少女の苦悩
ある日のある学校でのある昼休み。ある少女は苦悩する。彼女の目の前には皆が憧れる少年、小林がいる。そして、少女の苦悩の種は彼にあった。
彼のチャックが開いているのだ。
彼女は彼にその旨を伝えなくてはならない。しかし、人気者の彼の周りには男女共に多くの友人がいる。
こんな中で彼に教えてしまったら、彼はきっと恥をかいてしまう。だからと言って、どこか一人になったところでそれを教えたとしても、まるで私がそんなとこを見てしまういやらしい女のように思われてしまっても困る。
このことから、少女は苦悩していた。
何か、直接伝えるよりも、間接的に。尚且つ、迅速で確実な方法を少女は模索し続けていた。もう休み時間も終わりに近づいている。
少女は一つ閃いた。
それは手話であった。ただ、手話といってもジェスチャーに近い、身振り手振りである。しかも、彼だけに伝えることができ、彼は恥をかかなくて済むのがこれの長所であった。
早速少女は行動に移した。
先ずは彼と目を合わせようとした。しかし、彼は談笑に夢中になって少女に気づかない。そこで少女は彼に気づいてもらうためジェスチャーを開始した。大きく振るこの両腕に気づかない小林はいない、とばかりにぶんぶん振った。しかし、それに気づいたのは後ろの人間であり、少しばかり陰口が聞こえてしまっている。
冷静になって考えてみると、私はかえって目立ってしまっていた。彼にチャックが開いていると伝えるだけなのに、どうしてここまで恥ずかしい思いをしなくてはならないのか。そんな風に思ってしまった少女は恥ずかしさ紛れに寝ているフリをすることにした。彼には私と違い、友人がたくさんいる。きっとその友人の誰かが教えてくれる、私が出る幕ではない、そう思った。
机に突っ伏して、チャイムが鳴るのを心待ちにしていると不意に
「小林ー。チャックぁぃてるぢゃん」
女の声であった。遂にその時が来た。彼はきっと恥ずかしい思いをするだろう。少女は奇妙な安堵を感じ、ゆっくり眠りに就けそうだった。しかし
「あー。これ? これ実験してたんだよ」
一体彼は何を言っているんだろう。実験とは何なのだろう。
「わざとチャックを開けておいて、それの教え方をみるんだ。直接言ってくれる人は周りに気が利くタイプ。指を指したりジェスチャーで教えてくれる人は無関心な自己中タイプ。つまり、あんたは気が利くタイプってことだな」
「ほんと!?やったぁ」
ひょっとしたら、気づかれなくてよかった のではないか。再びの安堵を感じていると
「さっきあいつ、小林に向かってなんかやってたぞ?ジェスチャーみたいな」
再び少女は苦悩する。
読んでいただきありがとうございました。
今回の作品は僕の初投稿の作品となっております。少々読みづらい点があったとは思いますが、どうかお見逃しください。
今回のこの作品は読んでいただいてわかったとは思いますが、「少女の苦悩」というフレーズが何度か出ています。そしてこの"苦悩"の内容が変わり続けているというところにお気づきでしょうか。最初の"苦悩"と最後の"苦悩"。実は対してるのです。
誰しも何かしらの欲望を持っています。それが満たされた時、果たして本当に幸せなのでしょうか。欲望の先の絶望。希望の裏の逸失。欲に駆られ周りが見えなくなってしまうと、足を掬われてしまいますよ。
それでは今回はこのあたりで失礼させていただきます。
それではどうかお気をつけて。