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ドヴェルグ族のサラちゃんは小学生ぐらいの女の子



「入れ」

「サラをお連れしました」


 扉が開き、リリスさんに連れられて入ってきたのは小学生ぐらいの女の子だった。この子がサラちゃんか。明るい茶色の髪はぼさぼさで、不機嫌そうな顔をしていた。

 リリスさんとは打って変わり、白のタンクトップにデニム地のオーバーオールというラフな格好で、片手を大きなポケットに突っ込んでいる。もう片方の手に持ち、肩に担いでいるのは――


「……それは何だ?」

「見て分からへん? ハンマーや」


 なるほど。柄があって槌に当たる部分もある。言われて見ればハンマーかもしれない。

 だがデカすぎる。黒い槌の部分だけで大きな樽ほどもある。サラちゃんぐらいなら余裕で入れそうだ。


「画期的な新発明でな? ボクにとっては何より軽く、相手にとっては何より重い。名付けてグラビトンハンマー」


 やっべ。サラちゃんボクッ子かよやっべ。しかもなまってるし。

 何だよアシュレイ、最低なゲス野郎のくせに俺と好みが似てるじゃねえか。

 ちょっとにやけてしまっているのに気付き、咳払いでごまかした。


「なるほどそいつはすごいハンマーだ。で? どうしてそんなもんを持ってきた?」

「そんなん、決まってるやろ?」


 言うなり。


「おどれをぶっ殺すためじゃーっ!」


 冗談みたいにデカいハンマーを軽々と振りかぶり、サラちゃんが叫びながら駆けてきた。

 ……あれ? 話が違うくない? 比較的安全な子じゃなかったの!?


「おい、リリス!?」

「はい」


 落ち着いた返事があって……なぜかサラちゃんの動きがピタリと止まった。

 リリスさんはサラちゃんの後ろに立っていて、特に何かしている様子もない。

 しかし不自然な体勢のまま、本当にサラちゃんは少しも動けないようで、俺を睨み付けながら悔しそうな顔をしている。


「……もうええ。降参や」

「うふふ。次はありませんよ? 死ぬのは父親か母親か、それとも――」

「もうええ言うてるやろ!」


 叫んだサラちゃんは不意に体勢を崩し、ビタンと前のめりに倒れた。巨大ハンマーが床をぶち抜くかと思ったが、そんな事はなかった。

 身体を起こしたサラちゃんは悔しそうな視線をリリスさんに向けた。

 リリスさんは悠々と俺のそばまで悠々と歩いてきてすぐ隣に座り、俺の腕に腕を絡ませ、肩に頭を預けてきた。

 えっ、何ですかこれ。

 全体的に何ですかこれ。


「これからレイヌール城に向かいます。今度はアシュレイ様のお役に立てる発明をお願いしますね?」

「やかましいわ。そもそも聖剣かてドヴェルグが作ったもんやんか」


 俺の理解が追い付いていないのを悟ってくれたのか、リリスさんが話を進めてくれた。

 緩急を付けて腕を締め付けてくるリリスさんのおっぱいがやわらかい。とてもとてもやわらかい。ご褒美かな?

 ……いや、違う。これは俺に何か言えって事だ。


「ま、俺に歯向かうのはまだ早えって事だ。画期的な発明、楽しみにしてるぜ?」

「あかんな、やっぱりそっちの淫乱から始末せなあかん」

「うふふ。やれるものならいつでもどうぞ。用件は以上です。部屋に戻って支度を」

「は? 何でそないな事でわざわざ呼びつけてん?」

「俺が何をしようが俺の勝手だ。お前の顔が見たかったから呼んだ。いいツラだったな。もういい、帰れ」

「相変わらずくっそムカつくやつやな……!」


 そんな怖い顔しないでくださーい。そのハンマーめちゃくちゃ怖いでーす。

 舌打ちしてハンマーを肩に担ぎ、サラちゃんは部屋から出ていってくれた。

 安堵感がすごい。死ぬかと思った。

 小学生ぐらいの女の子に命を狙われるほど嫌われているのも胸が痛い。


「あの、リリスさん……? 話が違うんですけど……?」


 家族を人質に取ってるからサラちゃんはいきなり攻撃してこないと聞いていた。

 それがどうだ。真っ向からぶつかってきたじゃないか!


「うふふ。あれは挨拶のようなものです。ドヴェルグ族は武具や兵器の発明に長けた賢明な種族ですから、本気で命を狙うつもりならあのような目立つ武器は使いません。新しい武器をアシュレイ様にお披露目したかったんでしょうね。かわいらしいですね」

「僕は死ぬかと思いましたけどね!?」

「敬語」

「死ぬかと思ったんだが!? ところで、何でサラの動きが止まったんだ? 急にピタって止まったぞ? ピタって」

「私が影を踏んだからですが、元の世界にこのような魔法はなかったのでしょうか?」

「………………」


 マジかー。魔法かー。そういやサラちゃんも聖剣とか言ってたなー。

 という事はこの世界、剣と魔法の世界なのか。寝室から出てないから分からなかったよ。


「もしかして、俺も魔法が使えたりするのか?」

「そう質問している時点で使えないのですが、お気になさらず。アシュレイ様に魔法は必要ありません」

「リリスが守ってくれるから?」

「アシュレイ様は剣術に天賦の才をお持ちですから」


 剣なんて見た事もないですけどね! 竹刀を握った事すらねえわ!

 しかしリリスさんも分かった上で言っているのは明白だ。ツッコミは心に留めておく。

 ……それにしてもリリスさん、いつまで俺の腕に抱き着いているんだろう。

 アシュレイとリリスさんはどういう関係だったんだろうか? 身体の関係があったのは間違いないが。


「続いて二人目、エルフ族のララノアですが、彼女はエルフ族の族長の娘です。アシュレイ様がさらってきました」

「……デジャヴかな? 似たような話をついさっき聞いた気がする」

「エルフ族はプライドが高く、人間に捕まるような者は見捨てる考えのようです。故にララノアは人質としての価値もなく、ララノアもまた死を恐れません。お気を付けください」

「初めから影踏み付けとけ! 一歩も俺に近付かせるな!」

「うふふ。その調子です。段々と板についてきましたね」


 そう言ってリリスさんは俺の頬を甘やかに撫でて立ち上がり、メイド服の裾をつまみ上げて一礼、また部屋を出ていった。

 違うんだけどな……。板につくとかそういう事じゃなくて、俺はただ死にたくないだけなんだ。

 サラちゃんは挨拶代わりに殺そうとしてきた。エルフ族の人は自分の命も顧みず殺しにくるという。

 だがどれも自業自得だ。最低だなアシュレイ。どこまで恨みを買ってるんだ? 恨みが売られてたら反射的に買っちゃうタイプなのか? 逆にドMなのか?

 しかも命を狙う二人を必ず連れて外出するとか。それだけ剣術に自信があったのかもしれないが、わざわざチャンスを与えるあたり、はっきり言ってサイコパスだ。

 ……何とか二人を開放する方向に持っていけないだろうか?

 そんな事を考えているとコンコンとノックの音がして、反射的に身構え、しかしすぐに上げた腕を下ろした。

 アシュレイは、身構えたりしない。

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