表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

火の海に囲まれて

作者: やまさん

 ――その王子と姫がいる塔の周りは、火の海が広がっていました。元々、塔の周囲には城や町がありましたが、今は火の海に沈んでいます……。生きている人間は、王子と姫の2人だけです。

 そして、赤く染まる空には、何匹ものドラゴンが悠々と飛んでいました。このドラゴンたちが、火の海をつくりあげたのです。一仕事終えた奴らは、ニヤニヤと不気味な笑顔を浮かべながら、塔の上にいる2人を見下ろしています。どうやら、余興として、彼らの結末をこのまま見届けることにしたようです。


「ドラゴンどもは、我々が焼け死ぬのを待っているようです」

王子は姫に言いました。塔の階段の下からは、火がどんどん上がってきています。じきに上がり終え、この屋上を火で覆うことでしょう。

 よくある物語なら、ここで奇跡が起きたり、救世主が現れたりするものですが、現実は非情なものです……。小鳥1羽すら現れません。

 ドラゴンたちは、そんな現実を知っていて、のんびりと高みの見物を決め込んだのです。時々高い鳴き声をあげ、楽しそうに囃したてます……。


「姫、どうやらここまでのようです……」

王子は姫に語りかけます。罪悪感と悲壮感で満ち足りた表情です。姫を守れなかったことに対して、負い目と悔しさを感じているのでした。

「あなたとともに死ぬことができるのです。ちっとも悲しくなどありません」

しかし、姫は健気に返事をしました。そのおかげで、王子の心は、いくらか救われたようです。


「……恐れながら、姫」

何かを決心した様子で、王子が口を開きます。

「なんでしょうか?」

「私とキスをしてくださいませんか?」

「……ええ、喜んで」

王子は、この美しい姫とキスをしたことがありませんでした。王子も負けないぐらいの美しさの持ち主でしたが、2人とも律儀に貞操を守っていたのです。けれども、この状況に陥った今となっては、もう守る必要などないと考えたのでしょう。



 ――そして、2人は互いの唇にキスをします。それはなんとも情熱的な光景でした。人間的な感情がドラゴンにもあれば、感動の涙をいくらか流してやったことでしょう。


 キスを続けながら抱擁する2人。やがて、その幕引きを図るかのごとく、階下からやってきた火が、彼らを包み込みます。その瞬間、ドラゴンが興奮の雄叫びをあげました。

 しかし、彼らは身を燃やしながらも、悲鳴を上げずに、キスと抱擁を続けます。たいした愛情です。


 しばらくすると、彼らは黒く焦げ付いて「1つ」になれました……。愛し合う王子と姫にとっては、嬉しい結末でしょう。一般的には、バッドエンディングに思えるかもしれません。

 しかし、彼ら自身からすれば、これはグッドエンディングだといえました。また、ドラゴンからしても、グッドエンディングなわけです。

 つまり、立場や見方によって、そのエンディングがグッドかバッドかなんて、簡単に変わります。トゥルーエンディングかどうかについても、それは同様なのです。

 そして、それは読者次第でもあるのです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ