ファーストキスの相手はサンタクロース!?~おおとりかおるさんへの『クリプロ2016』参加特典のギフト小説~
『クリプロ2016』に参加されたおおとり かおるさんへのギフト小説です。
12月に入ると、町中のいたるところでクリスマスのディスプレイやイルミネーションが目につくようになった。その中でひときわ目を引くのが駅前広場の巨大ツリーだ。クリスマスイブの夜にこのツリーの前で愛を誓い合ったカップルは必ず幸せになれると言う。
いつか彼とそういう風になれたらいいと、かおるは心の奥で願っていた。
入学式。かおるは同じクラスに居た男子生徒に目を引かれた。特に目立つような生徒ではなかったのだけれど、なんとなく気になった。席は隣の列の一番前。一番後ろのかおるはいつも彼の背中を見ていた。
彼、日下部はいつも一人でいることが多かった。友達が居ないというわけではないのだけれど、敢えてみんながはしゃいでいる輪の中へ入って行こうとするタイプではなかった。何となく自分に似ているなあ…と、かおるは思った。引っ込み思案のかおるは男子生徒とまともに話をすることが出来なかった。男子生徒たちもそんなかおるを敬遠するようになった。
二年になった。日下部とはまた同じクラスだった。引っ込み思案のかおるの性格は相変わらずで、友達といえば何人かの女子生徒だけだった。そんな彼女たちの間では年頃の女の子らしく男子生徒の話題が出ることは少なくなかった。
「ねえ、かおるは誰がいいと思う?」
「誰って…」
「もー。好きな人いるんでしょう?」
ふと、日下部の顔が頭によぎった。けれど、かおるは首を横に振った。
「べつに…」
「うそー!誰にも言わないから教えなさいよ」
そうは言われても、もし、ここで日下部の名前を出そうものなら彼に迷惑がかかるかもしれないなどと考えてしまうのだった。
「本当に居ないんだってば」
かおるは他の男子には全く興味がなかった。日下部のことを好きなのかさえよくわからなかった。
バレンタインデーの時、日下部にあげようとチョコを買った。けれど、それをかばんから出す勇気がなかった。
三年になった。夏休みの移動教室で日下部と同じ班になった。日下部が班長だった。かおるは保険係だった。その移動教室でかおるは初めて日下部と会話らしい会話をした。
「鳳さん、坂本さんが熱っぽいみたいだから見てあげてくれる?」
「はい」
同じ班の坂本恵子という女子生徒が体調をくずしてしまった。保険係だったかおるが彼女の面倒を見ることになった。
「かおる、ごめん」
「いいのよ」
その日のレクレーションのソフトボールは二人で見学した。そこへ班長の日下部がやって来た。
「僕が変わるから、鳳さんも行っておいでよ」
日下部がかおるに気を使って、そう言ってくれた。
「私なら大丈夫です。それに、運動は苦手なので逆にラッキーだったし」
「そう? じゃあ、何か困ったことがあったら何でも言ってね」
そう言って日下部はその場を去った。
二学期の終わり、もうすぐクリスマスだという頃になると、クラス中が浮かれているのがかおるにもわかった。けれど、自分には関係のないことだと興味がない風を装った。
12月24日。クリスマスイヴ。かおるは何の気なしに駅前のイルミネーションの中を歩いていた。そこでふと声を掛けられた。声を掛けてきたのはサンタクロースだった。
「おじょうさん、一人ぼっちで寂しくないですか?」
「いいえ。慣れているから」
「あのツリーの前で愛を誓いたいと思ったことはありませんか?」
「それはあるけど、私はダメ。告白なんてできないから」
「では誰かに告白されるのならどうですか?」
「そんな人なんて居ません」
「じゃあ、一緒に来て下さい」
そう言ってサンタはかおるの手を取り、ツリーの方へ歩いて行った。そして、ツリーの前で立ち止まると、かおるを見つめてこう言った。
「入学した時から、ずっと好きだったんだ。君がいつ誰かと付き合いだすのかって考えると気が気じゃなかった。でも、君は男子には興味が無いようだったから安心していた。けれど、僕がもう我慢できなくなった。鳳さん、好きです!僕と付き合ってください!」
「えっ! どうして? どうして私の名前を知っているの? あなた、いったい…」
サンタは付け髭と帽子を取って見せた。その顔を見てかおるは驚いた。サンタは日下部だった。
「日下部君? どうして?」
「バイトしてたんだ。どうせ彼女居ないし…。って言うか、ずっと鳳のことが好きだったから他の女の子に興味はなかったし。今日ここで会えたのは運命だと思った。これを逃しちゃダメだと思った。だから、返事を聞かせてくれないか?」
「はい。私もずっと…」
「やったー!」
かおるの言葉を最後まで聞かずに日下部はかおるを抱き上げてぐるぐると回り始めた。途中でバランスをくずして倒れ込んだ。そのはずみで二人の唇がふいに触れた。
「ファーストキス…」
かおるが呟いた。
「ごめん」
「ううん、いいの。相手が日下部くんだったから」
日下部は倒れたまま、再び、今度はきつくかおるを抱きしめた。その瞬間、一筋の流れ星が空を明るく染めた。まるで二人を祝福するように。
メロークリスマス!