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宣告、世界の終わり

作者: UGoui

多くの場合、確か「秋風がそよぐ中、一人の男が颯爽と道を歩んでいた、」なんて言う書き出しから物語は始まることを、私は知っている。


しかし、これは物語でも無ければフィクションでもない、これは予言書なのだ、だから私はあえてそういう書き出しではなく、私が神から偉大なる使命をなぜ授かったのかということを初めに書こうと思う。


初めに言っておかなければならないことは、ここに書いてあることは全て真実であるということだ。私は親より受け継いだ鉄工所を経営していたが、不況のおかげで倒産することとなった。家族には愛想を尽かされ、家に借金取りが押しかける中、私は家の電灯にロープを掛けて首をくくろうとしていた。


そして、実際に首をくくってみた物の、土台にした物が大きなテーブルだったので、じたばたする度に私の足はきちんとテーブルに立っているのだった。そして、十三度目ぐらいに首を掛け直したあと、こんどこそはと思っていると、ロープがずどんと切れて落ち、私は頭からテーブルの下に転げ落ちた。


1999年の頃だった、私はノストラダムスの予言を完全に、100%、いや、もはや真理そのものと信じていたので、私は全財産を失ったことは何のくいもなくなっていた。私は光明を見たのだ。私のまぶたの裏には常に釈迦とキリストがダンスをしているのだ、そして常に私の進むべき道を指し示してくれているのだ。私は人類に終わりの時を伝えなければならないのだ。


そこで私は公園の段ボールから身を乗り出し、ゴミ捨て場を漁りに行った、しばらくあさっていると後ろから襟をつかまれ、「ここは俺たちの持ち場じゃけん、お前はあさるんじゃない」と怒鳴られた。だが、私のまぶたの裏のお釈迦様とキリスト様がこうおっしゃるように言われたので、私はそれをそのまま彼らに伝えた。「ノートと鉛筆だ、話しはそれからだ、とにかく私は大勢の人々に世界の真実を伝えなければならないのだ」


その場にいたホームレスどもは、そう、この怠惰で不精者の連中は私の存在に光る物を見いだしたようだった、彼らは私を呆然と見上げながら、彼ら同士で目を合わせ、うっとりとした表情で「こいつマジ物じゃけん、いらんことせんほうがええ」と言った。


そして彼らはまだ書くことが出来るノートと鉛筆、そして賞味期限切れのおにぎりを一つ見つけ出して私にくれた、私は偉大なる使命をさらに実感し、彼らに言った「もうすぐ世界は終わる、お前たちは天国に行けるだろう」


彼らは呆然しながら、ひれ伏すようにその場を立ち去った。ただし、ここで一つ伝えておかなければならないことがある、彼らの内の一人は善人だったが、残りの二人は過去に何か悪いことをやったとお釈迦様とキリスト様がまぶたの奥で囁きになられたのだ、だから彼らの二人は二級天国にしか行けないのだそうだ。


私はそのような悪人を救済することが出来たことはお釈迦様とキリスト様のおかげであると深く深く感謝した。そして私は再び公園の上に設置した聖別された段ボールで作り上げられた神殿に戻り、ノートを眺め、鉛筆を手に取り、明日駅前で演説しなければならない内容を推敲した。

私には聖別された破けた革靴、所々にカビの生えたシャツ、そして、紺色であるとお釈迦様とキリスト様がおっしゃった赤色のズボンがあった。


私は昼頃に第一の演説を行ない始めた、時折学生らしき若者たちが、私の宣告にひしひしと打ちひしがれ、演説に耳を傾けているようだった。私はまぶたの裏のお釈迦様とキリスト様が彼らは私の話を理解し、さらに次の日には友達を連れてきてくれるだろうとおっしゃった。そしてその通りになった。


有ることに、三日目の夕方、警察官数名が集会開催許可なるものを私に提示しろと言ってきたのだ。私は答えた「もうすぐ世界が終わるのだ、そんな細かいことをお前たちはなぜ気にするのだ?」と。


警官たちに明らかな動揺が見られた、彼らは真実を悟り私に敬意を抱いているのだ。だが、心なき彼らの上司らしき一人が、私を無理矢理近所の交番まで引きずっていった。そして、演説を行なうときは集会開催許可なるものを取ってからにしろと言い出すのだ。私は再三にわたって世界の終わりが近いと言うことを民衆の前に宣告しているのにである。


私はその次の日もその次の日も演説を行なったのだが、反応はあまり良くなかった、あたかも私を狂人たちと同一視する連中が私の宣告に罵声を浴びせたのだ。だが、彼らは選ばなければならない、天国へ行くのか、それとも私の宣告を受け入れず、地獄へ堕ちるかである。


私はついに官憲の不当なる弾圧を受けることになった、私はなぜか警察所の留置場に居たが、私の演説に心を打たれたある学生がそのときは身元引受人になってくれた上、大学のサークルで演説を依頼しに来たのだ。


私の頬を涙がつたった、伝え会うことはなんて素晴らしいのだろうと。


大学のサークルへの交通費も弁当も出してくれた彼らを私は涙して感謝した、そして「まぶたの裏のお釈迦様とキリスト様があなた達は特級天国へいけるでしょうとおっしゃいました」と伝えると、その学生は満面の笑みを浮かべた。


私は神殿への帰りの電車の中でふと、自分の家族が心配になった。彼らは未だに宣告を聞いていないのではないか?私はこの宣告が、この私から伝えられることが彼らに容易に出来ることでないと言うことは、理性から直感できた。そこで私はあの学生たちから貰ったお礼で雑貨店に立ち寄り、包丁と金属バット、そしてチェーンソーを購入しようとしたがお金が足りなかったのでチェーンソーは諦めた。レジまでそれを持って行ったにもかかわらずだ、店主は私の顔を怪訝そうに眺め、私には包丁を売ることが出来ないというのだ、彼は駅前の宣告を聞いていたのだ、私は涙を流して彼を哀れに思った。ここまで宣告を理解できない人間が居るとは。


私はアパートの前に立っていた。拾った斧と、新品の包丁を手に握りしめ、アパート一室の扉を叩いた。出てきたのは妻でも娘でもなく、知らない男だったが、私の手の包丁を視界に入れたとたんに扉を固く閉じ、それ以上私の宣告を聞こうとはしなかった。私は部屋を間違っていたのだ。私はこの男を不幸な男だと思った、私の宣告を心を閉ざしてしまったが故に聞くことが出来なかったからだ。


私は部屋番号を何度も確認した、そして、扉をノックした。だが、物音はするのに出てこない。おそらく横の窓からのぞき込み、私の姿が見えていたので居留守を使っているのだろう。だが、だが、私には家族を救う義務が有るのだ。


私は何度も扉を叩いた、だが、でてこなかった。私はふと手に持った包丁を目にやった、そして反対側の手に持った斧を視界に入れると、斧で扉を何十回と殴った。「なあ、サチエ、ミヨ、俺はお前たちを宣告しなければならないんだ」すると扉はまさに神の導きでも有ったかのように独りでに崩れ落ちた。


「世界は、終わるんだよ」私はにこやかに笑い、包丁を堅く握りしめた。妻は私の行為に感動し、言葉が発せられない様子だった。だが、娘は部屋にはいなかった、学校にでも行っているのだろうか?私は宣告をゆっくりと包丁を握りしめたまま妻に伝え始めた。妻は世界が終わるという恐怖に打ちひしがれ、腰が抜けてしまったようだった。


けたたましくパトカーのサイレンが鳴り響いた、この世界の終わりにも悪事をはたらく連中がいるものだと私は呆れた。そこへ丁度娘が帰ってきた。娘は泣きながら私の背中に抱きつき、そして


「お父さん、やめて」


と叫んだ、私は全ての目が覚めたようだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 最後に男の目が覚める理由の描写が弱いと思います。 心理的に完全に逆転するわけですから、より細かな描写が必要だと思います。
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