第102話 買取担当はお姉さん???
すみません、遅れました!
ワイバーンの巣から飛び立って次の依頼に向かおうと思ったけど、はたと思い立つ。
よく考えたらこの岩山にも何かしらの鉱石があるかもしれない。
鉱山でなくても多少の鉱物は含まれているし、何よりここは異世界なのだから変わった物が見つかるかもしれない。
「早速やってみようかな」
鉱物操作や地魔法を使った結果、残念ながら宝石は見つからなかった。
水晶はそれなりに見つかったけど、腰ベルトの中には既にかなりの量があるので今は特に必要としていない。
宝石は見つからなかったけど、鉱石はいくつか見つけることができた。
「金とアダマンタイト、あとはルチルかぁ。ルチルは水晶に入ってれば綺麗なんだけどねぇ」
金色の針のような金属を見て溜め息をつく。
ルチル水晶はパワーストーンとしては優秀だけど、単独で見ると個人的にそこまで好きな物ではない。
もちろんとても希少な鉱物であることは間違いないのだけど。
ちなみにルチルは分かりやすい言葉で言うならチタンだ。軽くて腐食に強い金属ということしか私は分からないけど、時計や眼鏡に使われることが多い金属と記憶している。あまり使い道はないかもしれないけど一応持っておくことにしよう。
魔法の鞄の容量も無限ではないので、いつかは倉庫代わりになるような家が必要になるかもしれないがそれまでは鞄の中で眠っていてもらおう。
宝石が出なかったこともあり、私は興味を無くすと洞窟からとっとと出ていくことにした。
その後飛行しつつ魔力感知を使いながら王都近郊を探っているといくつかの強力な魔物を見つけたのでそれも狩り、湖でキングレイクロブスターを数十匹捕獲してから町に戻ることにした。
湖では電撃魔法を使ったので回収するのはとても楽だったけど、他の魚もかなり浮いてきてしまった。尤も電撃による仮死状態になっただけなので多分今頃はまた元気に泳いでるだろう。うん、そう思うことにする。
王都の近くに降り立ってから走って町に戻るとちょうど五の鐘が鳴った。六の鐘が鳴る前までに寮に戻らないといけないので時間的にはちょうど良さそうだ。
門を通ってすぐのところにある冒険者ギルドに入る。
中は既に戻ってきていた冒険者達で溢れかえり熱気と喧騒に包まれている。
食事を提供していることもあり、まだ夕食の時間には少し早いにも拘わらず何かしらの料理やアルコールの香りもあちこちから漂ってきていた。
見ればホールにある打ち合わせに使われるテーブルのほとんどが埋まり、既にたくさんの冒険者がジョッキを片手に大声で楽しそうに話している。
そんな様子を見ながら私は奥にあるBランク専用のカウンターへと向かった。
そこには今朝から変わらずに退屈そうなクレアさんがいて、ぼーっと中空を見つめていた。正直、ちょっとアレな雰囲気が出ていて話しかけにくい。
「あ、セシルさん。おかえりなさい」
と、呆けた様子のクレアさんを眺めていたら向こうから声を掛けられた。話し掛けるのを戸惑っていたとは言えないね。
「ただいまクレアさん。ちょっと頑張ったから遅くなっちゃった」
「そうですか。ですがそれならバルムング草は採集できたのですね?」
「それはもちろん。他にもついでにやってきた依頼があるから回収してきたものを出したいんだけど」
「承知しました。あちらの奥に買い取りカウンターがありますので先にそちらで手続きを済ませていただきます」
クレアさんの指し示した方には確かに買い取りカウンターがあったが、かなりの行列になっており手続きを済ませるのは相当に時間がかかりそうだ。
ざっと見たところ三十人くらい並んでいる。下手をすれば寮の門限に間に合わないかもしれない。
「…時間掛かりそうだなぁ…」
「セシルさんは貴族院寮の門限があるのでしたね。でもご安心下さい。Cランク以上の冒険者は専用カウンターが奥にありますので、そちらでしたらまだ混み合っていないはずです」
「そうなの?」
「はい、大体彼らは六の鐘の後に戻りますので。遠征に出ていた方々はいつ戻るかわかりませんが」
なるほど。それでも低ランクの大勢いる冒険者の行列に並ばないだけでもかなり助かる。
私はクレアさんにお礼を言って指示された方へ歩いていく。
通常の買い取りカウンターに並んでいる人達にかなりキツイ目で睨まれたけどそれは気にしないようにして奥へと足を向けた。
「って…こっちもそれなりに混んでるじゃない…」
クレアさんに教えられたCランク以上専用の買い取りカウンターには表ほどではないもののそれなりの行列が出来ていた。
彼等は手に革袋を持ったまま大人しく列に並んでいるものの、一件毎の時間がかかるためか少し苛ついているような表情だ。
これなら結局は門限に間に合わなくなりそうかも…。
「あら、貴女がセシルちゃん?」
諦めて踵を返そうとしたところへ野太いながらも艶っぽい声で名前を呼ばれた。
振り返ると目の前に並んでいる冒険者達より更に屈強な肉体で背の高さは私の倍はあるであろう大女……男が立っていた。
極限まで鍛え抜かれたであろう筋肉は戦闘中でもないのにビクビクと脈打ち、鋭い眼差しはそれだけで実力のない者達を竦み上がらせることだろう。
なのに唇には紅が引かれ、頬にもうっすらと化粧を施してある。鋭い目なのにその目尻には青いアイシャドウまでしてある。
ここまでしっかり化粧をした人なんて礼儀作法の先生か領主様の奥様しか見たことがない。
肩まで伸ばされた橙色の髪は綺麗に櫛が掛けられていて香油でも使っているのか艶やかで、それでいてここまで良い香りが漂ってきている。
そしてそのアンバランスな肉体をぴっちぴちのボンテージで包み、見るからに近寄ったらいけない人オーラを全開にしている。
私がその容貌に呆気にとられているとその人は私の前でしゃがみ込んで目線を合わせようとしてくれた。
いやいや、しゃがんでもまだそっちのが高いし?!
「あら、ホントにちっちゃいのねぇ」
「む……まだ子どもだもん。これからもっと大きくなるよ!」
まだ十歳なんだからこれからだよ!主に身長とか胸とか胸とかさ!
「ごめんなさいね、怒らせるつもりはなかったのよ。ほらオネーサンちゃんと謝るから、ね?」
…今この人なんて言った?
「オネーサン?どう見てもおと…」
「あぁぁんっ?!」
「ひぅっ?!」
男、と言おうとした瞬間恐ろしいまでの殺気を感じてしまい慌てて言葉を引っ込めてしまった。
思いっきり声も低音ボイスになってたし、それじゃ本格的に男にしか見えないよ!
ここまでの殺気はケツァルコアトルに向けられた以来かもしれない。
…ひょっとしてこの人魔王種?
「あらら、びっくりさせちゃったわね。でもこんなレディを捕まえてまさか『男』なんて言うわけないわよね?」
「えっと…はい、ごめんなさいお姉さん。とっても背が高かったからびっくりしちゃって」
「おほほほ!素直ないい子なのねセシルちゃんは。アタシ、王都の冒険者ギルドで買い取りと解体の担当をしてるジュリアよ。よろしくね」
「はい、Bランク冒険者のセシルです。これからお世話になります」
「あら!あらあらあら!なんて礼儀正しいのかしら!ここにいるボンクラ共に見習わせたいわぁ」
そういうとジュリアさんは私の手をその大きな、中華鍋のような手で握り締めるとゆっくりとそれを上下させた。
ちなみにその握力で他の人の手を握ったら手の骨を粉砕骨折させちゃうからね?私だから全然平気にしてるけども。
しかしこの人本当に同じ人間なのかな?
ジュリア(?)
年齢:35歳
種族:人間/男
LV:57
HP:7,638
MP:445
スキル
言語理解 4
威圧 3
投擲 MAX
弓 4
格闘 MAX
魔闘術 6
算術 3
道具鑑定 6
野草知識 7
鉱物知識 5
道具知識 3
解体 7
料理 8
ユニークスキル
戦闘マニア 5
魔物知識 2
タレント
狩人
格闘マスタリー
慈悲ナキ者
うそぉ…?ブルーノさんよりもレベル高くて強いよ?魔法の類は一切使えないけど魔闘術まで使えるし、かなり高ランクの冒険者だったんじゃないかな?
でもeggは持ってないし、少なくとも魔王種を討伐した実績はないみたいで安心した。してたら本格的に魔王種の仲間入りだよ。
そしてやっぱり…男性、ですよね…。名前のところに(?)ってついてるからジュリアっていうのも偽名みたいだし。源氏名?みたいなものなのかな。
羨ましいことに料理スキルが私よりも高いし、解体なんてスキルまである。私もやっていれば身に付くのかなぁ?
私が鑑定をしてる間に彼…もとい彼女は「何がレディだ化け物め」「目を合わせるな食われるぞ」なんて陰口に反応してそこらの冒険者達を締め上げていた。
なのであれだけあった行列がいつの間にかほぼ無くなってしまっていた。不思議なこともあるものだね。
「えっと…次は私の番でいいのかな?」
「あらぁ?情けない男共ねっ!こんな簡単にネンネしちゃうなんて。いいわセシルちゃん、アタシが対応してあげるわ」
そういうとジュリアさんはカウンターの中に入って先に対応していた冒険者の荷物を腕でブルトーザーのように押しのけて場所を作ってくれた。
どけられた成果物は全てカウンターの下に落ちたけど。
「じゃあジュリアさんよろしくお願いします」
「おほほ、セシルちゃんてばそんな他人行儀にしなくていいのよ?アタシのことは気軽にジュリエット姉さんって呼んで」
長くなってるし!しかもジュリエットって何?!
「えっと…じゃあ姉さん、じゃ駄目?」
「んもう…名前で呼んで欲しかったのにぃ…」
クネクネとしなを作りながら私を見下ろしてくるジュリア姉さん。はっきり言ってかなりの威圧感がある。
威圧スキル使いっぱなしにしてるんじゃないかと思うほど圧倒的な存在感がある。
私の足下に転がっている冒険者達はまだ目が覚める気配はないし、早めに済ませてとっとと寮に戻ろう。
今日もありがとうございました。




