第11話 心と涙と悪夢と
話の展開が遅いとは思いますがのんびり付き合っていただければと思います。
あと、セシルはちゃんと成長する予定です。
7/28 題名追加
ハウルと私とで狩った獲物、ブーボウの親子をロープで括り付けて引き摺って村まで歩く。
森から村の中心までは歩いて30分ほどだが、今は大荷物があるので1時間はかかる。
はずだった。
森を出てしばらく歩いていると前から村の自衛団が走ってきた。人数は10人くらいでそれぞれが武器を手にしている。よく見れば後ろの方にミックがいる。あのままただ逃げたわけじゃなく、ちゃんと助けを呼んできてくれたようだ。
自衛団の中にはハウルやキャリーのお父さん、ランドールの姿も見えた。
疲れていたし荷物も重かったので私たちはそこで立ち止まり、大人たちが到着するのをその場で待つことにした。
ハウルとキャリーはお父さんたちに怒られて、ユーニャとコールは自衛団の大人におんぶされて、ミックは来たときと同じく歩いて村へ戻った。
私は血塗れだったこともあり怪我をしているのではないかとランドールに抱えられて自衛団の本部に連れて行かれた。
右肩の怪我の治療をされて汚れた服を全て脱がされた後、全身を清められ布の筒のような貫頭衣を着せられて帰ることになった。
いくら今世では4歳とは言え、中身は20歳以上の大人なので他人にスポポーンと服を脱がされるのはあまり気持ち良いものじゃない。文句を言える状況でも立場でもなかったけれども。
そして現在、家に着いてベッドに座らされている。目の前にはもちろんランドールとイルーナがいる。
「さて。セシル、どういうことか話してくれるか?」
「セシルちゃん、ちゃんと話してくれるよね?」
「…えっと…。ど、どこから話していいか…」
「最初からだ」
「最初からよ」
二人から詰め寄られて冷や汗を流している状況です。
これ絶対適当にはぐらかせないよね。そもそもこっちに非があるしこの二人に嘘を吐きたくない。
「えと。じゃ、じゃあ…。最初はいつも通り、いつもの場所で訓練してたんだよ」
その後お昼ご飯に狩りをしてガーキンを狩って食べたこと。残りは鞄に入っていて、夕食に出してもらおうと思っていたこと。
ハウルたちと合流していつもとは違う森に狩りに行こうということになったこと。森でブーボウの子どもを仕留めたら親が出てきて、それもなんとか仕留めたこと。
最後にゴブリンの群が出てきて他の子どもたちに危険なことをさせられないからと私一人で全部倒したこと。そのときに反撃を受けて怪我をしてしまったこと。
その全てを正直に話した。
「セシル…お前…」
「え…あは。ちょっと信じられない、かな?」
「セシルちゃん…」
「あ…でもほんとだよ。他の子たちは怪我一つしてないし、父さんと母さんに教えてもらったことをちゃんとやったからできたことなの。私弓も短剣も魔法も使えるようになってきたんだよ」
私が必死に説明しているとどうしていいかわからないと言わんばかりにランドールもイルーナも顔をしかめていく。怒っているような悲しいような複雑な表情だ。
こちらが一生懸命やっても報われないことがあることは私は前世の子どものときに嫌というほど知ってる。このまま怒って私のせいで家族がおかしくなるくらいならひっそりと消えてしまった方が良い。イルーナとランドールはとても優しいから私は本当に大好きだし、私のせいで二人の仲が悪くなるようなことだけはあってほしくない。
4歳で家出で独り立ちかぁ。今世もなかなかハードな人生になりそうだなぁ。ま、理不尽な暴力に曝されるよりはマシだよね。
なんとかそれを伝えようとして口にしてみるものの、うまく口が回りそうにない。
「あ、あの…。えっと…ここ、こんなの、き、気持ち悪い、ですよね…?わた、私ちゃ、ちゃんと出て、出ていきますから。おおお世話になり、なりま…」
「っ!!」
瞬間、私の視界は突然真横に向いた。
遅れてやってきたのは左頬の熱、それと痛み。
思考が追いつかない。
やっとのことで顔を前に向けると右手を振り切ったイルーナがさっきよりも顔をしかめて私を睨みつけていた。
「馬鹿なこと言わないで!私がいつ気持ち悪いなんて言ったの!出ていくなんて何考えてるの!そんなことのために魔法教えたんじゃない!セシルちゃんは私の娘なの!ここにいなきゃ駄目なの!」
普段からは想像もできないような剣幕でイルーナに怒鳴られた。内容は滅茶苦茶だ。
私が左頬の痛みに自分の左手を当てていると大粒の涙を零し続けるイルーナに強く抱きしめられて、その痛みをじっくりと感じることができた。
「気持ち、悪くない、ですか?」
「まだ言うの!?自分の娘を気持ち悪いなんて言う親がどこにいるの!?それにそんな言葉どこで覚えてきたのよ!」
前世です。自分の娘を気持ち悪いって言う親の元で前世は育てられていました。
なんてことは口が裂けても言えないだろうね。
言葉は…これ以上嫌な思いをしないための処世術みたいなものでしょう。
「セシルちゃんはどこにも行かせない。セシルちゃんは私の娘。セシルちゃん。セシルちゃん」
最早うわ言のように繰り返すイルーナに抱き締められたまま、私は動けずにいた。
叩かれるのは両親のストレス発散の為だった。だから叩かれることには慣れている。
気持ち悪いから叩く。気に入らないから叩く。上手くいかないから叩く。とりあえず叩いてから次は殴る、蹴る、外に放り出す。そんなのが日常だった。
この人は…イルーナは何を言ってるんだろう?私は、何をしたんだろう?わからない、理解できない。気持ち悪くないならなんで私は今叩かれたんだろう?
「なぁ、セシル」
ここにきてようやく口を開いたランドールがイルーナの肩越しに私と目線を合わせてきた。
「お前はオレ達の娘だ。それは絶対に変わらない。どんなセシルでもオレ達のセシルで、かわいい娘だ。お前が産まれたときな、オレはどんなことがあってもお前を守ってみせると思ったもんだ」
ランドールの大きな手で頭を撫でられたところでイルーナが体を離した。
「私もだよ。この子を絶対に幸せにするんだって思ったよ」
「だからな、もうこんな無茶は止めてほしい。オレ達はお前の身の安全のためと思って技術を教えた。こんな無茶をするためにじゃない。それは最初に約束していただろう?」
以前ランドールから言われたことを思い出し、少しの間を置いてコクリと頷くと再び頭を撫でられた。
「だったら、セシルは約束を破ったことになるだろう?約束を破ったらどうしなきゃいけないんだ?家を出るとか、気持ち悪いとかそんなことじゃない。もっと最初にしなきゃいけないこと、言わなきゃいけないことがあるだろう?」
「あ…」
「セシルちゃん。セシルちゃんは頭がいいからちゃんとわかるでしょ?」
「……ごめん、なさい…」
私の言葉と同時にイルーナが再び抱き着いてきた。そのイルーナを含めて私達二人をランドールが抱き締めてくる。
「そうだ。まずはちゃんと謝ることからだ。……セシルが無事で、本当によかった」
「うぅ、ぐすっ。セシルちゃん、よがっだ。うえぇぇぇぇぇぇ」
「あ…あぁ…。ご、ごめ、ごめんなさ、い。ごめんなさい、母さん。父さん。ごめんなさ…あああぁぁぁぁぁっ。ああぁぁぁぁぁぁぁ」
諭されてやっとわかった。
もう叩かれないために言う「ごめんなさい」じゃない。心を込めた謝罪をするための言葉。分かり合うための言葉。
こんなこと、前世じゃわかんなかった。
「落ち着いた?」
「…ぐす、うん」
今はベッドに腰掛けたイルーナの膝の上に座って胸に抱きついている。ランドールもその隣でイルーナの肩を抱きつつ私の背中を擦ってくれている。
たまに傷口の近くに触れて少しだけ痛みが走るが、これは私が約束を破ったことに対する戒めなので甘んじて受けることにしたい。
と思っていたが、私が少し顔をしかめたことをイルーナが見つけたようだ。
「ランドくん、今セシルちゃんの肩触ったでしょ?怪我してるんだからダメだよ」
「あ、あぁ…。スマン、つい可愛くてな」
「もう…。仕方ないなぁ…。セシルちゃん、もうこんな無茶しちゃダメなんだからね?」
「うん、母さん。父さんにももう一回約束する」
イルーナの胸で甘えながら、今度こそ守ろうと心に誓った。
「ふふ。じゃあ久しぶりにやってみようかな。小治癒」
イルーナの右手から魔力の光が放たれると右肩が温かくなってきた。
そのまましばらくするとさっきからずっとズキズキと走っていた痛みが引いてきて、光が消える頃には痛みは全く無くなった。
これって回復魔法?
驚いてバッと顔を上げるといつものように優しく微笑むイルーナ。そしてランドールがするすると包帯を外していくと、すっかり傷口は無くなり元の綺麗な肌に戻っていた。
「今度セシルちゃんにも教えてあげるね」
「うん!母さん大好き!」
「じゃあオレもセシルが無茶しないように、もっといろいろ教えてやらないとな」
「うん!父さんも好きよ。いろいろ教えてね」
傷が無くなり、私の涙も引いたことからそのまま私はベッドに寝かされ疲れからかあっという間に眠りに落ちた。
襲い掛かるゴブリン。
剣で切り付けて倒す。
火で焼き尽くして倒す。
絶命したはずのゴブリンが起き上がり、左肩から袈裟斬りにしてパックリと割れた腹から内臓を零しながら尚も襲い掛かってくる。
火で焼き尽くし炭化したゴブリンが真っ黒な体を引き摺ってこちらに迫る。
剣を振り、火を放ってまた倒す。
殺す。
小さな体。
私やキャリーと変わらない体躯のゴブリンが倒れていく。
何度も繰り返し、その度に起き上がるゴブリン達。
斬りつける。
焼き尽くす。
殺して。
殺して。
殺して…。
そしてまた、起き上がる。
その顔は………キャリーだった。
嫌なことがあると夢に見ることがよくあるのですが私たちだけですかね?
それと感想などいただけるとやる気が出てきます。




