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第四章 扉探し

 第四章 扉探し


 アンジェラについていった疾風は、アンジェラの家へと連れて行かれた。

 家は白い壁で覆われ、中では可愛らしい小物などが置かれやわらかいふいんきに包まれていた。

「こっちよ」

 アンジェラはずらりと様々な本が並んでいる本棚に駆け寄り、一冊の本を押す。

 すると、本棚は扉が開くようにずっと前に出る。

「すっげ~」

 本棚は隠し扉になっているようで、ドラマやアニメで疾風は見たことがあったが、本物を見るのは初めてだった。

「早く!」

「は、はい」

 階段が続いており、暗闇のため足場は不安定だが、気をつければ問題ない。


 階段を下りて一つ目の扉があるところでアンジェラは止まる。まだ奥にも何かありそうだったが、そこには行かない。そんな時間の猶予はアンジェラと疾風には無いのだ。

 扉を開けると、様々な機械が置かれ、研究室のような部屋があった。

 アンジェラは大きな画面とキーボードのある位置に行き、何かを打ち込む。

 すると、画面には天界の地図のようなものが現れる。

「なんだ、これ。地図か?」

「そう、天界の地図よ。ここに赤い点滅している転があるでしょ」

 画面にある赤い点滅した光をアンジェラは指差す。

「ここに『扉』があるの。『扉』というのは、天界から人間界へ行く事のできる扉のことね。私はその『扉』を使って人間界に行ったの」

「なるほど。それで?」

 アンジェラは早口に言う。

「貴方の魂で天界にいられるのは持っても三日。それまでに、貴方はこの扉の向こうに行かなければならないわ」

「!三日しかないのか?……でも場所は分かってるんだろ?すぐに行けるだろ」

 アンジェラはそれを聞いて、顔を伏せる。

「それが……この地図だとわからないかもしれないけれど、天界は広いわ。それをかなりの距離で移動するのだから。かなり難しい事なのよ。それに、天使が簡単に人間界へいけないようにするために、扉の場所は一日一回変わるの」

「そんな……」

 疾風の顔が一瞬にして曇る。

「だ、大丈夫よ。私が何とかしてみせる」

 アンジェラは力強く言い切る。それは、不安な疾風にとても心強いものだった。


 疾風にはあまり天界の事はよく分からないが自分の命が危うい事だけはなんとなく分かった。

 アンジェラは扉を探すための地図を画面に出していたが、それの携帯型の電子地図をアンジェラは持ち、アンジェラの家を離れた。

 その頃には天界の空は赤く色付き始めていた。

「もう、こんな時間に……急ぐわよ」

 アンジェラは何かの呪文を唱える。

 すると、激しい風が一瞬かける。

『お呼びですか。アンジェラ様』

 どこからか声がすると思い、疾風は辺りを見渡したが誰もいない。だが、声は聞こえる。

「この場所へ連れて行って」

 アンジェラは自分の顔の前で地図を差し出し、疾風には見えない相手に地図を見せている。すると、再びどこからか声が聞こえた。

『御意。緊急事態のようですので、急ぎます』

「頼むわ。早くこっちに来て」

 アンジェラは疾風に手を差し出す。疾風はその手を握る。

 アンジェラも疾風も、お互いのぬくもりを感じあったが、今はそんなものに気をとられている場合ではなかった。

 

「うわぁあぁぁあああ!」

「大丈夫よ。今私達が乗っているのは風なの。風邪の精霊を呼んで、こうして乗せて貰っているの、大丈夫よ。私が操っているもの」

 絶叫している疾風と打って変わって、平然としているアンジェラ。

 二人はとてつもなく速いスピードで移動をしているのだ。小心者なら気を失っても仕方が無い。

「間に合うから……」

 アンジェラは小さく呟く。

 地図を見ると、順調に「扉」はある場所に近づいていっているのが分かるが、もう日が傾きかけて、今日中につくかどうかは分からない。

「あれは、どうしたんだ?」

 疾風は風の上から下を見れるぐらいの落ち着きを取り戻しつつあった時、ふいに声を上げた。

「あれは……天界での争いね。いつもの私だったら止められるけど、今は時間が無いわ。それよりも急がないと――――」

「待て。アンジェラなら、あれを止められるのか?」

 疾風は下を見ている。

 アンジェラは疾風の声を聞いて空中で止まる。

 疾風が見ているのは争いだった。天界に住んでいるわけではないが、よそ者の疾風ですらそれは分かった。

 村一つ分ほどの軍同士がぶつかり合っている。

 槍や剣、鎧といった、戦いに必要そうな物をそれぞれ持ち、戦っている。所々に、倒れている人が見えた。

 アンジェラは再び下を見る。

「……ええ。あれぐらいの小さいものなら……止められるわ。止めたい所だけど、時間が無いわ。急がないと、貴方の魂が」

 アンジェラは困惑したような表情を疾風に見せる。

「俺の事より、あの人たちに事を考えてみろよ。お前が止められるんなら、それだけ犠牲者が少なくなるだろ?それに――――」

「それに?」

「俺は、こんな物を見てすぐ近くにそれを助けれる人がいるのに、助けられなかったなんて、きっと後悔する」

 アンジェラはおどろいたように目を見開いて疾風を見る。だが、それも一瞬ですぐにため息をついた。

「……分かったわ。どうせ、このまま先に進んでしまっても、貴方に怒られそうだし。それじゃあ行ってくるわ。貴方はここで待っていなさい」

「分かった。それと、貴方じゃなくて疾風でいいから」

 そう言った時には、アンジェラは翼で軽やかに舞い降りて言った後だった。


『貴方達!もう、争いはやめなさい!』

 スピーカーを通して出したような大きな声。その声は決して怒鳴ったような声ではなく、透き通り様な綺麗な声だった。

『!!』

 戦士達は動きを止め、声の主の方を見た。

 そして、戦士達の多くが大きく目を見開いている。

「貴方は!」

 軍のリーダーらしき人物が声を上げる。

 そして、声の人物が誰だか分かった者は、「アンジェラ様!」「こんなにも偉い方が――」「おい、あんなに綺麗な人――」など、二つの軍にざわめきが広がる。

『静まりなさい!!』

 軍の皆は、跪く。立っている者など皆無だった。

「失礼しました。アンジェラ様!」

「どうしてこんな争いをしだしたの?」

 アンジェラはにっこりと微笑む。その微笑を見た何人かが頬を赤く染めている。

「はっ。私達は天界での民族差別による問題により、このような衝突をしました」

 軍のリーダーらしき、人物が代表して言う。

 天界でも民族があり、少数派の民族は大半の民族からひどい扱いを受けているのだ。それは天界での社会的問題の一つである。

「……なるほどね。貴方達は少数派の民族のようね。それで、ひどい扱いを受けてそちらの軍に反抗したと」

 アンジェラは少数派の民族の方を見る。少数派の民族はどこと無く着ているものが薄汚れており、みすぼらしい。

 続いて、大半の民族に当たる方は清潔そうな物ばかりで、一目瞭然である。

 少数派の民族の軍の皆は、何度も頷いている。

 分が悪くなったような顔をしている民族の軍は、顔を伏せている物が多い。

「貴方達、天使に民族も何も無い事を知っている。昔は差別があったようだけど、今は協力してこの天界を良くしていくような時代なのよ。これからはこのような対立はしないように。分かったわね」

 少数派の軍も大半の民族の軍もそちらはしぶしぶ頷くような感じがしてならなかった。どちらも、これから対立しないかどうかといわれると分からないのだろう。

「……じゃあ、これから先、対立しそうになったときがあったら私に言いなさい。私が止めてあげるわ」

 アンジェラは今まで以上に優しく微笑む。

 何も言わなくなった軍等は、しばしアンジェラの天使のような優しい微笑みに見とれる。

「それじゃあ、私は急ぎの用があるから」

 アンジェラは小さく手を振り、翼を羽ばたかせながら舞い上がっていった。


「お、終わったの?」

 疾風にはアンジェラが二つの軍に叱声を浴びせ、そのあとに少し何かを話して戻ってきたようにしか見えなかった。

(アンジェラの話した事が、よっぽど心を動かすような物だったのかな)

「特に何もして無いわよ。得意の権力って奴を使って見せただけよ」

 アンジェラは疾風にウインクして見せた。

「さっ!急ぐわよ」

 

 そしてアンジェラが争いを止めて、扉のある場所へと向かっていた。

 その間、アンジェラと疾風は無言だった。アンジェラは何も思って無いように平然としていた。それと打って変わって、疾風は困惑の表情になっている。

「まずいわね」

 アンジェラが地図を見て顔を曇らせる。

 疾風はそれに気付いて地図を見る。

「今日中にはつかないのか? まあ、大丈夫だろ。そんなに心配しなくてもあと二日あるんだから」

「……そ、そうね」

 疾風にそういわれるが、アンジェラは浮かない顔をしている。

 疾風の体は半透明のような状態になっており、身体が透け始めてからしばらくの時が経ち。少しずつだが、身体が始めよりも透けていた。

 だが、アンジェラは内心かなりあせっていた。

 神はもっても三日といったのだ。三日間時間があるかどうかも分からない。

(やっぱり……あの時に争いに私が入ったのが間違いだったかしら)

 アンジェラはちらりと疾風のほうを見る。

 疾風は以外にも自分の魂がかかわっているというのに、のんきな様子をしていた。

(自分のできる事をしなくちゃ。疾風のためにも。でも、人間界に送り出したらまた――)

 アンジェラは少しだけ目を伏せるが、幸か不幸かそれには疾風は気付かなかった。


 天界の空はそろそろ薄暗くなっていた。

 太陽が傾き始め、既に三分の一ほどしか太陽は見えない。

「ねえ、もう少し速くいけない?」

『大変申し訳ないですが、これが限界です』

 風の精霊は本当に申し訳なさそうに言う。

「そう。ならこの調子で頑張って頂戴」

 アンジェラは気にしていないように微笑む。

(そろそろ時間が無い)

 アンジェラは地図を見ると、あと少しで扉に着きそうな位置に来ていたが、今日中に着くかどうかは分からなかった。

(しょうがない。あれを使おう。あれをしている間は呪文に集中していなくちゃいけないんだけど……)

 アンジェラはちらりと、疾風のほうを見る。

 疾風は下の風景を楽しそうに眺めている。

「ねえ」

「おわっ! な、何」

 疾風はびくりと肩を震わせる。

「今から呪文を唱えるから、話しかけてこないでね」

「うん。でも、何のじゅも――」

 疾風がもうそう言った頃には、アンジェラは呪文を唱え始めていた。疾風は邪魔をしてはいけないだろうと思い、口を閉じる。

 アンジェラは呪文を唱えつつも、風を操り続けている。

 何をしていいか分からなくなった疾風は、アンジェラの側にある地図を覗き込む。

(なんだ、後もう少しじゃん)

 地図には、方眼のように線が引かれているのだが、あと二マスのところまで来ていた。

 疾風はアンジェラは何をそんなにあせっているのだろうかと思っていたのだ。

 疾風は自分の体を見る。始めよりはだいぶ透けているようには思うが、疾風はアンジェラならどうにかしてくれると心の中にあるからだろうか、疾風には不安は無かった。

 他人から見ると怪しげな呪文を唱えている美少女を思わせるかのようなアンジェラを疾風はじっと見つめていた。

 アンジェラの横顔は、真剣さが出ていた。

(何で、こんなにも俺に真剣になってくれるんだろう……。やっぱ自分の地位のためかな……?それとも、純粋に俺を心配してくれているのか……な…?)

 なんだかそうだったらどうしようと考えていると、疾風は自分の頬がドンドン熱くなるのを感じた。

 そんな疾風の変わりようにはアンジェラは呪文を唱えるのに必死で気付かなかった。


「……終わった!!」

 アンジェラはほっと一息つく。

 アンジェラの後ろにいる疾風はどんな様子かと思い、後ろを振り返る。

 疾風からは心地良さそうな寝息が聞こえてきた、

「……さすがに、風邪に揺られているだけでは退屈だものね」

 アンジェラは微笑をもらす。

 空を見ると、太陽は沈み、星空が広がっている。ぽつんっと光る満月はとても美しい。

「今日中に……着くかしら」

 アンジェラの声がワントーン落ちる。

 地図を見ると、残り僅かで扉に着く所だった。だが、もう日は沈み日が変わるのも時間の問題だろう。

 そこで、アンジェラは自分の懐中時計を取り出す。綺麗に磨かれており、月明かりに照らされて煌びやかに輝いている。

「十一時……か」

 疾風はいつもこれぐらいの時間に眠っていると思われるため、寝てしまっても仕方が無いだろう、とアンジェラは思う。

 アンジェラはしばらく今後について考えていると、背後から僅かに物音が聞こえた。

「あら、ごめんなさい。起こしちゃったかしら」

「ん……?あれ。もしかして、俺寝てた?」

「ええ」

 アンジェラはコクリと頷く。

「でも、気にしなくていいのよ。貴方ならこの時間もう寝ていてもおかしくは無いでしょう?しばらくの間寝ていていいわ」

「う…ん。でも、いけないよ。うん、俺は起きてるよ。アンジェラが起きてるのなら」

 疾風はまだ寝ぼけているようで、うとうとしながら目をこすっている。

「私はいいのよ。仕事でなれてるし。それに、あなた年長のものの言う事は聞くものよ。私は貴方の大先輩なんだから。だから、寝ていなさい」

 そう言っている間にも、疾風は既に刻みよい寝息を立てていた。

「…………寝ちゃった。まあ、私が寝てもいいって言ったんだけど。可愛いなぁ」

 アンジェラは疾風の顔をつつく。

 それで疾風は一瞬少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに幸せそうな寝顔に戻る。

「さっ!扉へ。着くかしら?」

 アンジェラは不安を抱えながらも、人間界へ戻るための扉を見つけようとした。

 

「あと……あと少し!!」

 扉が小さく見え始めた。疾風はすやすやと気持ち良さそうに寝ているため、扉を見ているのはアンジェラだけである。

 だが、時間も残り僅かしかない。

 アンジェラはあせって懐中時計を見る。残り一分。

 着実に扉が見えるのは大きくなっていく。

 アンジェラは視力がいいため、純白で中が見えそうな小さな窓のついた可愛らしい扉がアンジェラには見えた。

(私、あれを通って人間界に行ったんだよなぁ……)

 アンジェラはそのときにはこんなにも一生懸命に扉を探してはいなかったのに、と心中で思う。

(こんなにも一生懸命になっているのは、疾風が自分のせいで消えてしまいそうになっているから?救いたいから?責任があるから?……どれも違う気がする。やっぱり――)

 アンジェラは扉をしっかりと見つめる。扉はまだ、アンジェラの視界に入っている。

 懐中時計を横目で見る。もう、三十秒も無かった。

「あと、あと……あと少しだから。もう少し時間を!」

 アンジェラの気持ちの高まりのためか、スピードも速くなる。

 十、九、八、七――――三、二、一!

 アンジェラは大きく扉に向かって手を伸ばす。だが、時間には間に合わなかった。

 後本の数秒で、届くはずの扉に手を伸ばす事ができなかった。

「やっぱり……今日は間に合わなかったか」

 アンジェラはそれを予想していたかのように淡々と言う。

(とりあえず……今日は魔力の消費も激しかったし、休むとしますか。明日は絶対に間に合わせてみせる)

「ありがとう。風邪の精霊さん」

 アンジェラは寝ている疾風を起こさないように抱き上げ、小声で風の精霊に言う。

『いえ。こちらこそ。ああ他みたいな人を乗せれてうれしかったわ』

 アンジェラは微笑んで、風を見送る。

その後、近くの森へ行き草花や気を操り、仮小屋をアンジェラが建てる。そこに疾風をいれ、自分も続いてはいる。

その後、魔力を多く消費したアンジェラは疾風と一緒にそん仮小屋で休んだ。


「あれ?」

 起きたのは以外にも疾風だった。

 疾風はまだ眠い目をこすり、あたりを見渡している。

 隣にはすやすやと寝ているアンジェラがいる。アンジェラは草の壁にもたれ掛かっていた。

 疾風の周りは黄緑や緑に覆われていた。どうやら草で覆われているらしい、絵本などででてくるような葉が結び付けられた家のように思われた。ここにいると、小動物になった気分になる。

「たしか……扉を探してて、いつの間にか寝てしまったような気が」

 疾風はそれを思い出し、外に出てみるとここは人間界ではなく天界である事が一目瞭然だった。

(っていうか、俺寝ちまったんだ。かっこ悪)

 そう思っていた疾風は見る見るうちに赤面になっていくのが分かる。

「ああ。起きたの」

 アンジェラは疾風と違って寝起きは驚くほどいいらしく、先ほどまでとても寝ていたとは思えなかった。

「ごめん。起こしちゃった?」

「いいのよ。どうせもうすぐ行かなくちゃいけないんだし」

 アンジェラはすくっと立ち上がる。

 アンジェラはポットに入れてあったと思われる地図を取り出す。今日はどこに扉が出現するかどうか調べているのだろう。

「今日も遠いわね。戻らないと……」

 アンジェラは何かまずいような口調をしているが、表情には余裕がありそうだった。

「この場所に行くのはいいとして……なにか、嫌な予感がするんだよな~」

 アンジェラは顎に手を当て考え込んでいる様子だが、疾風はそれをただ待ってみている事しかできなかった。

「でも……そのときは、そのときだよ」

 アンジェラはそれを聞いて微笑する。

「それもそうね。今悩んだって仕方が無いわ。とりあえずは扉の場所へ急ぎましょう」


 アンジェラと疾風はとりあえず、外に出ることにした。

 疾風は今度は何をするのか、若干楽しみにしていた。

 アンジェラは小さく何か唱える。すると、

「な、何だこれ!?」

「これは天界の南側に属する扉なの。あの時呪文を唱えていたのは、東西南北の扉へと繋がるための扉を出す呪文だったの。それを呪文だけ唱えておいて、出すときに最後の呪文を唱えれば扉が出るということ。さあ、速く扉を通って」

 アンジェラは軽く疾風の背中を押し、アンジェラも中に入る。

 しばらくすると、その場から扉は消えていった。


「どう?すごいでしょ」

 疾風は大きく頷く。

「南側の扉を通ったって事は、南の編に扉があるって事だよな」

「ええ。そうよ」

 アンジェラは地図を見せる。

「えっ――!!」

「ちょ、何?どうかしたの?」

 アンジェラはあわてて地図を見る。

 アンジェラは方向が合っていた事を安堵した。そして、地図を見ていると疾風が驚くのも無理は無いか、と思う。

「なんだ。丁度、南側の扉を出現させた場所が、扉の場所だったなんて」

 地図には自分達の場所と扉の場所が分かるのだが、丁度同じ場所に固まっていた。

「ねえ、これなら俺はすぐに人間界に帰れるって事か!?」

「……そ、そうね…………」

 アンジェラは何故か残念そうに、少しだけ伏せる。

 疾風はそんなアンジェラを見て不思議に思う。

「い、急ぎましょう。早くしないと人間界に帰れなくなるわよ」

 アンジェラと疾風の目の前にある、神殿のような白い建物の中へとアンジェラは少し駆ける。

 疾風はそれに続いて、掛けた。

 二人のいる空は雲ひとつ無い、綺麗な青空だった。


「ええっ!今日はここに入る事はできない!?」

 アンジェラは大きな声で言う。どちらかというと、叫び声にちかい。

「は、はい。今日はこの神殿で祭りが行われるため、入ってはいけないのです」

 神殿の玄関にいる兵は、アンジェラの大声に目をぱちくりさせている。

「どうして祭りがあるときは神殿に入ったらいけないのよ!」

「えっと……この地方で今日開かれる祭りでは、この神殿に古代の各地の神たちが集まるのです。そのために、天界の者は神以外は入ることが出来ないのです」

 兵は若干おろおろしながら、祭りの説明をする。

「……確かに…そのような祭りがあったわね」

 アンジェラは顔を曇らせる。

「じゃあ、その神たちが集まる前に入ることは出来ないんですか!?」

 アンジェラの後ろにいた疾風は、心配そうな顔をして兵士に問う。

「それも出来ません。神たちが来る日には、散り一つ無く、穢れの無い空間を作らなければなりません。そのためには、貴方達がここに入ってしまうと、少なからずどこかが欠点が出てしまいます。それは、いくらアンジェラさまでも許されません」

 兵は申し訳なさそうに言う。

「むう。確かにそれはそうね……じゃあ、神が去った後は?」

「それはたぶんよろしいでしょう。ですが、その……神の集いは速く終わる事もありますし、遅くなってしまう事もあります」

「じゃあ、もしかしたら今日中には無理かもしれないって事?」

「はい……遅くなる事が殆んどなので、今日中には無理かと」

 アンジェラは顔を曇らせる。

「……ねえ、緊急事態なの。それでもダ・メ?」

 アンジェラは上目を使って兵士を見る。

 兵士は顔を赤らませて軽く身じろぎしたが、

「ダメなものはダメです!いくら、アンジェラさまでもそれは許されません!」

 アンジェラは軽く口を尖らせる。

「やっぱりダメか……それじゃあ、私は一旦引くから」

 アンジェラは軽く兵士に手を振り、疾風の手を引っ張る。

「わあっ!」

 アンジェラは軽く悲鳴を上げた疾風を気にせずに、神殿から少し離れた。


またしても遅れてしまってすみませんでした。

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