔力は四千ほどあったはず。

 でも魔物から取り出したようなただ魔力が入ってるだけの魔石を何に使うつもりなんだろう?


「いくぞっ!『魔石解放(チャージブレイク)』!」


 カイザックが叫ぶと渡した魔石が強い光を放って細かく震え出す。

 その輝きはまるで太陽のように輝き目を開けていることすらキツい。私の新奇魔法にも似たようなものがあるけど、あれは前世の漫画で禿げた人が使ってた技を再現したようなもの。

 この輝きは多分本来の用途の副産物であろうことは現状を踏まえればわかる。


「はああぁぁぁぁぁぁっ!!」


 カイザックが更に力を込めるように吠えると魔石の振動は更に激しさを増していく。そして


パキィィィイイィイィン


「……は?」


 え?なに?魔石が割れた?えぇ…?ちょ?

 しかしその魔石が割れると同時に込められていた内包魔力がより強い力を出しながらカイザックへと流れ込んでいくのがわかる。


「うおおぉぉぉぉっ!『ホーリーブレイド』!」


 さっきまで魔石を中心に輝いていたものが剣の形となってカイザックの手に収まっていた。

 感じられる魔力は本来カイザックが持っているものよりも遥かに強いものだが、それは当然私が付与魔法で内包魔力をたっぷり込めたからだろう。

 森の中を照らす魔力の白い輝きはオーガロード達の視界も焼き尽くしているのか、彼等は目に手を当てたまま動こうとしない。


「くらえぇぇぇぇぇいぃっ!」


 そしてカイザックの握る光の剣から放たれた強力な光魔法を帯びた剣撃は巨大な刃の形となってオーガロード達へと向かっていく。

 そして彼等は避けることもできずにその直撃を受けることとなった。


どぉぉぉん


 私の爆発魔法を使ったような音がして、オーガロード達は二体とも地面に倒れ伏した。

 あの光る剣撃が直撃した音とオーガロード達が倒れた時の音だろう。

 なんだかんだ言ってもカイザックもAランク冒険者相当の実力なのだし、オーガロードを倒すことくらいは出来るということか。

 しかもあんな奥の手………奥の…私の宝石………。


「はあっはあっはあっはあっ!」


 かなり無理をしたようでカイザックは膝をついて荒く息をしている。

 HPは私達が来る前のオーガ達との戦闘で、MPは今の技でほぼ使い果たしてしまったようだ。

 目の焦点が少しずれており、魔渇卒倒直前の状態だ。

 でも、それはそれ。


「カイザック…」

「はぁはぁはぁ…セ、セシル。ど、どうだ?オーガロード達は始末した、ぞ?」


 フラフラになりながらいい笑顔を向けてくるカイザック。

 確かに?オーガロードは私でも舐めてかかれないような相手ではある。

 それをカイザックがとっておきの奥の手でやっつけた。

 うん、すごいと思う。そんな奥の手を見せなきゃいけないほど彼は追い詰められていたんだよね。

 彼は、ね?


「カイザック、さっきの、さっき渡した魔石って…」

「ん?あぁさっきの技を使うために必要なのでセシルだったら持ってるだろうと思ってな」

「あー、うん。持っててよかったよ。それでさっきの魔石ってどうなったの?」

「魔石?…それはもちろん見ていたからわかるだろう?『魔石解放(チャージブレイク)』は魔石の中にある魔力を暴走させて取り出すことで自分の魔力量より大きな魔力を使って普段は使えないような技で攻撃するものだからな。使った魔石は粉々に砕け散ってしまうのさ」


 粉々に。

 砕け散る。

 私の、宝石が?


「じゃ、じゃあもう元には…」

「勿論元には戻らない」


 …………………ぷちん。

 何かが頭の中で切れたような音がした。

 頭の中が白くなったような気がした。


「く、くくく…」

「くくく?…セシル、あまり品の無い笑いはするものではないぞ。貴族の従者たる者常に上品に…」

「くっ!くぅおぉぉぉぉのぉぉぉぉぉぉっ!バカアアアァァァァァァァァッ!!」


 私のあまりの剣幕に驚いたカイザックは直前の言葉を飲み込み全身をビクリと震わせた。

 すぐ近くにいるリードも全く同じ反応をしている。

 私は周囲に大音量の声をまき散らすことを気にせず、感情のままに口を開いていた。


「私の宝石!!私の水晶!!私の魔石ぃぃぃぃっ!なんで壊すのよ!馬鹿じゃないのっ?!バカイザック!!もう今日からバカイザックよっ!アンタなんかずっとバカイザックなんだからああぁぁぁっ!」

「セ、セシル…?」

「うっさいバカイザック!私の宝石壊す奴は敵よ!もうぜええぇぇぇぇったい許さないんだからっ!」


 そして何も遠慮することなく、両手に魔力を集中していく。

 しかし、その時。


「セシル!カイザック!後ろ!まだオーガロードが!」


 リードの言葉に私も一瞬だけ理性を取り戻し、探知スキルを使用した。

 確かに私の後ろにバカイザックが倒したと思ったオーガロードの内一体が体を起こして棍棒を振り上げようとしているところだった。

 その様子を振り返ることもなく、探知スキルを極狭い範囲で使ったことで把握した私は集中していた両手の魔力をそちらへと解放した。


「今!話し中なんだから邪魔しないでっ!剣魔法 光剣繊(レーザーブレイド)!」


 振り返ると同時に両手の指先から放たれる紫色の十本もの光線。

 聖魔法と邪魔法、炎魔法を組み合わせて作った新奇魔法の一つ。

 それを自分の前で腕を交差するように何度か振るうと十本の光線が数度往復することになる。


が……が…?


 動こうとするオーガロードだが既にその身体は自身の自由は一切効かないようだ。

 数瞬してその身体にボーダーのような横縞模様が走り出す。一度入った模様は止まることなく続けて何本もその身体へと刻まれていき、ふとしたところでズレ始めた。


ずずぅぅぅぅんん


 オーガロードの体とその奥にあった巨木も十何本か巻き添えにして正に繊切りのように細かく刻まれて崩れ落ちていった。


「なっ……」

「あぁ…いつものセシルだ…」


 片や驚愕の、片や呆れた表情を浮かべた二人の男たちはその様子をただただ茫然と眺めていたのだった。


「……も、もしオーガロードが起き上がらなかったら…」

「…カイザックにアレが撃たれていた可能性は…ある」

「……じょうだ…」

「んだと思うか?本当に?あのセシルだぞ?」


 リードの言葉に完全に言葉を失うカイザックに対し、私は笑顔で振り返りもう一度目に見えるほどの魔力を両手に込めていくのだった。


「さぁて…お話の続き、しよっか?」

今日もありがとうございました。

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