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 私は中学2年の山瀬リコ。幼稚園、小学校と難なく過ごしてきたけど、中学に入ってから、全てが変わったんだよな。


「リコ、一緒にかえろーよ」


 今でも、あの髪の長い女の姿が浮かぶ。学校一の美人の三浦七恵(ななえ)だ。アイツの周りにはたくさんの女子が群がってたな、何せ、アイツは有名なモデル事務所の社長の娘なんだもの。学園一の権力を持った生徒に抗える奴なんて一人もいなかった。


 金なんてそんなに無いのに高い店で割り勘で会計して、親が貯めてくれたお年玉切り崩すしか無かった。イケメンと会う時は、いつも私が美人の彼女と比較させられる道具。バカにされて、貶されて、それでも笑うしかなかった。1年間は何とか耐えたけど、もう限界だった。何もかも。


 2年生になったある日、今日は用事があるからと1人で家に帰ったんだ。案外すんなり帰してもらえたから、これからは色々理由付けて帰ろうって思って珍しく幸福感を覚えた。けど、奴は1人で帰る私のことをつけていた。本当に、用事があったのかって。


「リコ」


 私の大っ嫌いな声がした。後ろを振り返ろうとしたら、急に髪の毛を掴み、引っ張られた。痛かった。でも、こんなのまだ可愛いもんだった。


 髪を引っ張ったまま私を狭い路地に連れていき、私を壁に向けて突き飛ばした。両手を私の首にやると、キリキリと絞めつける。苦しくて、死ぬんじゃないかと思った。


「どうせ暇なんだろ? こっちはせっかく構ってやってるんだ、自分の意見を簡単に通せるなんて思うなよ」


 そう言うと首から手を話し、今度は頬にビンタをされた。何回も、何回も。


 その後、アイツは私の手を引き、学校までつれていかれた。そして、何時も連れいている女子達に見せしめて歩いたんだ。赤く腫れた私の顔を見て笑う奴もいれば、引きつった顔をしている奴もいた。ああ、私はこうならない様にしなくっちゃ。引きつってる奴の顔が物語っていた。


 ・ ・ ・


 それからと言うものの、風邪とか吐き気とか色々理由を付けて学校を休む様になった。でもそれが聞いたのも1週間まで。


「リコ、もうそろそろ学校に行けるわよね? 勉強だって追いつけなくなるわよ」


 心配するのは私じゃ無くて勉強の方。今までピンと張りつめていた糸が切れ、私は母に大声で怒鳴り散らした。私と母は大喧嘩になり、思わず制服を着て外へ出てしまった。


 しまった、そう思った頃には遅かった。怒っている母も、力任せに扉を閉め、鍵をかけたんだ。思わず扉に両手を付けた。でももう言えない。開けて、なんて。助けて、なんて。


「あんなことしなくても……」


 お姉ちゃんの声がした。けど、すぐ後に怒っているお母さんの声がした。あの人に頼ることなんて出来ない。私は学校へと急いだ。


 腕時計見たら、まだ5時半。学校なんてまだまだ先じゃないか。けれど、こっちの方が良かったかもしれない。私は走った。どうして? 私なんか悪いことした? ねぇ、神様……。


 ・ ・ ・


 1番乗りで着いた教室。当たり前だけど、誰もいない。自分の席に着くと、机に顔を伏せて泣いた。


「山瀬、おはよう」


 先生、小山先生の声だ。こんな朝早くから何で教室来るんだよ、そう思ったけど、顔を伏せたまま挨拶した。


「風邪、治ったのか? にしても早いなぁ。もしかして、喧嘩でもしたのか?」


 涙声になりそうで、うんともすんとも言えなかった。


「少し心配していたんだ。もしかして、学校に来たくない理由があったんじゃないかって思って。でも、こんなに早く来たんなら大丈夫だな。学校が好きで良かったよ」


 腸が煮えくりかえる様だった。涙まみれの顔を上げ、小山先生を睨んだ。


「……山瀬」


 ……学校が好き? ふざけるなよ。私は、勉強も、生徒も、アンタ教師だって大っ嫌いなんだよ!!


 静かな教室に、私の声が響いた。本当は散々泣き腫らしてから実行するつもりだったけど、計画変更。立ち上がると、教室の窓を開けた。私は窓のさんに座り、ため息をつく。


「山瀬、何をするつもりだ!」


 何って、わかってんでしょ。それじゃあね、先生。こんなサイテーな毎日に、バイバイ。


 体のおもむくまま、私は背中から地面へ向けて体を落とした。


「山瀬!」


 驚いたな。私が飛び降りたすぐあと、小山先生が我を忘れて自分も飛び降りたのは。


 手を必死に振り、私の体を掴むと、その勢いで後ろから私を抱え、小山先生がマットの様に私にくっついた。


「先生、やめ」


 3階って、思ったより落ちるの早いんだね。抵抗する間もなく、衝突音が耳を突き刺した。私の、真下から。


 地面にぶつかった、先生の背中から血が徐々に流れていく。


「……ごめんな」


 小山先生が発した唯一の言葉だった。


 どうして? 本当は私が謝るべきなのに。


 ……何てことなの。手で顔を覆って泣き腫らした。


 両腕で涙を拭って、ふと視界に入ったものがあった。キラリと光ったソレに私は近寄って、持ち上げる。単なるガラス一片だ。けれど、今の私には宝物の様にすら思えた。


 先生、ごめんね。折角助けてもらった命だけど、先生にこんなことさせてまで私生きてけないよ。


 胸を狙い、ガラスを強く突き刺した。

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