◇どうしたものかと。
キーワード:王子・入れ替わり
煌びやかな王の住まう城に一人の少年が訪れた。
「この国の王子に会いに来たんだけど」
その少年は自らの名を名乗りもせずに門番を務める兵士にそう言い放った。
国王に使える身、国民からは尊敬されはするがこのように高慢な態度を取られたのは初めてだった。そして、それを当たり前だとでもいうように少年はその態度を改める素振りも見せない。
「どこの馬も骨とも知れぬ輩を王子に会わせるわけにはいかぬ。即刻立ち去れ」
優しい言葉をかけて王子の身に危険が及んだら一大事だ。
兵士は幾度となく口にしてきた言葉を一言一句違わず少年にも告げた。少しその声色が怒りに満ちていたのは、目の前の少年の態度によるものであろう。
「嫌だ」
兵士に対し何の畏怖も感じていないのか、少年は幼児のように駄々をこね始めた。
これではまるで兵士が少年をいじめているようではないか。
平和なこの国でいじめとあれば大参事。
その上兵士は王族に使える身、国民の手本とならねばならない立場に居るのだ。そんな彼がいじめを行っていたとなれば、打ち首・拷問・釜ゆでなど残虐な処罰が下されるほかない。
「王子に会うまでどかないから」
依然として要求を変えてくれない少年に、兵士は白旗を揚げるしか人生を終わらせない方法がなかった。
門番は少年を連れて王宮内を闊歩する。
実を言うと兵士が王宮内に立ち入ったのはこれが初めてだった。つまり、少年が要求する”王子”の居場所など微塵も知りえないのだ。少年には残念だが見つからないといって諦めてもらう計画だった。しかしそれはその場しのぎで思いついた計画でしかなくて、対策も考察も行っていなかったそれは王子の登場という最悪の結末によって台無しになってしまった。
よくよく考えてみると、王子の居場所を知らないのだから王子のいない場所が分かるはずなかったのだ。
「あ、王子」
少年もさすがに探し人の顔は知っているようで、向かい側から歩いてきた人物にまるで友人と再会した時のような口ぶりで声を発したのだった。
無礼者。
普段の兵士ならばそう罵っていたはずなのに、突然の王子の登場に気が動転してしまったのだろう。出る言葉も出せなくなってしまっていた。
「えっ王子っ!」
すっとんきょうな声をあげたのは少年でも固まっている兵士でもなく、歩いてきた王子自身だった。
自身が王子であるというのに赤の他人であろう少年を王子だという彼は、実を言うと王子の側近であり王子の影武者のような役割を担っている人物である。そして兵士が連れ歩いていた少年こそがこの国の王の一人息子である王子に他ならなかったのである。
「王子!私に無断でどこをほっつき歩いておられたのですかっ。皆心配していたんですよ」
「あーうるさいうるさい。別に俺がどこに居ようと俺の勝手だろうが、それに心配してくれなんて頼んだ覚えはない。あと、こいつは無能だけど罰は与えないように。こいつが居なきゃ俺はここに戻ってこれなかったからな」
「戻ってこれなかったって……まさかまた城を抜け出したんですか⁉わたしがあれほど……」
兵士は目の前の光景を目の当たりにし体だけでなくその思考回路までも氷漬けにされたかのように動かせなくなっていた。
「とりあえずあなたは持ち場に戻ってください。あなたへの処分は後ほどお伝えしますから安心して業務を全うしてくださいね。この無能が」
王子だと思っていた彼から発せられたのはその穏やかな口調とはかけ離れた殺伐とした言葉だった。