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憑依退魔師は憑かれない  作者: 榊原モンショー
第一章-御三家編-
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No.5 退魔師の種類

 そんな中で軽快に卵とじ丼を食していた和樹は、個々の誰よりも早くにお椀を空にした。

 カランと、箸をお椀に投げた和樹は、何か恵理と目配せを始める。


「俺、この後委員会あっからよ。抜けるぜ」


 いたって平然とそう告げた和樹は、お盆に置いた水を煽って席を立つ。

 と同時に恵理が今度は神妙な面持ちで「ありがとう、和樹君」と呟いた。


「……ぬ?」


 メイは不思議そうに俺の霊力を吸い取りながら怪訝そうな表情を作った。それを見た(、、、、、)恵理はクスリと笑みを浮かべる。


「メイちゃんはいつも元気だよね」


 そう、恵理は和樹と違いメイのことが目視できる。


「ふんっ。お前の霊力はいつも面白くないのだ。和樹のように憑りつくこともできぬ上に霊力もまずいからな!」

「ちょ、メイ……」

「いいんだよ、ハヤト君。仮にも私だって退魔師目指してるんだから。むしろメイちゃんから遠ざかられるほうが資質としてはいいってことでしょ?」

「ま、まあそうだけど……」


 恵理は黒い髪を左右に振って、少しだけ深呼吸をした。


「ハヤト君……私さ――」


 ――と。いつも騒がしい食堂のざわめきが少しだけ収まった気がした。二人を取り巻く空気が少し重たくなったことを感じたのか、メイも俺から霊力を吸い取るのを一時止めて、恵理のほうへと姿勢を正した。


「……ああ」


 生唾をごくりと飲み込む。恵理は一度、目を閉じた。そして――。


「――私ね、結界退魔師になるよ」


 その恵理の言葉に真っ先に声を上げたのはメイだった。

 行儀悪く机の上に立ったメイは「何じゃ?」とつぶらな瞳を俺に向けた。


「……そうか、結界退魔師……。決めたんだ(、、、、、)な」


 俺の言葉に彼女は再度こくりと頷いた。


「むぅ! メイを取りおいて話を進める出ない! 何じゃ、その結界退魔師とやらはぁ!」


 腕をぶんぶんと振り回して俺の背後でじたばた暴れるメイの首根っこを掴んだ俺は、彼女を俺の膝の上に乗っけた。


「むふぅ!」


 そんなメイの様子に再びクスと笑みを浮かべた恵理は、メイの瞳をじっと見た。


「いい? メイちゃん。一般退魔師ってのは知ってるよね?」

「ああ、ハヤトの周りでぐちゃぐちゃやってる雑魚ども――って痛い! なんで頭たたくのじゃハヤト!」

「当たり前だ馬鹿」

「え、えっと……はは。それでね、私が成りたいのは一般退魔師ではなくて、『結界退魔師』っていうものなの」

「……ほー」


 ……あ、こいつ若干興味なくなってきてるな。


「結界退魔師の特徴は主に二つ。一つに、結界退魔師は下級妖魔を討伐する権限さえ与えられないの」

「……ほー。あの一般退魔師よりも雑魚ってことかの?」


 歯に衣着せぬ暴言を吐くメイに対しても、恵理は特に否定することもなく「そうだねぇ……メイちゃんたちからしてみたら雑魚なのかなぁ」と呟いた。


「でもね。二つ目。結界退魔師は、一族退魔師が上級妖魔と立ち向かう際に必要な結界を一人で張れる権限を持つの」

「一人で張れる? ……ああ、なるほど……そういう魂胆か。恵理も女よの」

「え!? メイ、お前それだけで何が分かったんだ!?」

「ハヤトには一生かかってもわからんことじゃて」


 恵理を見てみると、彼女自身もメイに話して「えへへ……」と照れるような笑いをしているんだが……。

 メイはすべてを察して気に食わなさそうに再び俺の背後に隠れていった。


 ……何なんだ、この状況。俺だけなのか、分かっていないのは。俺だけなのか? ……マジで? 


「結界退魔師になろうと思ったのも、ハヤト君のおかげなんだよ。式神も最近操れるようになったんだ」


 にへらと崩しが笑顔を見せる恵理は、懐から一枚の術符を取り出した。

 術符とは、俺たち退魔師にとって特別な符のことである。一見するとただの紙切れに見えるのだが俺たちが霊力を吹き込むことによっていろいろな形状、役割を果たしている。

 ちなみに俺の場合は一般的に術符を使っての捕縛技術に重きを置いている。一般退魔師だと、結界に霊力を込めるために仲介する役割を持っていたり、本当に様々だ。

 ここでは、単に霊力の大きさを示すために使うのだろう。術符に霊力を込めやすいということは、術符を使って自身の霊力を図ることもできるからだ。


「いくよぉ……」


 そう呟いて恵理は術符に霊力を込めた。


 恵理が最初に退魔師を目指すといって俺の机に来たのは入学してすぐ後のことだった。

 なぜ俺なのか、と問うと、一族退魔師である俺に退魔師についてを聞くことが手っ取り早いからだ――と彼女は答えた。

 それに俺が驚きを隠せなかったのも事実だ。何せ、一族退魔師というものは世論上、毛嫌いされる存在だからだ。

 幼稚園、小、中と。今まで俺はひとに腫物のような扱いしか受けてきてなかった。


 ……皮肉なもんだよな。没落してても烏海は烏海。人とは違うんだから……。


 眼前では、恵理が精神を集中させて術符に霊力を込めようとしていた。


 ――か、烏海くん!


 彼女は最初、そうやって俺に近づいた。

 高校でも腫れもの扱いされていた俺だったが、妖魔学が正式に始まり、授業に御三家が出始めてからはなおさらだったというのに――。

 そんなことはどこ吹く風。和樹と恵理だけは、いたって普通に――それこそ、ただの一高校生男子として俺とかかわってくれていた。


 ――烏海……お前も隅に置けねえなぁ。クラス一の美少女である恵理さんを手籠めにするとは……!


 そんな声とともに俺の背中をたたいたのは和樹だった。皆が俺を陰で何か言うのも構わず、和樹と恵理だけは、ただの友人として。一人の人間としてかかわってくれた。

 そのおかげで今の俺があるといっても過言ではない。彼らがいなければ、俺は今頃席でただうつぶせて寝ているだけのぼっちになっていたことに違いない。


「ふぐぅぅぅぅ……!!」


 恵理が力を入れると、術符に少しの変化が表れ始めていた。

 術符が徐々に浮遊し始める。これは、術符に霊力が込められることにより、飽和した霊力が地面の霊脈に帰ろうとして起こる現象である。

 簡単に説明すれば、霊力が大きければ大きいほど術符が浮く――という仕組みになっている。


「ふっぐぅ……!」


 渾身の力を込めて術符に霊力を注ぎ続ける恵理だが。


「……もう少し、体全身に力を入れるんじゃなくて、術符の少し下に霊力を注ぎ込むイメージしてみたらどうだ?」

「……っ!」


 俺の言葉にコクと頷いた恵理は再び力を入れた。

 すると――。


「……おぉ……!」


 術符は円を描きながら空中を浮遊し続ける。その高さはどんどん高くなっていった。

 直後に集中を切らせた恵理は「ふわあ……」と一気に力を抜いたと同時に術符が地面に落ちた。


「……元々恵理は霊力デカいほうだしな。それにアウトプットも上質なもんだ。将来相当な結界退魔師になりそうだぜ。ひひひ」

「ハヤト君に褒められると、やっぱり嬉しいな」

「そ、それほどか……? まあいいや、あと十五分で授業始まるし、行こーぜ」

「うん……うん」


 「……あざとい……」と、メイが何かを呟いていたが、俺は食べていた食器を返却棚に返して教室へと戻る帰路に就いたのだった――。


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