第114話 二年次実地演習 3
遅れました!
危なくそのまま寝てしまうところでした…(_ _)
うーん?
ヤコイ
年齢:31歳
種族:人間/男
LV:18
HP:246
MP:33
スキル
言語理解 2
投擲 3
片手剣 2
威圧 1
野草知識 1
詐術 2
このメンバーで一番強い盗賊でもこのくらい。
これなら従者の男性でも余裕かなと思ったんだけど、案外そうでもないことが判明。
というのもこの従者は下級クラス。それも下位の方みたいだ。
よくこれで入学出来たなぁと思うほどのステータスだった。
ジンク
年齢:19歳
種族:人間/男
LV:11
HP:94
MP:67
スキル
言語理解 3
魔力感知 1
身体操作 1
弓 1
片手剣 2
湿魔法 2
空魔法 2
気配察知 2
タレント
戦士
盗賊が一人なら主人を守って戦うこともできるだろうけど相手は五人。
ちょっと、いやかなり厳しいと言わざるを得ない。
そして私が茂みに隠れてステータスを盗み見ていると彼らの会話も当然聞こえてくる。
「さっきから言ってるだろ?アンタ一人じゃそっちのお嬢さんを守りながら戦うなんて無理だ」
「黙れ!例え敵わなくても時間を稼げば教官達も来る。そうすればお前達など…」
「この人数相手に時間稼ぎなんてできると思ってんのかよ」
ジンクと言う名の従者は貴族の女の子を逃がそうと後ろへ軽く押しているが、その子は足が竦んでいるのがさっきからジンクにしがみつくだけで全く動こうとしない。
このままだと二人とも盗賊達の手に掛かるのは間違いない。
「さて…それじゃアンタを殺してそっちのお嬢さんを連れてくとするか。これで身代金を出させりゃいい金になるぜ」
「…っ!下衆どもがっ!」
全くその通りだと思うよ。
さて、リードからは見ていてくれと言われてるけどどうしたものかな?
このままだとリードが来るよりも盗賊の手によってジンクもやられちゃうし、女の子も連れ去られてしまう。
明らかに相手は盗賊だし、貴族の誘拐は王国法で重罪とされている。それが未遂であろうともあぁやって剣を向けてしまえば言い逃れは出来ない。
リードが合流するまで待つとして音を立てないように千メテル移動するのはかなり時間が掛かる。
介入するしかないね。
「あー…ちょっとすみません。貴族のお嬢様に剣を向けたり、誘拐したら重罪だよ?」
私は隠蔽スキルを解除して茂みから身体を乗り出した。
ちょうど学生と盗賊の間から現れることになり、驚いた双方が揃って私を凝視している。
「…っ?!な、なんだ……ってガキか?へへっついてるな!」
「おぉ!貴族のガキ二人から身代金を取ればしばらく遊んで暮らせるぜ」
いや、私貴族じゃないから。
盗賊からすればそこにいる貴族の女の子と同い年くらいの私が現れれば同じように貴族と思ってしまうのかもしれない。
「で、でもよ。そのガキの従者もいるんじゃ……」
「だからとっとと片付けちまえばいいんだよ!やっちまえ!」
はい、テンプレ戴きました!
御馳走様です。
こちらへ剣を構えて向かってくる盗賊達。
よく見れば剣もそこまで悪いものじゃなさそうだけど、あんなの持ってるから悪いことするのかな?
さて、魔法を使ってしまえば簡単なんだけど私の魔法では簡単に殺してしまいかねない。ここは面倒でも素手で攻撃するのが一番だね。
「よっ」
私は足に少し力を入れて踏み込むと盗賊達の間を縫うように駆け抜けた。
ドサッ ドササッ
少しの間を置いてから彼等は剣を落とし、お腹押さえてうずくまってしまった。
リードの訓練と同じくらいの強さで攻撃してみたけど、かなり効いているようだ。
これで残ったのはボスっぽい人だけ。
「これで降参しない?」
「な、なんだ?お、お前ら!立ちやがれ!」
ボスっぽい人が叫ぶが、うずくまった彼等が立ち上がることはない。私の攻撃はレベルの低い彼等がすぐ立てるほど弱くはない。
「しばらく立ち上がれないよ。貴方もそんな物騒な物振り回さないで」
チュイン
「でっ?!」
私の石の弾丸が彼の親指の付け根辺りを撃ち抜いた。
もう少し強くすれば手首から先を吹き飛ばしてしまうところだったので我ながら絶妙な力加減だと思う。
「次はこれを頭に当てる。出来ればこのまま私達の演習が終わるまでここに近付かないでほしいんだけど?」
「…わ、わかった。あ、アンタの言う通りにする。お、俺達はすぐここからいなくなる。だからいの、命だけは…」
随分物わかりがいいね?
盗賊って言ってもこんなものなの?
私だって無駄に命を奪おうとは思わないし、魔物と違って盗賊とは言え人間だ。誤って強い攻撃をしてしまって結果相手が死んでしまったら後味はともかく仕方ないと思えるけど、好き好んで殺そうとは思わない。
「ここに寝てる人達も連れてくんだよね?」
「もも、もちろん!俺達はしばらくこの森には近付かねぇ!」
「…じゃあいいよ」
「「えっ?」」
私の言葉に盗賊のボスっぽい人だけではなく、後ろにいる貴族の女の子の言葉も被った。
「私の気が変わらない内にどこかに行って」
「へ、へへ…あ、ありがとよ。お、俺達は今後アンタには絶対近付かないからよ」
盗賊のボスっぽい人は倒れてうずくまってる部下と思わしき人達の頭を蹴り上げて立ち上がらせるとフラつく身体を引きずりながら森の緑の中へと消えていった。
「ふぅ。お怪我はございませんか?」
盗賊達が立ち去ってここから離れていくのを確認した後、後ろで主人である貴族の女の子にしがみつかれていた従者の男性に声を掛けた。
「あ、あぁ。私達は無事だ。主人も私も怪我一つない」
「それは重畳。それにしてもあの男達は?」
彼等が昨日から森の中にいたことは把握しているが、それを、私が知っていたら何故放置したのか、もしくは彼等の仲間ではないかと疑われかねないのでここは知らんぷりをして通す。
「わからん。さっきいきなり声を掛けられ主人を引き渡すようにと武器で脅されたんだ」
「…そうでしたか…。ひょっとしたらこの森で貴族院の生徒が演習をしていることを聞きつけてよからぬことを企んだのかもしれませんね」
「あぁ、恐らくはそうだろう。それはそうと、助かった。私はこちらにおられるシュニマフ子爵令嬢ノイマーン様に仕えている従者のジンクと言う」
ジンク殿は姿勢を正して礼をした。
私もそれに習い姿勢を正した。
「私はクアバーデス侯爵子息リードルディ様の従者でセシルと言います」
従者の礼をすると場所も場所なので腰を落ち着けることもなく、ただお互いに微笑んだ。
「セシル殿、危ないところをありがとうございました。今ジンクより紹介されたノイマーンと申します。シュニマフ子爵家の二女として貴族院へ来ております。以後よろしくお願いします」
「はっ。御身がご無事で何よりでございました」
「それで、リードルディ卿はどちらに?」
「はい、主人でしたらもう間もなく到着するかと……着いたようです」
ノイマーン様と話していたところでリードの気配が強くなってきたので私は彼がやってくる方向へと目を向けた。
「…なんだ、もう終わってるのか」
「お待ちしておりました、リードルディ様」
リードは到着するや否や周囲を見渡して状況を確認しようとしている。
こういうところは幼い頃から上に立つよう教育されてきた賜物かもしれない。
頭に葉っぱを乗せたままじゃ格好付かないけどね?
「ご苦労。それで、セシルが見つけた賊とはどこだ?」
「はっ。実力差を見せつけたところ戦意を無くしたため逃走しました」
「なっ…?!逃がしたのかっ?!」
私の説明にリードは驚いてこちらに一歩踏み込んできた。
思ったよりも大きな声だったので瞬間的に探知スキルで周囲を探った。
声に反応して魔物が近寄ってきているようなことは無さそうだ。
「それよりリードルディ様」
私は視線をノイマーン様へ向けるとリードも気付いたようで咳払いをして落ち着いた様子を見せた。
「失礼した。僕がセシルの主人であるリードルディ・クアバーデスだ」
リードが挨拶するとノイマーン様は動きやすい服装ではあるが簡易なカーテシーをして上位者への挨拶をしていた。
その間に私はジンク殿とこの後の話を詰めていた。
目的地が同じ方向ならしばらく行動を共にしてもいいかと思い、その摺り合わせだ。
「さすがにAクラスの目的地は遠いですね…」
「えぇ。今日も可能な限り前進しないと到着時間に大幅な狂いが出てしまいます」
「…となれば私達が一緒にいても足手纏いでしょう」
ジンク殿に見せてもらった地図を見ると私達の目的地よりも半日くらいは近い位置にあるようだった。
これでは一緒に行動すると私達の到着は三日目の昼ギリギリになる。何か別のトラブルがあれば期限に間に合わないかもしれない。
さて、リードはどういう結論を出すかな?
「セシル、それで賊を逃がしたということだが?」
「はい。無闇に殺すこともないかと思いましたので、そのまま逃走させました」
「馬鹿者!」
「っ?!」
リードから今後の話を聞こうとしていたところだったので少し気を抜いて油断していたけど、いきなり怒鳴られたことで息を詰まらせてしまった。
「盗賊だったのだろう?!ならば町の衛兵に突き出すか、その場で殺すかするべきだ!」
「なっ?!」
「リ、リードルディ様…。セシル殿は私達を守ろうと…」
「うるさい!それとこれとは話が違う!奴等は善良な国民や領民を脅かす悪だ!ゴブリン共と同じで見つけたら即殺すべきなんだ!」
一人怒鳴り散らすリードは今まで見たことがないような鬼気迫る表情だった。
さすがにそんなリードに反論する気にはなれず、私は素直に頭を下げた。
「…申し訳、ありません…」
「……過ぎたことだ。仕方あるまい。…だが、覚えておけ。お前が今日逃がした盗賊達が明日またどこかで人々を襲い、何の罪もないそれらの人々の命が奪われるかもしれないことをな」
吐き出すように紡がれたその言葉は私の心にいつまでも引っ掛かって、澱のように沈み込んでいくのだった。
今日もありがとうございました。




