第10話 初めての戦闘
戦闘シーンは難しいですよね。
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「よっと。これでいいかな」
鞄から出したロープに先ほどのブーボウの後ろ脚を縛ってロープの張りを確認した。
これで村まではなんとか引きずって行けるはず。
というか…絶っっっ対怒られるんだろうなぁ。さすがにやりすぎたよね。最悪、しばらく狩り禁止とか言われるかもしれない。ん?
「うん?んー…?」
「どしたー、セシル?」
「なんか、感じない?」
「なんのこと?それより早く帰ろうよー」
ハウルやキャリーには感じないのかな?
何かが近寄ってくるような?こっちを見られてるような?
---スキル「気配察知」を獲得しました---
おや?スキルが…っ!?
スキルが手に入ったことで先ほどからの違和感の正体がわかった。
わかったものの、どうやら既に私たちは向こうから捕捉されているようだった。
あれだけ森の中で大騒ぎして、しかも美味しそうな獲物が転がってるんだから当然と言えば当然か…。
「ハウル!キャリー!コールとユーニャを連れて早く村に戻って!」
「なっ、なんだよ。まさかまだ獲物が来るのか?」
「え?そうなの?それならセシルちゃんがいるんだから獲って帰ろうよー」
「いいから言うこと聞きなさい!」
「セシル、どうしたっていうんだ?お前がいればちょっとやそっとのことじゃ大丈夫だろ?」
ダメだ。この子たちはなんでこうも危機感がないんだろう…。下手に私がいるばっかりに気持ちが大きくなってるみたいだ。威を借りるみたいな生き方はお姉さん感心しないよ?
「みんな、セシルがこう言うんだし急いで村に戻ろう?訳はあとで聞いたらいいんだよ、きっと」
ユーニャが大人すぎて嬉しいを通り越して惚れる。あ、私は普通に男の子が好きだからね?
ただ、ちょっと遅かったかな。もう姿が見えてきた。
「ぎがが…」「ががっ!」
森の奥側の茂みから緑色の肌をした私とあまり背丈の変わらない子どものような体躯のものが数体現れた。
「ゴッ、ゴブリンだ」
あぁ、これがよくゲームとかファンタジー小説に出てくるゴブリンなんだ。
ちょっと気持ち悪い見た目が人間に近い姿のせいかより醜悪に見えてくる。
それほど太くない腕にはそれぞれショートソードや棍棒が握られており、盾を持つ個体や皮の鎧のようなものを身に着けている個体もいる。
えぇっと…。よくある設定だとゴブリンの生態ってどうだったっけ?確か……あ。
「ね、ねぇ…。ゴブリンって人間の女の人を捕まえて、その…巣で…」
私が戸惑いながら背中の向こうにいると思われるみんなに声を掛けると、ユーニャが答えてくれる。
「うん、ゴブリンは人間の女の人を捕まえて、巣で妊娠させて子どもを産ませるんだよ。…死んじゃうまでね。私たちは子どもだから、多分食料としか見られてないんじゃないかな…」
そこまで知っていながら冷静なユーニャに感心しつつも釣られて私の頭の中も落ち着きを取り戻していく。
「それじゃ、やっぱりなんとかしないといけないことは変わらないってことね」
「う、うん。でもセシルにばっかり…」
「ふふ…じゃあ私が安心できるように絶対そこから動かないで」
いつもは元気で暴れん坊なハウルやお転婆なキャリーは青白い顔をして自分の武器を強く握りしめていた。あれでは当たるものも当たらない。コールは最早腰が抜けて立ち上がれないようだ。
ユーニャは冷や汗をかきながらも必死に頭を回しているようでチラチラと村の方向を気にしていた。しかし今は村の方へ走って逃げられても守る範囲が広くなりすぎて困る。それは私がやられてしまったときの最後の手段にしてほしい。自然と気持ちが高ぶって口が動いた。
「もちろん、やられるつもりなんてこれっぽっちもないけどね!絶対に守ってみせるから!」
さて、ゴブリンは全部で6体。向こうもいきなりこちらに襲いかかってきたりはせずに様子を見ている。もっと低知能かと思ったけどそうでもないんだね。
しかし、ぱっと見た感じは本当に緑色の人間って感じだなぁ。まぁでも先手必勝ってことで!
両手でそれぞれ短剣を引き抜き逆手に構えた。
私が武器を抜いたことでゴブリンも体を緊張させた。
でも、遅いよ!
「っ!あああぁっ!」
スキルの身体操作を全開で使用。更に自分の背後から風魔法を強めの風圧押し出して10メテルは離れていた距離を一気に駆け抜けて詰める。
先頭の1体に飛び蹴りで突っ込むと胸のあたりに当たってそのまま後方へ吹き飛んでいった。太目の木の枝を圧し折るような感触が足に伝わってきたので、もう立ち上がることはできないだろう。肋骨が大半へし折れているはずだ。
走ってきた運動エネルギーはそこまでで、立ち止まった私は次の個体に短剣で腹部を斬りつけ、もう片手を突き上げて顎を砕く。
「ぎぎががぁっ!」
「何言ってるかわかんないわ、よっ!」
棍棒で殴りつけようと振り下ろしてきたそれをバックステップで躱し、さっき別の個体の顎を砕いたのと同じように短剣を握ったまま顔を正面から殴りつけた。4歳児ではあるが、私の格闘スキルはそこらの大人と同じくらいだ。そんな私の右ストレートを食らったゴブリンはその場で縦に一回転して顔面から着地することになる。
「がっ!」
「っつっ…!」
「「「セシル(ちゃん)!」」」
殴りつけ背中を見せたことで、後ろからショートソードで斬りつけられてしまった。とは言え、右肩の後ろあたりを少しだけ。まだ、ちゃんと動く。
「あああぁぁぁぁぁっ!」
右手の短剣をその場に落として火魔法を使う。超高温で使おうとしたためテニスボールくらいの大きさの火の玉にしかならない。
温度を下げて大きくする時間はないのでそのまま相手に叩きつけた。
最初こそジュウゥゥと音がしたものの、あっというまに皮膚を通り越して腹の中へ吸い込まれた。
一瞬後に体の穴という穴から炎を吹き上げ、身体の内側から炭化して崩れ落ちた。
「「ぎっ」」
今度は2体同時に攻撃を仕掛けられ、前方に転がって避けるとショートソードを持っていたゴブリンの背後から首を斬りつけた。
すぐに血が吹き出し、隣にいた最後のゴブリンが怯んで後ろに数歩下がった。
その隙に地面に手を置いて最後のゴブリンの足元に土魔法を使う。まるで消失したかのように足元の地面にぽっかりと大穴が開いてゴブリンが落ちた。
「はぁはぁ…くっ。と、止めを刺さないと」
開けた穴は2mくらいの深さしかないのですぐに這い出てくる可能性がある。
さっき血を吹き上げたゴブリンの持っていたショートソードを掴むと穴の中に飛び込み、頭に剣を叩き込んだ。少し食い込んだ感触がした後に元からそんなに手入れのされてなかった剣は簡単に折れてしまった。
それでも穴の中にいたゴブリンの脳天を叩き割って絶命させるには十分で、膝から落ちて倒れた。
疲労困憊で穴から這い出すと、大の字になって寝転んだ。
「はぁっ!はぁっ!…はぁはぁ…終わった…」
気配察知には子どもたちのものしか感じないし、守りきった。
ただ、とっっっても疲れた!
「だ、大丈夫?」
「だ、だいじょばない。疲れたぁぁ」
「セシルちゃんすごいね!一人でゴブリンみんなやっつけちゃった!」
「オレ絶対もっと練習して、絶対セシルより強くなってやるからな!」
あぁ、うん。あなたたち元気ね。さっきまで青い顔してビクビクしてたのに。
ユーニャは大の字になっている私の傍らに座りさっき汚れたハンカチを再び使ってくれた。
私の顔についたゴブリンの血や泥などを拭きとってくれた。
「はい、これでかわいいセシルが元通り」
「あ、あは…。あ、そだ」
私は水魔法で圧縮した水塊を出してその中に同じく風魔法で圧縮した空気の塊を混ぜた。ソフトボールくらいの大きさの水塊の中に細かい気泡が渦巻ている。
そしてユーニャが持っているハンカチを掴むとその中に放り込む。水塊が徐々に黒っぽくなってきたところでハンカチを取り出して風魔法で風を当てる。風の発生源の近くに火魔法で作り出した火球を浮かべておいた。
セシル式異世界魔法型簡易洗濯乾燥機ってとこ?ドライヤー?
どうでもいいことを考えてるうちにハンカチは乾いたようなので、そのままユーニャへ渡した。
「血とか汚れだけは落としたよ。やっぱりそんな血生臭いの持っててもらうのはさすがに悪いから」
「ふふ、気にしなくてよかったのにセシルは変なところで几帳面で優しいのね。でも、ありがとう」
ユーニャの笑顔が見れたし、疲れた体に無理して魔法を使った甲斐があったかな。
私が息を整えている間にキャリーとハウルでゴブリンの死体を集めて、最後のゴブリンが入ってる穴に落としていた。
「キャリーたちは何してるの?」
「え?倒した魔物はなるべく燃やしたり地面に埋めたりしないとゾンビになることがあるって聞いたことない?」
なにそれ?初耳ですけど。ランドールからも聞いたことない。
あーでも、昔読んだ異世界転生物の話にはそんなの書いてあったことがあるかも?というか…そもそも死体が起き上がるって時点でもう有り得ないと思うんだけど。
「でも、穴には入れたけどどうする?セシルが空けた穴だから土もないし、火だって熾せないぜ?」
「そうは言ってもこのままにしておけないよー」
「村まで行って火持ってくるか?」
ユーニャとコールに手を借りて起こしてもらい、私も穴の中を覗き込んだ。
「うっ」
「んぐっ。なんか変な臭いがもう…」
コールとユーニャがそれぞれ鼻を摘まんで顔をしかめた。
なんだろう?獣臭いのと鮮度の落ちた魚の内臓を混ぜたような気持ち悪さだろうか。
「魔物独特の死臭だよ。父ちゃんが臭くなるから早めに処理するんだって言ってた」
ハウルのお父さんはハウルにも自衛団に入ってほしいのかそういう知識をいろいろと授けているみたいだ。ランドールはそういうところは今のところないけど、狩りをするための最低限の知識だけは出し惜しみなく教えてくれている。
それにしても、このまま辺り一帯に臭いが充満して獣も寄り付かなくなったら困っちゃうね。
「ちょっとみんな離れてくれる?」
「セシルちゃん無理しちゃダメだよ」
「そうだぜセシル。このくらいならオレ達でもなんとか」
「ハウルくん、キャリーちゃん。森で火を焚いたりしたら火事になったときにもっと大変なことになるわよ」
さすがユーニャ。知識もさることながら状況判断も素晴らしい。って、これで四歳児とか。この世界すごいね。
私が手でみんなを下がらせると両手にそれぞれの魔法を発動させるために魔力を集中する。
一つは焼きつくすための火魔法。もう一つは土魔法。
「よっ」
穴の中に積まれたゴブリンの死体に超高温になった火魔法を放つ。さっき炭化させたのと同じ温度の魔法だ。ゴゥッと一気に火が点いてゴブリンだったものが徐々に炭化していく。
魔法を調整して炎を操っていくとあっという間に欠片くらいしか残らなくなる。
ほとんど原型がわからなくなったところでもう片手の土魔法を使って穴を埋めていくと、すっかり元通りになった。もっとも、草がないのでそこに穴が空けられたことは見ればわかるのだが…だからと言って問題があるわけでもない。
「これで、オッケー」
「おっけー?って?」
「あー…。終わりってこと。さ、帰ろ。疲れちゃったよ」
振り返ってみんなの方を向いてそう言うと、ほっとしたように肩から力が抜けてみんなも少しだけ笑顔になった。
正直、これ以上の狩りも戦闘も勘弁してもらいたかった。
今日もありがとうございました。
 




