chapter0-2:使命
我等が崇め、我等の全てである神は何に於いても平等に授けて下さった。
それにより、時の流れ、肉体の限界、魂の再来、これらは皆が同じ瞬間に迎えていた。悲しみ、喜び、憂い、憤り、様々な感情を分かち合っていた。その中でも我等-ヒト-は、平等な筈の神が気に入る程の高等種族として存在し、神の創りし楽園-エデン-の主となる。それがこの世界、-ルディアーデ・アフェクシア-である。
しかし、何が切っ掛けとなったのだろうか。我等-ヒト-の中に異端が産まれた。初めは唯一人であったそれは、次第に数を増やし我等に紛れる知恵を身につけ始めたのだ。
我等は必死にソレ等を排除しようとしたが、知恵を付けたソレ等はずる賢く、傲慢であった。
そして遂に、神にその存在を知られてしまう。神は嘆き悲しみ、我等を信頼するからこその試練を与えなさったのだ。
異端を滅殺する使命と、異端が楽園に住み着くのを許した罪として、滅殺し終わる迄我等に不平等な命の時と、分かち合えない心を。
我等が再び神に愛される為には、全ての異端を排除しなくてはならない。
異端を許してはならない。
何故なら異端は、神に仇なす者だからだ。
その身は穢れ、その心は淀み、我等の父を受け入れない異端。
全ては我等の、そして神の為――――
『アフェクシア神書―意義―』より
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「はっ!!なぁにが、使命だ。馬鹿馬鹿しい。」
そう言うや男は、神聖な作りの分厚い本を乱暴に投げ捨てた。
それは鈍い音をたて床へと落ち、音もなく焼失する。
それを冷たい眼で一瞥し、男は視線を別の場所に移す。そこには、遥か天へと聳え立つ塔が僅かに存在を主張していた。
まるで、誰かに気付いてもらえる様、遠くまで訴えかけているかのように。
「皮肉なもんだ。神に一番遠いもんが、天に一番近い場所にいるんだからな。」
彼の呟きが塔に届く事は勿論ない。そしてこの男も、塔の中からの叫びに気付く事は無い。
「さっきから、何をぶつくさ言ってるの?」
そんな男の元に、小柄な少女が問い掛けた。
「ん?」
だが、男が答える前にその視線を机の上と僅かに焦げ痕が残る床にやると、少女は怒りに体を振るわせ、そして爆発した。
「あーーー!私まだ読んで無かったのにぃ!!!」
大粒の涙を溢しながら、あどけなさの残る瞳できつく睨んだ。一見微笑ましい兄弟喧嘩ともとれる光景だが、少女の手に握られていた小型銃が不気味に笑っていた。
「ちょっ!!あんなん読む価値もねぇだろが!つか、それ下ろせっ!!」
少女が暴走すると中々止められない事を身に染みて知っている男は、内心舌打ちをしながら解決策を模索していた。しかしその苦労を無駄にするかの如く、少女は主張するのだ。
「読んで滅茶苦茶に破るのを、楽しみにしてたのにっ!!!!」
あぁ、終わった――――
一瞬、人生を諦めた男であったが、直ぐに少女好みの"面白い噂\"を思い出した。
これが駄目なら実力行使するしかないが、一か八かの賭けにでてみる事にする。
「そ、そういやな!!」
切り出した瞬間、今にも引き金を引こうとしていた指がピタリと止まった。
男がこの好機を逃す訳がない。
「聞いたか?最近裏で騒がれてる、面白い噂があんだよ!!」
「面白い、噂?」
案の定、噂好きの少女が食い付いた。
それにしても、この少女に限らず、女という生き物は、どうしてこうも噂が好きなのだろう。
まぁ、この疑問は、目の前の危機から逃れてからゆっくりと考えよう。
男は勿体ぶるかの様に深呼吸をし、そして不適に笑った。
「孤高の塔の赤い怪物の伝説さ。なんでもその伝説、事実らしいぞ。しかも、だ。その怪物は、俺等の仲間――――異端らしいぞ」
物語は、静かに動き出す。