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第四章 扉探し②

「ちょ、ちょっと!」

 疾風はアンジェラに引きずられ、ちょっと名残惜しそうにしてからアンジェラの手を払う。

「あ、ごめん。忘れてた」

 アンジェラは本当に忘れていたらしく、目を大きく見開いている。

「でも……残念だなぁ。すぐ近くにまで扉があるって分かってるのに」

「そうね……このチャンスはもったいないわ。どうにかして、神殿の中に入りましょう!」

 疾風は小さく首を傾げる。

「でもどうやって?神殿に入るための入り口はふさがれているよ?」

 アンジェラは不敵な笑みを顔に含む。

「そうね……私に提案があるわ!」

 疾風はアンジェラの不敵な笑みを見て、嫌な予感が走った。


「いい?神の様に、堂々としているのよ」

 アンジェラは念を押してそう言う。

「何で僕がこんな事を……」

 疾風は純白のワンピースの様な物を着ている。一応、男物だというが疾風には男用も女用も天界の服については分からない。返送のためか、顎にはふさふさ地とした大きなひげをつけ、ベールもつけている。

「うん。これで顔も見えないだろうし、何か無い限りばれないと思うわ。さすがに二人板が怪しまれるといけないし、私は行けないから頑張ってきてね」

(いや……普通にばれると思うんだけど)

 疾風は先が思いやられ、大きな深いため息をつく。

「さあ、行ってらっしゃい。」

 アンジェラは投げやりの様子ではあるが、笑顔で大きく見送った。


 そして、アンジェラに見送られ、仕方が無くばれそうな変装をして先ほどの兵達の所へ行く。

 兵は神に変装した疾風を見て、先ほどはしなかった敬礼をしする。

「これはこれは。ようこそいらしてくれました」

 兵は若干声を弾ませて、疾風に言う。

(もしかして以外にばれて無い?)

 疾風が安堵しかけたその時、

「それでは、暗証番号を私の手にお書きください」

(えっ!そんな物があるの!?)

 疾風はそれについて予想はしていなくて、頭が一気に混乱する。

「す、すみませんでした~!」

 悲鳴に近い声を上げ、疾風は走り去っていく。

「?」

 兵は悲鳴を上げて去って行くはや手を、口を大きく開けてあっけらかんとしていた。


「もう、そんな物適当に番号を打ってしまえばよかったのに」

「それで間違えてたらどうするのさ!!」

 疾風は結局その場から逃れ、アンジェラの元へと戻った。

「えっと……たぶん、天界の牢獄行きね」

 アンジェラは少し考えた末、当たり前のように言う。

 それを聞いた疾風は、顔を真っ青にさせる。

「でしょ!やっぱりそうだったんだ……」

「まあ、確かに今の提案は無謀すぎたわね。今の間に扉の呪文は唱えておいたし、色々作戦も考えて見たわ」

「本当?」

「嘘をついてどうするのよ。……まあいいわ。それじゃあ、作戦2といきますか!」

 妙に張り切っているアンジェラと反対に、疾風はまたもや嫌な予感がした。 


「あのね、天界の殆んどの人は魔法を使う事ができるの。魔力の無い人や、魔法の勉強が出来ない人は別として、魔法を使う事ができるの。もちろん、私も魔法を使う事はできるわ。それで、魔法の中に物質を通り抜けることが出来る魔法があるの」

 アンジェラと疾風は神殿の少し離れた所に隠れ、話している。

「分かった!それで、神殿の壁を通り抜ければいいんだ!」

 アンジェラは人差し指を伸ばす。

「そう。その通りよ。でも、それを実行するにはあの兵に見つかったらいけないの。だから、神殿の裏に向かいましょう」

 そして、アンジェラと疾風は兵に見つからないようにしながら、神殿の裏に回る。

「それじゃあ、貴方に魔法を掛けるから、魔法をかけたらすぐに神殿の方に向かうのよ」

 疾風は素直に頷き、アンジェラが魔法を掛けるのを待つ。

 アンジェラは呪文はとなえず、魔法の最後の部分だけ言う。

 すると、疾風に魔法がかかり疾風の周りを光が包む。

「えっ!?何も起きた感じはしないけど……」

「早く!もう、魔法は掛かっているわ!」

 アンジェラも呪文を唱えたらしく、アンジェラの周りも光が包んでいた。

 疾風はアンジェラの言った通り、神殿に駆け寄り神殿に触れる。そのまま、手を神殿へと入れようとしたとき、

「わっ!」

 疾風の手は小さな衝撃を与えて、跳ね除けられる。

「えっ!どういうこと!?」

 アンジェラにも同じ現象が起きたらしく、目を見開いて驚いていた。

「まさか!」

 アンジェラは神殿に向かって両手をかざしている。目を瞑り、何もしていないように見える。「ど、どうしたんだ!?」

「やっぱり……この神殿には結界が張られているわ。おまけに、神以外は入れないようにされている」

 アンジェラはそれを知って項垂れている。アンジェラは思いため息をついた。

「やっぱり……神の集いが終わってからしかチャンスはなさそうね……」

「そんなぁ……」

 疾風は肩を落とした。


 アンジェラと疾風は色々な策を練り、実行に移していたが、どれも成功出来なかった。それを繰り返していると、瞬く間に時間は過ぎて行き既に夜になっていた。

 今日は曇っていて空には何も見えない。

 雲の隙間から出る月の光が唯一の光である。

 疾風の体は半透明で、始めのときより更に薄くなっている。薄っすらと、疾風の後ろが見えるぐらいだ。

「ああ……やっぱこのまま死んじゃうのかなぁ…………」

 疾風はポツリと独白する。

 アンジェラはその言葉を聞き逃さなかった。

「疾風……貴方って人は、もうあきらめたの!?まだ、今日中に終わるかも知れないんだから!」

 そういいつつも、アンジェラは深くため息をつく。

 アンジェラは元々天界の住人なのだから、この祭りによって神殿に入れないのを疾風よりも良く知っているはずなのだ。

「……そうだよね。ねえ、折角なんだから祭りを楽しもうよ」

 アンジェラと疾風のいる所の少し先では、天界の住民達がなにやら不思議な衣装をそれぞれ身に纏い、食事をしながら賑やかにしているのだ。

「そうね。神達が神殿から出る間に祭りでも楽しみましょうか!」

 アンジェラは楽しそうに微笑む。それを見て、疾風の顔も綻んだ。

「じゃあさ、行こうよ!」

 祭りも終盤を迎えようとしていたが、祭りのほうへ向かって二人は掛けていった。


 アンジェラと疾風は結局扉の事など忘れ、祭りを楽しんだ。

 祭りではダンスや豪勢な料理も振舞われ、人間界の祭りとは違う物を疾風は味わう事ができていた。

 アンジェラと疾風が祭りに加わった頃には、終盤を迎えてはいたが、最後の最後まで祭りを楽しむ事が出来た。

 二人は祭りが終わって、曇っている空を見ながら行き先も無い中歩いていた。

「今日は楽しかったな」

「そうね」

 アンジェラは嬉しそうに微笑む。

「私、この祭りに来るのは初めてだったんだ。話には聞いた事があったんだけど、色々仕事とかが入って来れなかったの」

「へぇ」

 疾風は、アンジェラはこの祭りに来たことがあるものだと思っていたため少し意外だったのだ。

「これも思い出の一つになったわ。初めて来たこの祭りでは、人間界の人と一緒だなんて一生の中で中々無いわ」

 それを聞いて疾風は思わず苦笑いをする。

「ごめんな」

「なんで疾風が謝るのよ。謝るのはこっちの方だわ。勝手に巻き込んでしまったのは結局の所私なんだもの」

 アンジェラは目を伏せる。

「でも、アンジェラが天界に戻るときについてきちゃったのは俺なんだぜ?」

「それでも、あんなところで天界へ通じる扉を開いちゃったのは私だもの」

 疾風は何か言おうと思ったが、疾風が何か言うとアンジェラがそれに対して自分のせいにしてしまう気がしたため口を紡ぐ。

「私、貴方に出会えて本当に良かったわ」

「ああ、俺も」

 何故かアンジェラは疾風に別れを告げるような言い方で、疾風は少し戸惑ったがアンジェラに答える。

「そう。そう思ってもらって私は嬉しいわ。さあ、今日はもう遅いわ。明日のためにもう寝ましょう?」

 アンジェラは振り返って、神たちの集いが終わらない事を悟りそう提案する。

「分かった。もう寝よう」

 アンジェラは昨日のように仮小屋を作り、二人はその小屋の中に入る。

 しばらくすると、アンジェラの隣に座っていた疾風から心地よい寝息が聞こえてきた。

 アンジェラは疾風が気付かないぐらいの小さな声で呟く。

「ねえ……。本当にごめんね。私のせいで貴方を巻き込んでしまって」

 アンジェラは軽く目を伏せ、明日の事を考えているうちにアンジェラはいつの間にか眠りについてしまった。


「えぇえぇぇ!」

 アンジェラは今まで生きていた中で一番大きな声を出したのではないかと思わせるほどの大きな声を出した。

 疾風はその声を聞いて飛び起きる。

「な、何。どうしたの!?」

 ただ事では無いと感じた疾風はまだ残る眠気を吹き飛ばし、アンジェラのほうを見る。

 アンジェラは顔を真っ青にさせて、地図の電源ボタンを何度も押している。

「ち、地図の電源が点かないの。今までしっかり作動してたのに……どうしてこんなときに限って――!」

 アンジェラは今までに無い動揺で慌てふためいている。

「ええ!!」

「ちょ、ちょっと。その体!!」

 アンジェラは今でも十分に大きい瞳を目いっぱいまで開いている。

 疾風はアンジェラの驚きに嫌な予感を感じざるを得ず、自分の体を恐る恐る見る。

「げっ!」

 疾風の体はもう、疾風の後ろにある背景の方が見えるぐらいにまで透き通っていた。

 しばし沈黙が流れる。

「…………もう……あれを使うしかないわね」

 アンジェラは何かをあきらめたような口調をし、顔を伏せる。

「あ、あれ?」

「ねぇ。疾風、ちょっとしばらくの間話しかけてこないでね……」

 アンジェラは心苦しそうな顔をしているが、疾風はそれに従う事しかできない。

 疾風は悟ったのだ。何をするか分からないけれど、アンジェラを止めようとしてもアンジェラは聞かないだろうという事を。

 そして、アンジェラはそう言って疾風から少し離れる。疾風はそれをただ見守る事しか出来なかった。


「いいわよね。私に出来る事はこれしか無いんだもの……」

 アンジェラは誰にも聞こえないような本当に小さな声で呟いた。

『異世界や世界中のもの達よ。少しだけ、私に魔力(ちから)をください。さすれば、小さな命が救われる』

 アンジェラは願うように手を取り、祈っている。

 すると、アンジェラに見えない何かが集まっていくのを疾風は感じる。

「な、何が起きているんだ!?」

 アンジェラの周りでは、目に見えない力があふれているように疾風は感じる。それでも、アンジェラは祈り続けた。

(もっと……もっと力がいるの。もっと――――!!)

 アンジェラは強く手を握る。

 それから、しばらくの間はアンジェラは身動き一つしなかった。疾風はただそれを見守るだけ。疾風には、アンジェラが何をしているのかも分からないし、見守るだけなのが悔しくもあった。

 やがて、アンジェラは立ち上がる。

「!!」

 そして、アンジェラは疾風に目に見えない力を少し分ける。

「…………これで、少し天界にいられる時間が長くなったわ」

 疾風は力が漲って来る様な感覚になる。だが、それは一瞬で消える。ひゃ手は自分の体を見ると、先程よりも透明さは薄れていた。

「……これからが本題なの…………本当に話しかけてこないでね。危険な事になるかもしれないから。疾風も、私も」

 アンジェラの真剣なまなざしを見て、疾風は思わず息を呑む。そして、アンジェラの気迫に押され頷いた。

「何か分からないけれど……頑張って。それしか言えないから…………」

 アンジェラはその言葉を聞いて、目を瞬いたがすぐに微笑んだ。

 そして、天界の言葉と思われし言葉でなにやら呪文を唱え始める。

 アンジェラはいつに無く気を張りつめた表情で呪文を唱えている。

「大丈夫かな……」

 疾風はアンジェラの全く余裕の無い表情を見て、いつになく心配そうに呟いた。


 アンジェラにはかなりの不安があった。

 もしも、この呪文が失敗に終わってしまったら自分も含め疾風の助かる道は消えても言いと考えるのが妥当だ。

 アンジェラは、自分はともかく、疾風を危険にさらしたくは無かったのだ。自分が巻き込んでしまったといえる事だし、それで人を巻き込んだためアンジェラは決していい気持ちではないのだ。

(お願い……間に合って)

 アンジェラはひたすらに呪文を唱え続ける。この、禁断の魔法の呪文を唱えながら――――


 アンジェラが唱えていた呪文が途絶える。

 それと同時にアンジェラは疲労が出たのかその場で足を崩す。

 そして、捜し求め続けていた扉が出現した。純白で小さな小窓が着き、お洒落な雰囲気を持つ扉が。

「早く……その扉を通って。もう……貴方の魂がここでの限界を感じるもの」

 アンジェラは顔を歪めて言った。

「でも……」

「私なら大丈夫よ。ちょっと魔力の消費が大きかっただけだから。早く!」

 アンジェラに言われ、疾風は反射的にドアノブを握る。

「本当に大丈夫なのか?」

「ええ。もう少しすれば……いつもと変わらないように戻るから」

 アンジェラは目に涙をためている。

「それじゃあ…………また会う日まで」

 アンジェラは一瞬だけ目を見開きく。そして、微笑んだ。そのときに今までためていた涙が静かにこぼれる。

「…………さようなら」

 アンジェラは精一杯に笑顔を顔に表す。

 疾風はそれを見て微笑み、ドアノブを回し、扉の中へと入っていった。


 アンジェラは疾風が去った後その場でなき続けた。

 永遠の別れがあるかのように――――


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