第三章 天界の掟
第三章 天界の掟
「すっげ~」
疾風は目の前の建物を見て感嘆の声を上げる。
疾風の見ている建物は、扉を通ってついたときに見た、聖堂のような白い建物だった。新しく建てたかのように傷一つ無い。
「のんきね。そんな事をしている間にも、体は薄れてしまっているというのに」
呆れたようにため息をついたアンジェラはその建物の中に入っていく。疾風も、それについていく。
疾風の体は徐々にだが透け始めていた。半透明のような状態である。
建物の入り口で警備をしていると思われる二人の兵士は、アンジェラに敬礼している。
「この方はアンジェラ様のお客様ですか」
「……ええ。そのような者よ。今すぐに『神』と話がしたいのだけど」
「はい。今すぐにそのように話を伝えてまいります」
「お願いね。至急だと伝えて頂戴」
「ははっ」
兵士の内の右側の兵士は建物内を小走りでかけていく。
その後からアンジェラと疾風も続いて歩く。赤いカーペットしかれており、靴の上からでもふんわりとした感触がする。
(アンジェラって……人望があるんだな)
疾風が何を思っているのか分かったのか、
「四大天使と呼ばれている者達がいるの。私は、その中の一人なのよ」
「『四大天使』ってなんだ?」
「四大天使とは天界で優れた成績を持つ四人の事を指すのよ。だから、ある程度の事なら殆んどの場合許されるんだけど『天界の掟』を破る事まではさすがに許されないわね」
疾風はアンジェラがそんなにもすごい人だというのは初めて聞いた話で、驚いた。
「『天界の掟』って何だよ」
「まあ、名前の通り、天界にある掟をさすのよ。そのおきてを破ると、罰があるらしいわ」
「えっ、じゃあお前にも罰が?」
「ええ。あるでしょうね。まあ、貴方をどうにかしてからでしょうけど」
アンジェラはその事に何も思って無いかのように平然と言う。
アンジェラがそう言い終えた時、重そうな大きな扉が目の前に聳え立っていた。
「貴方はここで待っていなさい。私は神と会ってくるから」
「神ってあの神様?」
「恐らく貴方の思っている髪とは違うわ。天界での神は天界を治める者の事を指すの。まあ、貴方達でいう国王ね」
口早にそういったアンジェラは身だしなみを整え、扉をノックする。
「失礼します」
大きな扉はアンジェラがそう言うと大きく開かれた。
疾風にまで緊張化が伝わってきて、疾風は身震いする。その間にも、アンジェラは緊張した顔で中に入っていった。
「失礼します」
アンジェラは玉座に座っている神に向かって跪く。
神は顔を隠すかのように長いベールをつけているため、アンジェラ自身も一度も神の顔を見たことは無い。
「珍しいな、アンジェラ。お前が急用だと言って、私と会うことは」
「確かにそのとおりでございます。緊急事態が生じました」
「ほう」
神は声をワントーン落とす。
「天界に人間界の者が入り込みました」
「何!?」
神は声を張り上げる。
アンジェラはさほど驚きもせず、神の次の言葉を待つ。
「誰かが連れてきたのか?」
「はい。私が誤って連れて来てしまいました。どんな罰でも与えてくださって結構です。ですが――――」
「何だ」
「天界に入ってから人間界の者の体は透け始めています。魂が天界を拒んでいるのかもしれません。そのため、私を罰するよりも早く、その者を急速に人間界に戻す必要があるかと」
アンジェラは僅かに顔を上げ、神の様子を窺う。
両者ともに、しばらく何も言わなかった。
「……確かにお前の言うとおりだ。お前への厳しい罰はその人間を人間界へ帰してからにしようではないか。だが、『扉』を探すのに時間が掛かると思うが?」
「はっ。そちらの方は私が人間界へ行くときに使った『扉』を探す物がありますので、何とかなるかと。ところで……その…………天界に来た人間はいつまで魂が持ちますか?」
神は重い口調で言う。
「最低でも……三日だろう」
「たったの三日ですか……」
アンジェラの顔が渋くなる。
「ああ。もって三日だろう。何故、人間を天界に連れて来てはならないという掟があるのか、がよくわかっただろう。一度、同じような事がおきてな。結局、そのときは人間の魂は消滅してしまったよ。くれぐれもそのような事が無いように全力を尽くしなさい」
「このような機会を戴きありがとうございます」
アンジェラは頭を下げ、部屋から出ようとしたそのとき。
神は最後にアンジェラへある事を告げた。
それはアンジェラに向けられた厳しい罰であった。
「お、お帰り。どうだったの」
心配そうな顔で疾風はアンジェラの顔色を窺う。
アンジェラの顔は疾風声をかける前まで、表情は曇っていたが無表情へと変わる。
「貴方の魂は、天界にいればいずれ消滅する事になるわ。貴方の魂が持つのはもっても三日。それまでに『扉』を見つけるわよ。説明は後でするわ。今すぐ来て!」
疾風はアンジェラの様子を見て、何か切羽詰ったものを感じ、ただアンジェラについていくことしか今の疾風には出来なかった。