エピローグ 君のいる世界
エピローグ 君のいる世界
「……は…て……やて…」
(なんだろう……もう少し寝てたいんだけど)
「疾風!!」
疾風はしっかりと聞こえた声自分の名前を言われた事に気づき、重いまぶたをゆっくり開ける。すると、そこは見慣れた自分の部屋でベットに寝ていた。
「あんた、いつまで寝てるのよ!」
疾風は姉の声で目覚め、時計を見る。
時計の針は七時を指していた。学校から帰ってきてしばらく寝ていたのであろう。
「……なんだよ姉ちゃん。折角良い夢見てたのに」
「そりゃ悪かったわね。でも、そろそろ起こさないと宿題やら無いでしょ。ところで、いい夢って何よ?」
疾風はそういわれてどんな夢を見ていたのか考える。先程まで覚えていた気がするが、ぼんやりと記憶が霧に包まれたようで思い出せそうで思い出せない。
「……何だっけ?忘れちゃったよ」
「ふぅん。まあ、忘れるぐらいだから対したこと無いんじゃない?」
「ううん。結構楽しく過ごせたような気がする」
疾風は夢を思い出すのをあきらめ、だけど夢の中で楽しく過ごせていたのは直感で分かった。
「あっそ。私が起こしてあげたんだから感謝しなさいよ」
そう言い残して姉は疾風の部屋を出て行った。
しばらくぼんやりと天井を眺めていた疾風はポケットの中に何か入っていることに気付く。
「ん?なんだこれ」
疾風はポケットから見覚えの無い小さな箱を取り出す。その箱の中には、装飾の無い銀の指輪が入っていた。
「俺、こんなの買ったっけ?まあいいや。とりあえずはめていよう」
疾風は見覚えの無い指輪だけれど、懐かしさを感じその指輪をはめた。
「お前にはもう罰は下したから下がっても良い」
玉座にいつもと変わらず座っている神は平然という。
「私にそれ以外の罰は無いんでしょうか。禁断の魔法を使ったと言うのに」
神に跪いているアンジェラは言う。
「まあ、普通ならそれに加えて重い罰も下すところだが、お前は仮にも四大天使だ。私がお前に罰を下すと、天界の住民が怒り狂う可能性もあるしな。天界に入り込んだ人間も無事に人間界に戻れたからな」
「しかし……」
まだ納得がいっていない様な様子で言う。
「そんなにも四の五の言うな」
「ははっ。それでは失礼します」
アンジェラは深々と頭を下げ、神のいる部屋から静かに出て行った。
神は独白する。
「見れた顔じゃないな。あんなに目を腫らせている少女に罰なんか下せるわけが無いだろうに」
神は我ながら甘いと思いながら微笑した。
アンジェラは自分の家に行き、ベットへ横たわる。
(ああ……もう、私の事をおぼえてはいないのね。疾風……)
アンジェラは枕に顔をうずませる。
アンジェラの家にすすり泣く声が響いた。
「お前に指令を与える。人間界の調査に行ってきなさい」
アンジェラは大きく目を見開く。
「返事は!!」
「はいっ!」
アンジェラは神に話があると言われ、招集を掛けられたのだ。
本来ならば跪いて最後まで話しを聞き終えるところなのだが、無礼をしてアンジェラは立ち上がってしまう。
「早く行ってきなさい」
「分かりました。その指令、喜んで承ります」
アンジェラにしては軽い礼をして、早々と部屋から出る。
アンジェラは当分の間、人間界のこのような指令はもらえないと思っていたのだ。
アンジェラが疾風を天界に入れてしまってから僅か半年しか経っていない。神が人間事で問題を起こすのを恐れて人間界に行かないようにさせるとアンジェラは予想をしてひどく心を痛めていたのだ。
だが、それも今日で終わる。アンジェラは期待に胸を弾ませた。
「じゃあな、疾風」
「おう。また明日」
疾風は軽く手を振り、友人と別れる。
疾風は中学校三年生となった。いわゆる受験生と言うやつである。疾風は県内で一番の学校が志望校であり、その志望校には余裕で合格するほどの学力があった。
疾風は人並みにしか勉強をした事は無い。だが、効率が良いのか学力は自然とついていったのである。
受験勉強に終われ、なんとなく生活している疾風には何か物足りない物があった。それを捜し求めてはいるが疾風は何が足りないのかをいまだに思い出すことが出来ていなかった。
早めに家路に着いた疾風は真っ先に勉強机に向かう。
「さてと。一応は受験勉強はしないとな」
そこで大きく伸びをして勉強に育む。
しばらくすると、窓からさわやかなそよ風が吹きぬける。
疾風はそのそよ風を浴びるために窓へと近寄る。
すると、純白の翼が生えた天使のような格好をした美しい少女が丁度舞い降りてきた所だった。
「え?」
少女は窓から疾風の部屋へ入ってくる。そして、少女は疾風を見て目を輝かせた。
「はじめまして! 私はアンジェラ。……やっぱり、私のことは覚えていないわよね」
少女は少しさ寂しげに言う。
疾風はいきなり入ってきた天使のような少女を初対面だと思った。だが、疾風の中でアンジェラとの記憶が掛ける。
疾風はどうしてアンジェラの事を忘れてしまっていたのか、逆に哀しく思えもした。
「ううん。覚えてるよ。俺、何かが足りないと思ってたんだ。それは、アンジェラ、君だったんだね」
アンジェラは瞳を大きく見開いた。そして、笑顔へと変わる。
「私ね、始めてであったときからずっと――――」
疾風は返事の変わりに優しく微笑み、アンジェラを抱きしめた。アンジェラは驚きで一瞬動きが止まるが、疾風に身を委ねた。
毎週土曜日更新とか言いつつ、なかなかそうなっていなかったことを深くお詫び申し上げます。
今作品を見ていただき、ありがとうございました。